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第21章 その存在は前代未聞らしいですよ⁉︎
304話 価値
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帝国領港街ボリスン。港街としてのその規模は大きく、漁船だけでなく大型帆船も数多く停泊している。
だが、全ての船が帆をたたみ出港する気配がない。
街全体に活気はなく、路上に出歩く人影も無い。
蔓延する放置された遺体からの異臭と、建物の影で蠢く蛇がその原因だと思われる。
「お前達はここで待っていろ」
「「「ハッ!」」」
マントとマスク姿の帝国兵達が見守る中、水色のマントを羽織る男が、使っていた望遠鏡を手渡して、ただの1人で街の入り口に向かっていく。
街の入り口の門は開いていて、いつでも通過可能だ。ただ、扉には一種のアートかと思えるような、人間の腕の装飾が施されていた。
男は何事も無かったように門を通り、街中へと歩いていく。
「そこで止まれ!」
背後から声が聞こえ、男はすんなりと両手を上げた。
「貴様は節制の勇者タカノブ=ブリアトーレだな。何故1人で来た?街の奪還が目的ではないのか?」
背後に3人の魔人兵士が武器を構えている。槍兵が1人、剣士が1人、魔術士が1人、既にやつれている様子だが、アーリマンは部下である兵士達にも不当な扱いをしているらしいな。
「フハハッ、私にかかれば街の奪還などは造作もないが、生憎と今日は休暇でね?近くに来たから、アーリマン君にちょっと挨拶でもと思ったわけさ」
「信用できるか!お前は仮にも勇者だろうが!アーリマン様に無抵抗を装い近付こうって魂胆だろう⁉︎」
「これだから下っ端は煩わしいんだよなぁ。モブはモブらしく、さっさと案内すれば良いものを」
「何だ?モブ⁉︎訳の分からない事を言っ…」
槍兵が大人しくさせようと近付いた瞬間、バツンと何かが千切れる音が聞こえた。
これは彼等には聞き慣れた音で、サーっと体から血の気が引くのが分かった。
「いやぁ、悪かったな。俺の手下どもは礼儀が無くてな?」
槍兵以外の兵士達が下半身のみとなっている。その直ぐ後ろには大蛇達がいて、服の残骸を吐き出していた。
その大蛇の根本にある単眼の蝙蝠姿は、聞いていたアーリマンの姿と一致している。
「あー、直接会うのは初めましてだな。噂に違わぬファンシーの世界のキャラクターみたいで安心したよ」
「意味が分からないな。それで?ダクネラの参謀であるお前が、身内に疑われる危険を犯してまで我に会いに来る理由は何だ?」
「戦況が変わりそうなんで、その情報提供ってやつ?まぁ、半分は身内に対して美徳教団側だよというアピールかな?」
「わざわざ、そちら側に居続ける意味が分からないな。まぁ、死にたくなったらいつでも帝国側として来ると良い」
「フフッ、そのくらいの強気は好きだよ?まぁ、確かにこのまま立ち話してても同伴者達に疑われるから、そろそろ動きながら話そうか?」
タカノブはそう言うと、横でガタガタと震えている槍兵の肩に手を置く。
「逃げた方がいいよぉ?」
「ひ、ヒイッ⁉︎」
槍兵は味方の亡骸を飛び越えて走り出す。それをニヤニヤと笑うタカノブは、指をパチンと鳴らした。
その音に反応するように、兵士の体が爆散した。
「BOMB‼︎ハハハ、爽快だな!」
「それで?どんな情報なんだ?」
アーリマンは、タカノブに大蛇による当たらない攻撃を仕掛ける。
タカノブは派手に避ける演技を見せながら、その前にと条件を付け足した。
「一応、今回の成果として、街長と数名の船乗りを逃がしてもらうよ?」
「好きにしろ。大した価値も無い奴等だ」
「それじゃあ、交渉成立って事で。…俺が伝える必要があると考え、持ってきた情報ってのは、今、新たな国家が誕生しようとしているって情報だ」
「なんだ、それは?全くどうでも良い情報じゃないか」
「いやいや、それが異例中の異例、国王となるのが魔王なのに、推薦したのが美徳教団の教皇様ときた」
