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第16章 昨日の敵は今日の友とはならないよ⁉︎
229話 エンリル VS 勤勉の勇者
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アラヤは魔法で移動範囲を制限させないと、勇者の動きに対応するのは困難であった。
アラヤも、身体強化はLV4なのだが、こうも対応が遅れるという事は、明らかに身体強化のレベル差による結果だ。つまり、勤勉の勇者はLV5以上という事である。
ただ、アラヤにはステータスが上がる大精霊の加護がある。そのおかげで、攻撃を躱す事はできている。差は僅かなものなのだろう。
「フハハハッ!」
魔法による火傷や切り傷が増えていく勇者は、勢いが落ちるどころか増している様に見える。
流石に、街を破壊し過ぎる火属性魔法は控えているが、この分だと大した効果は期待できないかもしれない。
アラヤも大剣による斬撃は躱してはいるが、体当たりや足払いなどの剣士らしからぬ攻撃を少し受けてしまった。
その威力に骨が軋む。竜鱗の上からこのダメージは驚きだ。
「良いぞ、竜人の少年!古竜並に経験値が飛躍している!」
(経験値⁉︎まさか、特殊技能か何かで、この勇者には成長レベルの概念があるのか⁉︎)
確かに、魔法に対する耐久力が上がっている気がする。だとすると、長期戦は逆効果だ。アラヤに自己再生があるとはいえ、あんな攻撃を何度も受けてはいられない。
「どうした少年、そんな事ではあの女性は返せないぞ?」
だが、やはりコイツは許せない。一か八かで弱肉強食をバイト(噛み付き)技能と織り混ぜて使用するか?
いや、今の勇者に噛み付く距離まで接近するのは自殺行為だ。
それなら、エンリルを呼ぶとしよう。
『エンリル、俺の元に来い!』
勇者を何とか突き飛ばした後、建物の屋根に乗り名前を呼ぶと、手の甲に奴隷紋が浮かび上がり光った。
「むっ⁉︎空気が変わった⁉︎」
辺りの霧が瞬く間に霧散して、上空から風圧を感じる。
陽の光が差し込み、大きなシルエットが勇者クリスチャートと重なる。
「まさか、古竜⁉︎」
巨大な両翼を広げ、その古竜はアラヤの直ぐ後ろに降り立った。
「良く来てくれたね、エンリ…」
『おのれっ!何で我が、貴様の呼び出しに従わねばならんのだ⁉︎』
「ま、まあまあ、俺は来てくれて嬉しいよ?」
『貴様が嬉しいとか、気持ち悪いわ!』
「…後でエアリエル様からお叱り頂くね」
『ぐ、ぐぬっ…』
何やら古竜と語り出す竜人の少年に、まさか、古竜と知り合いだというのか?勇者は更なる強敵出現に興奮が増して来ていた。
「それにね、あそこに居る人間は、火の大精霊の眷属竜を倒した勇者だよ?」
『ほぉ、リンドヴルを倒した奴か』
エンリルは勇者を見下ろすと笑い出した。
『リンドヴルは、こんな人間に負けたと言うのか?彼奴も、穴蔵生活でさぞかし体が鈍っていたのであろうな。全く馬鹿な奴よ、フハハハッ‼︎』
「我が名は勤勉の勇者クリスチャート=高須=スタディ!貴殿は名のある古竜とお見受けした!」
臆する事無く高々と声を上げるクリスチャートは、その大剣の切っ先をエンリルに向けた。
「いざ、尋常に勝負をお願いする!」
『笑止!この風の大精霊エアリエル様の眷属竜である我に挑むなど、身の程知らずと知れ‼︎』
エンリルは、威嚇で羽ばたきをし、強い風圧を勇者にぶつけた。
辺りの戦闘で崩れかけた建物が、その風圧で崩壊して飛ばされる中、勇者はどっしりと地に足をつけて耐えた。
(ああっ、街を破壊し過ぎだよ。近くにはクララも居るし、アヤコさんも…あれ?)
