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第19章 選択権は弱者には無いそうですよ⁉︎

272話 ドッペルゲンガー

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 もう1人の自分が現れたアヤコ達は、真っ先にもう1人の自分に掴み掛かる。
 俗に言うプロレス技の手四つで相手の動きを押さえ込もうとしている。
 そのシュールな光景に、アラヤは思わずツッコミを入れた。

「えっ、何してるの⁈」

 アスピダやハウンならまだ力比べをするのは分かる。だが、アヤコやカオリは非力だし、得意とするのは魔法だ。

「ま、魔力の温存…です!くっ、このドッペルゲンガーは、私が魔法を使えば、お、同じ魔法を使い相殺してきます…。この力比べがまだ、早く解決する手段…なんですっ!」

『そういうことだよ!』

 身動きが取れないみんなの回りを精霊達が囲み、1人1人触れて魔力を確認している。

『偽物はコッチ!』

 魔力の質を見分けたのか、ドッペルゲンガーを見抜くと、精霊達が倒していく。
 倒れたドッペルゲンガーは、消える直前まで見た目が全く同じなだけに気味が悪い。

「初めはまともに戦って、かなり疲労しました。鏡のように同じ行動しかしてこないので、このやり方が1番なんです」

「魔法だと、回りにも被害が出る上に、ドッペルゲンガーを使われる度に、こっちの魔力が半分奪われてる。既に4回、私達の魔力量は今や最大量の16分の1よ」

 奪った魔力はドッペルゲンガーが得るのか。それはかなり厄介だ。カオリが魔導反転を使用しないのは、一度使用した際にロータスはその反転された魔力を自身に吸収したからだ。それが魔法によるものか、魔道具によるものかは分からない。
 ただ、その量は反転を利用してか、2倍の量を吸収していた。
 つまり、ロータスには魔法攻撃が使えない可能性があるのだ。
 全てのドッペルゲンガーが消えると、高みの見物していたロータスが拍手する。

「いやぁ、流石だね。普通なら2度もすれば魔力が枯渇するのだがね」

 ロータスは腰掛けていた箱から、藁人形らしき物を2、3体取り出す。なんだろう、少し禍々しい感じがする。

「やはり、精霊がいるからだろうね?少しだけ、大人しくしてもらうかな」

 ロータスはその藁人形を精霊達に投げる。当然、そんな怪しい物を警戒した精霊達は、当たる前に風で斬り刻み、氷で凍らせ、土で包んで埋めた。

『フン、そんな人形、当たるわけ無いじゃ~ん!…あ、あれ⁉︎』

『えっ、何⁉︎』

『しまった、罠か』

 シルフィー、シレネッタ、ノームの3人が、埋めた藁人形へと吸い込まれた。
 藁人形に攻撃を仕掛けた3人だけが吸い込まれた。契約者パートナー以外触れられない精霊を、捕獲する為の魔道具なのか⁉︎

「フフフ、中位精霊が釣れたな。残りの土の微精霊ではドッペルゲンガーを倒すことまではできまい?」

 ロータスの罠にまんまと引っかかってしまったわけだ。
 解除する方法は直ぐには分からない。とりあえず、今優先すべきはロータスを無力化することだ。

「ロータスさん、貴方の体内にいるサタンは、貴方を支配しているのですか?」

「支配?いや、私は至って正常だよ。確かに、私の体にはサタン様の分体があるが、私に強要などした事は無い。いずれも、私が進んで協力している。君も是非、サタン様の傘下に加わるべきだと思うよ?」