「へぇ…。それで?」
アーリマンの大蛇を押し退けて建物を破壊すると、タカノブはアーリマンを建物内へと引っ張り込んだ。これで周りからは見えない筈だ。
「美徳教教皇が推薦するその魔王ってのが、暴食魔王らしいんだが、暴風竜エンリルを従えているだけでなく、風の大精霊エアリエルまで味方につけているらしい」
「光の大精霊ミフルと眷属竜を従える教皇と同等だな。だが、それだけが理由か?」
「いや、1番の理由は領地だろうな」
「領地?独立するのなら、ムシハ連邦国辺りか?」
「それが、世界のどの土地でも無いのさ。まさかの、空を飛ぶ土地に住んでいるんだぜ?魔法の力で浮遊させ、その領地で世界を旅しているのさ。まさに、天空の国!憧れだよなぁ!」
「なるほど…。エアリエルの力か。戦も攻守共に優れている上に、どの国にも属していないのか。教皇が建国を進めたのは、各国が其奴と同盟関係を築く事で、各国同士の争いを緩和しようという腹だな」
「さぁな。逆に我先にと同盟を結び、他国に攻める腹積りかもしれんぞ?どちらにせよ、先ずはボリスンがその標的になるだろうな。グルケニア帝国、パガヤ王国、フレイア大罪教、フレイ美徳教、其れ等の共通する敵が、魔人国家ソードムを隠れ蓑にしているヌル虚無教を狙っている。ボリスンはその通り道だからな」
「フン、そう簡単に通すかよ。この街は俺の遊び場だ。ダクネラの奴は、船は沈めれば良いと言っていたが、餌が無ければ馬鹿はやって来ないからな」
使える船と、領土を奪い返すという餌は、帝国軍のやる気を起こすには、持って来いの効果を発揮していた。
「厄災の悪魔と恐れられる君達は、くれぐれもデビュー戦を飾る魔王の噛ませ犬みたいに簡単にやられないでくれよ?何度も召喚できるほど、供物集めは楽じゃないんだからね?」
パチンと指を鳴らすと、先程触れた大蛇が爆発し、アーリマンは小さく唸った。
その隙にタカノブは建物から出ると、捕虜が集められている貴族の屋敷へと向かった。
「…確かに価値が無くなっているな」
ボリスンの街長を発見はしたが、身内の遺体に囲まれて気が触れていた。
とはいえ、成果としては必要な人物ではある。
街長の首裏を掴み、視界に入った幼児も抱き上げて屋敷を出た。他にも生きている者達も居たが、全てを救うほど自身には腕が無いし、義理も無い。
魔人達の報復も無いまま、すんなりと街の入り口に戻ると、部下達は既に食い散らかされていた。
「はぁ、割りには合わないが、必要悪でもあるからなぁ」
帰りの馬車を操縦する御者まで殺されたのは面倒に感じたが、馬が生きているだけまだマシだったと、乗車台に街長と幼児を放り込む。
「あとは、建国が決まってから、魔王がどう動くかだな」
少なくとも今回の建国の件で、空を移動する魔王がいた事が分かったことは、ヌル虚無教団にとって良い収穫だった。
それを知ると知らないでは、今後の対策の仕方が変わってくるからだ。
「ああ、上空から俺達を見下してるんだろうなぁ。俺も言ってみたいなぁ、あのセリフ」
天空の城を使い世界を支配しようとしたあの悪役のセリフを連呼しながら、タカノブは高々と笑ってボリスンの街から走り去っていった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
浮遊邸の来賓舘の応接間には、各国の王と両教団を集めての独立国承認会議が開かれていた。
各国の王とは言っても、魔人国家ソードムの国王アラガキと、冥界の国ゴーモラの女王コウサカは当然呼んですらいない。
アラヤ達は当初、通信だけの話し合いで済まそうと考えていたのだが、大罪教大司教モーガンが羅針盤越しにヨハネスの姿に気付き、急遽、大罪教としても直接浮遊邸を視察する義務があると言い出したのだ。
そこからは両教団の優位性に張り合いに発展し、大罪教側はラエテマ国第一王子とムシハ連邦国国王を連れて、美徳教側はグルケニア帝国皇帝とパガヤ王国女王を連れて来てしまったのだ。