辺りが軽く更地になり掛けている中、クララの反応の周りに複数の反応がある事に気付いた。
純潔の勇者だけでなく、サナエやハウン、終いには当のアヤコ本人の反応もあるではないか。
『ちょっと、クララ⁉︎そこはどういう状況⁉︎』
念話が届いたクララは動揺してアヤコを見上げる。
「アヤ、これは流石にアラヤも怒るわよ?」
「た、確かに、この事態は予想外でした」
まさか暴風竜を呼び出してしまうなんてと、アヤコは冷や汗を流す。
縛られても尚、サナエに魅了されて群がる鍛治師と運び屋を見ると、取り繕う算段を思いついた。
『あ、アラヤ君、私、勇者達の…』
クララに代わって念話を繋いだアヤコは、言い訳を始めようとする。
『アヤコさん‼︎良かった!無事なんだね⁉︎』
アヤコの声だと分かると、真っ先に無事を喜ぶアラヤに、アヤコは馬鹿な言い訳をしようとしていた自分が情けなくなった。
正直に事の経緯を説明すると、アラヤは黙って聞いていた。
『分かった。説教は後だよ。自分で呼んどいてなんだけど、今はこの事態を何とかしないと。どうすれば良い?』
アラヤ自身も、アヤコの声を聞いた事で冷静さを取り戻していた。怒りに任せて戦っていただけに、北区の街の一画は悲惨な状況となっていた。
しかも、現在進行形でエンリルと勇者が破壊している。
『…という作戦でどうでしょう?』
『分かった、タイミングを合わせてやってみるよ』
アヤコの作戦を聞いたアラヤは、戦いに夢中になっている両者の死角に、魔力制御で気配を消して移動する。
「流石は古竜。装甲も硬い上に力もある。何より、地上から離れられると戦い辛いな」
勇者が、アラヤが先程の戦いの最中でアースクラウドで無造作に作り出した足場に着地すると、待ってましたと形を変形させて足を取り込む。
「むっ⁉︎足を掴まれた⁉︎」
そのまま足場を高く伸ばしていき、エンリルの前で止める。
勇者は、直ぐに足元の魔鉱石を破壊しようとするが、その前にアラヤは姿を現し、エンリルに命令する。
「全力で吹き飛ばせ‼︎」
『グゥオオオオッ‼︎』
エンリルは、意志に反して自身の最大風力を身動きが取れない勇者に向かって放った。
「うわぁぁぁぁぁっ…」
横に伸びた竜巻によって、勇者クリスチャートは足場ごと王都の外まで飛ばされていった。
常人なら死んでいるだろうが、まぁ、あの勇者なら大丈夫だろう。
『貴様、よくも我の遊戯を邪魔してくれたな⁉︎』
「まあまあ、埋め合わせは帰ったらするからさ。とりあえず、お疲れ様。浮遊邸に帰って良いよ」
『フンッ、物足りなかった』
エンリルは両翼を羽ばたかせて、浮遊邸の方角へ飛び去って行った。
「ふぅ、一応、一件落着かな…?」
王都を包み込んでいた毒霧も、アスモデウスが消えて以降弱まっていたのが、先の竜巻でだいぶ消えていた。
アラヤはアヤコ達と合流すると、軽く抱きしめあった。流れでハウンまでハグしたら、彼女はその後顔を隠していた。
「それで、この人達はどうするの?」
サナエに頬を撫でられて、悦の表情を見せる純潔の勇者達。
事情は聞いたけど、勇者を魅了して拘束している姿を見ると、俺達は完全な悪者だよね。まぁ、魔王らしいってなるのかな?
