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第18章 離れ離れが寂しいのは当然ですよ⁉︎
265話 余興
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観覧席に戻ったアラヤは、闘技場が様変わりしている事に驚いた。
地面に、大小様々の大きさの布が掛けられた箱が幾つかあり、明らかに魔物の反応がある。
「さぁ、くじ引きにより最初に登場するのは、熊人との混種でありながらその力は熊人以上!見た目も愛くるしいと評判の黒玉将軍、テイテイ様だぁぁっ‼︎」
主に雌勢から大歓声が起こり、黒い球体が闘技場に降り立った。
(パンダ?いや、白黒の模様が逆じゃん。大部分が黒いってだけで、熊っぽさ強めだなぁ。あれ?でも人熊猫だったら人間部分が主な姿になるんじゃ…?)
そんな疑問を抱いていると、テイテイが人型へと変身した。どうやら、クララと同じように変身可能な亜人だったようだ。
人型だと黒人系の部族っぽい。まさか、雌受けが良いからパンダの姿に変身してたのかな?
「神槍使いの異名を持つ彼が手にするのは愛槍【笹舟】‼︎」
テイテイは、亜空間収納を開き中から槍を取り出して構える。
「めっちゃ、竹槍じゃん…」
亜空間収納持ちよりも、槍に思わずツッコミを入れてしまいそうになるが、鑑定したら見た目が竹の槍というだけで、歴とした大業物の槍だった。
「対する、一番手に用意された魔物は此奴等だ‼︎」
置かれていた箱から布が一斉に剥がされる。すると、箱はガラスの様な透明な箱で隠されていた魔物が露わになる。
「蜂共か…」
全ての箱が開き、羽音と蜜の香りにテイテイは舌舐めずりする。
「パガヤ王国に生息する蜂の魔物、全種を巣ごと揃えてみました!この魔物蜂が集める蜜は超高級!しかし、毒も超猛毒!黒玉将軍はどう対処するのか⁉︎」
一斉に飛び立つ大群が、観客席目掛けて襲い掛かる。観客席は間近にきた恐怖で叫び声を上げるも、蜂の攻撃は見えない結界の壁で防がれた。
「観客席には強力な結界が張られています。皆様は、ご安心して観覧をお続けいただけます」
行く手を遮られた蜂達は、闘技場にある黒を見つけた。
我々がコツコツと集めた大事な蜜を、無慈悲に奪いに来る血熊に似ている。
種類が違い普段は敵同士の蜂達が、1人をターゲットに軌道を変えて一斉に向かった。
「ここで蜂達が将軍を敵と認識した様だぁぁっ‼︎」
「パフォーマンスにはうってつけだな」
テイテイはククッと笑みを浮かべると、全方位から迫り来る大量の蜂を迎え撃つ。
「す、す、凄まじい槍捌き‼︎全く見えません‼︎ただただ、蜂だけが散っている‼︎」
彼の槍術熟練度はLV5。アラヤもこれには流石としか言いようが無い。
彼の間合いを表すように、円状に散る蜂の残骸。流石に恐れをなした蜂達は、女王蜂を守るべく巣へと戻りだす。
「無駄だ」
近場の巣から、1突きで女王蜂を巣ごと突き破る。
圧倒的な実力を見せて、全ての蜂の巣が排除された。
「噂に違わぬ見事な槍捌きでした‼︎黒玉将軍、お疲れ様でした‼︎」
討伐が完了すると、テイテイは巣を全て亜空間収納に入れて、熊猫人姿に変身して退場した。ちゃっかり蜂蜜は持ち帰る気だな。ちょっと羨ましい。
「続いて2番手に登場するのは、怪腕将軍バーキハカ様‼︎」
バーキハカは、ゆっくりと闘技者入場門から歩いて現れた。
オラウータンの亜人であるバーキハカは、オラウータン特有の2倍の長さを持つ腕が怪腕の名の通り、太さもまた2倍以上にあった。
「そして次なる小手調べの魔物も登場だ‼︎」
いつのまにか、先程の壊された箱は無くなっていて、次の箱が地面から湧いて出てきた。
今度は大きさがほぼ同じの小柄な箱で、またも一斉に布が外される。
「今度の相手は影狼だ‼︎これは、怪腕将軍には不得手な相手かぁーっ⁉︎」
箱から現れた影狼は、素早い動きでバーキハカを包囲する。
「勝手にワシが遅いと勘違いしておらんか?」
バーキハカは両手で地面を掴んで足の様に移動し、回し蹴りで影狼を蹴り飛ばした。
