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第20章 責任は押し付けるものじゃ無いですよ⁉︎

285話 アーパスとの約束

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 5日目の朝、ハウンが用意したサンドイッチの朝食を3人で食べていると、漁師のドウアンが食べる手を止め、窓の外を覗く。

「な、なぁ、ここは、やっぱりあの世じゃないのか?大海の主に食べられた後、俺達はやっぱり死んだんじゃ…?」

「ドウアンさん、落ち着いてください。私達は生きていますよ?」

「いや、そもそもっ!こんな状況で平然と食事を取ってる場合じゃ…、大体なんだよ、そこでパクパクと大食いしている小さな竜人ドラッヘンは⁉︎」

「この方はアラヤ様。私のご主人様です。不敬な物言いをした場合、貴方の命の補償はできませんよ?」

 急に殺気を込めたハウンの表情に、ドウアンは腰を抜かして何度も頷く。

「ここは、水の大精霊アーパス様の住処。私達が元々来たかった場所です。眷属竜…大海の主は、おそらくアーパス様の下に案内してくれたのですよ?」

「大精霊なんてもんが、マジでいやがるとはな…。な、ならよ、もう用事は済んだんじゃないのか?アンタ、巫女とかいう奴なんだろ?帰してもらうように伝えてくれよ」

「頼んで帰してもらえるなら助かりますが、貴方は眷属竜に銛で攻撃していますからね。簡単にはいかないと思いますよ?」

「ううっ、だってしょうがないじゃないか!ここ数ヶ月不漁続きなのは、大海の主が漁を邪魔してるからなんだ!主は大精霊の僕なんだろ⁉︎漁を邪魔するのは、大精霊の意思ってことなのか⁉︎」

 頭の羽毛をワシャワシャと掻きむしるドウアンは、捩れる水の格子に飛び込もうとした。

「落ち着こうよ」

 朝食を食べ終えたチビアラヤが、直前でドウアンの尾羽を掴み止めた。
 引き戻されて尻餅をついたドウアンに、アラヤはスリープバイトを使用して眠らせた。

「さてと…、脱出の為にそろそろ強行手段に出るべきかな?ハウンはどう思う?」

「正直なところ、かなり無謀だと思います。海の中であるこの建物内には、水精霊が無限に現れます。その上、海水が浸水してきた場合には、もはや手も足も出ないでしょう。何よりも、相手は海をも支配する大精霊です。脱出というよりは、このドウアンが言うように帰していただくように頼むというのが、1番現実的だと思います」

「…そうだよねぇ。正直、無事に逃げれたとしても、大洪水で大陸ごと沈められそう。俺達は浮遊邸だから大丈夫だろうけど、世界は大惨事だね」

 そうなれば、他の大精霊も黙ってはいないだろう。大精霊同士の争いに発展したら、正に世界は終わりを迎える。

「どうにかアーパス様に好印象を与え、外に出る許可をもらうには…でもやはり、加護を頂ける事が最善です。ああ、アラヤ様の魅力を、アーパス様に私がお伝えできれば…」

 気がつけば、ハウンはチビアラヤを抱き上げて頬擦りしていた。
 ハッと我に帰った彼女は、額を床に付けて土下座した。

「も、申し訳ございませんっ!」

「う、ううん、大丈夫だよ?」

 無理矢理に頬擦りされるペットの気持ちが、ちょっとだけ分かった気がする。案外、嫌じゃないな…。

『アーパス様が呼んでいる。出ろ』

 中位精霊が1人現れて、水の檻を少しだけ広げて通れるようにする。
 アラヤは檻をくぐり抜けると、中位精霊が持っていた魚の袋を受け取り、代わりに魔力玉を渡す。

「ありがとう、また頼むね?」

『ああ、私以外には頼むなよ?』

 長期滞在になる可能性も考え、アラヤは見張りの中位精霊の1人を早くから餌付けしていた。
 クールを装っていた中位精霊は、魔力玉を見てうっとりとしている。一口食べただけで、彼女はアラヤの魔力玉の虜になっていた。
 必要な物は彼女を通して手に入れる。まぁ、今は在庫切れが心配の食料がメインだけど。外に出れないアラヤ達には、重要な存在だ。
 アラヤはハウンに魚袋を渡すと、アーパスに会う為に奥の間に向かう。

