【完結】スキルが美味しいって知らなかったよ⁈

テルボン

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第21章 その存在は前代未聞らしいですよ⁉︎

303話 防衛装置

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「伝令!伝令!ソードム国境防衛対策室より、魔導通話の要請が届いています!」

 新たな王城建設途中の作業現場の隣にあるコテージに、人蝙蝠ヒューバトの兵士が駆け込んで来た。
 コテージ内のラウンジには、女王を初めとして宰相や大臣達が集まっていた。
 兵士に対して大臣達が睨む中、雪豹人シュネーパンサーである女王のセシリアは、凛とした表情を崩さずに優しく応対する。

「慌てる事はありません。落ち着いて繋ぎなさい」

「は、はい!」

 兵士は、見惚れてしまいそうな衝動を抑え、蓄音機に似た魔導通信を机の中央に置いて起動した。

『おお、繋がった!こちら国境防衛対策室。本日10時、2、5、9番地点より、武装したソードム兵士の国境通過を同時確認。その数は、各地点でおよそ200。防壁ラインに急接近しております!現在、マニュアル②(監視後、撤退勧告)で対応中。指示をお願いします』

「我々の動きに気付きましたかな?わざわざ北部からの航路で来たのですがね」

「おそらく。ただ、発見ではなく情報が漏れたものと判断して良いでしょう」

 亜人に擬装する為に犬耳のカチューシャをした帝国少佐が、葉巻に火を着けようとして止められる。

「これは失敬」

 亜人には鼻が効く者達が多いので、葉巻を吸うにも場所を選ばなければならない。
 少佐は葉巻をしまうと、姿勢と身なりを正した。

「…して、如何しますか?我々は国からは、合図があるまでの不測の事態に関しては、パガヤ王国の判断に従うように言われていますが…」

「大丈夫だ。貴方方空軍部隊は、このまま待機して待つが良い。防衛線には、我々の信頼する者を送らせる」

 セシリアが宰相に合図を送ると、宰相は頷き通信に応えた。

「対策室、マニュアルを①(警告、従わぬ場合には撃退。又は捕縛)に切り替え、対魔人機器の使用を許可する。こちらより直ちに将軍2名を派遣する。到着まで、壁を堅守せよ!」

『了解!将軍の到着前に敵めを殲滅した場合はご了承下さい』

 通信が終わると、早速宰相は伝令兵に用件を与える。
 伝令兵はしっかりと頷くと、再び走り去った。

「パガヤ王国が誇る4大将軍ですか。兵からの信頼も、よほど厚いのでしょうな。ああ、今は3大将軍でしたか」

 少佐の嫌味とも取れる発言に、セシリアは顔色1つ変えずに頷いた。

「今でも、4大将軍は我が国民から信頼されている。ソードム国の兵達は、その存在に亜人の偉大さを思い知ることになるだろう」

 その笑顔に、少佐は何も言えず、部下達の前で自分の小ささを痛感させられることになった。


       ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇


「テイテイ、私は先に向かう!部隊を頼めるか?」

 人熊猫ヒューパダの大将軍テイテイがカピバ車を用意していると、鷲人アードラーを連れた獅子人レーヴェマンの大将軍ブルータスが現れた。

「ああ、任せな。但し、部下の経験の為に少しは残しておけよ?」

 軽く拳を突きあってニヤリと笑うと、ブルータスは鷲人の背中に乗って飛び上がる。

「では前線に急ぎ頼む」

 最速飛行で単独に防壁へと向かう2人は、2時間程で防壁が視認できる場所まで来ていた。
 そして、既に煙が上がっている門がある5番地点に向かった。
 上空を旋回して戦況を確認すると、ブルータスは思わず笑い出してしまった。

「これは…?一体何があったのでしょう?」

 眼下には、一方的に蹂躙された後の魔人兵士達が横たわっていた。

「ククッ、なぁに、驚くことじゃないさ。この惨状は、わた…父ロータスが配置した緊急防壁装置の結果に過ぎない」

 鷲人はゆっくりと下へと降り立つ。背中から降りたブルータスを見た衛兵達が群がる。
 そのほとんどが、敵の返り血を腕や口元に浴びていた。

「ブルータス様!俺達、やりましたぜ!」

「金鬣将軍様の出番、取ってすみません!」

「いや、気にするな。敵はまだまだ来る。私を気にせず存分に楽しむと良い」

「「「ハッ!」」」

 この惨状が理解できない鷲人の兵士が、ブルータスに説明を求める。

「ん?言っただろう?父の装置のおかげだと。我が父ロータスは、外交を任される立場上、様々な国の情報を集める事ができた。そして、優れる他国からの侵略行為に対して、万能の防衛装置を開発し国全体の前線地に配置したのだ」

