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第23章 力のご利用は計画的にらしいですよ⁉︎

342話 再会

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 オホンとアヤコが軽く咳払いして、皆の注意を再び集める。

「作戦成功は喜ばしい事ですか、新たな問題も出ています。エームールやオモカツタのみならず、スニス大陸のあちこちの街や村で同様の無気力症の兆候が見られたんです。ベルフェゴールの討伐によって、オモカツタとエームールは回復したようですが、他の場所はベルフェゴールとは違う要因でしょうか?」

「どうだろう?ニイヤ、ベルフェゴールは確実に倒したんだよね?」

「頭を潰したから、死んだと思うけどな」

 因みに、倒したのはゴーレムのバンドウだけど、カオリ達の頼みでまだバンドウの事は秘密にしている。

「そっか。まぁ、その辺は帰ってからまた話そうか。俺はまた街に戻らなきゃならないんだ。後は頼むよ」

 アラヤは、アヤコ達にそう言って、ベルフェル司教の葬儀に参加する為の準備に向かった。

「さて、目立つ宰相様達をあまり長居させるわけにもいきませんので、明日にでも本国へ送らねばなりませんね?」

「うむ、何から何まで助かります」

 召喚サモンの仲介で疲労したポルカの回復を待つ事もあって、宰相のジョスイとポルカを送るのは明日となった。
 因みに、送るのは迎えにも行った2人の分身体アラヤが担当になる。

「この際だから、2人の名前決めとこうよ。呼びづらいから」

 みんなから案を出してもらい、多数決で2人の名前を決めた。

「うーん、楽観的なアラヤ君は、ソルテ。卑屈的なアラヤ君は、ネガトに決まったよ」

「オッケー、良いよそれで」

「分かった。ごめんね、気を使わせて…」

 見た目も、ソルテは短髪に、ネガトは前髪を垂らしネクラっぽくなった。

「初めて会った時にも驚きましたが、アラヤ殿の分身の方がこんなにも居られるとは更に驚きました」

 ジョスイ達は、作戦で合流した金髪ニイヤ以外に、背の低いアー君、竜人ドラッヘン姿の主様、背の高い青年姿のあらやと出会って、同一人物の筈がまるで兄弟だなと感じていた。

「…我等がゴーモラの同胞も、家族という形でこの空中公国月の庭モーントガルテンに居るわけですが、モーントガルテンからの親善大使も、本心を言うと再びお越し頂く事をお願いしたいところであります」

「それを決めるのは私達じゃありませんね。アラヤ君の許可と、2人のどちらかが残りたいと思わないと」

 モーントガルテンとしては、どちらかを残す事で、ゴーモラの監視もできるから利点はあるのだけど、大きい戦力ともいえる分身体の2人を手放すのは痛手とも言える。
 もちろん、アラヤが分身体ではなく他の者を選ぶ可能性もある。

「さすれば、アラヤ殿には是非にも許可を頂き、帰国次第、お2人には最高のおもてなしを用意しなければ!」

 ジョスイは、鼻息を荒くしやる気を見せている。彼の期待は既に高く、2人のうちのどちらかを狙っている様だ。


「ご主人様、どうされましたか?」

 喪服へと着替えていたアラヤの手が止まっていたので、献花の準備を手伝っていたディニエルが訪ねる。

「…いや、生前葬の話を教えていたんだ」

「…(だれに)?」

「なんでもないよ。ありがとう、そろそろ行くよ」

 アラヤは、用意してもらった献花の束を亜空間収納に収めると部屋を出る。

(最近、みんな俺に秘密があるようだし、俺もベルフェル司教の事は秘密にしとこうかな。
まぁ、向こうがサプライズ的に打ち明けてきたら、俺が逆に驚かすのもアリだな)

 その様子を想像してニヤけていると、廊下の時計にふと目が行き、既に時間が無い事に気づいて慌ててテレポートするのだった。



       ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇


 ムシハ連邦国、その北部のアカモリ国。
 その領地内にある首都、3つの街と村で、無気力症の状態が起きていた。

「なんなの、この状況は…」

「つい先日まで、内乱があったとは思えないよな…」

 首都の街中を歩く2人の分身体アラヤは、無気力症の人々を見つけては、なるべく屋内へと移動させていた。

「自分じゃ動けない状態のまま、魔力を奪われ続けている」

「でも、国内全部の街や村じゃないよね?」

 1人のアラヤが地図を取り出して広げた。
 これはムシハ連邦国の地図だ。地図には、無気力症の人々が居た街と、内乱が起きた街とに印がつけられている。
 既にアカモリ国以外の他の国にも印は付けてあった。

「無気力症と必ずしも同じ街じゃないところ見ると、内乱との因果関係は無いのかな?ん~、もうちょっと良く調べてからじゃないと危険だよね?」

「ええ~、もう片っ端からヌル虚無教団を探す方が早くないかな?きっと聞いた方が早いって」

 ムシハ連邦国に調査に来てから、2人の意見は毎回対立していた。
 事あるごとに、直ぐに突っ込もうとする積極的なアラヤと、とにかく色々な理由を付けては動きたくない消極的なアラヤ。

