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第18章 離れ離れが寂しいのは当然ですよ⁉︎

266話 ボルモル

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 転移地点となっているトイレ前で待つアラヤは、ご機嫌で歩いて来るロータスを確認した。

「いやぁ、先程の余興も中々に良い見世物ショーでしたな」

「ええ。どの将軍も、圧倒的な実力を見せてくれましたね。後半の見世物にも期待できそうです」

 トイレから帰る他の来賓者達が、それぞれの感想を話しながら帰る途中、ロータスに気付き握手を求めた。

「いやぁ、御子息の強さは将軍中で随一ですな!S級魔物の巨人を一撃とは。さぞかし、鼻が高いでしょう?」

「いやいや、私には勿体ない息子です。あれも、日々の努力の甲斐があったというものですよ」

 笑顔で握手に応えた後、ロータスは頭を下げてアラヤの下に向かうからと話から抜けてきた。

「お待たせしてしまいましたな」

「いえ、それも無理もない。先程の方達が言うように、余興とはいえ他の将軍の難易度はA級といったところだが 、S級魔物を単独ソロで倒すのはもちろんS級難度。並大抵の強さでは土台無理だったからね」

 無論、このロータスが手配した者がなんらかの工作をしたのだろうけど。

「まぁ、それはさて置き、今は工芸品ですね?先ずはコレを」

「おお、これは珍妙な!」

 アラヤから手渡しで受け取ったのは、小さなガラスの工芸品。逆さにする事で雪が降る前世界でいうところのスノーグローブだ。
 ロータスは何度も逆さまにしては、おおっと楽しんでいる。

「アーラヤ殿、是非とも、そのムシハ連邦国の村の場所を教えていただけないか?」

「…。それはすまないが教えられない。貴方は帝国の要人で、ムシハ連邦の国内は内乱がある地域がある。今は時期的に国を渡るのは無理だし、私も村からの信用を失いたくは無い」

「ううむ、これだけの発想と技術、もっと見てみたいし、手に入れたい。アーラヤ殿の持つ品を、譲っては頂けないだろうか?」

「お金には困っていない。できれば私も珍しい物が欲しいね。私が今集めているのは、ドラゴンに関する珍しい文献や魔導書なんですが、もしお持ちなら、その工芸品以外の品も付けて交換するけど?」

「もちろんです!ああ、しかし他の品が気になる。コレを上回る感動があるかどうか…」

「他にも幾つかあるけど、上回る品は少し大きい上に人目につくと盗まれる可能性もあるので、別室に保管しています。見ますか?」

「は?今からですか?」

「ええ。私の特殊技能ユニークスキルで部屋を持ち歩けるんです」

 もちろん、そんなデタラメな技能は聞いた事ないが、ロータスに亜空間収納みたいなイメージを持たせれば良いだけだからね。

「ほぅ、それはまた……本当に?」

「ええ、どうぞ私の手をお取りください」

 ロータスは少し疑いつつも、手に持つスノーグローブを見た後、アラヤの手をしっかりと掴んだ。
 それと同時にアラヤは直ぐに転移地点に触れる。

 2人は伸びる様に姿を消し、ゲーブが用意した空間に転移した。
 その空間は洞窟の広間の様な大きな部屋で、室内には大精霊ゲーブと、その守護竜たるアダモスが居た。

「アーラヤ殿、これは一体⁉︎」

「ごめん、ロータス殿。この方は土の大精霊ゲーブ様。そして土の眷属竜アダモス。…やはり、見えているみたいだね?」

 ロータスは頭痛が起きたように頭を抱えて唸る。

「私を騙し、捕まえるつもりで?」

 その声は割れたように二重の声になっている。悪魔としての正体を表しだしたかもしれない。

「いや、取引をしたかっただけだ。厄災の悪魔サタン、貴方が持つ禁呪魔導書のね?」

「禁呪魔導書?何のことだ?」

『アラヤ、離れろ!其奴は分身体だ!サタン本体ではなかった!』

 ゲーブが叫び、アラヤは咄嗟にロータスから距離を取るが、しっかりとくっつき腕を握られた。

『今度は我が招待しよう』

「しまっ…」

 次の瞬間、アラヤはロータスと共に暗闇に包まれて消えた。

『ゲーブ様!急ぎ場所の特定を!』

『分かっている!』

 ここにはゲーブが張った魔法禁止の結界があり、場所も下部マントルに近いから物理的にも出る事は不可能なはずだった。
 だが、サタンはその上をいった。本体ではなく分身体を憑依させていたロータスを、本体に戻した(召喚)のだ。