片手で地面を掴んだ状態からの、腕力を利用した旋回の蹴りは、影狼達を警戒させるには充分だった。
バーキハカを強敵と認識した影狼達はペアとなり、1匹の影にもう1匹が沈んで消えた。
「おーっと、これは影狼が得意とする影憑依だ‼︎影に沈んだ方には攻撃が当たらない、どう出る怪腕将軍ーーっ⁉︎」
影狼達は、実体がある影狼は上から飛び掛かり、地面からも沈んでいた影狼が襲い掛かる上下同時攻撃を狙ってきた。
「しゃらくさいわ!」
両手で地面を掴み、潰し固めた土塊で本体だけを吹き飛ばした。
本体が細かくなった事で、影から強制的に出された影狼達は、裏拳一閃で闘技場の壁に打ち付けられて倒れた。
「裏拳の打ち払いで一掃‼︎影狼、全滅!怪腕将軍、お疲れ様でした‼︎」
ん~、確かに力技だねー。バルクアップで真似できなくも無いかなぁ?
「続いては、新星にして我国初の人間の将軍!拳闘将軍レイジ=バンドウ様の登場です‼︎」
「おいおい、マジか…」
バンドウは、上半身裸の上に、マントの様に羽織る不良の学ラン姿(俗に言う長ラン)で現れた。
拳にはナックルダスター。腰にはジャラジャラと鎖を付けている。学校に居た時よりも不良らしい格好をしているな。
その文化をこの国で広めようとしてるのか…?
「そして、3番手に用意された魔物はコイツらだー‼︎」
またもや地面から現れた布の被せられた箱。今回はやや大きめの箱で2つだけのようだ。
布が外されると、姿を表したのはアースドラゴンだった。
アースドラゴンはデピッケルの鉱山にもいて、割と知られている飛べないドラゴンだ。(因みにソーリンが倒した子ドラゴンと同じ)
だが、だからといって弱いドラゴンというわけじゃない。
グォォォッ‼︎
視界が広く明るくなった事で、ドラゴンは目を覚まして咆哮を上げる。
箱を突き破ったドラゴン2頭は、ジャラジャラと鎖を鳴らして注意を引くバンドウを見つけた。
「これは流石に拳闘将軍と言えども、小手調べとはいかないかーっ⁉︎」
見た目と違い、早い動きでバンドウを噛みつこうといきなり襲い掛かる。
「いやいや、ただの大きなトカゲだろ?舐めんなよ?」
噛みつきが空振りに終わり、ドラゴンは辺りを見回す。その直後に首裏に重みを感じた。
確かに噛んだと思った瞬間、獲物の姿は消え、いつの間にか背中に乗られていたのだ。
「ほらよ、首輪してやるぜ?」
バンドウは鎖をドラゴンの首へと巻き付け、そのまま首を絞めた。
「おーっと、全身を硬い竜鱗で覆われるドラゴンを絞殺しようというのかーっ⁉︎」
「絞殺?んなわけねぇだろ!」
ドラゴンを絞殺などと無理な話と言わんばかりのアナウンスに、バンドウは怒りを露わにして怒鳴り声を上げた。
「こうやるんだよ‼︎」
首に巻き付けた鎖を力一杯引き、ドラゴンの首が鈍い音と共に引き千切れた。
「な、なんと‼︎⁉︎絞め千切ったーーっ‼︎⁉︎」
その光景に、観客席からは悲鳴とどよめきが上がった。
「何だあの鎖は⁉︎竜鱗の硬さを上回るのか⁉︎」
鑑定で見ても、鎖の素材はミスリル亜銀とされていて、アダマンタイトに比べても硬度は劣ると思うのだが。おそらくは技能が関係しているのだろうけど、魔王を鑑定できるLVは5位上だからなぁ。
バンドウはドラゴンの背から飛び降り、もう1頭の下へと歩み寄る。
警戒したドラゴンが、尻尾による尾撃で払いに掛かる。
その象でも吹き飛ばす程の一撃を、両手で掴み耐えると、貫手で突き刺してそこからまた千切った。そのまま千切った尻尾でドラゴンを殴りつける。
「オラオラオラァ‼︎まだ終わりじゃねぇぞぅ⁉︎」
尻尾がダメになると、今度は殴る蹴るでボコボコにする。
「これは…滅多打ち!その力は怪腕将軍にも劣らない⁉︎もはや人間(ノーマル)の強さではありません‼︎」
叫び声を上げる間も与えられないままに、ドラゴンは息絶えて沈んだ。
「拳闘の名を表した、まさに殴り合いを得意とした喧嘩スタイル‼︎拳闘将軍、難無く勝利です‼︎」
バンドウは来賓席を見上げると、俺に対してお前もこうだと言わんばかりにニヤリと笑う。ドラゴンを竜人に見立てたか?喧嘩売られても、まともに相手するわけないけどね?
