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第22章 世界崩壊はわりと身近にあるらしいですよ⁉︎

319話 護衛の選別

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「ミネルバ、突然何を言い出すんだ。意味を分かって言っているのか?」

 親善大使に立候補したミネルバ王女は、自信満々に答える。

「もちろんですラヘル兄様。私は決して、冗談を申し上げている訳ではございません。先ず、私が何故、親善大使に名乗り出たのかという点をお答えします。1つ、相手国の王が警戒しない脆弱な者であり、尚且つ王家の者であるということ。2つ、私は国王とその奥方とは面識があり、友好的な関係を既に築いていること」

 王家の血筋を差し出す事は、相手との信頼性を高めるには効果的だ。
 ミネルバは、継母であるジョアンヌ王妃の唯一の子だ。継母の反対はあるだろうが、俺としては父上から引き離せて助かるな。
 だが、自ら人質ともなり得る行動に出れる程、相手と仲が良いというのか?

「…友好関係に自信があるのは良いが、お前が国から出る事を、父上も母上も良しとしないだろう。それをどう説得すると言うのだ?」

「彼が所属していたのはバルグ商会。商会の中では稀に見る帰結主義の商会です。彼等との出会いは、単なる遊具に私が興味を持った事から始まりました。王城に招き、軽い座談会をした際に、母上のお茶会に参加した事もあります。それだけでなく、厄災の悪魔から逃げ遅れた私と母上は、彼自らの手で助けられましたから、母上は快く承諾してくださると思いますわ」

「む…。そうか」

 救助された際の話をされると、ラヘルは罪悪感で居た堪れなくなった。
 災厄の悪魔出現の日、ラヘルは国王と妹2人を避難させることで精一杯だった。
 籠城戦ならまだしも、城下街と城内で突然起きた悪魔襲撃に対策を打てる筈もなく、僅かな近衛兵達と即座に王都から脱出する手段しかできなかった。
 それに、王宮の1部崩壊により通路の断裂した為に、王妃とミネルバの詳細を判断できなかった。決して故意に、王妃とミネルバを見捨てた訳では無かったのだ。

「では説得してみせろ。お前がそれを望むなら、私は邪魔はしない。私の見立てでも、アラヤあの男ならお前を無下には扱わないだろうからな」

「兄様、ありがとうございます」

「フン、本来ならトーマスに依頼する予定だった案件だ。仕事を横取りした埋め合わせをお前からしておけよ?」

「え?俺は別に…」

「もちろんです」

 戸惑うトーマスの裾を引っ張り、ミネルバ達は軍議室から退室した。

「ごめんなさい、トーマス。貴方を利用するような形になった」

「利用も何も、アラヤあの坊やに親善大使を選んで送れって、初めから俺には決められなかったさ。俺も、ミネルバ様が1番角が立たない人選だと思うぜ?」

「ありがとう。そうと決まれば、父上と母上を説得しに行かなきゃね。あ、後、付き人を1人は考えなきゃ。流石に単身で行くのは許されないだろうし」

「ギルドから1人選ぼうか?」

「それは私が嫌よ。でも、マーレットは侍女長だから無理よね…。まぁ、先ずは説得が先ね!」

 ミネルバは、王族らしさの気品など気にしないとばかりに颯爽と走っていった。



「軽い気持ちでああは言ったが…責任重大だな」

「ギルドマスター、どうされたんですか?」

 翌日、忙しいギルドの日常に戻ってきたトーマスは、ラヘル王子からの護衛推薦枠を1人選べと依頼されていた。
 ミネルバ王女は、国王と王妃の説得には成功したようだが、世話係と護衛を1人ずつ同行させることを条件とされたようだ。
 世話係には、マーレットが後輩のマイナという娘を推薦し、既に確定している。
 そして、護衛枠の候補となるのが、近衛兵、各将軍の部隊長、貴族出身の次男以降。
 その中から、最適人の者を選べと依頼されたわけだ。
 ギルドマスターとして、それなりに人を見る目はあると自負していたトーマスも、最終的に残された候補者達に頭を抱えていた。

「選ばれたのは、騎士団でも長所短所が目立つ奴ばかりだ。不躾、酒癖、不敬、粗暴、無学はもっての外、いくら護衛としてのステータスを持ち合わせていても、最適な奴がいないんだ」

 戦闘経験者達はまだ良い。最低条件の護衛ができるから。
 だが一方の貴族出身者は教養はあれど戦闘経験は皆無な上に傲慢な者が多い。そもそも、嫡男は1人としていない。
 まぁ、王家との繋がりだけ見て選ばれた末っ子がほとんどだな。

「やはり護衛もできて、教養があるのは近衛兵達か…。ん?コイツは見た事あるな…」

 トーマスの調査報告書を捲る手が止まる。

「確か…ミネルバ王女の護衛していた奴だな。王女に会う前にアラヤ坊やがどんな人物かを疑っていた。王女の警護を普段からしているなら、コイツが適任か?」

 だが何故、現在護衛任務に着いているにも関わらず、この男は誰からも推薦されていないのだ?

