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第20章 責任は押し付けるものじゃ無いですよ⁉︎

289話 槍使い

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 飛竜で王城に到着したアラヤ達は、首無し騎士とレイスの部隊に指示しているコウサカを見つけた。

「女王陛下!」

 いち早く駆け出したのは居候していた4人だ。

「貴方達!戻ったのね⁉︎」

 それ程、別れてから日数が経っているわけではないが、一人一人頭を撫でて素直に喜ぶコウサカ。意外に配下思いなんだな。

「コウサカ、状況は?」

「来てくれたのね!ウフフ、余裕よ、余裕!海岸から上陸した敵も、上手い具合に誘い込んで対応しているわ。まぁ、飛行戦艦に多少地形はやられたけど、特訓したハーピー族率いる飛行部隊の撹乱攻撃で被害は最小限に済んだわ。貴方達でしょう?飛行戦艦を破壊したの。助かったわ」

「そうか、それは良かった」

 確かに、浮遊邸から見えた状況でも、各地で戦闘が起きてはいたが、これといった被害は見当たらなかった。
 飛行戦艦から真っ先に狙われる筈の王城ですらも、被害は無かった。
 それ以前に、ヌル虚無教団には勢いが無いように見えた。

「まぁ、悔しいけど、それもこれも対策を練ってくれた土田さんのおかげだけどね」

「それで、サナエさんは?王城には反応が無いみたいだけど…」

 サナエだけでなく、オードリーやアフティの反応も無い。

「ん~、念には念を入れるって言って、敵が来た数時間前から王城を出て行ったの。体調が悪そうだったから引き止めたんだけどね?報告では、どの集落でも見かけていないみたいだけど」

「体調が悪い状態で何処に⁉︎」

「し、知らないわよ!列島からは出てないと思うけど、そもそもあんだけ強いんだから、この程度の敵なら平気でしょ?」

 この程度の敵…。確かにそうだ。明らかに、今回の侵略者達は前回の侵入者達よりも戦力が劣っている。
 いくら対策をしていたとはいえ、前回のような多技能持ちが居れば打開されるのは間違いない。
 そもそもアンデッドが多いゴーモラを攻めるに当たって、上級光魔法を使える者があまりにも少ない。

「ちょっと、探してくる」

「それは構わないけど、戦地で敵と間違われないようにね?」

 おっと、アラヤの今の姿は人間のままだった。直ぐに竜鱗防御を全身に展開して竜人ドラッヘンになる。

「じゃあ、行ってくる」

 アラヤは再び飛竜に乗り、魔導感知が届かない場所へ向かって飛び立った。

「キャハッ!ちょっと今の、夫を送り出す新妻っぽくなかった?」

「「「そ、そうでございますね…」」」

 1人ではしゃぐコウサカを、部下達は温かい眼差しで見守っていた。


 飛行中に見る戦地の光景でも、敵兵士に多技能持ちが居るようには見えない。
 ヌル虚無教団には、魔王配下候補生が多くいる。それらを指揮官として乗り込んでくる事を想定していたのだけど。

『エアリエル様、浮遊邸からサナエさん達の気配を感知できませんか?』

『うむ…。この島々の地上では反応は無いな。だが一部、我の感知を遮る場所がその先の島にあるぞ』

 エアリエルの広範囲に渡る気配感知で列島内に反応が無いのなら、間違いなくその遮る場所にサナエ達は居るだろう。

「あの島…そういうことか!」

 それは、レヴィアタンの祭壇がある遺跡がある島。トーテムポールの認知阻害の結界があるから、おそらく感知も阻害されたのだろう。
 ヌル虚無教団の目的はあくまでも、遺跡と供物となる魔王の肉体だ。
 故に、先ずは王城攻略を狙ってくると想定していたのだけど。

「…バンドウの遺体は土の大精霊ゲーブ様が保管してる筈…。まさか、他の魔王が?」

『にいや、バンドウの体の一部が敵に持ち去られているらしいわ。サナエさんは知らなかっただろうけど、敵の攻撃が弱い事でこれらが陽動かもと気付いたのかも!ここはチビにいやに任せて、祭壇へは私が向かうわ。にいやは入り口へ向かって』

 浮遊邸からカオリの念話が届いた。仮死状態デスタイムから目覚めたらしい。祭壇の位置を把握している彼女が居れば、祭壇は大丈夫だ。

「分かった!」

 アラヤは、早速飛竜ごと遺跡入り口へとテレポートした。
 飛んで直ぐに、その異変に気付いた。
 護衛用に配置していたゴーレム2体が破壊されていた。土の微精霊は既に居ない。
 結界はまだ破壊されていないのに、どうやって侵入したんだ?

