上 下
232 / 418
第16章 昨日の敵は今日の友とはならないよ⁉︎

228話 不可侵領域

しおりを挟む
 東区の北区境付近。
 ギルドマスターのトーマスと、弦月の牙のパーティーは馬頭の悪魔を追い詰めていた。

「何故か、急に力が弱くなってないか?」

 明らかに馬頭の勢いは落ちていて、攻撃は躱しやすく受け止める事も可能なぐらいだ。
 それは、少なからずトーマスの攻撃が効いている影響もある。トーマスが使用する武器、黒顎に斬られた切り口からは、魔素と出血が止まらない。並の自己再生では追いつかない様だ。

「弱っているなら、今のうちに叩こう!」

 パーティーの連携で馬頭の動きを封じつつ、トーマスの斬撃で荒削りした後、フロウの上級魔法でトドメをさした。

「やったな、アルバス!初のS級魔物討伐達成だぜ?」

「ああ、俺も見届けたからな。全てが解決した際には、晴れてS級冒険者の認定してやらんでもない」

「聞いたかよ、リーダー!俺達、S級なれるかもってよ⁉︎」

「でもなぁ、ギルマスやアラヤ君、サナエさんの踊り効果あっての結果だからなぁ」

 浮かれるトーヤと対照的に、アルバスは納得していない様だ。

「まぁ、慢心するのは良くないがな…って、お前達、奥方の踊りを見たのか⁉︎」

「ええ。悪魔も見惚れる舞いでしたよ?」

「くっ…!俺は見逃してばかりだな!」

 この後、トーマスの憂さ晴らしで東区の悪魔の残党狩りにアルバス達は付き合わされる事となった。


       ◇    ◆    ◇    ◆    ◇   ◆    ◇


「クリスっ‼︎」

 純潔の勇者フローラ=ミュゲットは、目前で繰り広げられている攻防に、目が追いつかないでいた。
 3人の竜人ドラッヘンの素早い連携攻撃を、人外とも呼べる反射速度で躱す勤勉の勇者クリスチャート=高須=スタディ。
 思った以上の俊敏さに、フローラが自分の剣撃に巻き込まれると判断したクリスチャートは、早々にフローラの張った領域から出なければならなかった。
 フローラの特殊技能ユニークスキル不可侵領域インヴァイオラブルエリア】は、彼女が望まない事象を領域には侵入させないという技能スキル
 一見、無敵とも思えるチート技能だが、条件が3つある。
 1つ、拒む事象と同等の事を自身は領域内では行えない。
 2つ、拒む事象内容を変更する場合、一度解除しなければならない(10秒のインターバルが発生する)。
 3つ、拒む事象内容は、最大3つまでとする(熟練度が上がっても領域範囲が増加するのみ)。
 そして、今の彼女が拒む事象内容は、物理攻撃、物理魔法、精神攻撃魔法である。
 つまり、領域内で攻撃しない相手なら侵入は容易にできるのだ。これは、不審者を事象内容に入れれば防ぐ事は可能だ。
 クリスチャートは、その変更時間を稼ぐ目的もあって、竜人の注意を自身に集めたのだ。

(こいつ!もの凄い反射神経だ。おそらく身体強化がかなり高いな)

 アラヤは、手数で反撃の手は出させないものの、躱され続ける事に苛立ちが増して来ていた。
 アヤコの所在を聞き出すまで、殺す気までは無いものの、手足の一本くらいは落としてやろうとまで考えていた。

細氷ダイアモンドダスト!」

「‼︎⁉︎」

 術の発動と同時に危険を察知したクリスチャートは、瞬時にフローラの領域内に戻る。
 領域手前で、魔法に微かに触れた彼の銀の籠手が、氷と共に砕け落ちた。

「見た事の無い魔法ね。おそらく合成魔法よ」

「む、厄介だな。愛用の銀の鎧が一瞬で駄目になるとは…。生身で受けたらひとたまりもないな」

 そうは言っても、彼女の不可侵領域には魔法と物理攻撃が全く効かない。
 アラヤは、勇者2人を動けない状態にできただけで、このままでは倒す事はできない。
 アラヤゴーレム1型は、魔法を使える仕様では無い。故に、ゴーレムに任せてその場から離れる事はできないのだ。

「ご主人様!」

 魔法を途切れる事無く連発していると、そこへアラヤの後を追っていたクララが駆け付けた。

(このタイミングで新手⁉︎シルバーファングの従獣ね。ますます動き辛いわ)

