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第23章 力のご利用は計画的にらしいですよ⁉︎

328話 腕試し

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 それは、アラヤ達がパガヤ王国に停泊して3日目の出来事だ。

「た、大変だわ!直ぐにアラヤ殿に知らせなければ!」

 管制室でお仕事をしていたミネルバが、監視対象のマークの異変に気付いてアラヤを呼びに出ようとした。

「ああ、俺はここに居ますよ。ミネルバ殿、どうかしましたか?」

 管制室の奥から現れたアラヤは、軽く欠伸をしている。仮眠中だったのかも?

「それが、ムシハ連邦国の赤マークが消えまして、これってまさか…」

 ミネルバの顔が青ざめている。無理もない、この赤マークは国王のマークと教えてあったからね。

「なるほど、ムシハ連邦国のミルトン国王が亡くなられましたか…。彼の国とは後日に同盟を控えていたのですがね…」

 アラヤは少し考えた後、月の庭モーントガルテン内に念話を飛ばした。

『アヤコ、サナエ、カオリと各分身体達は、至急管制室に集まってくれ』

「あ、ミネルバ殿も少し状況を聞くからまだ待っててね?」

「はい…」

 程なくして主要メンバーが全員管制室に集まる。
 全員が用意されている席に座ると、内容を察してか重々しい雰囲気になる。

「たった今、ムシハ連邦国のミルトン国王が亡くなられた。その原因を調査し、今後の対応を決めたいと思う。ミネルバ殿、監視対象が消える前後の回りの反応を教えていただけますか?」

「は、はい!先ずは消える前ですが…」

 巨大地図の前に立った彼女は、指示棒を伸ばしてムシハ連邦の地図へと向けた。

「対象が居たこの施設は、おそらくマネーシー国の王都だと思われますが、都全体で他の光体同士の衝突が多く見られました」

「内乱か」

「おそらく…。あと、アカモリ国とイガタニ国でも同様の動きがありました」

「内乱は収束傾向にあったと思うんだけど…?」

 以前、アヤコと怠惰魔王のイトウが、両教団を説得して動いてもらっていた。実際、ムシハ連邦国内の内乱は今日まで無くなっていたのだけど。

「ミルトン国王を討ったその光体は、その後はどこに?」

「それが、後を追う様にして消えてしまいました」

「首謀者が後追い自殺か…。いや、直接確認するまでは分からないな。俺が調査に向かおうか?」

 分身体の1人が提案する。彼は、積極的な俺の分身体だ。
 ヌル教団の関与があるかもしれない以上、確かに潜入調査も必要かな。

「分かった。じゃあ頼むよ。誰を連れて行く?」

 自分の分身体とはいえ、何があるか分からない。単独行動するにしても、直ぐ近くに協力できる者が居た方が良い。

「じゃあ、コイツで」

「え、俺⁉︎」

 積極的なアラヤは、消極的なアラヤの肩に手を回して捕まえた。見た目同じなので紛らわしい。そろそろ、独身アラヤ達も個別に名前を決めた方が良いかもしれない。

「じゃあ、行ってくる」

 2人は早速テレポートで姿を消した。モーントガルテンをマネーシー国上空まで移動してからで良かったと思うんだが、せっかちだな。

「じゃあ、詳しい調査は2人に任せて、今後の対応を考えようか」

「ムシハ連邦国との同盟の話は、とりあえずは白紙でしょう。時期代表国王が決まるのも、かなり後になるでしょうし。モーントガルテンとしては、まだ何も利害が無いので、何も支障は無いですね」

「そうなるね」

「ムシハ連邦ばかり気にしてもいけない気がするわ。ニイヤ、ラエテマ王国や、ゴーモラ王国に変化は?」

「ゴーモラに変化は無いが、ラエテマ王国では、インガス領からモザンピア領に通常より僅かに人の移動が多いな」

「モザンピア領は、多くのドワーフが住む山岳地帯でしたよね?その様な場所に何が?」

「あの領は、強欲なドワーフが治めている為に正確な情報がありませんからね。ミネルバ様が知らないのは無理もないでしょう。あの山岳地帯には地下通路や地下都市があり、その通路があらゆる場所に繋がっているのです。その範囲はおそらくスニス大陸全土。現に、グルケニア帝国兵がデピッケルに来ましたからね」

 問題は、その移動している者達の目的だな。地下通路を移動手段として知る者は少ない。
 それは、ドワーフによる被害があるからだが、地下通路の存在すら知らないのが大多数だろう。

「目的は、ムシハ連邦国かグルケニア帝国に渡るためだろうな」

「地下通路を知り、他国へ移動するとしたらヌル虚無教団…いや、大罪教や美徳教団の可能性もあるか?」

「そうですね。どちらにしても、一般人では無いと思われます」

「とりあえず、インガス領まで移動しましょうよ?丁度、香辛料のストックが残り少ないし」

「分かった。じゃあ、各自パガヤ王国での必要性の高い準備を終わらせてくれ。俺はクララを呼び戻してくる。彼女が戻り次第、モーントガルテンを移動させようか」

 みんな、パガヤ特産の資材や食材、亜人文化で培われた薬学の知識など、パガヤ王国と同盟で得たものも多い様だ。

 クララはというと、例の白銀アルジェント家の屋敷に居た。
 現当主の狼人ライカンスロープツァンナと、些細なこと?で争った後で仲良くなっていたのだ。

「クララ、迎えに来たよ。…って、何してるのさ?」

 屋敷に訪れたアラヤは、案内された部屋に居たクララを見て呆れてしまった。

「は、えっ⁉︎ご主人様⁉︎」

 人狼ヒューウル姿のクララが、銀狼姿になったツァンナを膝に乗せて毛繕いをしていた。
 決闘では実力を示したクララだが、敗れたツァンナが舎弟の様になってしまい、甘やかしてしまっていたのだ。

