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第25章 喰う、それは生きる為ですよ⁉︎

363話 ポイント

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 牢屋内に響き渡る轟音と、辺りに飛散した魔法に、自身の魔法がまた無駄だったとサイルは理解した。

「チッ、物理だけじゃなく魔法も無効かよ。厄介だな」

 サイルは、弾かれた魔法の反動で舞い上がる誇りを剣風で払う。

「アイツ、何の躊躇いも無く威力の高い魔法を連発するなんて、ただの考え無し?それとも、神殿が崩落する前に抜け出せる術を持っているのかしら?」

 純潔の勇者フローラは錫杖をしっかりと握り締め、天井を見上げる。
 パラパラと、ヒビが入っている場所も見受けられる。
 まだ崩落まではしないものの、これ以上の負荷は避けたいところだ。
 それに、狭かった牢屋の檻はサイルと勤勉の勇者クリスチャートとの斬り合いで薙ぎ払われ広くなった。
 その床には既に焼け焦げ変形した物拷問具が散らばっている。

「まぁ、転移石かテレポートを使えても別におかしくない。その手の魔道具や魔導書は、ダクネラ=トランスポートなら多く集めているだろう」

 フローラの【不可侵領域】に居る為に、治療に魔法を使えない。だから、代わりに回復薬を使用している。
 今、彼女の領域に課した3つの拒む事象は、物理無効・魔法全般無効・状態異常無効だ。
 ただの攻撃魔法無効にしなかったのは、前回のアラヤ戦で精神攻撃魔法を防げなかったからだ。

「少しは良くなったかね?」

 斬り合いに負けて負傷したクリスチャートは、ベルフェルに治療されていた。

「ああ、もう痛みも引いた。やはり良い薬だ」

 負傷した腕と足の傷口に塗ったペーストタイプの回復薬は、バルグ商会で売られている月の庭モーントガルテン製の回復薬だ。(ファブリカンテ作)
 実はかなり高価で人気の回復薬なのだが、大精霊の加護が多い月の庭の環境下で育てられた薬草の効果が、通常品の高級回復薬より遥かに高いのだ。(ヒール《中》程度)

「俺達の戦い方だと、魔法の回復ができない場合が多いから、大量に仕入れているんだ」

 メンバーの【運び屋トレーガー】が亜空間収納持ちらしく、武器や素材以外にこの回復薬のような道具類も多く収納しているらしい。

「さて、まだ問題は解決していないが、どうするかね?」

 この牢屋区域から出る為には、前に立ちはだかるサイルを倒す以外に無い。
 だが彼のその能力は、クリスチャートよりも高かった。いや、能力としては同等なのかもしれないが、狭い空間での戦い方の経験の差があった。

「私のこのサークル内にいれば安全ですが、こちらからも手出しできない状況ですね」

「いや、状況は変わる。貯まった経験値ポイントを使うからな」

「えっ、今使うの?クリス、ずっと貯めていたじゃない」

 フローラの驚きを見るに切り札のようだが、この場を切り抜けるには仕方ないと判断した様だ。
 ならば、その流れに後押しが必要だなと、ベルフェルは腰を上げる。

「…時間稼ぎが必要ですかな?」

「10…いや、5秒頼めるか?」

 相手は既に臨戦態勢で、円から出るのを待っている。このまま放置して見逃してくれる気は無いらしい。

「ええ、老体の身でありますが、やれるだけやってみましょう」

 ベルフェルも円の中に居ては魔法を使えない。立派に囮役を務める為には、外に出る以外にない。

「いざっ!」

 円から抜けたと同等に、高出力のライトをサイルに放つ。
 その一瞬で、円から抜け出たベルフェルはすかさず距離を取る。その代償として、彼の右手首は斬り落とされた。
(即死じゃなかっただけでも、まだマシですね!)
 休む間もなく距離を詰めに来たサイルに、アースクラウドの鉱石土壁を3枚立ち上げた。
 だがそれも、剣の一振りで軽く断ち払われる。流石、勇者の血筋だけあって、力も俊敏さも正に怪物級だ。

影の寄生虫シャドウパラサイト‼︎」

 サイルの動きが一瞬止まる。
 初めに放ったライトを背に受けたサイルの影が、本体の腰を掴み引き止めたのだ。

「チッ!」

 しかしそれも一瞬、ライトを飛ぶ斬撃で破壊されて直ぐに解けた。

「爺さんはすっこんでろ‼︎」

 次の瞬間には肉薄したサイルに、ベルフェルは対応が遅れた。
 剣ではなく手刀により脇腹を刺されていた。

(フッ、やはりステータスが落ちているようですね。ですが…)

 次に目に映ったのは、左頬が窪むサイルの顔だった。

「ぐっ…‼︎⁉︎」

 凄い勢いでサイルは飛ばされて壁に激突した。

「待たせた」

 そこには、サイルの代わりにクリスチャートが立っていて、ベルフェルの服を掴むとフローラの円の中へと放り投げた。

「ちょっとクリス!怪我人になんて事するのよ!」

 いやはや全くだと、ベルフェルはよろけながら見上げると、彼はただ軽く手を上げて拳を握る。

「後は任せろ」

 その自信はどこから出る?これといって、見た目は先程と変わった様には見えない。

「痛たた…。流石に今のは油断した…」

 サイルは身を起こして殴られた頬を摩る。 
 威力的に、常人なら即死…良くても粉砕骨折しているレベルだと思うが、軽く口の中を切った程度に見える。

「…第二ラウンドってか?いいよ、同じ勇者の血を持つ者として、どっちが上か分からせてやるよ!」

 2人は再び剣同士の斬り合いに入る。その斬撃は相変わらず辺りに被害をもたらす。

「俺は勤勉の勇者の家系なだけでなく、寛容の勇者の血も受け継いでいる!更に傲慢魔王の血もだ!分かるか?この圧倒的なまでの才能の差が!」

 確かに、生まれながらにそのステータスは常人とはかけ離れていただろう。
 かくいう私自身も、悪魔の血を受け継ぎ常人とは違うからなと、ベルフェルは悲観した過去を思い出した。