「クララ、アスモデウスは?」

「カオリ様が、トドメを。その後、戻られました」

「そっか。急に抜けて悪かったね」

「いえ、こちら程の、問題は無かったかと」

 クララも勇者達を睨み、ジリジリと背後に回り込む。

「…何やら、元凶の悪魔を退治したらしい事を言ってるな?」

「ねぇ、もう事情を説明した方が良くない?」

「ハハハ、まだいくらも試していないではないか?」

 フローラは、ため息を吐く。この男は、自分の限界を試さずにはいられない性分で、古竜の際も、かなりの痛手を負ってもまだまだとしつこかった。治す私の身にもなってほしいものだ。

「…ハァ。分かったわ、強化するから、くれぐれもやり過ぎないでね?」

 フローラは、クリスチャートにマイディガード(耐久力・精神力・俊敏の一定時間増加)で強化する。

「おぅ!」

 崩壊の嵐コラープステンペストが渦巻く領域外に、クリスチャートは何の躊躇いも無く飛び出した。

「フンッ‼︎」

 砂氷で皮膚が削られながらも、一瞬見えた人影に大剣を振る。
 アラヤゴーレムの1体が肩から両断され、中のゴーレムが露わになった。

「木偶⁉︎あの動きで⁉︎」

 フローラが驚いているが、それはアラヤ達も同じだ。並大抵の攻撃は効かない竜鱗脱皮のゴーレム1型が、容易く斬られたのだから。

「流石は勇者だな…」

 分別の勇者も同様に凄かったし、謎の用心棒からモザンピアの地下通路で食らった一撃は、竜鱗の盾に切れ目を入れた。
 魔王が、技能を奪う特殊技能ユニークスキルが多い気がする点、勇者側は攻撃と防御に特化した特殊技能が多いみたいな気がする。

『クララ、コイツの攻撃に防御は意味を為さない!避けながら魔法で追い詰めるぞ』

『分かりました』

 誘爆性付与したアースクラウド(鉱石化)を槍状に出し、攻撃と進路妨害しながら、勇者が斬り払うタイミングでフレイムで爆破する。
 かなりのダメージがある筈なのに、勇者の表情は活き活きとしてくる。
 危ないタイプの奴だ。戦いを完全に楽しんでいるな。

「‼︎」

 クリスチャートがアラヤに集中している間に、クララがフローラの不可侵領域外をアースクラウド(鉱石化・魔力粘糸)で覆い始める。領域ごと閉じこめる考えだ。

「従獣が魔法を使えるなんて、聞いた事無いわ!」

 錫杖を豪快に振るい、アースクラウドを元から消してしまう。彼女を中心に領域が展開されている為、彼女が動ける以上、魔法段階で消されてしまうのだ。

「ダークブラインド」

 クララが距離を取ろうと放った闇の煙幕が、領域にそのまま侵入した。

『妨害魔法は効果有ります!』

 拒む事象に当てはまらないものに気付かれたフローラは、即座に高出力のライトを放ち、クララを目眩しさせる。
 その間に建物内に逃げ込み、不可侵領域を一度解除する。
 拒む事象内容を、精神攻撃魔法から妨害魔法へと切り替える為だ。

(インターバル、早く終わって!)

 目が眩んでいても、シルバーファングは迷わず向かって来る。おそらく気配感知持ちで、隠れても無理だと分かった。
 部屋奥へと逃げるフローラは、扉を開けたと同時に不可侵領域を再始動した。
 だがそこで、持っていた錫杖が床へと倒れる。

「な…に…が…?」

 部屋の中には、配下の鍛治師と運び屋が居て、1人の女性の舞に魅了されている。精神攻撃魔法(技能)の拒絶事象を解除したばかりのフローラも、意識は魅了されて思考がまとまらない。

「流石、サナエちゃんの舞いですね。上手く行きましたよ?」

 魅了されたフローラの背後から、アヤコとハウンが現れる。
 少し前にサナエ達に解放されていたアヤコは、純潔の勇者の弱点を遠くから観察していたのだ。

「どうしたの?アラヤに早く無事を伝えるべきじゃない?」

 魔力粘糸で鉱石化した手錠を3人の手足に取り付けた。しかし、アヤコは直ぐに出て行かなかった。
 この機会に、勤勉の勇者の力量を知りたいのだ。
 だが、そんな思惑を知る由もないアラヤは、怒りに任せてとうとうを呼び出してしまうのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる

名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。

全校転移!異能で異世界を巡る!?

小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。 目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。 周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。 取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。 「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」 取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。 そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

スキル運で、運がいい俺を追放したギルドは倒産したけど、俺の庭にダンジョン出来て億稼いでます。~ラッキー~

暁 とと
ファンタジー
スキル運のおかげでドロップ率や宝箱のアイテムに対する運が良く、確率の低いアイテムをドロップしたり、激レアな武器を宝箱から出したりすることが出来る佐藤はギルドを辞めさられた。  しかし、佐藤の庭にダンジョンが出来たので億を稼ぐことが出来ます。 もう、戻ってきてと言われても無駄です。こっちは、億稼いでいるので。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

処理中です...