「そろそろ次の場所へ移動するんだけど?」

「は、はい!今直ぐに支度を済ませます!」

 ところが、ツァンナが動こうとしない。体が大きいだけに、無理矢理膝から退けるにも一筋縄ではいかなかった。

「…主様はどこ?」

 アラヤの声のトーンが落ちた事で、クララは彼が機嫌が悪くなってきていると気付いた。

「あ、主様は、早朝に腕試しに向かわれました」

「腕試し?」

「私が紹介した。自身の実力を知るのにうってつけの場所があるのだ」

 腹を見せたままドヤ顔で言われても、全く締まらない。
 アラヤは、ツァンナを有無を言わさず持ち上げて退かす。

「…ただ念話で呼ぶのも何だから、その場所に俺も行こうかな?」

「はい、案内します。…ご主人様、どうか主様をお叱りにならないで下さい。悪いのは私ですので…」

 シュンとして尻尾が垂れているクララに、ツァンナは首を傾げる。

「今は、別に自由行動だったのだろう?何故奴が咎められる?」

 銀狼から狼人へと姿を変えると、ツァンナは軽く衣装を羽織る。素っ裸で甘えていたとはどれだけクララに気を許してるんだ?

「私はご主人様に仕える者です。本来、有事の際には真っ先にお側に居なければなりません。主様が何も言わずに私と屋敷に残ったのは、貴女と私を気遣ってのこと。優先すべきことを私が誤ったのです」

「面倒くさい関係なんだね。元は同じ雄なのだろう?奴が認めた事は、此奴も認めたと同じだろうよ」

「待った、俺は別に咎めてないよ?ただ単に、しばらくパガヤには戻れなくなりそうだから…」

「何っ⁉︎王国を出るのか⁉︎ならば私も…‼︎」

 アラヤはツァンナに、最大限の威圧を向けた。その重圧に彼女は尻尾が垂直に硬直する。

「ごめんね、貴女はモーントガルテンには相応しくないかな。それよりも、パガヤ王国に必要みたいだからね?」

「が、が、我慢しますっ‼︎」

 ピンと立ち、目を合わさないツァンナを残して、クララはアラヤとテレポートした。
 その直後に、ツァンナはヘタリ込む。

「…元は同じなんじゃないの?主様と違うじゃないか…」

 初見で最良の雄と直感はしたけれど、とても自分とは釣り合わぬ規格外であると理解した。
 腰を抜かしたようで、立ち上がることもできなくなっていた。

「うぅ…。帰ってきたらただじゃ済まないだろうなぁ…」

 ツァンナは大きな溜め息をついて、そのまま不貞寝を決めたのだった。




「ここが、自身の実力を知れる場所?」

 テレポートで着いた場所は、浅瀬に囲まれた小さな島で、小さな祠が見える。

「はい。実は、蒼月神フレイの祠として、アルジェント家に代々守り継がれてきた場所だとか…」

「【白銀の牙】は、美徳教団や勇者に縁があったのか…」

「勇者と関わりがあったのはかなり古い代の頃らしく、美徳教団でも知る者がまだ居るかは分からないらしいです」

「それで、肝心の主様は見当たらないけど?出入り口は何処?」

 島自体は小さく、祠以外は何も無い。そもそも、魔導感知にも反応が無いから気味が悪い。

「出入りは、認められた者が勝手に招かれるらしく、アルジェント家はここを無事に出てこれた者を跡取りに決めているらしいです」

 つまりは、ツァンナは招かれた上に無事に帰還したわけか。
 そして、都合良く主様を挑戦させたわけだ。

「クララ、ツァンナは主様を跡取り候補にするつもりだったって事だよ?まぁ、正確には主様(俺)と君の子供だろうけど」

「え⁉︎」

 彼女はツァンナの狙いを気付いてなかったらしく、ワナワナと尻尾を震わせている。

「別に従う必要は無いさ。子供の未来は親が全て決めて良いものじゃないからね?」

「そう…なのですか?」

「あらゆる指針は与えるべきだろうけど、最終的に選ぶのは子供だからね」

 クララは納得したようで胸を撫で下ろす。残す血筋に縛られて生きるのは、彼女としては可哀想だと感じているようだ。

「それにしても、主様はいつ戻るのかな?」

「ツァンナは、時間はさほど経過せずに戻ったと…」

パシュン…

 クララと話している最中で、アラヤの姿が一瞬で祠に吸い込まれて消えた。

「ああ、ご主人様も招かれてしまった…」



 目の前にいた筈のクララが消えて、アラヤは知らない場所に立っていた。
 辺り一面が白い空間。

「あれ…?ちょっと既視感があるな、この場所…」

 なんとなくだけど、前もこんな体験しなかったかな?

『ようこそ、紅月の可愛い子よ』

 突然、念話の様に頭に響く声が聞こえて、アラヤは振り返る。
 すると、先程は何も無かった場所に玉座があり、そこに座る美青年が床に倒れる主様を踏み付けていたのだった。
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