「失礼します」

 前日とは違い、何も拘束されずに1人で部屋に招かれたアラヤは、ゆっくりとアーパスの前へと歩み寄る。

『来たわね。今日はね、アナタから話を聞きたくて呼んだの』

「話、ですか?それはどのような?」

「決まってるじゃない、最近のブーちゃんの話よ!ま、まぁ、引きこもりの話も、ついでで聞いてあげるけど?」

 本当は聞きたいのに、彼女は素直に聞けない性格のようだ。硬派なタイプのゲーブが彼女と距離を取る理由も分からなくもない。

「分かりました。ではゲーブ様から…」

 アラヤは、パガヤ王国で起きた厄災の悪魔サタンの話も入れつつ、ゲーブのパガヤ王国での人気ぶりを話した。

『やっぱりブーちゃんは、相変わらず子供達の成長を期待してるんだね。うんうん、じゃあ次』

「分かりました。では続いてゲーブ様に会うきっかけになったエアリエル様との話を…」

 エアリエルを引きこもりと揶揄するアーパスだが、彼女のことを気にかけていたみたいで、へぇ~とかふ~んと気のない声を出しつつもしっかりと聞いている。

『つまりブーちゃんも引きこもりも、そのヌルとかいう得体の知れない創造神と、それを崇めている愚かな人間達と争ってるわけね?』

「はい。奴等は、禁呪という強力な魔法が記された魔導書と、それと連なる厄災の悪魔を集めています。私達は、それらを先に手に入れて対抗する為に、世界各地にある古い遺跡探索に動いているんです」

『魔導書ねぇ…。緑っぽい魔導書なら、どっかで見た気がする』

「えっ⁉︎本当ですか⁉︎今までで手に入れた禁呪魔導書は、色欲の紫色と嫉妬の青色と憤怒の赤色なんです!」

『まぁ、この建物は遺跡と言えば遺跡よね?海流に乗って大海を漂っていたから、私が貰ったのよ』

「では、祭壇もありますか⁉︎」

『あ~、下にあったかもね。多分、眷属のクラーケンの寝床になっているわ』

 まさかの探していた遺跡が、水の大精霊アーパスの寝床になっていたとは驚きだ。
 これが、元々はハフナルヴィーク島の近海にあったのだとすれば、おそらく祀られていたのは悪魔ベルフェゴールだろう。

「あ、あの、アーパス様。この事を、できましたら本体や仲間と連絡を取りたいのですが…」

『ダメよ。そんな事したら、アナタはここから逃げるに決まってる。それに、もうそろそろガルグイユが接触する頃だろうからね』

「えっ?眷属竜ガルグイユを向かわせてた?」

『そうよ。貴方達に加護を渡さないし、返さないって伝えに行かせたの。貴方達はここから出さないわよ?』

 諦めなさいと言わんばかりに見下ろすアーパスに、アラヤは怒りを我慢した。
 どう足掻いても、彼女は勝てない存在であることに変わりはない。
 もし偶然にも彼女を食べることができたとして、彼女の管理が無くなった世界中の水はどうなるのだろう。想像しただけで怖すぎる。

「分かりました。私とハウンは残ります。ですが、亜人の彼はパガヤ王国に帰していただけませんか?」

 魔導書と祭壇がこの遺跡にあるのなら、この遺跡を守る意味でも残ることは間違いではない。だが、何よりも加護を得る事をまだ諦めてはいない。
 その上で、精霊視認すらできないドウアンのような一般人は、居ない方がアラヤ達も好きに行動ができる。

『う~ん、アンタが逃げないって約束できるの?』

「この遺跡内で自由にして良いのなら、逃げないと約束できます」

『そう、分かったわ。ウフフ、コレを知ったら引きこもりも泣くかもね~?』

 ハウンには悪いが、勝手に遺跡に住むことを約束してしまった。
 分身体とはいえ、嫁達は怒るだろうか?きっと本体が代わりに怒られることだろう。

「私は…構いません。アラヤ様に仕えるのは私の最良ですから」

 ハウンはすんなりと受け入れてくれた。部屋にあった水堅牢の檻は無くなり、遺跡内は自由に探索することを許可された。
 早速魔導書探しを始めて、巨大イカの魔物クラーケンの寝床の祭壇の側で見つけた。
 クラーケンとは打ち解けて仲良くなってしまった。おかげで食べれないのは残念だ。

 10日目。帰って来たガルグイユにドウアンを預けて、パガヤ王国に帰してもらった。

「俺だけ、済まないな」

「いえ、こっちこそ迷惑をかけましたね」

 別れ際、こっそりと彼に手紙を預けた。彼には、帰った後でこの手紙を持ちゲーブ様の寝床に向かってもらう。
 チビアラヤの決断をエアリエル達に伝えてもらう為だ。
 少なくとも、自分の意思で残ると伝えれば、精霊大戦争には至らないだろう。
 後は一刻も早く、アーパスからの加護を貰い、本体達にも行き渡るようにするのみだ。
 この移動する遺跡、潜水遺跡とでも呼ぼうか。
 新しい住処となるこの潜水遺跡を、どうせならアーパスを巻き込んで好き勝手に作り替えるとしよう。
 チビアラヤは、その小さな体に大きな期待を膨らませるのだった。
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