「まぁ、他に妥協できる人材は見当たらない。コイツで出すか」

 トーマスは、能力的な点では問題が無いリッセンを護衛候補者として推薦することに決めた。そこで、彼の人間性を確認することを怠ってしまったのだった。


 ハ…クシュン!

「…誰か噂しているな?まさか、ミネルバ様か?」

 外壁の瓦礫撤去中だったリッセンは、舞い上がった埃で盛大なクシャミをした後に、おそらくミネルバが居るであろう王城を見上げた。

「何だあれは⁉︎」

 欠けた王城の屋根の向こうから、巨大な影が広がってくる。
 他の兵士達も見上げ、その大きさに騒ぎ始めた。

「し、島が浮いているのか⁉︎」

 下から見上げれば、見えるのは剥き出しの土塊でしかないので、想像し易いのはやはり空飛ぶ島だろう。
 リッセンは、迷う事なく瓦礫を放り捨てミネルバ王女を探しに駆け出した。



「ら、ラヘル王子、早速来訪した様です!」

「おいおい、早過ぎるだろ。同盟検討の打診を出したのは昨日だぞ⁉︎グルケニア帝国領内から、僅か1日で来たというのか…⁉︎」

 朝、羅針盤通信機による会話では、こちら側からは数日中に来訪してもらい、同盟を結ぶに当たっての会議を行うと要請したばかりだった。
 現在はグルケニア帝国に居ると、その時に聞いていたのだ。

「しかし、今更準備がまだだと追い返す訳にもいきません」

「先ずは父上達に連絡をする!大臣と宰相は至急、同盟条約の書類を仕上げろ!」

「「「ハッ‼︎」」」

 ラヘル王子は、急ぎ国王の寝室に向かった。国王は既に体を起こし、侍女達により正装へと着替えている最中だった。
 それを心配そうに、第一、第二王女の妹達が何も出来ずにあたふたとしている。

「父上、予定よりも急な謁見となり、誠に申し訳ございません」

「本当ですよ、兄様!父上様の体調が優れない事を知った上での対応なら、相手国の者達を許してはなりませんわ!」

 ラヘルが黙れとひと睨みすると、妹達は竦み上がり大人しくなった。

「…もうよい。体調も、今は調子が良いからな。それに、ミネルバが言うに、彼等は規格外の者達ばかり。我々の常識で測ってはいかんらしい。何より、彼等はこの王都を救った一員じゃからな」

 最後に愛用のマントを羽織ると威厳まで羽織ったかの如く、弱っていた姿が嘘に思えた。

「ラヘル、客人を待たせる訳にはいかぬ。出迎えを頼んだぞ」

「ハッ、直ちに!」

 ラヘルは護衛と侍女達に後を頼むと、直ぐに控えていた宰相と移動しながら打ち合わせを始める。

「向こうからの通信はあったか?」

「はい先程。先ずはの許可を頂きたいと」

「上空で待っているということか。分かった、許可せよ」

「はい」

 入国の許可だと?
 奴等は既にラエテマ王国内に居るし、魔法や飛竜により、この王城にもいつでも入れるだろうに。

「城門前にゴンドラ?を下ろすとの事です」

「分かった。出迎えは私が行く。お前達は残された準備を終わらせろ」

「ハッ!」

 ラヘルは外廊下へと出て、その光景を見た瞬間に、何故、空中公国側が入国と言ったのかその意味を理解した。

「衛兵!直ちに開門せよ!今から御座す方々は、我がラエテマ王国の客人である!」

 ラヘル王子の一声に、空を見上げて呆けている者、急ぎ砲台の準備に取り掛かろうとしていた者達が、直ちに身を正して通路に整列を始めた。

 既に王都都民全てが目撃しているその空を飛ぶ島は、見る者達の思考を鈍らせていた。
 異様で、奇怪で、恐怖と奇跡の事象を目の当たりにしている。
 それは正に、この国では無い別の存在。その存在を見せる事で、国民にそうアピールしているのだ。

 やがて、島から1つの箱らしき物が降りてくるのが見えた。
 その箱は、近付くにつれて部屋の様な乗り物だと分かった。
 箱の四隅は糸状な物が繋がっており、この箱が島から降りる為にあるのだと理解した。

「見ろ、誰か出て来たぞ⁉︎」

 箱の扉が開くと、背の低い青年と恐ろしく綺麗な女性が初めに出て来た。
 次に金髪の男女が続き、護衛らしき盾を持つ大男と同じく背の高い亜人のメイドが最後だった。

「急な来訪、誠に申し訳ない。ラヘル王子」

「いや、もとより呼んだのは我々だ。来て頂いた事、こちらこそ感謝する」

 青年と握手を交わすラヘル王子を見た兵士達は、この時初めて、代表者がその背の低い青年だと気付いたのだった。
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