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第22章 世界崩壊はわりと身近にあるらしいですよ⁉︎

320話 親善大使と護衛

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 ラエテマ王城謁見の間。
 城の中央に位置する場にあった謁見の間は、対象となる人間達が居なかったからか、運良く崩壊から免れていた。

「空中公国月の庭モーントガルテン大公アラヤ=グラコ様、並びに王妃様方御到着しました!」

 大扉が開かれ、盛大とまではいかないが歓迎の音楽が奏でられている。
 中央に轢かれた赤絨毯の道を、アラヤ達はゆっくりと行進していく。
 通路の両側には、貴族や将軍が並び立ちアラヤ達の姿を興味ありげに見ている。

「凄い美女がいるぞ。あれが奥方なのか?」

 アラヤに付き添い歩くのは、技能スキルを持たない一般人にも視認できるまでに精霊力を抑えた風の大精霊エアリエルだ。
 ドレスはもちろん、ティアラやイヤリングまでもが精霊力を抑える魔法陣が施されている。

「元商人だと聞いたが、意外にも気品はあるな」

「没落貴族とも聞いたぞ?」

「帝国とも繋がりがあるとも聞いた。誠に信用に足るのか?」

「静かにせよ」

 宰相に無駄口を注意され、貴族達はつまらなそうに視線を逸らした。
 今回、アラヤはラエテマ国王との初めての謁見だった。ただ、アラヤ自身も同等の国王としての立場である事から、遜るへりくだ態度を取るわけにもいかない。
 故に、謁見とは少し違い、国王の待つ玉座と同じ高さまで階段を上がる必要がある。
 立場的に家臣扱いのカオリ達はまだ手前の段で止まり、横に控えるように立つ。

「ようこそ参られた、グラコ大公殿。余がラエテマ国現国王、ストレングス=ラエテマである」

 玉座から立ち上がり、手を差し出すラエテマ国王。緊張しながらも、アラヤはしっかりと握手を交わした。
 自ら手を差し出す辺り、国王は対等な関係性を考えてくれているようだ。
 立場が上だと誇示したければ、握手は相手から手を差し出すまでしないし、玉座まで上がらせることも無いだろうな。

「本日は急な来訪に対応していただき、誠に感謝しています」

 国王の後ろには、ジョアンヌ王妃が立ち笑顔を見せた後に軽く頭を下げる。

「そうか、ジョアンヌとは面識があったのだったな?その節は世話になった」

「私がこうして一国の主となれたのも、ラエテマ王国の様々な方々との良き出会いがあったからこそ。王妃様もその1人であり、当然の事をしたにすぎません。ひとえに、我々はこの国の国民性が好きなのだと思います」

「ふむ、貴殿等の御厚情に深謝する。我がラエテマ王国は、モーントガルテンとの末永い友好を望みたいものだな」

 国王が謝意を述べたことで、不信感があった貴族達も一転して歓迎的な態度を出し始めた。

「陛下、ではそろそろ…」

 宰相が、準備ができたと合図を送ると、国王は頷きラヘル王子を呼んだ。
 王子はそれぞれに頭を下げ、アラヤの下に歩み寄ると片膝を付いた。
 以前の代役とは違い、彼も国王に対する対応になっている。

「グラコ大公様、では今後の我々の関係性を確固たるものにする為、同盟対談を行いたく、他室へと移動をお願い致します」

「分かりました」

 アラヤ達はラヘル王子の案内に従い、準備が整った軍議室へと場所を移動した。
 室内には大臣達が既に待機していて、緊張した面持ちのまま立ち上がり、アラヤ達に頭を下げる。

「どうぞこちらへ」

 用意されていた豪華な椅子にアラヤとエアリエルが座り、カオリ達は少し後ろに用意された席に座る。

「軽い飲み物をお持ちいたしました」

 直ぐに、侍女長のマーレットが、葡萄酒ワイン等の酒を乗せたワゴンと共に入ってきた。出来れば食べ物も欲しかったな。

「陛下は体調が優れないため、これよりは私と大臣達が対応させて頂きます。ご了承ください」

 対面側にラヘル王子と宰相が座り、深々と頭を下げた。

「ええ、存じていますので、お気になさらず。お会いできただけでも有り難かったですよ」

 実際には、緊張で思わず握手の力加減を間違えそうだったり、台詞を噛みそうだったりしたんだよね。そもそも、こんな畏まった話し方は苦手だ。
 なので、

「これから絆を深めるのであれば、公衆の面前で無い時は砕けた話し方でも構いませんよ?」

「それは流石に…」

 残念ながら、いきなり砕けた会話は無理だったようだ。

「それでは、同盟条約を結ぶにあたっての詳細を話し合って参りたいと存じます」

 ラエテマ王国側が提示してきた、モーントガルテンとの同盟関係となった場合の主な提供と要求はこうだ。

提供

 ラエテマ国内全土への入国及び、停泊の権利。但し、事前の連絡を求む。
 ラエテマ国内による交易の許可。並びに課税の一部免除。
 その他(為替相場等…)

