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第17章 追う者、追われる者、どっちか分からないよ⁉︎

249話 歓迎?

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 歓迎用に用意された会場には、ゴーモラ国に住む様々な種族(死霊族、淫魔族、夢魔族、鬼族、魔狼族、巨人族、魔植物族、他に来ていない族もある)の長が集まっていて、服装や立ち居振る舞いに、まるで貴族の様な印象を受ける。

「どうよ?国で1番、料理が上手いと評判のデーモンナマズに作らせた料理だからね!」

 バクバクと料理を食べるアラヤに、味覚を感じないコウサカが自慢気に話している。

「うん、美味いね!正直、アンデッドは味覚が無いって聞いてたから心配してたんだけど、どれもとても美味しいよ」

「フフフ、そう?良かったわ」

 嬉しそうに笑うコウサカを、少し離れた席で食事するアヤコ達は、彼女がアラヤの機嫌取りをしているなと見ていた。

「無理矢理自分のものにする事は諦めたみたいだけど、同盟関係を結ぶ流れで気を引くチャンスだと思っているみたいね?」

「私達の夫は、食べ物に弱いからね~。まぁ、この料理の味は確かに美味いけど。出汁かな?なんだろう?」

「サナエ様、この出汁はおそらくナマズの出汁かと」

 超味覚の技能を持つコルプスが、料理に含まれる食材やレシピを羊皮紙に記入しながら答える。

「えっ?ナマズって美味しくないってイメージあるけど…」

「そんな事はありませんよ?沼地のある帝国南部や、レニナオ王国のガーベルク領等では、割と親しまれている食材なんですよ?」

「へぇ~、じゃあ、今度チャレンジしてみようかな」

 2人の創作意欲が盛り上がっている横で、アヤコは料理を作ったのがデーモンナマズという事実を聞いたが為に、まさか自身を茹でて出汁を取ったのでは?と料理を食べるのを躊躇していた。

「フン…。あの様な人間の子供相手に、何故我々が同盟を結ばねばならんのだ?」

「全くだ。魔王とは名ばかりの、青臭い鼻垂れにしか見えん」

 やはり急な同盟は受け入れられていないらしく、超聴覚に不満や愚痴が聞こえてくる。

「ああ、そうだ。此処に来る途中、レヴィアタンを見たよ。島に近付いていた帝国船を沈めてた」

「ほらね、レヴィは頼りになるでしょ?そう簡…」

「その隙をついて、小型船が1船上陸してたよ。確か南西にある岬みたいな場所の裏に」

「ジョスイ!」

「ハッ!」

 コウサカの一声で、直ぐに宰相のリッチが現れた。ん?怪我した後のあるこの顔、どこかで見た顔な気がするな。

「その辺りに住むのは、オークやホブゴブリンと家畜のロックシープです。少数の帝国兵ごときなら問題無いと思われますが…」

 ジョスイは、アラヤを見てフンと鼻を鳴らす。お前も一般的な兵なら直ぐに始末すると言わんばかりだな。どうやら既に嫌われているらしい。

「倉戸、兵数と力量は分からなかった?」

「ん、ちょっと待って。追跡してる仲間に連絡してみる」

 浮遊邸で待機しているアルディスに念話で繋ぎ、上陸者達を追跡監視しているモースに聞いてもらう。

『モースによると、人数は8人、男6の女2。全員が潜伏技能持ちみたい。たった今、近くのオークの集落を無傷で落としたらしいわ』

 この内容をコウサカ達に伝えると、ジョスイは認めず否定する。

「オークと言えども一つの集落には30は居る。帝国兵にそう簡単にやられる筈は無い!」

「どの程度の帝国兵を言っているかは知らないけど、多技能持ちの兵士ならオークぐらいなら…」

「アラヤ!」

 サナエに止められて、ハッと気付く。今は魔物側の陣営に居るのだ。仲間を卑下した言い方は厳禁だ。
 案の定、回りの視線は冷たいものとなり、アラヤ達から距離を取る。

「もう良い、侵入者がそれなりに強い事は分かったわ。それならそれ相応の相手を送るまでよ。ジョスイ、貴方が選抜して向かわせなさい」

「ハッ、直ちに。…魔狼将軍、貴方の兵を少し借りますぞ?」

「ああ、構わん」

 ジョスイは他の魔族にも声を掛け、会場を出て行った。
 残されたアラヤは、コウサカに歩み寄り謝る。

「ごめん。悪気は無かったんだ」

「気にしなくていいわよ。人間を甘く見るのはこの国ではよくある事だし」

「どういう事?」

「この島国に居るとね、他の国との接点が無いのよ。レヴィアタンが居るから外部からまず来れないし。だから、自ら外部に出た者の多くは人間を甘く見てしまい、返り討ちに合う事が多いのよ」

