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第17章 追う者、追われる者、どっちか分からないよ⁉︎

239話 質疑口論

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 オモカツタのグスタフ邸。その応接間に、アラヤは1人招かれていた。
 いや、正確には、説明責任を果たす目的で呼ばれた訳だけど。
 そこには家主であるグスタフ=アグロンスキー街長はもちろんのこと、冒険者ギルドマスターのカザック、大罪教司教のベルフェル、美徳教司教のセパラシオン、分別の勇者ウィリアム=ジャッジが顔を揃えている。

「攻めて来た嫉妬魔王のアカネ=コウサカの目的は、ベヒモスの奪還で間違いなかったのだね?」

「はい、そう言ってました」

「では、最優先目的の前に何故、かの魔王は君を追いかける事を優先していたのかね?」

「それは…その…俺を下僕にしたいと…」

「「「下僕…?」」」

「あら、私も頼みたいわね」

、お前は黙っておれ」

「やーねぇ、冗談よ?」

 パチンとウィンクを飛ばすグスタフに、アラヤは悪寒を感じる。やっぱり苦手だな。

「アラヤ殿の有能さを求めるのは理解できるが、相手は嫉妬魔王、絶対に従ってはいけないよ?」

「もちろんですよ」

 勇者ウィリアムは、以前と変わらず友好的な態度のままだ。ただ、その隣に座るセパラシオンは、疑いの目でアラヤを見ている。

『ベルフェル司教、俺の正体、美德教司教にはバレて無いんですよね?』

『バレてはいないですよ。ただ、前回のベヒモス戦の事もあるから疑ってはいるのでしょう。まぁ、君が魔王という事は隠した上で、この場で話せる範囲で構わないから話した方が良いと思うが』

 そうは言ってもなぁ。色欲魔王のカオリの存在も隠さないといけないし。(ベルフェルはカオリが同行及び結婚している事は知らない)

「君が魔王の部下達に囲まれていた際、飛竜が見えたのだが、あれは君の従獣かね?」

「はい、そうです」

「あの飛竜はラエテマ王国には生息していない種だと思うが、どういう経緯で手に入れたのかね?」

 ん~、ムシハ連邦国で手に入れたって、言ったらマズイかな?確か、世間一般で国渡りは、教団関係者か国の許可が無いとダメだったよね。

「セパラシオン殿、今回の件には関係無い質問では無いかね?」

「いやいや、ベルフェル殿、あの魔王が欲しがる人材ですよ?同じ様に、魔王の息が掛かる関係者の可能性もあると思うが?」

 2人の司教は、とても笑っているとは感じれない笑顔で、バチバチと目線で火花を散らしている。

「あの、自分は一応バルグ商会の商人なんですよ。あの飛竜は、モザンピア領の地下街で手に入れた卵が孵化して育った飛竜でして」

「ほう、モザンピアですか…。確かに彼処は無法地帯。国外の取引も秘密裏に行われていてもおかしくありませんな」

「もう、美德教司教さんは心配し過ぎよ?今は坊やを疑うよりも、次回の襲撃があるかの話でしょうよ?」

「ガハハ、クズタフも偶にはまともな事を言うではないか」

「偶にはは余計よ。で、どうなのかしら?また来る可能性がある?」

「そうですね。諦めた感じではありませんでしたから、来る可能性はあると思います」

「今回は街外で対処できたから良かったが、前回の様な大群での夜襲であったら、またもや大惨事であったかもしれない」

「それもだが、ベヒモスが解放された場合の事を考えると、王都並の被害じゃ済まないかもしれないぞ?」

「ベルフェル司教、王都の悪魔召喚は、ヌル虚無教の仕業だったんですよね?嫉妬魔王が彼等と繋がっている可能性は無いのですか?」

 ウィリアムの指摘の意味も分かる。既に寛容の勇者は美德教団を離れ、虚無教に鞍替えした事は知られている。
 ヌル教教皇となったダクネラ=トランスポートは、大罪教司教でありながら美德教との繋がりもあったという事だ。
 寛容の勇者だけでなく、魔王を1人くらい引き入れている可能性も、無いとは言い切れないのだ。

「それは何とも言えない。ただ、ベヒモスは本来、嫉妬魔王が居るゴーモラ王国の守護をしていた魔物。単に奪還目的だと思うがね」

「大罪教は、魔王共を制御しないからこういう事態になるのだ」

「他所の方針に、口出ししないでいただきたい。そもそも、そちらは既に管理不足で勇者を手放している様だが?」

 なんだろう、魔力に似た圧が2人の間に感じるんだが。この2人、高齢だがかなり強いよなぁ。ステータスはジャミングされているから分からないけど、2人同時相手だと俺も経験の差で勝てないかもしれない。