『エアリエル!すまん!アラヤをサタンめに拐われた!場所はパガヤ王都の南西にある廃村だ!』

 アラヤの反応場所を特定して、もはや体裁など関係無い。土下座状態で急ぎエアリエルに報せる。

『何をやっている馬鹿者!アラヤは我が何とかする!御主はさっさと闘技場を鎮めろ‼︎』

『ぬ?闘技場だと?』

 ゲーブが視野を闘技場に切り替えると、そこは人々が逃げ惑う混乱状態だった。

『一体何が起きた⁉︎』

『異常成長した食人植物ボルモルで、闘技者の将軍及び観客が幻覚状態で同士討ちを始めてしまった‼︎後は何とかしろ!』

 エアリエルは、それどころでは無いと浮遊邸を飛び立たせる。

『異常成長だと⁉︎』

 ゲーブは闘技場の土地の栄養は把握していた。つまりは、食人植物の成長具合も今日の朝までは把握していたのだ。
 多少成長した事は確認していたのだが、この成長はたかだか魔鉱石を与えたぐらいでは

『…バンドウはどこだ?』

 加護を与えたバンドウの姿を探すが、闘技場にその姿は無かった。


       ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇


『クララ、急ぎ浮遊邸に帰還して!』

『しかし、アヤコ様!人混みでピラーと離れてしまいました!彼はテレポートが使えません!』

『彼にも念話は送りました!返事が無いのは残されて構わないと判断します!今は、彼の単独行動よりも、アラヤ君を優先します!』

『…分かりました!』

 ダメだとは分かっているが、ピラーとアラヤを天秤にかけると、その重要度が同じとはできない。
 クララは下唇を噛みつつも、浮遊邸へとテレポートした。



「ドコダ!ドコダ⁉︎」

 ピラーは、混乱に乗じて闘技場まで降りてきていた。
 闘技場では、中央に現れた巨大な植物の魔物に、3人の将軍が幻覚を見せられながらも奮闘していた。

「クソッ!万能薬がもう無い!」

 将軍達は、ここ数年食人植物が祭りに出ていたことで、万能薬は常備していたのだ。
 だが、今年の食人植物は通常のとは比にならなかった。
 食人植物が放った胞子は、吸った者、触れた者にこれまでに無い数の多重の状態異常を引き起こした。
 幻覚、幻聴、麻痺、眠気、倦怠感、頭痛、吐気、便意、寒気に襲われた将軍達は、直ぐに薬を飲んでいた。
 ところが効果が短く、また異常を再発してしまうのだ。

「むぅ、この動きはテイテイか⁉︎」

 我慢ではどうにもならない幻覚、幻聴のせいで、標的はおろか仲間すら分からない。
 ただ、向けられた殺気と攻撃の癖で、僅かにお互いを判断できていたのだ。

「ブルータス!」

 そんな中でも、アラヤゴーレムに憑依するピラーは、何の影響もなく動くことができていた。

「キュクロプスノ仇!」

 ピラーは途中で拾ったナイフを構えて、ブルータスに斬りかかる。

「そこか!」

 突然、横から怪腕将軍が殴り掛かってきた。ピラーは何とかそれを躱した。速さだけは、この体なら将軍達にも優っている。

「邪魔スルナ!」

 ピラーの殺気を感じて、3人の将軍達は揃って身構えた。そこに隙などあるわけもない。

 パシッ!

 突然、ピラーの足に食人植物の蔓が巻き付き、彼はは宙釣りにされた。

「ウ、ウワァァァァァッ」

 プランと逆さ吊りにされた事で、ピラーが緊急用に持たされていたマンドラゴラ薬が将軍達の頭に落ちて割れた。

「おっ⁉︎体調が回復した⁈」

 正常な状態に回復した将軍達は、ピラーを見上げる。

「これはニイヤ殿に借りが出来たな」

「うむ、この好機を逃すまいぞ!」

「感謝する」

 そして、即座に食人植物との戦闘を開始した。
 その連携は即席にしては出来過ぎに思える程、お互いがお互いを邪魔せずに繋がっていく。
 枝の触手を封じる怪腕将軍、胞子ができる前に槍で潰す黒玉将軍、胴体となる太い茎と足となる根を寸断するブルータス。
 万全の状態となった将軍達により、決着はいとも簡単に終わった。

 地面に下ろされたピラーは、ただただ闘技場から逃げ出し、まだ馴染まない体では涙を流すことすらできなかった。
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