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第16章 昨日の敵は今日の友とはならないよ⁉︎
227話 相手が悪い
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『ククク…我も舐められたものだ』
体のあらゆる箇所を噛みつかれたアスモデウスは、急に慌てて戦いを切り上げたアラヤに怒りで打ち震えた。
『もう良い、この街の生物は皆消してやろう』
アスモデウスは、自身のありったけの魔力を掻き集めると、3つの顔で自身が使える最大級魔法の詠唱を開始する。
あの魔導反転した竜人は居ない。邪魔する者はもう居ない筈。そう考えながらも、アスモデウスは不安が拭えない。
『人間の中に、この魔法を知る者は居ない筈。魔導反転できる者など…』
すると、山羊頭が失った右眼の視界領域から、ヒタヒタと歩くシルバーファングと、それに乗る人間の女が現れた。
『何だ貴様は…⁉︎』
「そうね、私にとっては二度目だけど、貴方は初対面なのよね。せっかくだから自己紹介しましょうか?」
その女が指を鳴らすと、再び先程の竜人が2人現れる。
『な⁉︎』
「ほら、詠唱は続けて?」
その挑発に、魔導反転はこの女が行っている事が分かった。アスモデウスは歯軋りをしてカオリに襲い掛かる。
しかしその猛攻も、アラヤゴーレムに塞がれてしまった上に、シルバーファングの素早さに距離を取られる。
『女、貴様の力は認めよう。名は何という?』
「色欲の悪魔アスモデウス、私の名はアロマ=グラコ。色欲の魔王よ」
悪魔に対して真名を語る気は無い。これは前世界の知識だが、この世界でも悪魔に対しては用心にするに越した事は無い。
『そうか、貴様が今期の真の王であったか。我は復活が早かったのだな』
残念そうな表情をしているが、山羊頭と牛頭は詠唱を先程から小声で進めている。
「ええ、残念よね。貴方には聞きたい事が沢山あったのだけれど」
術が完成に近付いているらしく、アスモデウスの周りに魔法陣が浮かび始める。
『この魔法を見た者は、既に現世では生きてはいまい。魔導反転は不可能だ。残念だが、今期の王アロマよ、諦めてくれ』
勝ち誇るアスモデウスは、アラヤゴーレムを振り払い宙に浮かぶ。
「そうね、確かに初めて見る術式だわ。出来れば魔法の名と効果の詳細を知りたかったわ」
『フフフ、良いだろう。我が叡智の1つとも呼べるこの魔法は、闇魔法では禁呪の次に偉大なる魔法。名を【這い出づる混沌】。死霊の国と現世を繋ぎ、生者の魂を引きずり込む魔法だ』
高らかに笑い声を上げて、アラヤゴーレムが届かない高さまで舞い上がるアスモデウス。その手を広げ、最後の魔法陣を描いていく。
『これでお別れだ、色欲魔王アロマ』
「ええ、そう願うわ。アスモデウス」
カオリも同じ様に手を広げると、同数の魔法陣が一気に完成する。
『なん…だと…⁈』
目を見開き驚愕するアスモデウス。それも無理も無い。先に見せて防がれた上級魔法ならば、現代でも上級魔術士で使える者は居るだろう。
だがしかし、【這い出づる混沌】は人間には知られていない魔法だ。
「貴方は相手が悪かったのよ。呼ばれた相手も、敵対した相手もね」
アスモデウスと仮想未来とはいえ対峙した経験があるカオリには、アスモデウスが使用した魔法は全て覚えている。
一度見た魔法を覚え、理解して使う事ができるカオリだからこその芸当だ。
ただ、今回の【這い出づる混沌】だけは、アスモデウスの詠唱と術式を一言一句聞き逃さないようにかなり注意したが。
「魔導反転!」
『見事也、色欲魔王』
展開していた全ての魔法陣が、アスモデウスの体内に逆流して暴れ出す。
その魔力は吸収できる魔素ではなく完成した魔法そのもの。
