【完結】スキルが美味しいって知らなかったよ⁈

テルボン

文字の大きさ
上 下
337 / 418
第23章 力のご利用は計画的にらしいですよ⁉︎

333話 荒ぶる道化

しおりを挟む
 ニイヤは、エームールの港町を確認できる位置まで来たら、手前で飛竜を降下させた。

「さてと…先ずは観察してからだな」

 ニイヤは【生命の檻】に飛竜を収監し、近くの木に飛び乗り遠視眼で町の様子を見る。

「……」

 なんだろう、町の人達は道端に座り、何もしていない。
 呆けた表情のまま空を見上げているか、よだれを垂らした状態で俯いているだけだ。
 ニイヤは町に近付き、技能スキルが届く距離から鑑定してみる。
 これが感染力の高い疫病だった場合も考えたら、これ以上は近づかない方が良い。

「状態は…思考停止⁉︎ウイルスじゃないみたいだけど、精神異常攻撃魔法みたいなものを受けたのか?」

 魔導感知で細かく見ると、自らの魔力を使い、自らにコラープス(虚脱)に似た魔法を掛け続けている。
 しかも、魔力量の最大値が低い者達は、魔力が切れないように、量が多い他人から自動で魔力を集めている。

 町の中を、魔力を消して警戒しながら見て回る。やはり、見かける人達は全て同じ状態だ。

『…という状況なんだけど、どうするよ?』

 ニイヤはとりあえず、町の異変を念話が届く距離まで飛竜で戻り報告する。

『そうか…。ひょっとしたら、まだ町の中にそんな状態にした奴が居るかもしれないね。何人か応援を送るよ』

『いらねー。ゴーレムいるから大丈夫だ。直ぐに犯人捕まえてやるよ』


『おい、待て…』

 アラヤの静止は聞かずに、一方的に念話は切られた。なんか分身体達は分離したままだと、個々の性格が強まっている気がする。
 月に一度でも、俺(本体)に戻した方が良い気がするなぁ。

「念のために、月の庭モーントガルテンをエームールに近付けておこう。いざという時に駆け付けれる距離なら、ニイヤも文句は言わないだろう」

「ごめんね、アラヤ。帰ったらちゃんと叱っておくから」

 カオリが代わりに謝ったが、まぁ反省はしないだろうな。

「それにしても、町の人全員が思考停止ですか。洗脳系の呪いの可能性もありますね。チェックは私がしておきますので、何かあったら私とアー君で直ぐに飛びます」

「うん、お願い。俺はオモカツタの街に降りて両教団と打ち合わせしてくるよ」

 早速出ようとしたアラヤをアヤコが止めた。

「彼女達が着くのは、どれくらいになりますか?」

「ああ、明日あたりかな。とりあえずはモーントガルテンここに来てもらうつもりだよ」

「分かりました。ではそちらの準備もしておきますね」

 アラヤが去った後、ミネルバが気になったらしくカオリに尋ねてくる。

「カオリ、こんな時に誰か来るのか?」

「ええ、同盟国の人達ですよ」

 ラエテマ王国から誰か来るなら、私にも教えてくれる筈…。
 という事はパガヤ王国の人達かな?それなら、援軍に戦闘が得意な亜人達という事だろう。
 本来なら、兄上達にも援軍を頼みたいところだけど、私はあくまでも親善大使だ。
 アラヤ達は、ラエテマに要請する気がないようだから、これ以上は口出しは無理。
 でも、いつでも頼まれても良いように、衣装や手紙の準備だけはしておこう。
 ミネルバは、ひょっとしたら家族に会えるかもしれないと、期待してしまうのだった。


 ニイヤは、エームールの町に再突入る前に、ゴーレムを【生命の檻】から取り出した。

「う~ん、ゴーレムの見た目もバンドウに近くしたのは間違いだったかな?これじゃ仁王像だよなぁ…」

 厳つい顔のこのゴーレムは、竜鱗脱皮のゴーレムではなく、体の骨となるパーツは鉱石、それを強化した魔力粘糸で筋肉の様に包み込んで作り上げた。
 心臓部には魔鉱石、眼球には水晶を使用しているが、狙い通りの結果があるかは分からない。

「まぁ、後は鬼が出るか蛇が出るか、やってみなきゃ分からないな。…それっ、【魂魄剥ぎ】!」

 生命の檻に収監されているバンドウの魂を摘んで取り出し、ゴーレムの魔鉱石へと押し込む。

「……」

 ダランと垂れていた両腕がピクッと動いたかと思うと、顔がキョロキョロと辺りを見渡す。
 そして水晶の目がニイヤに向けられた。
 瞳孔が無いから視線がどこを見ているかは不明だが、感覚はある。