「魅了が切れるのはどれくらい?」
「たまに繋いで踊っていたから、後10分ぐらいかな」
「魅了されている間の記憶ってどうなの?」
「あまり覚えていない筈よ?強力な催眠に似ているから、夢みたいな記憶になると思う」
「ええ、それは実証済みで、間違いありません。ですから、拘束を解いて放置しても問題はありませんが…」
アヤコとしては、直ぐに離れるべきと考えている様だ。まぁ、魅了される前に会っているだけに、いろいろと記憶を呼び起こし兼ねないのは確かだ。
「確かに、誤解を解いて仲良くって訳にはいかないよね…。ハウン、頼まれてくれる?」
「了解しました。拘束を解いた後、美徳教団まで連れて行きます」
「俺達は、トーマスさんに事の次第を説明しに行こうか?」
魔導感知に、トーマス達が向かって来るのが分かった。アラヤ達は、自分達に都合の良い情報を伝える為に向かう。
すると、冒険者達が魔物の残党狩りに回る中、トーマスは北区の中央で街の惨状に打ち拉がれていた。
「トーマスさん、ご無事だったんですね!」
「…アラヤ殿。北区では一体何が…?」
火災は起きていないものの、どの区よりも街の被害が酷い。まさか、自分が半分は壊しましたとは言えない。
「実は北区には件の悪魔が居まして、敵わず逃げていたところ、今度は勤勉の勇者達が現れまして」
「おお、共闘したのかい?」
「いえ、そこに更に暴風竜エンリルが現れまして…」
「……確かに、古竜が現れたのは、目撃した者が多い。俺も、空飛ぶ姿を見たからな」
「はい、その暴風竜が、悪魔を喰らい、勇者を吹き飛ばして去って行きました」
「……」
流石に話に無理があるかなと不安になる。ところが、トーマスはフゥと一息吐くと頷いた。
「まぁ、古竜相手なら、流石に被害賠償を申請できないな。勇者が居たのなら、美徳教団にでも、助成金を申請してみるかな?」
「それは流石に…」
「冗談だ。魔物討伐に協力してくれた者に請求する訳ないだろ?無論、君達にも感謝してるから、多少の破壊行為には目を瞑るさ」
トーマスのジョークに冷や汗をかきながら、アラヤ達は一度体勢を整える為に避難区に戻るのだった。
一方、エンリルによって飛ばされたクリスチャートは、王都から離れた民家の馬房の藁に埋れていた。
「ブハッ…」
口から藁を吐き出して咳き込む。全身が強打されて痛むが、全く動けないわけではない。少しばかり安静にしていれば、体力が戻り多分大丈夫だろう。(自己再生は無い)
「ククク、今日だけでLVが5も上がった。やはり大物は経験値が上がりやすいな。だが、1番の驚きはあの少年だな」
勤勉の勇者は、固有の特殊技能で熟練度とは違い、ゲームの様なLVがあるのだ。ただ、そのLVも100を超えてからは伸び悩んでいたのだが、アラヤとの戦闘中に得た経験値は、古竜相手に得た経験値よりも多かったのだ。
「アレが、教団の言う魔王という者かもな。ククク…少年、俺が世界一の最強剣士になる為の礎になってもらうぞ!」
1人大笑いする勇者は、新たな目標を見つけた事に安心して、再び藁に身を委ねるのだった。
アラヤも、身体強化はLV4なのだが、こうも対応が遅れるという事は、明らかに身体強化のレベル差による結果だ。つまり、勤勉の勇者はLV5以上という事である。
ただ、アラヤにはステータスが上がる大精霊の加護がある。そのおかげで、攻撃を躱す事はできている。差は僅かなものなのだろう。
「フハハハッ!」
魔法による火傷や切り傷が増えていく勇者は、勢いが落ちるどころか増している様に見える。
流石に、街を破壊し過ぎる火属性魔法は控えているが、この分だと大した効果は期待できないかもしれない。
アラヤも大剣による斬撃は躱してはいるが、体当たりや足払いなどの剣士らしからぬ攻撃を少し受けてしまった。
その威力に骨が軋む。竜鱗の上からこのダメージは驚きだ。
「良いぞ、竜人の少年!古竜並に経験値が飛躍している!」
(経験値⁉︎まさか、特殊技能か何かで、この勇者には成長レベルの概念があるのか⁉︎)
確かに、魔法に対する耐久力が上がっている気がする。だとすると、長期戦は逆効果だ。アラヤに自己再生があるとはいえ、あんな攻撃を何度も受けてはいられない。
「どうした少年、そんな事ではあの女性は返せないぞ?」
だが、やはりコイツは許せない。一か八かで弱肉強食をバイト(噛み付き)技能と織り混ぜて使用するか?
