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第16章 昨日の敵は今日の友とはならないよ⁉︎

235話 円卓会議

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 室内には窓は無く、円卓の上に間隔を開けて置かれた燭台の灯りのみだ。
 薄暗い室内を見渡すと、呼び出された魔王達は、皆がアラヤ達を見ている。
 それはそうだ、強制転移されたクラスメイトばかりが魔王である筈だと彼等は思っている。
 なのに、その席に見知らぬ亜人と、ドワーフばりにムキムキな男が居たら疑念も出るのは当然だ。正直、アヤコはやり過ぎ感があるし。

「教皇さんよ、此奴等は誰なんだ?死んだゴウダの代わりが居るって、知らされてないぞ?それに、人間じゃなく竜人ドラッヘンが、見つからなかった暴食魔王なのか?」

 前世界より2回り程体格が増している坂東礼二こと憤怒魔王は、隣に座っているベールで顔がハッキリ見えない教皇に対して下から睨み上げる。

「控えよ、憤怒魔王」

 教皇は答えず、その隣にいる大司教が杖により坂東を押し戻した。
 どうやら、大司教側はこの状態の我々に干渉できるみたいだな。

「魔王同士の自己紹介と申し開きは各々後で頼む。今は、全員が揃った様なので、会議を始めさせてもらおう」

 大司教が席に座ってようやく、教皇が片手を挙げて注目を集める。

「魔王各位、急な集会に呼び立てた事、先ずは詫びよう」

 その声から察するに、かなり高齢の女性であると分かる。
 鑑定は、この空間だからかは分からないが、誰一人として表示されない。教団側の配慮かな?

「皆は、厄災の悪魔召喚の件を知っているだろうか?」

 その質問に、アラヤ達と怠惰魔王のイトウが頷く。
 他はというと、嫉妬魔王のコウサカは質問に対して興味がないらしく、強欲魔王のアラガキをジト目で見ている。
 アラガキは、手元に持つ何かの資料を見ながら聞き流している。
 バンドウは変わらず教皇と大司教に眼を飛ばしている。
 やっぱりダメだな此奴等。会議が進まなければ早く終わらないってのに。

「知っているものとして話を進める。厄災の悪魔アスモデウスは、色欲魔王の協力によって解決したが、その召喚者の行方は未だ不明である」

「ああっ?一色の奴が、悪魔をどうこうできたのかよ?」

「出来たら何?」

「俄然、興味が湧いたぜ。ヘヘッ…」

「私は無いわよ」

 バンドウは教皇達からカオリに興味を移したらしく、挑発するように見下している。安い挑発だな。以前はまだ硬派的な面もあったと思うんだけど、カオリを強者として見ているって事かな?

「その召喚者だが、我が信頼できる者の調査により身元が判明した。名をダクネラ=トランスポート、同じく信頼していた大罪教司教だった」

「んだよ、身内だったわけか」

 トランスポート?知らない名だ。どうやらアラヤ達が疑っていた奴等じゃなかったらしい。

「この場に居る者のほとんどが、会った事はある筈だが?」

「…それは、強制異世界転移の時だな?」

「そうだ怠惰魔王。あの時は、お前達魔王と配下を各地に飛ばす役割を担っていた」

「あの野朗か!へっ、大幹部じゃねーか?ザマァねぇな」

 アラヤとアヤコは会った事は無いけど、ポスト的にもかなりの実力者である事は間違い無いだろう。

「そのダクネラが、現状起きている世界情勢の破綻の元凶とも言える。奴は、グルケニア帝国の上層部と勤勉の勇者達を使い、ラエテマ王国との戦争を引き起こした。それでいて、守備が落ちた帝国を、寛容の勇者と魔王をして攻めさせた」

 教皇の視線は、アラガキに向けられている。どうやら協力した魔王はアラガキらしい。

「…奴が俺を利用したんじゃない。俺の利害に、奴を俺がしただけだ。現に、帝国の湾岸一帯は我国の領土となったからな」

 そういえばアラガキは、魔人族が住む国ソードムの国王になったんだっけ。正直、こんな奴が上に立つ国って大丈夫なのか?見てもいないけど、俺は住みたく無いな。

「大体、俺達魔王の行動は自由な筈だ。今更戦争を起こすなと規制するつもりか?」

「規制はしない。此度の議題は、正にその件を評議する事にある」

 大司教が、机上に魔法で世界図を展開すると、更に都市名や軍がアイコンで表示された。

「先ず現状で、グルケニア帝国とラエテマ王国は戦争により弱体化し、ムシハ連邦でも内乱が起きている。その全てに関わるのが、ダクネラだ。奴は、虚無神なるヌル神を崇拝し、その名をヌル虚無教とした。ダクネラは自らを教祖と名乗っている。そして魔王配下候補者達を率いて教団を起こした。その中には、やはり寛容の勇者も居るらしい。美徳教団側としても、予想外の事だった様だ」

