【完結】スキルが美味しいって知らなかったよ⁈

テルボン

文字の大きさ
上 下
318 / 418
第22章 世界崩壊はわりと身近にあるらしいですよ⁉︎

314話 加護と契約の違い

しおりを挟む
 海中の潜水遺跡にいる風の大精霊エアリエル達は、世界の海上が急な波浪状態に陥っていることは知らなかった。
 それは、水の大精霊アーパスの今の心情の現れだった。

『アーパス、落ち着きなさい!』

「アーパス様、そんなに落ち込まないで
ください。確かに俺には相応しくなく、勿体ないかと思いますが、とても光栄で嬉しいですよ?」

 エアリエルと分身体アラヤが宥めているも、アーパスはクラゲクッションに頭から突っ伏してグスグスと泣いていた。

『先を越されるとは我としても、予想外の事態だ。本来なら、全ての大精霊の加護を得た後に、我が契約者パートナーになる予定だったのだが…。悔しいが、初契約バージンを自分で選べなかった事に比べると些細な事だな』

 何か、かなりの罪悪感を感じるのだが、正直、俺は受けただけなので何もしていない。

『とにかく、なってしまった事はどうしようも無い。もはや、成された契約はアラヤが死ぬまで解除はできない。アーパスよ、諦めるのだ』

『契約者が死ねば…?』

 ピタリと泣き止んだアーパスが、クルリと振り返りアラヤを見る。
 少しの間があって、彼女は再び突っ伏した。

「結局、初契約は終わりに変わりないじゃないのよ~!」

 アーパス様、今、一瞬考えたよね?怖いし、ちょっとショックなんだけど…。

『あの、エアリエル様、大精霊の加護と契約では何が違うのですか?』

『ああ、加護の場合は簡単に言うと、属性の強化だな。我の加護の場合、不老長寿の身体となり、大気から得る魔素の量や風属性関連(魔法、技等)の効果が強化される。だが、加護ではなく契約になると、大精霊と等しい力を行使できるようになる。無論、大精霊が側に居るなどの条件や制限はあるが、自然から得る恩恵や力は加護の比じゃない』

「えっ⁉︎怖っ…」

 大精霊と同様に、自然の力を使えるって事だよね?そうなると、今の俺って、アーパスと同様に世界中の水を操れる?
 ヤバイ奴じゃん。世界から魔王だって恐れられる奴じゃん。あ、合ってるのか。

『馬鹿者、大精霊が契約者の私利私欲に使うことを許可するわけなかろう』

「ですよねー?そういえば、美徳教教皇も光の大精霊ミフル様の契約者でしたよね?という事は、彼もミフル様の様な光の力を使えるのですか?」

『そういう事だ。だが、ミフルは見た通り落ち着きが無い。力を使うには側に居なさ過ぎて加護と大して変わらんだろうな』

「なるほど…」

 まぁ、ミフル様の場合、教皇には取り巻きとも呼べるグルケニア皇帝が居るから、力を使わせない為にも離れているのもあると思うけど。

『今、この世界で大精霊と契約者なのは、その教皇と其方、後はおそらく、無属性大精霊ケイオスと契約しているだろうダクネラ=トランスポートの3名だな』

 そうか、ヌル虚無教のヌルって無属性の大精霊を作った存在だったな。
 エアリエル達が知る創造神達ではないヌルにより作られた無の大精霊ケイオス。
 無属性は、世界に確かに有り、目に見えない。時間、重力といった力だ。

「…改めて思いますが、敵は脅威ですね」

『心配は要らぬ。其方は更にその上を行くのだからな』

 エアリエルはアラヤを優しくハグする。

「え、エアリエル様⁉︎」

 ドクン!と体全体が脈打った。
 頭の中が真っ白に…いや、澄み渡る感覚になった。
 目で見えない筈の遺跡内にいるハウンの姿も、祭壇で寝ているクラーケンも視えている。凄く鮮明な感知能力だ。こんなふうに、エアリエルにはいつも視えていたのか…。