「そして最後はこの方!その風格たるや、将軍といえば彼だと誰もが口を揃える程‼︎金鬣将軍こと、ブルータス将軍の登場です‼︎」
ロータス(サタン)の養子となる獅子人のブルータス。
入場門から登場した彼は、今日1番の拍手で迎えられた。
ロータスを横目で見ると、本当の我が子を見守る父親の様だ。
「そして最後の小手調べ相手の魔物は、コイツらだー‼︎」
地面から現れた箱は1つ。その大きさは今までで1番の大きさだ。
「あ、あれ?ちょっと打ち合わせと違いますが?」
アナウンスが何やら慌てているが、箱にかけられていた布はそれを待たずに剥がされた。
その姿を見た観客席からは悲鳴が上がる。
それは巨人族の魔物で目が単眼だった。
「キュクロプス‼︎」
そう叫んだのはピラーだった。来賓席から身を乗り出そうとする彼を、クララが素早く押さえ込む。
「どうしたのです⁉︎」
「彼、キュクロプス。ゴーモラカラ出テ帰ラナイ仲間ノ1人…」
どうやらピラーの知り合いの魔物だったようだが、来賓席や観客席からの闘技場への侵入は結界により無理だ。
「ゴーモラから出た彼を、世間は他の魔物と区別しません。もちろん、それは我々もです。今は同盟を結んでいるとはいえ、この状況下では彼を助ける事はできません。酷な事ですが…」
「分カッテイマス。…見届ケマスヨ…」
そうこうしている間に、戦闘は始まってしまった。
6m級の見上げる巨人に、ブルータスは大剣を抜かないまま近寄る。その表情はどこか哀れんでいる。
キュクロプスは、ブルータスを捕まえようと両手で掴み掛かる。それを素早く躱した彼は、その腕を足場に一気にキュクロプスの肩まで駆け上がる。
「……」
一瞬、何かをキュクロプスに言った後、ブルータスは大剣を抜きキュクロプスの頸動脈を斬った。
勢いよく上がる血飛沫に、ピラーはギリギリと歯を食いしばり我慢していた。
「開始僅か‼︎何と!Sランク級に扱われる巨人族を、無駄の無い一撃で倒してしまったーーっ‼︎」
勝った筈のブルータスは、喜びもせずに来賓席を見上げる。その視線の先にはロータスがいる。その表情は、どちらかというと不満があるように見えた。
「金鬣将軍、お疲れ様でした‼︎これにて、余興は終了です!1時間の休憩を入れた後、メインイベントを開催します!尚、コロシアム外では様々な…」
直ぐに地面へと沈んで消えたキュクロプスに、ピラーはしっかりと目に焼き付けた。
「コンナ不平等ナ決闘、俺ハ絶対許サナイ!俺ガイツカ、仇ヲ打ツカラナ!」
ピラーの怒りも分かる。確かに、キュクロプスの動きはおかしかった。始まる前から弱っていた気がする。
だが、それは今は後回しだ。
アラヤは気持ちを切り替えて席を立つ。ロータスと軽く視線を合わせると、目的地である転移地点へと向かうのだった。
地面に、大小様々の大きさの布が掛けられた箱が幾つかあり、明らかに魔物の反応がある。
「さぁ、くじ引きにより最初に登場するのは、熊人との混種でありながらその力は熊人以上!見た目も愛くるしいと評判の黒玉将軍、テイテイ様だぁぁっ‼︎」
主に雌勢から大歓声が起こり、黒い球体が闘技場に降り立った。
(パンダ?いや、白黒の模様が逆じゃん。大部分が黒いってだけで、熊っぽさ強めだなぁ。あれ?でも人熊猫だったら人間部分が主な姿になるんじゃ…?)