 狂信者のような表情を見せるロータスは、今度はアラヤ達にもドッペルゲンガーを掛けようと詠唱を開始する。

「俺は、貴方を傷付けたくは無いです。出来れば大人しく捕まって欲しい」

「それは無理な相談だよ。…己が世界にその姿を現せ、ドッペルゲンガー」

 今度は、アラヤとクララとイゾウの3人にもドッペルゲンガーが現れる。クララとイゾウは負傷した状態だった為か、現れたドッペルゲンガーも負傷していた。

 アラヤは、自身のドッペルゲンガーに歩み寄る。確かに瓜二つな姿で、まるで鏡を見ているようだ。

「同じ行動を取るんだろう?じゃあ、これならどうだ?」

 アラヤは片手を上げてパートナーを呼んだ。

『来てくれ、エンリル!』

 浮遊邸は今、丁度真上にある。呼んだ直後に、真上から押しつけられるような風で圧をかけられた。

「何と⁉︎まさか暴風竜まで従えていたか⁉︎」

 エンリルは、アラヤ達を見て驚いた。
 生意気なアラヤが2人居る。他の人間や魔物も、同じ姿の奴が居たとは思わなかった。

『拐われたと聞いていたが、まさかこのような老いぼれ獅子にやられたのか?』

『老いぼれと言っても、サタンの分体が入ってるんだ。今もこうやって邪魔されてるのさ。エンリル、偽物の俺を攻撃してくれ』

『我には見分けがつかないぞ?まとめて食うなら楽だがな!』

『これを見れば、俺を見分けるのは簡単だろ?』

 アラヤは、左手の甲に浮かぶ魔法陣を見せた。

『む、そういうことか』

 従魔契約によるこの魔法陣は、契約者の2人にだけ、同じ輝きを放つ。
  エンリルは遠慮なく、ドッペルゲンガーアラヤを強襲して噛みちぎった。
 その光景に、アヤコ達は息を呑んだ。側から見れば、違いは体が消えるか残るかだ。

「良かった!」

 体が消えだしたことで、見事に偽物を見抜いたと分かった。

「さぁ、観念してもらいましょうか」

「むぅ…」

 背後にエンリルが回り、ロータスは既に逃げ場が無いことを知り、顔を苦難に歪ませる。

「サタン様…お許しを…」

 ロータスは、自身の腹部にナイフを突き立てた。情報を渡すまいと、自決を選んだのだ。

「急いで手当てをっ!」

 膝をついて崩れ落ちるロータスに、アラヤが駆け寄ろうとした瞬間、彼の体から黒い煙が辺りに噴出した。

「うわっ⁉︎」

 咄嗟に距離を取ると、ロータスはその煙に体が包まれている。
 エンリルが翼で煙を吹き飛ばすと、そこには翼が生えたロータスがいた。
 腹部にはまだナイフが刺さったままで、息も絶え絶えの状態だ。

『何ということだ…この体はもう限界だ…』

 ロータスとは違う声色で嘆いた後、腹部のナイフを抜くとアラヤ達を一瞥する。

『だがロータス、其方の我への忠誠、しかと受け取ったぞ…』

 ガクンと体が揺れると、体から泡のようにブクブクと肉が膨張を始める。
 膨れ続ける体は、風船のように丸まっていく。これではもう、元の体には戻らないだろう。

『貴様達全員、道連れにしてやる』

 どうやら爆発するようだ。
 まずい!アラヤとエンリル以外は、未だにドッペルゲンガーと掴み合っている。

「畜生っ‼︎」

 アラヤは最後の手段と、丸まったロータスの体に【弱肉強食】で食らいついた。

『なっ⁉︎何だ⁉︎』

 膨らみが急に止まり、ロータスは痙攣した。体中から力が抜けていく。同じように、爆発の為に貯めた魔力も徐々に飛散していく。

『う、動かせない⁉︎き、貴様の技能スキルか、暴食魔王⁉︎』

「仕方ない、仕方ないんだっ!」

 ガブリ、ガブリと、ロータスの膨らんだ肉を食い千切るアラヤは、意識が飛びかけながらも、何度も噛み付いた。

『や、止めろ!止めるんだっ‼︎』

 ロータスの体から、同化を止めて完全に姿を現したサタンの分体は、凄く小さな姿だった。

『貴様に同化してやる‼︎』

 分体は再び黒い煙を噴出すると、その中に身を隠した。
 エンリルが急ぎ煙を吹き飛ばそうとしたその時、眩い光に辺りが包まれた。

『そこまでだよ』

 黒い煙は縮小して、サタンの分体の姿をハッキリと映し出す。

『き、貴様は、光の…』

 分体が見上げる先には、まさかの大精霊の姿が見え狼狽えた。
 その直後、ガシッと体を掴まれて振り返る。そこには、大きく口を開けるアラヤの姿が目前にあった。

『あ~、そこまでって言ったのに…』

 そんな声が聞こえた気がするが、アラヤは旨味と快感の快楽に溺れて意識を失ってしまった。

『せっかく、話をしようと思って来たのに』

 光が収束すると、光に包まれた青年の姿になった。
 その姿にエンリルが、ワナワナと震えて頭を下げた。

『光の大精霊、ミフル様…』

『ああ、そんな固くならなくて良いよ、うつけ君。ちょ~っと、彼と話をしたくなって来ただけだからさ?』

 ミフルはそう言って見上げる。その視線の先には、明らかに嫌そうな顔をする風の大精霊エアリエルの姿があった。

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