いや、今の勇者に噛み付く距離まで接近するのは自殺行為だ。
それなら、エンリルを呼ぶとしよう。
『エンリル、俺の元に来い!』
勇者を何とか突き飛ばした後、建物の屋根に乗り名前を呼ぶと、手の甲に奴隷紋が浮かび上がり光った。
「むっ⁉︎空気が変わった⁉︎」
辺りの霧が瞬く間に霧散して、上空から風圧を感じる。
陽の光が差し込み、大きなシルエットが勇者クリスチャートと重なる。
「まさか、古竜⁉︎」
巨大な両翼を広げ、その古竜はアラヤの直ぐ後ろに降り立った。
「良く来てくれたね、エンリ…」
『おのれっ!何で我が、貴様の呼び出しに従わねばならんのだ⁉︎』
「ま、まあまあ、俺は来てくれて嬉しいよ?」
『貴様が嬉しいとか、気持ち悪いわ!』
「…後でエアリエル様からお叱り頂くね」
『ぐ、ぐぬっ…』
何やら古竜と語り出す竜人の少年に、まさか、古竜と知り合いだというのか?勇者は更なる強敵出現に興奮が増して来ていた。
「それにね、あそこに居る人間は、火の大精霊の眷属竜を倒した勇者だよ?」
『ほぉ、リンドヴルを倒した奴か』
エンリルは勇者を見下ろすと笑い出した。
『リンドヴルは、こんな人間に負けたと言うのか?彼奴も、穴蔵生活でさぞかし体が鈍っていたのであろうな。全く馬鹿な奴よ、フハハハッ‼︎』
「我が名は勤勉の勇者クリスチャート=高須=スタディ!貴殿は名のある古竜とお見受けした!」
臆する事無く高々と声を上げるクリスチャートは、その大剣の切っ先をエンリルに向けた。
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『笑止!この風の大精霊エアリエル様の眷属竜である我に挑むなど、身の程知らずと知れ‼︎』
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(ああっ、街を破壊し過ぎだよ。近くにはクララも居るし、アヤコさんも…あれ?)
辺りが軽く更地になり掛けている中、クララの反応の周りに複数の反応がある事に気付いた。
純潔の勇者だけでなく、サナエやハウン、終いには当のアヤコ本人の反応もあるではないか。
『ちょっと、クララ⁉︎そこはどういう状況⁉︎』
念話が届いたクララは動揺してアヤコを見上げる。
「アヤ、これは流石にアラヤも怒るわよ?」
「た、確かに、この事態は予想外でした」
まさか暴風竜を呼び出してしまうなんてと、アヤコは冷や汗を流す。
縛られても尚、サナエに魅了されて群がる鍛治師と運び屋を見ると、取り繕う算段を思いついた。
『あ、アラヤ君、私、勇者達の…』
クララに代わって念話を繋いだアヤコは、言い訳を始めようとする。
『アヤコさん‼︎良かった!無事なんだね⁉︎』
アヤコの声だと分かると、真っ先に無事を喜ぶアラヤに、アヤコは馬鹿な言い訳をしようとしていた自分が情けなくなった。
正直に事の経緯を説明すると、アラヤは黙って聞いていた。
『分かった。説教は後だよ。自分で呼んどいてなんだけど、今はこの事態を何とかしないと。どうすれば良い?』
アラヤ自身も、アヤコの声を聞いた事で冷静さを取り戻していた。怒りに任せて戦っていただけに、北区の街の一画は悲惨な状況となっていた。
しかも、現在進行形でエンリルと勇者が破壊している。
『…という作戦でどうでしょう?』
『分かった、タイミングを合わせてやってみるよ』
アヤコの作戦を聞いたアラヤは、戦いに夢中になっている両者の死角に、魔力制御で気配を消して移動する。
「流石は古竜。装甲も硬い上に力もある。何より、地上から離れられると戦い辛いな」
勇者が、アラヤが先程の戦いの最中でアースクラウドで無造作に作り出した足場に着地すると、待ってましたと形を変形させて足を取り込む。
「むっ⁉︎足を掴まれた⁉︎」
そのまま足場を高く伸ばしていき、エンリルの前で止める。
勇者は、直ぐに足元の魔鉱石を破壊しようとするが、その前にアラヤは姿を現し、エンリルに命令する。
「全力で吹き飛ばせ‼︎」
『グゥオオオオッ‼︎』
エンリルは、意志に反して自身の最大風力を身動きが取れない勇者に向かって放った。
「うわぁぁぁぁぁっ…」
横に伸びた竜巻によって、勇者クリスチャートは足場ごと王都の外まで飛ばされていった。
常人なら死んでいるだろうが、まぁ、あの勇者なら大丈夫だろう。
『貴様、よくも我の遊戯を邪魔してくれたな⁉︎』
「まあまあ、埋め合わせは帰ったらするからさ。とりあえず、お疲れ様。浮遊邸に帰って良いよ」
『フンッ、物足りなかった』
エンリルは両翼を羽ばたかせて、浮遊邸の方角へ飛び去って行った。
「ふぅ、一応、一件落着かな…?」
王都を包み込んでいた毒霧も、アスモデウスが消えて以降弱まっていたのが、先の竜巻でだいぶ消えていた。
アラヤはアヤコ達と合流すると、軽く抱きしめあった。流れでハウンまでハグしたら、彼女はその後顔を隠していた。
「それで、この人達はどうするの?」
サナエに頬を撫でられて、悦の表情を見せる純潔の勇者達。
事情は聞いたけど、勇者を魅了して拘束している姿を見ると、俺達は完全な悪者だよね。まぁ、魔王らしいってなるのかな?