「うう…とんでもない事態に…」
会食用の円卓を囲む各国のトップと護衛達。見知った顔が少な過ぎて、今にも立ち去りたい衝動に駆られる。
「皆様、多忙を極める中、此度は私共の急な招集に応えていただき、誠に恐縮です。今回、皆様を…」
「お待ち下さい、美徳教教皇殿。何故、貴方がさも当然の様に仕切っておられるのか?」
「それは、私が今回の発起人だからですよ?」
早速、ヨハネスとモーガンの睨み合いが始まった。
ああ、こんな状態で話し合いが上手くいくわけが無い。
アラヤは精神耐性が上がるかもなと目を閉じて耐えるのだった。
だが、全ての船が帆をたたみ出港する気配がない。
街全体に活気はなく、路上に出歩く人影も無い。
蔓延する放置された遺体からの異臭と、建物の影で蠢く蛇がその原因だと思われる。
「お前達はここで待っていろ」
「「「ハッ!」」」
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街の入り口の門は開いていて、いつでも通過可能だ。ただ、扉には一種のアートかと思えるような、人間の腕の装飾が施されていた。
男は何事も無かったように門を通り、街中へと歩いていく。
「そこで止まれ!」
背後から声が聞こえ、男はすんなりと両手を上げた。
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これは彼等には聞き慣れた音で、サーっと体から血の気が引くのが分かった。
「いやぁ、悪かったな。俺の手下どもは礼儀が無くてな?」
槍兵以外の兵士達が下半身のみとなっている。その直ぐ後ろには大蛇達がいて、服の残骸を吐き出していた。
その大蛇の根本にある単眼の蝙蝠姿は、聞いていたアーリマンの姿と一致している。
「あー、直接会うのは初めましてだな。噂に違わぬファンシーの世界のキャラクターみたいで安心したよ」
「意味が分からないな。それで?ダクネラの参謀であるお前が、身内に疑われる危険を犯してまで我に会いに来る理由は何だ?」
「戦況が変わりそうなんで、その情報提供ってやつ?まぁ、半分は身内に対して美徳教団側だよというアピールかな?」
「わざわざ、そちら側に居続ける意味が分からないな。まぁ、死にたくなったらいつでも帝国側として来ると良い」
「フフッ、そのくらいの強気は好きだよ?まぁ、確かにこのまま立ち話してても同伴者達に疑われるから、そろそろ動きながら話そうか?」
タカノブはそう言うと、横でガタガタと震えている槍兵の肩に手を置く。
「逃げた方がいいよぉ?」
「ひ、ヒイッ⁉︎」
槍兵は味方の亡骸を飛び越えて走り出す。それをニヤニヤと笑うタカノブは、指をパチンと鳴らした。
その音に反応するように、兵士の体が爆散した。
「BOMB‼︎ハハハ、爽快だな!」
「それで?どんな情報なんだ?」
アーリマンは、タカノブに大蛇による当たらない攻撃を仕掛ける。
タカノブは派手に避ける演技を見せながら、その前にと条件を付け足した。
「一応、今回の成果として、街長と数名の船乗りを逃がしてもらうよ?」
「好きにしろ。大した価値も無い奴等だ」
「それじゃあ、交渉成立って事で。…俺が伝える必要があると考え、持ってきた情報ってのは、今、新たな国家が誕生しようとしているって情報だ」
「なんだ、それは?全くどうでも良い情報じゃないか」
「いやいや、それが異例中の異例、国王となるのが魔王なのに、推薦したのが美徳教団の教皇様ときた」
「へぇ…。それで?」
アーリマンの大蛇を押し退けて建物を破壊すると、タカノブはアーリマンを建物内へと引っ張り込んだ。これで周りからは見えない筈だ。
「美徳教教皇が推薦するその魔王ってのが、暴食魔王らしいんだが、暴風竜エンリルを従えているだけでなく、風の大精霊エアリエルまで味方につけているらしい」
「光の大精霊ミフルと眷属竜を従える教皇と同等だな。だが、それだけが理由か?」
「いや、1番の理由は領地だろうな」
「領地?独立するのなら、ムシハ連邦国辺りか?」