「防衛装置…ですか?」

「ああ、マニュアル①にある対魔人装置の事さ。これは、装置から半径1キロ圏内の空間内では、あらゆる技能スキルが使用不能となる。もちろん、魔法だけでなく魔素が使われる魔道具もだ。その意味が分かるかい?」

「えっ?技能や魔法が使えないのなら、魔人はただの人間ノーマルってことに…?」

「そういう事だよ。上手く機能して良かったよ。この装置さえあれば、戦闘に特化した亜人は最強の存在だからね?」

 全ての技能が無くなったとしても、動物本来の身体能力を持つ亜人達には、魔法が使えない魔人など全く相手にならなかったのだ。

「さて、私はやる事がある。君は、直ちに女王陛下に我々の圧勝だと報告に戻ると良い」

「は、はい!」

 鷲人が飛び去るのを確認すると、ブルータスは手前で倒れ虫の息の魔人兵士を掴み上げた。

「フム、使えそうだな」

 その兵士を脇に抱えると、防壁の上へと駆け上がる。
 そして門から更に離れるように走り出す。
 数キロ程離れた地点でそのまま兵士を寝かせると、自身の親指を噛み、出た血を兵士に飲ませる。

『我が分体となり、その役目を果たせ』

 兵士はパキパキと石化を始め、全く動かなくなった。

「これで我が【不毛の世界】の範囲が広がる」

 今のブルータスは、厄災の悪魔サタンの分体が支配していた。これは、分体の1人であったロータスに持たせた日記に潜ませていた分体である。
 サタンは学んでいた。かつて、あらゆる暴虐を繰り返してみては、人間達に封印されたり勇者に敗れたりした。
 いくら、希少な技能や高位の魔法が使えようと、それを上回る技能者が現れれば負けるのだ。
 サタンは、より確実にこの国を支配する為には何をしたら良いかを、常に考え行動していたのだ。

(あともう少しで、この国内全土に【不毛の世界】の効果範囲が広がる。長い年月を掛けて配置してきた我が分体による魔法陣も、完成まであと僅かだ。神の加護(技能)無しの人間など、亜人には赤子同然。後はバンドウを国王にのし上げて、我が影で支配しようと考えていたのに。あやつめ、ロータスまで失い、計画がおじゃんになるところだったぞ)

 ブツブツと文句を言いながらも、次の分体の入れ物となる魔人兵士を探す。
 サタンの計画で1番の誤算は、土の大精霊ゲーブに見つかった事だが、消滅したと思われている今、最大のチャンスだった。国内全土に【不毛の世界】が発動さえできれば、いかに大精霊といえど手出しはできなくなる。
 まさに、サタンが求めた理想の国が出来上がるのだ。
 その計画の不安材料となりかねない今回のソードムの侵攻は、サタンにとっていち早く解決せねばならない。

「さっさと殲滅してしまおう」

 気合いを入れ直したブルータス(サタン)は、範囲外から魔法を放とうとしている魔人兵士達から狩る事を開始したのだった。


       ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇


 一方、帝国領港街ボリスン。
 今はソードムに占領され、駐在する厄災の悪魔アーリマンによって街は閑散としていた。
 石畳の路面には、帝国民だけでなく魔人兵士達すらも倒れて放置されていた。

「ふぁ~~っ、暇だね~」

 街の中央通りに置かれた人間椅子に座るアーリマンは、キョロキョロとその単眼を泳がせる。その間、あらゆる者たちが息を潜めて微動だにしないように耐えていた。

「あ、見っけ~」

 単眼が、1つの民家を捉えると、下半身の蛇が1匹離れて向かった。
 やがて、子供の断末魔が聞こえた。

「ん~、暇潰しならやっぱり、かくれんぼだよねぇ~?」

 再びキョロキョロと動き出すタイミングで、1人の魔人兵士が近付いて来た。

「あ、あの、お遊戯中、すみません!帝国陣地に動きがありました!」

「ふぅ~ん、来るんだ?てっきり諦めたんだと思っていたよ」

 ニョロニョロと体にまとわりつく蛇に、兵士は堪らず悶絶した。

「ちぇっ、詳細伝えてから寝ろよな~?ま、いいか」

 ちょっとは退屈凌ぎになるだろうと、アーリマンは低い声をあげて笑うのだった。
 
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