そんな疑問を抱いていると、テイテイが人型へと変身した。どうやら、クララと同じように変身可能な亜人だったようだ。
人型だと黒人系の部族っぽい。まさか、雌受けが良いからパンダの姿に変身してたのかな?
「神槍使いの異名を持つ彼が手にするのは愛槍【笹舟】‼︎」
テイテイは、亜空間収納を開き中から槍を取り出して構える。
「めっちゃ、竹槍じゃん…」
亜空間収納持ちよりも、槍に思わずツッコミを入れてしまいそうになるが、鑑定したら見た目が竹の槍というだけで、歴とした大業物の槍だった。
「対する、一番手に用意された魔物は此奴等だ‼︎」
置かれていた箱から布が一斉に剥がされる。すると、箱はガラスの様な透明な箱で隠されていた魔物が露わになる。
「蜂共か…」
全ての箱が開き、羽音と蜜の香りにテイテイは舌舐めずりする。
「パガヤ王国に生息する蜂の魔物、全種を巣ごと揃えてみました!この魔物蜂が集める蜜は超高級!しかし、毒も超猛毒!黒玉将軍はどう対処するのか⁉︎」
一斉に飛び立つ大群が、観客席目掛けて襲い掛かる。観客席は間近にきた恐怖で叫び声を上げるも、蜂の攻撃は見えない結界の壁で防がれた。
「観客席には強力な結界が張られています。皆様は、ご安心して観覧をお続けいただけます」
行く手を遮られた蜂達は、闘技場にある黒を見つけた。
我々がコツコツと集めた大事な蜜を、無慈悲に奪いに来る血熊に似ている。
種類が違い普段は敵同士の蜂達が、1人をターゲットに軌道を変えて一斉に向かった。
「ここで蜂達が将軍を敵と認識した様だぁぁっ‼︎」
「パフォーマンスにはうってつけだな」
テイテイはククッと笑みを浮かべると、全方位から迫り来る大量の蜂を迎え撃つ。
「す、す、凄まじい槍捌き‼︎全く見えません‼︎ただただ、蜂だけが散っている‼︎」
彼の槍術熟練度はLV5。アラヤもこれには流石としか言いようが無い。
彼の間合いを表すように、円状に散る蜂の残骸。流石に恐れをなした蜂達は、女王蜂を守るべく巣へと戻りだす。
「無駄だ」
近場の巣から、1突きで女王蜂を巣ごと突き破る。
圧倒的な実力を見せて、全ての蜂の巣が排除された。
「噂に違わぬ見事な槍捌きでした‼︎黒玉将軍、お疲れ様でした‼︎」
討伐が完了すると、テイテイは巣を全て亜空間収納に入れて、熊猫人姿に変身して退場した。ちゃっかり蜂蜜は持ち帰る気だな。ちょっと羨ましい。
「続いて2番手に登場するのは、怪腕将軍バーキハカ様‼︎」
バーキハカは、ゆっくりと闘技者入場門から歩いて現れた。
オラウータンの亜人であるバーキハカは、オラウータン特有の2倍の長さを持つ腕が怪腕の名の通り、太さもまた2倍以上にあった。
「そして次なる小手調べの魔物も登場だ‼︎」
いつのまにか、先程の壊された箱は無くなっていて、次の箱が地面から湧いて出てきた。
今度は大きさがほぼ同じの小柄な箱で、またも一斉に布が外される。
「今度の相手は影狼だ‼︎これは、怪腕将軍には不得手な相手かぁーっ⁉︎」
箱から現れた影狼は、素早い動きでバーキハカを包囲する。
「勝手にワシが遅いと勘違いしておらんか?」
バーキハカは両手で地面を掴んで足の様に移動し、回し蹴りで影狼を蹴り飛ばした。
片手で地面を掴んだ状態からの、腕力を利用した旋回の蹴りは、影狼達を警戒させるには充分だった。
バーキハカを強敵と認識した影狼達はペアとなり、1匹の影にもう1匹が沈んで消えた。
「おーっと、これは影狼が得意とする影憑依だ‼︎影に沈んだ方には攻撃が当たらない、どう出る怪腕将軍ーーっ⁉︎」
影狼達は、実体がある影狼は上から飛び掛かり、地面からも沈んでいた影狼が襲い掛かる上下同時攻撃を狙ってきた。