「あれは…⁉︎」

 遺跡入り口も破壊されていて、その傍に宰相のジョスイが倒れていた。

「おい、しっかりしろ!」

 リッチであるジョスイは、両腕を切断されていて意識が朦朧としていた。
 リッチは不死のアンデッドとはいえ、大量出血による機能低下はあるらしいな。

「ぐっ…その声は暴食魔王殿…?」

「一体何があった?」

 アンデッドには光魔法による治療ができない。落ちていた腕を切断面に当てて融合で繋がるか試してみる。
 自身の体とは違うので、構造の違いによる不出来な繋がり方になった。

「申し訳ない。不覚にも抜けられてしまいました」

「敵は何者?何人?」

「…敵は、槍使い、魔術士、魔物使いの3人でした。恐ろしく強い者達で、特に槍使いには、我の魔法も共に戦ったリリルカの技能スキルが全く通じなかった」

「そもそも、どうして侵入された?結界はまだあるじゃないか」

「…ポルカが操られていた。おそらく敵の通過を許可してしまったのです」

 辺りにリリルカやポルカの遺体は無い。どうやら連れ去られたか。
 アラヤは遺跡内に入る。地下へと向かう階段は、やはりまだ水没しているままだ。

「進めないと分かり引き返した?」

「すみません、不甲斐なく分かりません」

 どうやらその前には気絶していたらしい。とりあえず、痕跡視認を試してみる。

「…魔物使いを残して、魔術士が1人ずつ体全体にバブルショットを張って潜ったみたいだな。魔物使いはリリルカ達と残ったか」

 やはり諦めはしなかったか。それにしても、槍使いは全身鎧フルアーマーのまま潜ったが、泡が破けた場合は這い上がれないんじゃないか?
 まぁ、とにかく直ぐには祭壇までには辿り着くことはできない。アラヤはカオリさえ祭壇にテレポートして来れば、それを頼りに飛ぶ事ができる。
 痕跡では1時間前くらいだから、まだ余裕があるな。
 気になるのは、魔物使いが何処に行ったかだが…。この場に居ないだけに気になる。

「それで、サナエさんは来なかった?」

「奥方殿でしたら、私の代わりに王城で陛下の補佐をしていたのでは?」

「居ないからこっちに来たんだよ。そもそも、宰相のジョスイさんが何故にこっち担当なのさ?」

 本来なら女王の側にいるべき存在なのに、ここが守るべき要所とはいえ不自然だ。

「ううっ…陛下は奥方殿の方が、魔物達に信頼され智謀にも優れていると仰り、私をこちらに行くように命じたのです。残念ながら、私も奥方殿には感服しているので、大人しく従いました」

 魔物達にも好かれるって、サナエさんの魅力は凄いな。技能の舞を使ったのかな?

「…もし居なかったのでしたら、闇大精霊プルートー様に会いに行っているのかもしれませんね」

「ええっ、居場所が分かったの⁉︎」

「つい先日のことですが、夢魔族の集落に訪れていた奥方殿がこの近くに居ると感じたらしく、連日通っておいででしたので…。しかし今は戦中ですし、遺跡に侵入されたこの事態の方が大事です。先ずは侵入者をどうにかするべきでは?」

「ああ、分かってるよ」

 夢魔族の集落地にも、エアリエル様の感知にサナエの反応は無かった筈だ。それとも、トーテムポールのように認知阻害の結界があったのか?
 気にはなるが、確かに今の最優先は侵入者を止める事だ。
 ここでアラヤは祭壇に着いている筈のカオリに念話を送る。

『カオリさん、着いたかい?』

『ええ、着いたわ。どうやら侵入されたみたいね?たった今、闇の眷属竜ニュクス様が怒って向かったところよ』

『相手はかなり強いかもしれない。今から半分以上の分身体を送るよ。ここにもサナエさんが居なかったから、俺はそっちを探しに向かう。くれぐれも、危険だと感じたら祭壇を破壊して逃げてね?』

『…分かったわ。来る際にはバブルショットをヘルメット状にしなさいよ?』

 アラヤが分離分身を始めると、ジョスイが驚き腰を抜かした。初見は、まぁ無理もないよね。
 今回は、相手が装備持ちの魔鉱石ゴーレムを破壊できる程の強さだ。サナエを探す本体を10センチくらいにして、残りを全部分身に当ててカオリの下に向かわせることにした。

「じゃあ、ジョスイさんは案内を頼むよ?」

 肩に飛び乗ったチビアラヤに、ジョスイはビクビクしながらも了解しましたと、遺跡から夢魔族の集落地へと向かった。
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