「2人共、その手の口論を此処でするのは止めてちょうだい。そろそろ、防衛手段に話進めるわよ?」

 グスタフが机を軽く叩き注目を集めると、机上に二枚の大きな地図を広げた。

「一つはオモカツタの見取り図よ。そしてこっちが最近調査を終えた自然洞窟の分布図。これを照らし合わせると、街外からの侵入ルートも結構あるのよ~」

「全てのルートに、監視を配置するのは無理があるのようだの?」

「魔王の再来を考えると、外壁の監視以外に割ける人員は、今の段階でもルート数の半数にも満たないわ」

 あれ?この流れ、俺も防衛に含まれているのかな?当てにされても、オモカツタに長居する気は無いんだけど。

『あの、場所特定の詳細が終わり次第、俺はまた出発する予定ですけど?』

『うむ。過去の出現場所等のまとめは部下達が今している。終わるのは明後日になると思われるが、待てそうに無いかね?』

『まぁ、それくらいなら…』

 正直、コウサカが直ぐに来るとは思えない。アンデッドを一瞬で浄化できる教団員達が多いのを目の当たりにしたのだからね。
 アンデッド以外で部隊を再編成して来るとしても、数日では無理だろうし。

「アラヤ殿、何か良い案は無いかな?」

「単純に、ルートを減らしてみたらどうでしょうか?」

「減らす?」

「はい。要は埋めて通れなくしたり、罠を仕掛けたりして、監視する必要ができるルートを少数にするんです」

 利用価値を考え無ければ、入り口を全部埋めるのが1番だけどね。

「なるほど!そりゃあ簡単で良いな!」

「そうね。なるだけ防衛しやすい地形のルートだけ残しましょう。これは、うちの連中と冒険者ギルドが担当するわ。両教団には、ベヒモスに更なる鉄壁の封印をお願いしようかしら?おたくらの研究等でせっかく封じ込めが脆弱化してそうだもの」

「皮膚摘出には細心の注意を払っているが、確かに今は用心に越した事は無いな。大罪教団は、研究の一時停止と摘出場の一時閉鎖を約束しよう」

「美德教も等しく、研究を中断する。監視及び守備には分別の勇者が就く」

「応、任された」

 おお、どうやら俺達は何もしなくても良いみたい…かな?
 グスタフが、ニコッと嫌な笑顔でこっちを見ている。嫌な予感しかしないな。

「坊やには、別件で頼みたい事があるのよね~。もちろん、報酬もあるわよ?」

「…一応、内容を聞いてからの判断で良いですか?」

 皆が何かしらの対策に協力しているから、断わり辛い状況だよね。

「ええ、それで良いわよ。じゃあ皆さん、これにて解散よ~。各自宜しくね~?」

 アラヤとグスタフを残し、部屋から皆退室して行く。アラヤは、一応警戒した状態でグスタフと向き直った。

「それで、頼みたい件とは?」

「もう、気が早いわね。お茶してからでもって思ってたのに。…まぁ良いわ、それじゃあ説明するわね?」

 グスタフは、卓上に広げられたままの地図に小さな石を置く。

「この石がね、洞窟調査の際に見つかったのよ」

 その石を鑑定してみると、ヒヒイロカネ鉱石と表示された。

「ヒヒイロカネ…⁉︎」

「そう、幻の古代鉱石よ?レニナオ鉱山でも見つかったって噂は聞いた事はあるけど、実際に目にした者は居ないんでしょう?」

 ヒヒイロカネ。その性質は金よりも軽く、一度鍛治錬成すれば、アダマンタイトと同等の硬さを持ち、永久不変で絶対に錆びないという。
 石に触れると冷たく、触れた熱で赤く輝く。これは熱伝導も半端ないな。

「確かに、俺も初めて見ました」

「フフ、坊やの鑑定でもそう表示されたなら間違いないわね。良かったわ、これで街の財政も良くなりそうよ。この石はね、ちょっと広いこの場所で見つけたらしいの。そこには、沢山のヒヒイロカネがあったって報告があるのよ」

「…ひょっとして、発掘の依頼ですか?」

 錬成加工する前でも、既にかなりの硬度があるだろうから、発掘はそう簡単では無いだろう。

「半分正解よ」

「半分?まさか…」

「フフフ、気付いた?そう、居たのよ。厄介な門番がね?」

 やっぱり。普通なら冒険者に依頼するところだろうが、グスタフはアラヤ達の強さを知っている。それに、商人としての立場を鑑みて断らないと思ったのだろう。

「それで、その門番ってのは?」

「ド、ラ、ゴ、ンよ?報告だと、ちょっと小柄の痩せた亜種のドラゴンって聞いたわ。とは言ってもドラゴンだからね、カザックの率いる冒険者達では荷が重いだろうって思うの。報酬は破格の大白金貨10枚よ。どう?引き受けてくれない?」

 なるほど。そのドラゴンを何とかしないと、その奥のルート封鎖も発掘もできない訳か。勇者に頼まなかったのは、オモカツタの財源にしたかったからかな。教団が絡むとややこしくなりそうだしね。

「…追加報酬に、最初に俺達に一部の発掘と採集を。それと後の発掘した品の仕入れ権をバルグ商会に許可してくださいね?」

「ぐっ、…仕方ないわね。でも、最初に採り過ぎなんてのは駄目だからね~?」

「もちろんですよ」

 この時ばかりは嫌がらずに、アラヤは笑顔でグスタフと握手を交わした。
 とは言っても相手はドラゴンだ。気を引き締めて、ドラゴン肉をゲットしに向かいましょうかね?
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