『アラヤ、これで其方は2属性の大精霊と契約者となった。唯一無二の存在だ。いや、分身体であるから、そう呼ぶのは変か?』

 エアリエルはゆっくりと離れると、アーパスに向き直る。

『アーパスよ、この分身体アラヤとハウンは御主と誓いを立てている為にこの神殿からは出られん。誓いを解除してはくれんか?』

『はぁ?ふざけないでよ!私から契約者まで奪うつもり⁉︎』

『違う!分身体アラヤこの者はもう御主の者だ。ただ、誓いがあっては遺跡から外に出られん』

『出る必要は無いわよ!』

 そんな事は許さないと、アーパスはアラヤを引き寄せて抱き着いた。

『私の契約者なんだからね!』

『それは分かっている。だが、力は既に与えられている。其奴が本気で暴れようと思えば、遺跡は簡単に崩壊するぞ。その後で、誓いにより死んでしまう。それは避けたい』

『あ、暴れようとしなければ済む話よ!大体、アラヤは私に忠実なのよ?私を悲しませる事はしないわ!そうでしょう?』

「はい、…頑張ります」

 契約した大精霊相手に、否定もできないし、断言もできないよ!どう答えるのが正解なんだ⁉︎

『我は別に、其奴とハウンを連れ戻そうというのではない。偶には家族や仲間に合わせてやれというだ』

『お願い⁉︎アンタが?私に⁇』

『ああ、そうだ。其奴は分身体の身ではあるが、家族や仲間は心配している。合わせてやりたいのだ。無論、必ず帰すと約束しよう』

『……。わ、私も同伴するわ!アンタの約束なんて当てにならないもの!』

『そうか、来るか。良し、ならば土の大精霊ゲーブも呼んで歓迎してやろう』

『えっ?ブーちゃんも⁉︎そ、そうねっ!歓迎してもらおうかしら?や、約束だからね!』

 怒り→困惑→興奮と、アーパスは感情の起伏が本当に変わりやすい。
 まぁ、今は上機嫌だから良いけど。

『ウフフ、帰ったらビックリするよ?』

 水の中位精霊シレネッタは含み笑いをしている。
 本体と別れてから1月くらいだが、何を驚く事があるのだろうか?まぁ、この遺跡で達成感のない日々を過ごしていた俺達よりは、刺激ある生活を送っていたに違いないだろう。

『後日、連絡を入れる。期待して待っておれ』

『必ずだからね?ち、ちゃんと、ブーちゃんも呼びなさいよ⁉︎』

 潜水遺跡はいつのまにか海上まで浮上していて、エアリエルとシレネッタは外へと簡単に抜け出た。
 海上は凪の状態になっていて、水平線では丁度、陽が沈もうとしていた。

 2日後。早速連絡が届いた。
 約束通りに誓いを解除してもらった分身体アラヤとハウンは、海上に浮上した潜水遺跡から久しぶりの外へと顔を出した。

「ん~っ、空気が美味しい!」

「日の光が眩しいですね」

 2人が外を満喫していると、海上にアーパスが上半身を出す。彼女は、ハウンが用意したお洒落なフリル付きドレスを着ている。
 大人しくしていてくれたら、正に可愛い人魚姫なんだよなぁ。

『留守番は、ガルグイユとクラーケンに任せてきた。準備は良いわよ?』

「えっと、念話で近くまで来てると連絡は受けたので、そろそろ浮遊邸が見える距離だと…」

 空を見渡す一同は、を見つけた瞬間、黙って瞬きを繰り返した。

「お、大きくなってる⁉︎」

「はい、前の2倍以上は広くなった大きさですね!」

『空を飛んでいるなんて、いかにもエアリエルらしいわ!でも、どうやってあそこまで向かうのよ?私の波で打ち上がる?』

「ああ、それなら大丈夫です。俺に掴まって下さい」

 差し出されたアラヤの手をアーパスが掴むと、ハウンもアラヤに寄り添う。

「テレポート」

 一瞬にして、3人は空の大地へと移動した。

「「「お帰りなさい‼︎」」」

 着いた場所は来賓館前で、分身体アラヤとハウンを見るなり、アスピダ達が駆け寄って来た。ハウンも、思わず涙を浮かべている。

『アーパス様、ようこそお出でくださいました』

 アーパスの出迎えは、イシルウェ達エルフや精霊達がしてくれた。
 アーパスは下半身の魚部分を人型の素足へと変えた。

『良く来てくれた、アーパス』

 ドレスアップしたエアリエルも現れ、アーパスを歓迎した。

『驚いただろう?この空飛ぶ大地はアラヤが考え、今や空中公国月の庭モーントガルテン、つい数日前に国家となっていた。アラヤには本当に驚かされる』

 嬉しそうに話すエアリエルに、アーパスはへぇ~と軽い相槌を入れながら辺りを見渡した。
 アーパスには、地上の建物は新鮮に映っている。今まで見かけた建物といえば、漁村の古い古屋や港ぐらいである。
 確かに、分身体アラヤも、遺跡内を自由な発想で住みやすくしようとしていたが、広ければこうも立派な建物ができるのかと感心したのだ。

『ゲーブももう到着している。さぁ、中で話すとしよう』

 モーントガルテンでは、招待客が大精霊達という壮大なお祝いが、今から始まろうとしていたのだった。
しおりを挟む
感想 166

あなたにおすすめの小説

ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり

柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日―― 東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。 中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。 彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。 無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。 政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。 「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」 ただ、一人を除いて―― これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、 たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

処理中です...