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第20章 責任は押し付けるものじゃ無いですよ⁉︎

295話 架け橋

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 オーク集落の隣に、急遽用意された野営地。そこには、帰る城を失ったコウサカとその親衛隊が駐屯していた。

「…城を守る必要は無い。確かに倉戸の言う通りだったわね…。勝利にあぐらをかいて、掃討戦に出ていなかったら終わっていたわね」

「とはいえ、戻るべき城も、守っていた衛兵達も皆浄化しました。あの地には、もう城は建てられませんな」

「いや、それ以前に、あの忌々しい空間は拡張を止めるのか分からんぞ?」

「だが、閣下をこのような場所に留めておく訳にはいかない。早急に住居を用意せねば!」

「それならば、我が屋敷など如何でしょう?」

「貴殿の屋敷には屋根が無いだろう!」

 各族長達が、コウサカの仮住まいを決め合っている。当のコウサカは、どの住居に行こうとも満足できないことは分かっていた。
 住み慣れた王城ですらも、浮遊邸の部屋を見た日から、物足りなく感じるようになっていたからだ。

「ちょっと、いいかな?」

「おお、暴食魔王殿!」

 陣営にアラヤが顔を出すと、各族長は歓迎の声を上げた。

「な、何しに来たのかしら?」

「ああ、ちょっとね。隣の島に仮の家を作ったんだ。お城とまではいかないけど、良ければどうかなっ…」

「ホントに⁉︎見る、見る、是非見てみるわ!」

 食い気味に反応するコウサカに、アラヤは多少怯みつつも笑顔で返した。
 各族長までもが隣の島について来た。半数が興味本位だろうけど、残りはコウサカの機嫌取りを奪われて良く思っていないのだろうな。

「これは…変わった石造の屋敷ですな。まるで岩をそのままくり抜いたかのように継ぎ目がありませんぞ⁉︎」

 変幻自在のアースクラウドを魔鉱石化して作ったから、ある意味では一枚岩とも言えなくもない。

「一応、外壁は耐震強度を強く、耐魔法仕様にもしてある。内装はシンプルに薄ピンクに着色した珪藻土で統一したけどどうかな?とりあえず、家具は俺達の間に合わせになるけど…」

 部屋数も多く、ちょっとした広い屋敷ではある。
 家具は、お古のベッドやソファを張り替えた物だけど、ちゃんとフカフカで心地良い仕様にしてある。

「ふ、フン。ま、まぁ豪華さには欠けるけど、センスは中々にいいんじゃない?」

 早速ソファに座り、肘掛けや背もたれの触り心地を確かめている。どうやらお気に召した様だ。

「そっか、良かった」

「…でも、なんの見返りも無しって訳じゃないんでしょう?何が目的よ?」

「……その、一応今回の戦でお互いに信頼関係が立証できた訳だし…その、サナエさん達を帰してもらっても…良いかなって?」

「…ふ~ん、そういう事。へぇ~」

 コウサカは、明らかに態度が一変して不機嫌な表情を見せる。
 彼女は、くいくいっと指でジョスイを呼び寄せると、小声で文句を言い始めた。しかし、超聴覚で全部聴こえているけど…。

「ちょっと、ダメって言う理由を考えなさいよ!」

「し、しかし陛下、向こうは充分に誠意を見せていますし、ここは我々は応えるべきでは?」

「ハァ?ダメでしょ!土田さんが居なくなれば、警備隊の士気はガタガタよ⁉︎」

「む、むぅ、確かに奥方殿の人気はどの種族にも高いですからなぁ…」

「倉戸達との繋がりを無くす訳にはいかないでしょう?なら、弱みとなる土田さんを引き留める以外に他に方法は…」

「他の方法…ハッ、ありますぞ?」

 ジョスイが何かを閃いたらしいが、アラヤと目が合うと聴かれたらマズイと、何やら手書きで文字を見せている。

「本当に?」

「はい。後は向こうの出方次第ですが…。これならば、奥方殿を御返ししても有効関係は崩れないかと…」

「…いいわ、連れて来なさい」

「ハッ!」

 何やら決まったらしく、ジョスイは姿を消した。
 アラヤが浴室やトイレの仕組みの説明を族長達にしていると、再びジョスイが現れた。

「お待たせしました」

 現れたジョスイの後ろから、ラミアのミュウと見知らぬヴァンパイアの男が現れた。

「倉戸、ちょっと話し合いをしましょうか。土田さん達も呼んでくれる?」

 コウサカが真面目な表情でそう言う。これは、浮遊邸とゴーモラ女王としての対談だな。

「分かった」

 アラヤは一度浮遊邸に戻り、嫁達を集めて経緯を説明した。

「おそらくは同盟関係を継続する話し合いだろうけど、サナエさんは帰れるっぽいかな?」

「それが最善ですけど、かなり仲良くなってみたいですものね、サナエちゃん」

「腐ってる奴が多いけど、意外と心は温厚な奴もいるのよ。やっぱり島から出ないのが影響してるのかもね。ゾンビダンス、ノリノリでしてくれるわよ?」

「それは何か観たいな。もちろん流す曲はアレだよね?」

「ゾンビはエキストラでしょうが。肝心の曲は誰が演奏するのよ?にいやは何か得意な楽器があるの?」

「残念ながら、その手の技能スキルは昔も今も無いんだよねー。あ、歌はカオリさんが担当ね?」

「ええっ⁉︎」

「この中で流暢な英語が話せるのは、カオリさんだけだしさ?」

「私が参加する事は考えてなかったわよ」

「えっと、ご主人様…その話はとりあえず置いて下さい。そろそろ向かわないと」

 話が脱線して盛り上がるアラヤ達を、クララがやんわりと止める。
 クララには何の話か分からないから申し訳なかったな。

 再び仮屋敷に降りたアラヤ達は、リビングへと入る。先程の顔触れに、更にヴァンパイアの夜魔族族長のドラクル伯爵と、邪竜族族長の影竜シャドウドラゴンが窓から頭を覗かせている。