「しゃらくさいわ!」
両手で地面を掴み、潰し固めた土塊で本体だけを吹き飛ばした。
本体が細かくなった事で、影から強制的に出された影狼達は、裏拳一閃で闘技場の壁に打ち付けられて倒れた。
「裏拳の打ち払いで一掃‼︎影狼、全滅!怪腕将軍、お疲れ様でした‼︎」
ん~、確かに力技だねー。バルクアップで真似できなくも無いかなぁ?
「続いては、新星にして我国初の人間の将軍!拳闘将軍レイジ=バンドウ様の登場です‼︎」
「おいおい、マジか…」
バンドウは、上半身裸の上に、マントの様に羽織る不良の学ラン姿(俗に言う長ラン)で現れた。
拳にはナックルダスター。腰にはジャラジャラと鎖を付けている。学校に居た時よりも不良らしい格好をしているな。
その文化をこの国で広めようとしてるのか…?
「そして、3番手に用意された魔物はコイツらだー‼︎」
またもや地面から現れた布の被せられた箱。今回はやや大きめの箱で2つだけのようだ。
布が外されると、姿を表したのはアースドラゴンだった。
アースドラゴンはデピッケルの鉱山にもいて、割と知られている飛べないドラゴンだ。(因みにソーリンが倒した子ドラゴンと同じ)
だが、だからといって弱いドラゴンというわけじゃない。
グォォォッ‼︎
視界が広く明るくなった事で、ドラゴンは目を覚まして咆哮を上げる。
箱を突き破ったドラゴン2頭は、ジャラジャラと鎖を鳴らして注意を引くバンドウを見つけた。
「これは流石に拳闘将軍と言えども、小手調べとはいかないかーっ⁉︎」
見た目と違い、早い動きでバンドウを噛みつこうといきなり襲い掛かる。
「いやいや、ただの大きなトカゲだろ?舐めんなよ?」
噛みつきが空振りに終わり、ドラゴンは辺りを見回す。その直後に首裏に重みを感じた。
確かに噛んだと思った瞬間、獲物の姿は消え、いつの間にか背中に乗られていたのだ。
「ほらよ、首輪してやるぜ?」
バンドウは鎖をドラゴンの首へと巻き付け、そのまま首を絞めた。
「おーっと、全身を硬い竜鱗で覆われるドラゴンを絞殺しようというのかーっ⁉︎」
「絞殺?んなわけねぇだろ!」
ドラゴンを絞殺などと無理な話と言わんばかりのアナウンスに、バンドウは怒りを露わにして怒鳴り声を上げた。
「こうやるんだよ‼︎」
首に巻き付けた鎖を力一杯引き、ドラゴンの首が鈍い音と共に引き千切れた。
「な、なんと‼︎⁉︎絞め千切ったーーっ‼︎⁉︎」
その光景に、観客席からは悲鳴とどよめきが上がった。
「何だあの鎖は⁉︎竜鱗の硬さを上回るのか⁉︎」
鑑定で見ても、鎖の素材はミスリル亜銀とされていて、アダマンタイトに比べても硬度は劣ると思うのだが。おそらくは技能が関係しているのだろうけど、魔王を鑑定できるLVは5位上だからなぁ。
バンドウはドラゴンの背から飛び降り、もう1頭の下へと歩み寄る。
警戒したドラゴンが、尻尾による尾撃で払いに掛かる。
その象でも吹き飛ばす程の一撃を、両手で掴み耐えると、貫手で突き刺してそこからまた千切った。そのまま千切った尻尾でドラゴンを殴りつける。
「オラオラオラァ‼︎まだ終わりじゃねぇぞぅ⁉︎」
尻尾がダメになると、今度は殴る蹴るでボコボコにする。
「これは…滅多打ち!その力は怪腕将軍にも劣らない⁉︎もはや人間(ノーマル)の強さではありません‼︎」
叫び声を上げる間も与えられないままに、ドラゴンは息絶えて沈んだ。
「拳闘の名を表した、まさに殴り合いを得意とした喧嘩スタイル‼︎拳闘将軍、難無く勝利です‼︎」
バンドウは来賓席を見上げると、俺に対してお前もこうだと言わんばかりにニヤリと笑う。ドラゴンを竜人に見立てたか?喧嘩売られても、まともに相手するわけないけどね?