 外の世界には、兵士以外にも冒険者や天敵の聖職者も居る。おまけに攻略法は広められ、知らずに来たアンデッドや魔物は初めから不利な状況なのだ。

「そもそも、今回のその上陸者達が、帝国の人間だとは限らない。ひょっとしたら、ヌル虚無教団の団員の可能性もあるんだよね」

「そうなの?」

「あくまで可能性の話だけど。でも、もしそうなら、其奴等は多技能持ちで間違いなく強者だ。目的もレヴィアタンの祭壇だろうね」

「もしそうだとしたら、何故帝国の船を?」

「奴等はレヴィアタンの注意を引くだけの囮に使っていた。もしかしたら、教団の誰かが人心掌握か洗脳系の技能を持って居るのかもしれない」

 だとしたら厄介だ。潜伏した先で辺りの者達を洗脳したら、見つける事はまずできないし、下手したら寝首を掻かれかねない。

「陛下!其奴等がヌル教団だと言うのなら、同盟の信頼を確認する良い機会です。是非とも見せてもらおうではありませんか、暴食魔王様の協力すると言う姿勢を」

 夜魔族の長であるヴァンパイアが、挑発する様にアラヤを見下ろす。

「もし、できないと言うのなら同盟は白紙。行って逃げ出す様なら、組む価値もありません。まぁ、そうなったら、仲間である奴等も…」

 ヴァンパイアが視線をアヤコ達に向けると、彼女達の背後に別のヴァンパイア達が現れ首裏に牙を構える。

「がっ…⁉︎」

 噛み付く姿勢をしたヴァンパイア達の頭が、メキメキと締め付けられる音が響く。
 アラヤ、クララ、アスピダの3名が、一瞬でヴァンパイア達の頭を掴んでいた。

「もしも彼女達に危害を加えるというのなら、この場で消すぞ?」

「グァァァッッ‼︎」

「何⁉︎(あの場まで一瞬でだと⁉︎しかもなんなのだあの鱗状に変わり巨大化した腕は⁉︎)」

 既にアラヤが掴むヴァンパイアの頭は変形し、目が飛び出そうになっている。その光景に、他の魔族達も引いている。

「倉戸、落ち着いてちょうだい。私がそんな事は絶対にさせないわ」

 コウサカがそう言うのならと、アラヤ達はヴァンパイアを解放する。だが、奴等の態度はまだ反抗的に見える。
 国王であるコウサカの決定にも関わらず、皆が従うという事は無さそうだ。まだ成り立ての国王というのも理由の一つだろう。
 ゴーモラも一枚岩というわけでは無さそうだな。

「協力はする。見届ける証人が必要だ。お前を連れて行くぞ?」

 アラヤは、逃げ腰になっているヴァンパイアの族長の襟元を掴む。

「ぐっ、離せ!」

 慌てて霧状に体を変えようとする族長を、させまいと魔力粘糸で包み込んだ。

「嫌だ!我は伯爵だぞ‼︎この様な事は…!」

「じゃあ、行ってくる。テレポート」

 アラヤは彼を掴み、そのままモースの位置までテレポートした。
 会場に居た者達は、突然光の柱と共に消えた2人に、ただ驚くだけだった。

『あっ、来たのね?ん?誰、それ』

 アラヤとヴァンパイアは、集落から少し離れた位置に居たモースの前に現れた。

「俺の見届け役だよ。逃げようとしたら細切れにして良いよ」

「ヒッ⁉︎」

 見下ろすアラヤの目が笑っていないだけに、ヴァンパイアは震え上がった。
 姿の見えない場所を見て、謎の会話をしている。細切れというワードに、身動きが取れない自分の未来を想像してしまう。
 何故だろう、戦えば我は強い存在なのに、人間なぞ虫けら同然の弱さの筈なのに、感情とは関係無しに、体が、本能が、この子供の容姿の魔王に逆らうなと告げている。

『1人で戦うの?見てたけど、それなりに強い奴等だよ?』

「分かってる。相手は多技能持ちだろ?だから、シレネッタ、シルフィー、キュアリー、スカルゴ、来てくれ」

『『『来たよ』わ』んだな』

 直ぐ様、アラヤの回りに精霊達が姿現しをした。今回は、前回の装甲竜で呼ばなかった契約精霊パートナーを呼んだ。

「ちょっとばかし、俺と一緒に暴れてもらいたい。最低1人は生け捕りにしたいんだ。良いかな?」

『手加減できるかしら?』

『それは相手次第でしょう』

『殺しちゃ、ダメだよぅ?』

『やってやるんだなぁ!』

 アラヤも竜人ドラッヘンの姿になると、コキコキと関節を鳴らした。
 さてと、これで相手が本当にヌル虚無教団なら、ダクネラ=トランスポートの居場所が分かるかもしれない。
 アラヤは昂る気持ちを抑えて、煙を上げる集落に静かに向かうのだった。
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