「受け継いだ血?そんなもの関係無い!俺は未熟児で生まれ親はどちらも凡人と呼ばれていたが、受け継がれるものは別に血だけではない!例え生まれながらに身体能力の差があろうとも、与えられた愛情は俺だけのものだし、他人に負けてるとは微塵も思わない!才能の差?そんなもの、家族の愛情と努力さえあれば、必ず超えられるからな!」

「そんなものは詭弁だ‼︎親は優れた血を残すだけの存在に過ぎん‼︎」

 更に白熱する2人の斬り合いに、武器の方が早く限界を迎えた。
 お互いの剣が折れ、そのまま格闘戦へと変わる。

「…聖女よ、彼は変わったのかね?私には先程とあまり変化が無いように見えるが…」

 ベルフェルは、自分で傷の手当てをしながら、まさか無駄骨ではないかと不安になりフローラに尋ねた。

「いえ、確かに変わっていますよ。ただ、彼はなんです」

「…?」

 その意味を理解する前に、サイルが一瞬の隙をついてクリスチャートの脚を払った。
 そのままマウントを取られ、一気にピンチに陥ってしまった。

「!」

 振り下ろされる拳撃を、ひたすらガードで耐えている。
 見る見るうちに腕は赤くなっていく。このままではガードが外れるのも時間の問題だ。

「彼は今回、新たな特殊技能ユニークスキルをポイント消費により得ました。本来なら、まだポイントは貯めて手に入れたい技能があったのですが、やむを得ないと判断したのでしょう」

 ベルフェルは、フローラの話を理解できない。ポイントとやらを集めて、好きな
 もしもそんな事が可能なら、彼は一体何の技能を選び得たというのだ?

「さっさと、死ね‼︎」

 サイルが振り下ろした拳が、クリスチャートに掴まれた。

「くっ⁉︎」

 逆の拳も掴まれ、そのまま押し飛ばされる。

「まだそんなに腕の力が残ってるのかよ」

 せっかくの優位を活かせなかなった事に、サイルは舌打ちをした。
 一方、ゆっくりと起き上がったクリスチャートは、指先を動かして腕のダメージは問題無いと確認する。

「さて、はできてるかな?」

「何?」

 サイルが今更挑発か?と睨むと、クリスチャートは自分を見ていなかった。

「「バッチリでさ、旦那!」」

 何故か、聖女の円の中に居る部下の様な2人が返事をした。

「調整済みです‼︎」

 2人のその手には、先程折れた筈の大剣がある。どういう事だと辺りを見ると、折れて落ちていた筈の大剣はまだある。
 つまり、まだ予備スペアがあったという事だ。

「どうぞ!」

 何故か、2人は亜空間収納にその大剣を戻した。
 しかし次の瞬間、サイルは自身の目を疑った。

「馬鹿な⁉︎」

 クリスチャートの側に亜空間収納が開き、その中から大剣の柄が出ている。

「フフッ、オイラは【運び屋】ですぜ?亜空間収納の使い方は、出し入れだけじゃないんですよ!」

「そしてオイラは【鍛治師シュミート】。旦那好みの調整はオイラにしかできない!」

 クリスチャートは大剣を取り出して構えた。どうやら、先程の大剣よりも厚みが無いように見える。

(まさか、先程の大剣は武器破壊目的⁉︎)

 今更気付いても遅い。ただ明らかに切れ味が増した様に見えるあの大剣を、素手で受ける事は無理だと分かる。

「ならば近寄らせない!」

 サイルは、トルネードを放ち距離を取ろうとした。
 階層を破壊しうるフレイムインフェルノではなく、ここは武器を取りに一度退き戻るべきだと判断したのだ。
 だが、その判断が裏目に出た。

「うぉぉぉぉっ‼︎」

 無謀にも、砂嵐に身を削られながらクリスチャートは突進して来た。

「今こそ見せてやる!新たな技能の力を‼︎」

「ちぃぃっ‼︎」

 サイルは、咄嗟に拾った自身の折れた剣で受けに回る。

「【遭遇の一撃ベゲークヌンクシュラーク】‼︎」

 振り下ろされたその斬撃は、サイルの折れた剣で確かに受け止められた。
 だが次の瞬間には、サイルは巨大な何かに押し潰された。
 斬撃というよりは打撃。受けた時点で防ぐ事は不可能だったのかもしれない。

「…何という個に対する威力だ」

 見るに堪えない姿となったサイルに、ベルフェルは顔を顰めた。
 その威力は全て彼だけに留まっていた。つまり、対象にだけにダメージが伝わった。
 とても恐ろしい不可避の技能だ。

「今までに魔物等の敵と遭遇し、勝利した数により威力が増す一撃必殺の特殊技能だ。今回でリセットされたから、再び勝利数を稼がないといけないな」

「しかし、欲しかった技能とは違うのですよね?」

「まぁな。他に【窮鼠猫噛】も獲得可能だったけど、やはり狙っていたク…」

「クリス!大丈夫なの⁉︎」

 そこで突然フローラがクリスチャートに詰め寄り、体を念入りにチェックし始める。
 まぁ、あの威力の反動が身体にあってもおかしくはない。
 これ以上の詮索は疑いを招くと、ベルフェルは口を閉ざすのだった。
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