「そして最後はこの方!その風格たるや、将軍といえば彼だと誰もが口を揃える程‼︎金鬣将軍こと、ブルータス将軍の登場です‼︎」
ロータス(サタン)の養子となる獅子人のブルータス。
入場門から登場した彼は、今日1番の拍手で迎えられた。
ロータスを横目で見ると、本当の我が子を見守る父親の様だ。
「そして最後の小手調べ相手の魔物は、コイツらだー‼︎」
地面から現れた箱は1つ。その大きさは今までで1番の大きさだ。
「あ、あれ?ちょっと打ち合わせと違いますが?」
アナウンスが何やら慌てているが、箱にかけられていた布はそれを待たずに剥がされた。
その姿を見た観客席からは悲鳴が上がる。
それは巨人族の魔物で目が単眼だった。
「キュクロプス‼︎」
そう叫んだのはピラーだった。来賓席から身を乗り出そうとする彼を、クララが素早く押さえ込む。
「どうしたのです⁉︎」
「彼、キュクロプス。ゴーモラカラ出テ帰ラナイ仲間ノ1人…」
どうやらピラーの知り合いの魔物だったようだが、来賓席や観客席からの闘技場への侵入は結界により無理だ。
「ゴーモラから出た彼を、世間は他の魔物と区別しません。もちろん、それは我々もです。今は同盟を結んでいるとはいえ、この状況下では彼を助ける事はできません。酷な事ですが…」
「分カッテイマス。…見届ケマスヨ…」
そうこうしている間に、戦闘は始まってしまった。
6m級の見上げる巨人に、ブルータスは大剣を抜かないまま近寄る。その表情はどこか哀れんでいる。
キュクロプスは、ブルータスを捕まえようと両手で掴み掛かる。それを素早く躱した彼は、その腕を足場に一気にキュクロプスの肩まで駆け上がる。
「……」
一瞬、何かをキュクロプスに言った後、ブルータスは大剣を抜きキュクロプスの頸動脈を斬った。
勢いよく上がる血飛沫に、ピラーはギリギリと歯を食いしばり我慢していた。
「開始僅か‼︎何と!Sランク級に扱われる巨人族を、無駄の無い一撃で倒してしまったーーっ‼︎」
勝った筈のブルータスは、喜びもせずに来賓席を見上げる。その視線の先にはロータスがいる。その表情は、どちらかというと不満があるように見えた。
「金鬣将軍、お疲れ様でした‼︎これにて、余興は終了です!1時間の休憩を入れた後、メインイベントを開催します!尚、コロシアム外では様々な…」
直ぐに地面へと沈んで消えたキュクロプスに、ピラーはしっかりと目に焼き付けた。
「コンナ不平等ナ決闘、俺ハ絶対許サナイ!俺ガイツカ、仇ヲ打ツカラナ!」
ピラーの怒りも分かる。確かに、キュクロプスの動きはおかしかった。始まる前から弱っていた気がする。
だが、それは今は後回しだ。
アラヤは気持ちを切り替えて席を立つ。ロータスと軽く視線を合わせると、目的地である転移地点へと向かうのだった。
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