【完結】スキルが美味しいって知らなかったよ⁈

テルボン

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第16章 昨日の敵は今日の友とはならないよ⁉︎

233話 成長

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 ヤブネカ村に滞在して3日目。

 アスピダとオードリーは今日も守衛達を鍛えに向かい、チャコとアフティは牧場巡りに向かった。
 ブルパカとイービルスパイダーの番を譲ってもらうから、話をして選ぶらしい。
 イシルウェとディニエルも同伴したが、アルディスはアヤコと共に子供達の勉強会に向かった。
 レミーラはメリダ村長の工房で、村長に鍛治師の講習をして、サナエはコルプスを連れて村の食堂で郷土料理の練習をしている。
 カオリは、ファブリカンテとモドコ店長の店で石鹸や薬草の話で討論会をしている。

「皆さん、村に慣れましたね」

 クララとハウンを連れて、アラヤは治療院に来ていた。というのも、トーメさんの針治療とマッサージを体験して覚えようという魂胆だ。
 ヒールや薬草があれば怪我は治るけど、精神的疲労にはマッサージが効果的だし、針治療で人体の経絡や経穴を知りたいんだよね。

「この娘の体は不思議じゃのぅ?尻尾が生えとる」

 人狼ヒューウル姿のクララがうつ伏せになり、トーメさんにマッサージを受けている。

「んっ…、ふっ…」

 やはり気持ち良い様で、声が漏れそうになるのを堪えている。
 隣のベッドには、同じくうつ伏せになったハウンが、アラヤの針治療の練習役を引き受けている。

「体温が少し高くなってきたね。って事は、この経穴で合ってるみたいだね」

 トーメから渡された羊皮紙には、経穴の場所と効果が書いてあり(言語理解が無いと読めない)、それに合わせて確認しているのだ。
 見えているのが背中だけとはいえ、上半身裸でうつ伏せになっているハウンは、恥ずかしさで顔を枕に埋めている。それだと、効果が分かり辛いんだけどなぁ。

「アラヤ君には、私の跡を継いで欲しいんじゃがのぅ…」

「…ご主人様、昨日は棟梁からも同じ事言われてましたね」

「う~ん、そう言われてもね…俺達はまた旅に出ちゃうし。やっぱり跡継ぎは永住する村人じゃないとね…ああ、ダンとかどう?」

「あの坊主は異性に耐性が無い小倅だからダメじゃ。無心で施術できる者でないとの」

 トーメさんの言う事も確かに分かる。マッサージを受けていたクララは、気持ち良すぎて多少高揚した表情を見せている。飢えた男なら我慢ならないかもしれない。

「少しずつ、村民は増えているんですよね?」

 ヤブネカ村を訪れた人や、商人を通して噂を聞いた人達が、村に住みたいと来ているらしい。確かに住みやすい村だし、全員で食事をするスタイルに憧れる人もいるのだとか。

「まぁ、確かに増えてはいるけどねぇ。村長が私の下には連れて来ないのじゃ」

「それじゃあ、俺からも頼んでみるよ」

 治療院から出たアラヤ達は、メリダの工房に向かった。
 中ではレミーラの講習が終わったところで、村長は習った内容を熱心に書き記していた。独学で鍛治をしていたから、学ぶことが多かったみたいだね。

「おお、アラヤ。ゴードン氏の娘さんは流石だね!とても参考になったよ」

「村長、ちょっと良いですか?」

「ああ、構わないよ。私も話があったからね」

 アラヤは、トーメさんが治療院の存続の為に弟子を育てたい旨を伝えた。

「ん~、弟子ねぇ。最近来たばかりの若い子だと食われちゃうからなぁ」

「く、食われる⁉︎」

「あ、いや、食べるって意味じゃ無いぞ?その…トーメさんは若い男が好きでね。アラヤ達が来る前も、弟子候補は当てがった事はあるんだが、皆んな彼女の虜になってな。改心させるのに苦労したんだ」

 あの歳で、若い男性を虜に?余程のマッサージテクニックをまだ持っているんだな…。マッサージしてあげるよ?と偶に誘われた事もあったが、その度に忙しくてあまり受けて無かった。ひょっとして、俺も狙われていたのか?

「ならば、女性を候補にするべきでは?」

「トーメさんは嫌がるだろうけど、それしかないね。ただ、若い女の子はダメだね。若い男衆が治療院に入り浸るだろうし」

「…ハンナさんはどうかな?」

 女性でマッサージ師を考えたら、棟梁の奥さんがしっくりくる気がした。

「あ~、力もあるし、器量も良いかもね。彼女に相談してみるよ」

「それで、俺に話ってのは何ですか?」

「ああ、ちょっとここではできない話なんだけどね」

 ハウンとクララだけでなく、レミーラにも話を聞かれるのはマズイかもって事かな?