「それが、世界のどの土地でも無いのさ。まさかの、空を飛ぶ土地に住んでいるんだぜ?魔法の力で浮遊させ、その領地で世界を旅しているのさ。まさに、天空の国!憧れだよなぁ!」
「なるほど…。エアリエルの力か。戦も攻守共に優れている上に、どの国にも属していないのか。教皇が建国を進めたのは、各国が其奴と同盟関係を築く事で、各国同士の争いを緩和しようという腹だな」
「さぁな。逆に我先にと同盟を結び、他国に攻める腹積りかもしれんぞ?どちらにせよ、先ずはボリスンがその標的になるだろうな。グルケニア帝国、パガヤ王国、フレイア大罪教、フレイ美徳教、其れ等の共通する敵が、魔人国家ソードムを隠れ蓑にしているヌル虚無教を狙っている。ボリスンはその通り道だからな」
「フン、そう簡単に通すかよ。この街は俺の遊び場だ。ダクネラの奴は、船は沈めれば良いと言っていたが、餌が無ければ馬鹿はやって来ないからな」
使える船と、領土を奪い返すという餌は、帝国軍のやる気を起こすには、持って来いの効果を発揮していた。
「厄災の悪魔と恐れられる君達は、くれぐれもデビュー戦を飾る魔王の噛ませ犬みたいに簡単にやられないでくれよ?何度も召喚できるほど、供物集めは楽じゃないんだからね?」
パチンと指を鳴らすと、先程触れた大蛇が爆発し、アーリマンは小さく唸った。
その隙にタカノブは建物から出ると、捕虜が集められている貴族の屋敷へと向かった。
「…確かに価値が無くなっているな」
ボリスンの街長を発見はしたが、身内の遺体に囲まれて気が触れていた。
とはいえ、成果としては必要な人物ではある。
街長の首裏を掴み、視界に入った幼児も抱き上げて屋敷を出た。他にも生きている者達も居たが、全てを救うほど自身には腕が無いし、義理も無い。
魔人達の報復も無いまま、すんなりと街の入り口に戻ると、部下達は既に食い散らかされていた。
「はぁ、割りには合わないが、必要悪でもあるからなぁ」
帰りの馬車を操縦する御者まで殺されたのは面倒に感じたが、馬が生きているだけまだマシだったと、乗車台に街長と幼児を放り込む。
「あとは、建国が決まってから、魔王がどう動くかだな」
少なくとも今回の建国の件で、空を移動する魔王がいた事が分かったことは、ヌル虚無教団にとって良い収穫だった。
それを知ると知らないでは、今後の対策の仕方が変わってくるからだ。
「ああ、上空から俺達を見下してるんだろうなぁ。俺も言ってみたいなぁ、あのセリフ」
天空の城を使い世界を支配しようとしたあの悪役のセリフを連呼しながら、タカノブは高々と笑ってボリスンの街から走り去っていった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
浮遊邸の来賓舘の応接間には、各国の王と両教団を集めての独立国承認会議が開かれていた。
各国の王とは言っても、魔人国家ソードムの国王アラガキと、冥界の国ゴーモラの女王コウサカは当然呼んですらいない。
アラヤ達は当初、通信だけの話し合いで済まそうと考えていたのだが、大罪教大司教モーガンが羅針盤越しにヨハネスの姿に気付き、急遽、大罪教としても直接浮遊邸を視察する義務があると言い出したのだ。
そこからは両教団の優位性に張り合いに発展し、大罪教側はラエテマ国第一王子とムシハ連邦国国王を連れて、美徳教側はグルケニア帝国皇帝とパガヤ王国女王を連れて来てしまったのだ。
「うう…とんでもない事態に…」
会食用の円卓を囲む各国のトップと護衛達。見知った顔が少な過ぎて、今にも立ち去りたい衝動に駆られる。
「皆様、多忙を極める中、此度は私共の急な招集に応えていただき、誠に恐縮です。今回、皆様を…」
「お待ち下さい、美徳教教皇殿。何故、貴方がさも当然の様に仕切っておられるのか?」
「それは、私が今回の発起人だからですよ?」
早速、ヨハネスとモーガンの睨み合いが始まった。
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