要求

 ラエテマ王国への侵略行為、及び武力行使全般の禁止。但し、王国側が国内で他国からの侵略行為を受けている場合、王国からの救援要請での行為は除外される。
 両国と敵対する勢力に対する戦争行為の際は、救援要請には極力応じること。
 その他(資源強奪禁止等…)


「なるほど、概ね理解しました。では、こちら側の主な条約内容はこちらです」

 あらかじめ、カオリとアヤコが準備した羊皮紙をラヘル王子へと手渡す。

「この、制空権とは…?」

 空中公国モーントガルテンの領地は、土地に在らず。地上より高さ1万mの高さ以上は、モーントガルテンの領域、つまり制空域とする。

「つまり、飛竜や飛行戦艦が飛ぶ8000m以上の空域は、全てモーントガルテンの領地であり、これに侵入する行為は侵略とみなし攻撃を加えるって事です。あ、因みに美徳教団の転移魔法のテレポートの一瞬の通過は許容範囲です」

「な、なるほど…」

 王国側とすれば、飛行技術がそこまで高く無いから、その辺りの心配は今は無い。
 おそらく、グルケニア帝国とムシハ連邦国に対して用意したものだとラヘル達は理解した。

「あと、我が公国では希望する移民受け入れを考えています。もちろん審査はしますが、王国内に希望者が居る場合にはご連絡頂き、移民の許可を出して頂きたい」

「移民ですか…。希望者が現れたらお伝えしましょう。但し、我々も重要な人材の流出は抑えたい。無理な勧誘だけは御遠慮願いたい」

「それは心得ています」

 実際問題、モーントガルテンは国になったばかりで人が居ないからね。少しずつでも良いから、気の合う家族、その人数を増やしていきたい。

「後は概ね、交易条件等は我々と近い内容の様ですね。この辺りは、実際に行ってからの調整を話し合いたく存じます。宜しいでしょうか?」

『ええ、その内容なら大丈夫ですね』

 念話で先程から聞いていたアヤコからのGOサインが出たので、アラヤは頷いた。この辺のやりとりは、後は彼女が上手くやるだろう。

「では、我々ラエテマ王国と、空中公国モーントガルテンが同盟を結ぶことに、異議がある者はいませんか?」

 大臣達は異議無しと頷き、カオリ達も異議無しと頷いた。

「では、お互いの書面に誓いのサインを…」

 用意された用紙は特殊な紙の様で、僅かな魔力を感じる。鑑定には誓いの契約書と表記されている。
 サインを終えると、僅かに魔力が吸われた。呪いとは違うけれど、契約の維持に少なからず効力があるのだろう。

「これから、よろしくお願い申し上げます」

「こちらこそ」

 ラヘルと握手を交わして、これで晴れて同盟関係は結ばれた。

(ようし、早速タオやハルを誘ってみるか。もちろん両親も来てもらいたい。レミーラもこのまま移住するなら、ゴードンさんにも許可を貰わなきなゃな)

「ああ、申し遅れましたが、我々ラエテマ王国からの親善大使として、我が妹のミネルバ=ラエテマを最初の移民として引き受けてもらえぬだろうか?」

「ミネルバさ…ミネルバ王女を?」

 これにはカオリがいち早く反応して、アラヤに『にいや、間違いなくOKよ!』と強めに言ってきた。まぁ、断る理由も無いから良いけどね。

「ミネルバに、侍女と護衛を1人ずつ同行させるので、計3名の移民となるのですが…」

「構いませんよ、むしろ、王女とは妻も親しいので喜ぶでしょう」

「それは良かった(本当に仲が良かったのか⁉︎)。では、お呼び致します」

 ラヘルがマーレットに合図を送ると、彼女は待機している筈の3名を呼びに退室した。
 程なくして、軍議室に現れたミネルバ王女は、真っ先にカオリに気付いて笑顔を見せる。
 アラヤも、ミネルバがカオリの側に居てくれるなら、更に楽しい暮らしを満喫できるだろうと喜んだ。だがその直後、厄介な男にも気付いた。
 よりにもよって、ミネルバを溺愛するリッセンという護衛兵が後ろにいたのだ。

「ぬっ⁉︎ミネルバ様を招きたいという輩は貴様だったのか。貴様は大罪教の信者だったらしいな?そんな奴は…ウグッ⁉︎」

 いきなりの失言に、隣にいた侍女のマイナの肘打ちがみぞおちに綺麗に入った。
 どうやら、彼女はマーレットに仕込まれた立派な侍女らしい。
 ただ、リッセンの性格を知らなかったのか、ラヘル王子達は顔から血の気が引いている。

「こ、これは大変失礼した!どうやら護衛の人選を誤った様だ。直ぐに別の者を手配します故、どうか…」

「ああ、大丈夫です。まぁ、彼の事も一応知っているので…。王女が問題無いのでしたら構いませんよ?ただ、多少の教育はこちらでさせて頂くでしょうけれど」

「ええ、これを機に是非とも根性を叩き直して頂きたく思いますわ」

 ミネルバの了承も得たので、このまま護衛枠はリッセンで決まった。
 一瞬で友好的な場が壊れそうだったと、ラヘル王子達は胸を撫で下ろした。
 何はともあれ、同盟は無事に結成され、モーントガルテンに新たな国民が3名増えたのだった。

 

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