「それなら、俺達の今の住居に行きますか?」

「ん?今の住居?」

「はい。話すより見た方が早いですよ。テレポート」

 メリダの手を掴み、浮遊邸の広場へテレポートする。

「…驚いたね。この広さ、村かい?ああ、でも住居なんだね」

 建ち並ぶ建物を見て、へぇ~っと頷いている。

「本当に驚いてます?他の人が来た時は、かなりビックリしてますけど」

「いや、驚いちゃいるよ?ただ、アンタ達なら有り得るって受け入れてしまうんだよね」

「…そうですか。とりあえず、来賓館の個室に案内します」

 アラヤは、来客用でもVIP用の部屋へと案内した。少しは驚いた表情を見たいって思ったからだ。
 室内には豪華なレミーラの装飾品が並び、ソファの後ろに壁掛けてあるタオの風景画が、見る者の心を奪う事間違いない。
 落ち着いて過ごせるように、寝室には伽羅の香りがしている。

「これはまた…私には勿体ない部屋だね」

 中を見たら、彼女は入ろうとするのを止めてしまった。遠慮なく入って欲しかったんだけど、王都の宿屋と変わらない普通の個室へと自分から入っていく。

「確かに此処なら、誰にも話を聞かれないね」

 村長は椅子に腰掛けると、アラヤも座るように促す。

「単刀直入に言うよ?貴方達が村に帰省する前日に、私の下に大罪教の大司教様が魔法で訪ねてきた。どうにかして貴方達と連絡が取れないか?ってね」

「大司教自ら⁉︎」

「そうよ。もちろん、村人達も知らないわ。貴方が使った魔法みたいに、工房にいきなり現れたのよ」

 アラヤ達が教団と距離を取った事で、まさか関係者を当たって回っているのか?

「アラヤ、貴方の正体はもう教団に知られているのね?」

「…はい。インガス領に行った際に目立ってしまい、司教に見破られてしまいました。一応、不干渉を条件として少しの情報交換をする程度の関係を保っていたんですけど…。戦争や教団内での論争等があり、一切の連絡を取らなくしたんです」

「はぁ…。バレちゃってたか。教団なんてしがらみは無縁にしてあげたかったんだけどね。おそらく、向こうは再び行動を把握したいって事でしょうけど、特に今は戦時中だからね」

 ガルムさんと2人して、教団から隠そうとしてくれていたのに、ちょっと申し訳ないよね。

「……今、この浮遊邸で世界を旅しているんですけど、故郷設定にしていたナーサキ国を滅ぼした奴を追ってるんです」

「ああ、そういえばナーサキの貴族設定だったね。しかし、そんな相手、アンタに追う義理は無いだろう?」

「確かに直接の関係性は無いですが、其奴は魔王を狙っています。そして、王都に厄災の悪魔を召喚したのも其奴なんです」

「厄災の悪魔だって⁉︎王都は今、そんな大変な状態なのかい⁉︎」

 やはり地方だけあって、情報が届くのが遅いみたいだ。

「悪魔は無事倒されましたよ。今は復興しようと皆が頑張っているところです。ただ、その首謀者には逃げられてしまいましたが」

「まさか、その厄災の悪魔を倒したの、アラヤじゃないだろうね?」

「それはじゃないですよ。ただ、其奴が次に向かう場所が分からずに困っていたんです。だから、教団側が知っているのなら、再び話すのも有りかもしれません」

「今度は厳しい条件を言ってくるかもしれないよ?」

「大司教自らですもんね。まぁ、提供してくれる内容次第では、少しは妥協しますよ」

「ふぅん、やっぱり少しは成長してるわね」

 村長は、感心感心と頷く。村長からすれば、まだまだ子供扱いだなぁ。

「そうそう、連絡が取れる場合には、この魔道具を使えと渡されたわ」

 村長は、鍛治作業ズボンの内ポケットからゴソゴソと何かを取り出した。

「それは羅針盤ですね」

 見た目は普通の手の平サイズの羅針盤だが、確かに奇妙な魔力を感じる。
 アラヤが受け取ると、中の針が突然回転しだした。

「やばっ⁉︎起動しちゃったかも⁉︎」

 今度は回転していた針がピタリと止まると、ホログラムの様に小さな人物が浮かび上がる。

『これは、お初にお目に掛かる暴食魔王アラヤ。私は、フレイア大罪教大司教のモーガンという者。此度は大罪教を代表して、其方に大事な話がある』

 一方的な話の展開に、アラヤは魔道具のスイッチが無いかを探す。だが残念ながらそれらしき物は無かった。
 これは大人しく、聞くだけ聞いてみるしかなさそうだと、溜め息を吐くのだった。
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