「やぁ、バンドウ。気分はどうだい?」

 ニイヤがバンドウゴーレムに触ろうとすると素早く離れた。

「…ああ、そうか。口は固定された上に声帯が無いから喋れないんだったな?耳は聞こえてるかな?念話が使える筈だから、念話で…」

『てめぇ、倉戸かぁ⁉︎金髪にしたくらいでバレないと思ってるのか?えらく自信あり気な態度じゃないか!』

「ああ、違う違う。俺はニイヤ。アラヤじゃないぞ?そんな事よりも、体の調子はどうだ?」

 ニイヤは鏡を取り出してバンドウに向ける。

『ああ、調子だぁ?…ん?ん?…なんだこれはーーーっ⁉︎』

 ニイヤの鏡を奪って、自分の顔の違いに気付き驚いている。
 だが、顔部分に魔力粘糸の筋肉繊維は作っていない。なので、バンドウの眉間に皺を寄せた不機嫌な表情のままなのだ。
 しかも、腰布1枚のほぼ裸の状態な事にも今気付いたようだ。

「ん~、とりあえずはゴーレムでも魂が宿ったな。それじゃ、次の課題。記憶はどう?生前の記憶はどこまで覚えてる?」

だと…⁉︎』

 何かを思い出した様で、変わらない筈の表情が更に不機嫌になった様に感じる。

『…そうか、俺は死んだんだったな。…だが、どうしてこうなっている?てめぇの仕業か?』

「まぁな。仮初の体で悪いけど生き返ってもらった。それでさ…」

『へっ、バカが。どういうつもりか知らんが、俺は好き勝手にさせてもらうぜ!だからてめぇはここで寝てもらう!』

 バンドウはいきなりニイヤに殴り掛かろうとした。
 しかし、その拳はニイヤの面前で止まる。拳は、プルプルと震えてそれ以上前に進まない。
 拳を止めて蹴りに転じてみても、結果は同じように直前で止まってしまう。
 怒りに任せて何度も繰り返すが、全く当てられなかった。

「無駄だ。君は俺の従魔になっているからな。俺を殺そうとする行為は全て制御される」

『ふ、ふざけるな!なんで俺がてめぇの下僕になんだ⁉︎こうなったら…!』

 ニイヤの相手をせずに逃げる事を選んだバンドウは、エームールの港町へと駆け出した。

『それもダメ。俺の許可無く逃げる事もできないよ?』

 ニイヤの念話が頭に響くと、バンドウは体が痺れて走れなくなった。

『クソッ!なんだよ!何なんだよ‼︎』

 解除しようと従魔の紋章を探しているが、見つかるわけはない。何しろ、心臓部である魔鉱石に刻まれているからだ。
 心臓部の魔鉱石が破壊されたり、取り出しても死んで終わりである。

『まぁ、落ち着いてくれよ。俺も奴隷の様に働かせようとは思っていないからさ』

『黙れ!てめぇの命令なんて誰がきいてやるもんかよ!』

 体を壊そうと考えたのか、民家の壁を殴り始める。
 しかし、カオリが用意した体が弱いわけなく、瞬く間に民家の方が崩れてしまった。

『じゃあ、こうしよう。今回、俺の手伝いをしてくれたら、……パガヤ王国のその後を少し教えてやる』

 ピクッとバンドウの肩が動き、ゆっくりと振り返って、ニイヤを指差した。

『ゼッテーだからな!今回だけだ!今回だけ手伝ってやる!何をすればいいんだよ⁉︎』

 早速、やる気になってくれた。パガヤ王国の事、やっぱり気になるんだな。

『先ずは技能を確認してくれ。生前の技能は全てあるか?』

 生前は憤怒魔王だったから、彼のステータスも技能も分からなかった。

『…かなり減ってるな。特殊技能ユニークスキルはあるが、解釈が変わってるな。新たにある技能はてめぇの仕業か?』

『まぁな。その体に必要な技能だったから付けた』

 技能が減ってるのは、やはり体が記憶していた技能もあるという事かな?
 バンドウの落胆振りからして、生前よりは強さ半減といった感じか。


バンドウ

種族   魔導ゴーレム(人型)   性別不明

体力   400/400
攻撃力   262/262
耐久力   312/312
精神力   183/183
魔力   201/1201
俊敏   385/385
魅力   20/100
運    50

職種  荒ぶる道化  LV1

技能  従魔連鎖LV 1   身体強化LV 1   魔導感知LV 1   精神耐性LV 2   物理耐性LV 2   全属性魔法LV 1   一点突貫LV 2   言語理解LV 3   魔法耐性LV 2   威圧LV 2   体術LV 2   捕縛術LV1   自己再生LV 1   毒耐性LV 2     感覚補正LV 2    念話LV  2   超聴覚LV  1    望遠眼LV  1    暗視眼LV 2    溶解耐性LV  1   熱感知LV 1   熱耐性LV  1   睡眠耐性LV 3    腐敗耐性LV 3     

特殊技能

【怒髪天武】LV1     使用すると、怒りの感情と蓄積ダメージ量に比例してステータスが一定時間爆上がりする。

【反抗憤怒】LV1     使用すると、触れた対象が使用した技能を事ができる。LVに応じた使用制限有り。

 さて、後からアラヤがどんな反応を見せるか不安だが、今は目の前の問題を協力して解決するとしよう。
しおりを挟む
感想 166

あなたにおすすめの小説

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり

柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日―― 東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。 中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。 彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。 無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。 政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。 「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」 ただ、一人を除いて―― これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、 たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

処理中です...