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第23章 力のご利用は計画的にらしいですよ⁉︎

338話 結界のタイプ

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 オモカツタの街の西門入り口前。
 突如街を覆った結界を調べる為、主様はクララとアルディスを連れて来ていた。

「これは遮光されてるのかな?」

 地面から立ち上がる結界は、半透明に黒く目に見えている状態だ。
 半透明かといって、奥が見えるのは1m程度で、その先は真っ黒の闇に見える。

 試しに結界に触れてみると、濡れる様な感触と共に微かに毒を感じる。

「闇属性をベースに、水属性と無属性を合わせた結界の様ですね」

 アルディスも中位風精霊モースに結界の詳細を探らせている。

『効果は遮断と毒で間違いないわよ。タイプとしては精霊結界じゃないみたいね』

「精霊結界以外の結界って?」

「複数の魔導具を設置するタイプと、贄を媒体としたタイプがあります。魔導具の場合は、1つでも破壊すれば結界は崩れます。贄を使った結界のタイプの場合は、贄を中心に結界が広がるので、侵入が難しく一点での破壊は困難です。この場合の破壊は、結界に多大な負荷を与え続ける事で贄が耐えきれず崩壊します」

「この結界はどのタイプかな?」

『…魔導具かな?ん~分かんないや。遮断効果だから調べにくいよ』

「そっか。それならとりあえず一度戻ろうか」

「もう戻るのですか?」

「うん。風の大精霊エアリエル様に頼んで、結界に負荷を与えてもらうのさ。それで消えれば贄タイプだって分かるでしょ?」

 この街を覆う結界規模に、チマチマと魔法で負荷を与える必要は無い。
 結果、消えない場合に隠されている魔導具を探した方が早いと考えたのだ。

「力技ですね…」

 アルディスとモースが、大精霊を何だと思っているんだと冷たい視線を向けている事に、主様は気付かないままテレポートを使用した。
 しばらくして、オモカツタの街は巨大な竜巻に包まれる事となった。


       ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇


 アラヤはオモカツタの街の地下街を1人で走っていた。
 目指しているのは、地上での結界の真下だ。上で見た限りだと、結界は防壁の外側までで下りている。
 地下街は、自然洞穴を利用して作ったので、やや防壁よりも広くなっているのだ。

「おっと、止まっていたか」

 結界は、自然洞窟内まで下りてきていなかった。
 魔導具の結界ならば、設置した箇所から上下に広がるが、厚みのある地盤は通過しない。
 つまり、これは魔導具による結界ということだ。

「という事は、魔導具を探して破壊すれば良いのか?」

 そうと決まれば、地下街にいても結界は壊せない。一度地上街まで戻り探すとしよう。

「おや、アラヤ殿。何故このような場所に1人で?」

 地上街に向かおうとした矢先、最も会いたくなかった人物に会ってしまった。

「もちろん、結界をどうにかしようと思ったからですよ。ベルフェル司教」

 魔導感知には、当然反応は今でさえも無い。
 建物の影から姿を現したベルフェル司教は、笑顔を見せているが相変わらずの強面だ。

「ベルフェル司教こそ、敵が侵入したこの事態に、1人で行動を?」

「いやはや、団員の者達は皆、例の無気力症になってしまいましてな。私だけでも、ベヒモスの回りを護衛しなければと自然洞穴側を調べていたところです」

 その割には、洞穴側ではなく建物側から現れたけど?
 どうやら、もう疑われている。おそらく初めから尾けられていたな。

「そうですか。敵の主犯らしき者達は今、セパラシオン司教達が相手しています。加勢に向かわれたらどうです?」

「セパラシオン司教殿が居るなら、大丈夫でしょう。分別の勇者達も直ぐに駆けつけるでしょうから」

「…では、引き続きベヒモスの護衛ですね?私は結界の魔導具の捜索に向かいます」

 一刻も早く、彼から離れようとしたが、彼は敢えて道を塞いだ。

「その必要はありません」

「…何故です?」

「貴方達は聡明だ。既に気付いておられる筈だ」

 どうも嫌な展開だ。想定していた範疇ではあるが、最悪側の領域だ。
 もともと疑っていた人物だが、外れて欲しかった。

「…何故、結界を張ったんです?いや、いつからヌル虚無教団側なんです?」

「いつからと言われましても、初めからとお答えするしかありませんな」

 初めから。つまり出会った頃には既にトランスポートの仲間だったという事。
 だが、それだとアラヤが暴食魔王だと判明した時に、様々な協力をしてくれた意味が分からない。