「魅了が切れるのはどれくらい?」
「たまに繋いで踊っていたから、後10分ぐらいかな」
「魅了されている間の記憶ってどうなの?」
「あまり覚えていない筈よ?強力な催眠に似ているから、夢みたいな記憶になると思う」
「ええ、それは実証済みで、間違いありません。ですから、拘束を解いて放置しても問題はありませんが…」
アヤコとしては、直ぐに離れるべきと考えている様だ。まぁ、魅了される前に会っているだけに、いろいろと記憶を呼び起こし兼ねないのは確かだ。
「確かに、誤解を解いて仲良くって訳にはいかないよね…。ハウン、頼まれてくれる?」
「了解しました。拘束を解いた後、美徳教団まで連れて行きます」
「俺達は、トーマスさんに事の次第を説明しに行こうか?」
魔導感知に、トーマス達が向かって来るのが分かった。アラヤ達は、自分達に都合の良い情報を伝える為に向かう。
すると、冒険者達が魔物の残党狩りに回る中、トーマスは北区の中央で街の惨状に打ち拉がれていた。
「トーマスさん、ご無事だったんですね!」
「…アラヤ殿。北区では一体何が…?」
火災は起きていないものの、どの区よりも街の被害が酷い。まさか、自分が半分は壊しましたとは言えない。
「実は北区には件の悪魔が居まして、敵わず逃げていたところ、今度は勤勉の勇者達が現れまして」
「おお、共闘したのかい?」
「いえ、そこに更に暴風竜エンリルが現れまして…」
「……確かに、古竜が現れたのは、目撃した者が多い。俺も、空飛ぶ姿を見たからな」
「はい、その暴風竜が、悪魔を喰らい、勇者を吹き飛ばして去って行きました」
「……」
流石に話に無理があるかなと不安になる。ところが、トーマスはフゥと一息吐くと頷いた。
「まぁ、古竜相手なら、流石に被害賠償を申請できないな。勇者が居たのなら、美徳教団にでも、助成金を申請してみるかな?」
「それは流石に…」
「冗談だ。魔物討伐に協力してくれた者に請求する訳ないだろ?無論、君達にも感謝してるから、多少の破壊行為には目を瞑るさ」
トーマスのジョークに冷や汗をかきながら、アラヤ達は一度体勢を整える為に避難区に戻るのだった。
一方、エンリルによって飛ばされたクリスチャートは、王都から離れた民家の馬房の藁に埋れていた。
「ブハッ…」
口から藁を吐き出して咳き込む。全身が強打されて痛むが、全く動けないわけではない。少しばかり安静にしていれば、体力が戻り多分大丈夫だろう。(自己再生は無い)
「ククク、今日だけでLVが5も上がった。やはり大物は経験値が上がりやすいな。だが、1番の驚きはあの少年だな」
勤勉の勇者は、固有の特殊技能で熟練度とは違い、ゲームの様なLVがあるのだ。ただ、そのLVも100を超えてからは伸び悩んでいたのだが、アラヤとの戦闘中に得た経験値は、古竜相手に得た経験値よりも多かったのだ。
「アレが、教団の言う魔王という者かもな。ククク…少年、俺が世界一の最強剣士になる為の礎になってもらうぞ!」
1人大笑いする勇者は、新たな目標を見つけた事に安心して、再び藁に身を委ねるのだった。
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