「まぁ、座って」

 即席で用意された長机を挟み、向かい合う形でアラヤ達は椅子に座った。

「えー、コホン。先ずは、この度のヌル虚無教団によるゴーモラ侵略防衛戦は、我々の勝利に終わった!これは同盟関係にある暴食魔王達の協力あってのものだ!ゴーモラ王国代表として感謝を申し上げる」

 コウサカに、女王たる威厳を持って礼を言われた。
 1年前の彼女を知るアラヤ達からすれば、想像もできなかった、良い意味での劇的変化である。まぁ、カンペらしき布が組んだ手の下に薄っすら見えているのは黙っておこう。

「そしてまた、この戦いが終わりではない!奴等がこの国を諦めたとは限らない。我々は今回の事を教訓に、更に強固な国を作らねばならない。それには、彼等との同盟関係も確固たる絆にしなければならない!」

 コウサカ側にいる族長達も、彼女に呼応するように力強く頷いている。この勢いで他国を攻めそうな熱気だな。

「そこで我々は、古きしきたりを捨て去り、彼等との架け橋となる者達を後押しすべきだと思う」

「「「ん⁇」」」

 要領を得ない話に、アラヤ達は首を傾げる。そして、ミュウとヴァンパイアの男が前に呼ばれた。

「この者達は、彼等の仲間であると同時に、強き絆を育んだ者達である。邪竜族のミュウ及び夜魔族のサハド、己等が切望する伴侶の名を上げよ」

 嫁達が一斉にアラヤを見る。
 アラヤは身に覚え無いよと頭を横にブンブンと振る。

「私が生涯を共にしたいと願うのは、アスピダさんです」

「えっ⁉︎」

 アラヤ達は顔を見合わせる。確かに、アスピダとミュウは割と仲良く会話していた印象はあるが、そこまでの仲だとは思っていなかった。

「わ、吾輩はサハド=ドラクル、暴食魔王様達とはお初にお目に掛かります。あ、あ、アフティと親しくさせていた、いただいております。そ、そ、そのっ、真剣なんです!」

 サナエを見ると、ウンウンと頷いている。どうやら、2人の日頃からの接触が実際にあったようだ。

「両名は、掟で禁じられた魔物と人間の共生を破る者達である。だがしかし、我等が女王陛下は掟を見直す決断をなされた!陛下は、両名の可能性が、ゴーモラの未来に繋がる可能性を感じておられる!」

 ジョスイが、各族長に向かい力強く訴えかける。どうやら、急な計画なので反対派が出る可能性もあるのだろう。

「クララ、2人を呼んで来てくれるかい?当事者の意見も聞かない事には、進めてはダメな話だからさ」

 クララはコクリと頷くと、テレポートで浮遊邸に帰った。おそらく、アスピダ達も急な話の進展に驚くに違いない。

 しばらくして、ガチガチに緊張したアスピダと、顔が真っ青になったアフティがクララと共に現れた。

「アラヤ様、誠に申し訳ございません‼︎わ、我々は自分達の身分を弁えずに…」

「ま、待て待て、落ち着くんだアフティ!」

 いきなり謝りだすアフティと、目を瞑り叱りを待つアスピダに、アラヤは席を立ち止めた。

「何を謝る必要がある?そりゃあ驚きはしたけど、俺達に謝るのは違うよ」

「そうよ、むしろ良かったと思っているの。貴方達がちゃんと、自分自身の幸せも考えていてくれていた事にね?」

「…それで、2人の気持ちはどうなのかな?一時的に仲良くなっただけの恋人みたいな存在なのか、それとも、願うなら生涯の伴侶となってほしい存在なのか教えてほしい。同盟関係に左右されない、正直な気持ちをね?」

 アスピダはミュウを、アフティはサハドを見つめ、お互いに力強く頷いた。

「許されるならば、生涯の伴侶にしたいと願います!」

「アラヤ様と奥方様達への忠誠に変わりはございません!ですが、ほんの少し、少しだけの我儘をお許しいただけるのなら、彼も共に仕える事の許可を頂きとうございます」

 迷いの無い決意の目を向けるアスピダと、最後までへりくだった言い方をするアフティ。急に答えを迫られたとはいえ、彼等の決意は本物のようだ。

「そうか。なら俺達は、全力で祝福するよ」

「素晴らしい‼︎従来、我々と彼等は敵対する人間と魔物。しかし、そこに架け橋となるべく2組の絆が結ばれたのだ!これにて我々と暴食魔王殿達には、確固たる信頼の絆が築かれた!」

 ジョスイは拍手を各族長に促す。族長達も初めは疎らに拍手をしていたが、コウサカが拍手をすると急に勢いが増した。

「倉戸、土田さんは帰すけど、これで私達の友好関係は消えないわよね?」

 コウサカは席を立ち、アラヤと握手を交わすと小声で囁いてくる。そこにはまだ、一抹の不安があるように見えた。

「ああ、これからも協力はするよ。もちろん、俺達にも力を貸してくれるんだろ?」

「ええ、もちろんよ!」

 こうして、サナエが再び浮遊邸へと戻ることが確定したと同時に、異例の2組の夫婦が家族になったのだった。

(ジョスイめ、私が倉戸と結ばれればまだ簡単だったのに!何であそこまで反対したのか、後で拷問してやるわ!)

 コウサカが、笑顔の握手の裏でこう考えていたことは、アラヤが知ることはなかったのだった。
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