「ねぇ、やっぱり大罪教の人達に調査を頼もうよ?」

「馬鹿言うなよ、そいつがもし潜入しているヌル虚無教団員だったらどうするんだ?あ、それならそいつを捕まえて吐かせよう」

「ええ?それが違ったら本体に迷惑をかけるだろ?やっぱり大人しく様子を見よう」

「「うがぁぁぁっ‼︎⁉︎」」

 毎回決まらなくて大声を上げて終わる。よりによって、対極的な2人での調査は困難を極めていたのだ。

『……』

 2人がいる首都からは少し離れた小さな村で、2人の動きを観察している男が居た。

『どうするの?呼びに行く?』

 ニュルリと、腕に下半身の尾を巻きつかせてくる闇精霊に、男は顔色ひとつも変えずにその尾を引き剥がした。

「良し、デンデン。奴等の部屋と繋いでくれ


『分~か~っ~た~』

 カタツムリ姿の無属性精霊が、ゆっくりと返事をする。
 遅過ぎるその行動に、闇精霊はイライラしている。

『もう、あんたは遅過ぎるのよ!』

『ご~め~ん~よ~、ダ~ビ~』

 言動とは裏腹に、デンデンの動きが遅いわけではない。
 むしろ、扉に特殊で複雑な魔法陣を描く速さは、並の魔術士など足元にも及ばない。
 だがそれ以前に、大罪教の特殊魔法であるゲートを小型化し、素早く扉に施せるのはデンデンくらいだろう。

『繋~が~『ほらイトウ、繋がったってさ?』っ~た~よ~』

「よし、ならば行くか」

 彼が扉を開けると、開けた先に居た2人のアラヤは素早く武器を構えてから、その男の正体に気付いた。

「「イトウ先生⁉︎」」

「うむ。先ずは、何故倉戸が2人居るかを答えてもらおうか」

 そう言って近くにあった椅子を引っ張り出して座ると、自作タバコに火を着ける。

「…じゃあ説明するよ」

 大雑把ではあるが、分離分身ができること以外に、今の状況も教えた。

「…ったく、相変わらずスローライフが送れないのかお前達は」

「せ、先生こそ、ムシハ連邦国全土がこんな状態なのに、今まで何していたのさ?」

「俺か?静かな村を見つけてな。買い溜めた本を読んで過ごしていた」

 どうやら、絶賛スローライフを満喫していたらしい。

「だがせっかくの読書中に、突然変な魔力の流れを感じてな。出元先を探っていたら、お前達を見つけたのだ」

「魔力の流れ?」

「無気力症状が出た場所では、奪われた魔力が決まった方角と地中へと吸われている」

「反乱とも関係ある?」

「それは別だな。反乱はヌル虚無教団員達の工作だろう。無気力症状は範囲が広く、教団員達も巻き込まれている」

「えっ?じゃあ別勢力の仕業?」

「…さぁな。俺には奴等は目的が違うだけで、世界を混沌へと堕としたいという根本は同じに見える。…ちょっとその地図を見せろ」

 2人が広げていた地図を見たイトウは、タバコを落とし靴で擦り消した。

「どうやら、また拠点を変えなきゃならんようだな」

「ん?どういう事?」

 イトウは地図を2人に押し返した。

「その印を全て繋げて見ろ」

「繋げる…あっ?」

 ムシハ連邦国内の全ての印が、繋げる事で意味を成していく。

「無気力症の出た場所は魔法陣の外円。反乱、及び戦争が起きた地点は内円や文字の場所だ。ただ、その大きさはムシハ連邦国で円の外周の4分の1部分。残りは、グルケニア帝国とラエテマ王国。つまりは、スニス大陸に巨大な魔法陣が描かれている」

「なんだって⁉︎」

「そんなでかい魔法陣で一体何を⁉︎」

「さぁな。…ただ、想像できない程の力だろうな」

 魔法陣の規模が広過ぎる。これがもし禁呪の類なら、星が消滅するんじゃないか?

「止める方法は無いかな?」

「これ程広範囲の魔法陣だ、者凄い年月を掛けて準備されている。緻密に練られた計画だろう。実行された時点で、止める事はもうできないと思うぞ?」

「じ、じゃあ、先生はどうするつもり?」

「俺か?とりあえず、魔法陣の外へと避難するつもりだ。後は状況を見るしかないな」

 2人のアラヤは顔を見合わせる。

「「俺達も戻ろう」」

 2人の意見が合った。今やるべきことは同じだ。この事実をみんなに伝え、対策を練らないといけない。

「そういえば、お前達は空に住んでいるのだったな?」

「…ええ、そうですけど」

「そうか。ならば部屋は空いていないか?新しい拠点を見つけるのも面倒なんでな。余裕があるなら、部屋を分けてもらえると助かる」

 イトウのその表情は、とても必死に頼んでいるようには見えない。
 断られても、勝手に住んでいそうな厚かましさを既に感じる。
 この際、みんなへの説明をイトウに任せようと、消極的なアラヤが提案して、積極的なアラヤもその意見に乗ったのだった。
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