 ハウン達の様な配下候補者達が団員か。技能を鍛えた者達ばかりが居るんだろうから、大罪教としてもかなりの脅威且つ痛手だろうな。

「其方達、魔王に規制は無い。だが、今後奴と関わり協力する事だけは容認しかねる。あくまでも、フレイア大罪教の管轄下でなければ、我々も擁護と不干渉を約束は出来ぬ。害なす者として見做す事も吝かではない」

 教皇のその語尾は強く、行動と決断に念を押す意味合いを感じる。

「奴は、其方達魔王に接触を図るだろう。その目的は、決して協力や傘下に加えようというものでは無い。例えどの様な甘言を述べようとも、奴の真の目的は厄災の悪魔召喚に必要な魔王を供物として利用する事にある」

「フフフッ、厄災の悪魔と騒いでも、一色さんが倒せる程度の悪魔でしょう?私の国にも強い悪魔は沢山居るわ。来たところで返り討ちよ」

 一度死んだ事で、リッチロードという魔物になった嫉妬魔王アカネ=コウサカは、ゴーモラ王国で魔族の女王になったという。その肌は薄紫色で、童顔にツインテールと前世界の面影はあるものの、その眼には生気は感じられない。

「問題は厄災の悪魔だけではないわ。禁呪の事も話すべきよ?」

 カオリがそう言うと、教皇と大司教は無言で頷く。相手を知る上で、禁呪は話しておかねばならない事だと認めた様だ。

「禁呪?なんだそれは」

「私達がこの世界に転移するよりも前に、一つの国が禁呪によって滅亡したわ。そこで使用された禁呪は、原爆に似た魔法だったらしいわ」

「原爆だと⁉︎マジかよ、そりゃあヤバイな」

「フム、流石は色欲魔王。いろいろと調べている様だな。因みに、その国を滅した禁呪を用いたのも、ダクネラであった。そして、此度の戦争の際にも、新たな禁呪をラエテマ王国より持ち去っている」

「おいおい、そんなヤベー魔法に対抗出来るのかよ?」

「対応できるのは、我々教団の中でも教皇様と私くらいだ。故に、その禁呪を放たれる前に、奴を見かけたら知らせてもらわねばならない」

 まぁ禁呪を昔から知る教皇は対応出来ても不思議じゃない。ただ、そこでカオリも対応できるよとは言う必要は無いし、教えるつもりもないけど。

「だから、裏切るなって事?」

「そういう事だよなぁ」

「フン、指図されるのは気に食わないな」

 明らかに嫌そうな態度を取る3人に、教皇は手を挙げて落ち着かせる。

「無論、これは強制では無い。選ぶ権利は誰にでもある。そう、怠惰魔王、色欲魔王、強欲魔王、暴食魔王、其方達もな」

「私は面倒事は嫌いでね。変わらずスローライフを送れるのであれば従うよ」

 先生は葉巻きを取り出すと、火を着けて一服した。その煙は室内には広がらない。

「私はどちらの味方にもならないわ。自分と大切な者達の障害になりえるなら、敵と見做して戦うだけよ」

 カオリは、アラヤ達と繋がりが無い様に見せる為にも、教団に従うとは言わなかった。

「俺は奪うだけだ。其奴らが禁呪とやらを持っているのなら奪い、俺の命を狙うというのなら、命を奪うだけだ」

 無法者キャラを演じるアヤコは、ゴツい見た目と違い、声質がまだ女性寄りだった。故に言葉に迫力が足りない。
 その違和感に、バンドウやコウサカは笑い出す。

「フン、この程度の者達と手を組めと言うのであれば、茶番だと言わざるを得ないが、此奴らとも不干渉でいられると言うのなら、大罪教の管轄下でも構わん」

 アラヤが三人を鼻で笑うと、俄然アラヤに対する態度が悪くなる。

「蜥蜴ぶぜいが俺を小馬鹿にしたのか?」

「可愛く無~い」

「…お前、ひょっとしてコロシアムに来たニイヤとかいう竜人か?」

 バンドウがマジマジとアラヤを睨みつける。あのコロシアムにはバンドウは居なかった筈だ。

「他のコロシアムでも噂になってたんだよな~。なぁ、お前はパガヤに住んでいるのか?なら遊びに来いよ、相手してやるからよ?」

 ニヤニヤしながら挑発するバンドウを、アラヤは無言のまま冷めた目で見る。
 それを見たコウサカが更に笑い出したところで、教皇が咳払いをした。

「今回の会議は、ダクネラ=トランスポートの危険性と、今後の対応についてであった。我が教団に賛同一致とはいかなかったが、理解してくれたものと思う。後は各自の判断にて身を守り、対処するものとする。これを持って今回の会議を閉会とする。皆、御苦労であった」

 再び教皇が手を挙げると、円卓上の燭台の灯りが強まり、明るく室内が照らされたところで会議室から解放され、元居た部屋に戻されたのだった。
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