「俺が暴食魔王だと分かっていて、何故に今まで虚無教団に狙わせなかったんですか?魔王の遺体は厄災の悪魔召喚に必要だったのでしょう?」

「ハハハ…。それができたら、今回の様な手間を掛ける必要は無かった。見つかったは良いが、仲間に引き入れたいとダクネラが言うものだから、配下を付けて監視するしかなかった。ところがどうだ?国を渡り、監視が曖昧になり始めた辺りから、移動手段不明となり追えなくなった。全く、規格外にも程がある。まさか大精霊をも引き入れていたとは想像出来なかった」

 ベルフェル司教は呆れたように笑いながらも、どことなく嬉しそうに話す。

「俺を仲間に?傲慢魔王のアラガキみたいにですか?そんなの願い下げですよ」

「そうでしょう。ただでさえ、貴方は大罪教とも関わりを避けていたのですからね。早いうちから、仲間にはならないとダクネラには進言したのですがね、今となってはもう手遅れ。1番厄介な敵対者に育ってしまった」

 短めの杖を取り出したベルフェル司教は、ゆっくりと構えた。

「嫉妬魔王が現れた先日、ゴーモラと関係を築いてくると予想できた。ベヒモス奪還の為に再びこのオモカツタに赴くとも有り得ると、この結界を早くから計画していたのです。なにぶん、貴方の家族も規格外の者ばかり。引き離す必要がありましたからな」

 おそらく、1番の脅威はエアリエル。次にエンリルを警戒したのだろう。
 結果的に成功して、今はアラヤ1人の状況だ。

「では、民衆の無気力症も貴方の仕業?」

「いや、私ではありませんよ。これは偶然が重なったに過ぎない。計画を実行した矢先、忌まわしきベルフェゴールがそれに便乗した。奴もまた、ダクネラに忠実な駒の1つ。だからといって、私と目的が同じという訳ではないのです」

「そのベルフェゴールの目的は?」

「知る必要もありませんし、既に討たれたようなので、もう関係ないでしょう」

「討たれた?」

「全く…長く生きているだけの悪魔ですからね。とにかく、この街の無気力症は治り始めたという事ですよ」

 厄災の悪魔を討ったとなると、おそらく家族の誰かだろう。
 結界を何とかしようと、以外と近くまで来ているのかもしれない。

「さて、お喋りはこの辺でお終いにしましょう。貴方の家族が辿り着く前に、その命頂戴いたします」

 司教が軽く杖を振ると、アラヤの足元に魔法陣が形成される。
 素早く移動し回避しようとするも、影のようにピッタリと離れない。

「5感の全てを封じろ、生からの解放ビファインボンリビーン

 魔法陣から闇色の手が湧き出した瞬間、アラヤは脱皮して躱した。
 抜け殻となったアラヤの皮に、闇の手がうねうねと絡み付いている。間一髪だったな。

「奇妙な技能をお持ちのようですな。それならば、手数を増やすとしましょう」

 ベルフェル司教がパチンと指を鳴らすと、複数のベルフェル司教の分身体が現れた。

「な⁉︎」

 アラヤの分離分身並みに精巧な分身体だ。しかし、分離分身には分離の技能と特殊技能ユニークスキルが必要だが、この分身体はどちらかといえばサタンの分身体に似ている。

「「「驚いた事でしょう。この技能は忌々しき奴の力の1つでもあるが、貴方が相手であれば使うことも厭わない」」」

 増えた司教達は、それぞれに異なる魔法を詠唱し始める。
 どうやら、既に手を抜ける状況では無いらしい。
 アラヤは、残念だと少し悲しみを感じたが、全力を出すべく余計な感情を沈めるのだった。
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