体内で爆発するように魔法が発動し、アスモデウスは風船の様に膨張した後、体の内側から死霊の国へと引き込まれていく。
『アロマ=グラコよ、我が知識、権能、肉体の全てを与える。新たな我が媒体となれ』
3つ頭がまだ残っている状態から、アスモデウスは独特な声色の言語で囁いてきた。
だが、その悪魔の囁きも効果が無いと直ぐに分かる。
『全て見通されていたか……クククク…』
低い笑い声を上げながら、アスモデウスは闇の小さな渦の中へと吸い込まれて消えた。
「あ~っ、怖かったぁぁっ‼︎」
いきなり大声を出したカオリにクララは驚く。そのままひしっとクララに抱きつくカオリは、少し震えていた。
「緊張と恐怖で死ぬかと思ったわ!クララが居てくれなかったら、私絶対に死んでたわよ」
「何も、していませんが、お役に、立てたのなら、良かったです」
本来なら、アスモデウスとは向かい合うのも耐えられないと思った。だが、にいややクララと感覚共有する事で、恐怖心は薄れて冷静でいられたのだ。
「正直、もうそろそろ仮死状態が来そうで危なかったわ」
「それで、あの悪魔は、死んだのですか?」
「いいえ。媒体を失って悪魔界に強制帰還しただけよ。自身の力では、この世界には来る事はできないわ」
「それは、一安心ですね?では、ご主人様、追います?」
「ううん、私は逝く前に浮遊邸に戻るわ。クララは向かって?」
「分かりました」
カオリが、1人先にテレポートで戻る。おそらく、トラウマから解放されて落ち着きたい事もあるのだろう。
彼女の帰りを見届けたクララは、全速力でアラヤの匂いを辿り走る。
道中には、殺されたままの魔物達が幾つもある。亜空間に収納する手間も惜しんで向かっているらしい。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「ちょっと待って、クリス」
北区に入った勇者一行は、突然、純潔の勇者の指示で大通りから逸れて住宅に入り身を隠す。
「どうしたんだ、フローラ?」
「先程まであった、大きな邪気が消えたわ。おそらく、騒ぎを起こした悪魔が討たれた様ね」
「ぬ?先を越されたか。だが、それなら何故姿を隠す必要があるのだ?」
「……」
フローラは、窓際に立ちこっそりと外を伺う。毒の霧は未だ立ち込めているので、視界が良い訳ではないが、別の何かを感じていたのだ。
「もの凄い勢いで、此方に向かって来る力があるわ」
「悪魔の類いか?」
「いいえ、違うわ。おそらくは人間よ。悪魔と戦っていた冒険者かも。…邪気は無いけれど…怒りらしきものを感じる」
「ふむ。ならば、こんな狭い場所に居るよりも、大通りで待つべきだろう。戦うか話すにしろ、此処では上手く動けん」
「ええ。だけど向かうなら、私とクリスの2人で向かうべきかも」
「…それほどか?」
決して、彼女は高い感知能力がある訳では無い。ただ、危機察知の勘だけは、今まで外れた事は無いのだ。
クリスチャートも、彼女が配下無しを要求する時は、余裕が無い時だと知っている。
集中してペアで戦う必要があると感じているのだ。
「分かった。ならば2人で行こう」
室内の毒の霧を排除し、配下の2人にアヤコを見ていてもらう。
勇者の2人が大通りに出ると、正面から土埃を上げて走って来る者達が見えた。
「蜥蜴人…?いや、竜人か!」
3人の小柄な竜人は、真っ直ぐに此方に向かって来る。その身は魔物達の血に汚れ、その顔は怒りに染まっている様だ。
「アヤコを拐ったのは貴様達かぁぁっ‼︎⁉︎」
「「⁈」」
開口一番は、あらぬ誘拐容疑からだった。
一瞬で肉薄した竜人に、クリスチャートは大剣で牽制して距離を取る。
タイミングが出遅れたフローラは、直ぐに錫杖を鳴らし、特殊技能の【不可侵領域】を張った。
「待て待て、話が見えないぞ?拐ったとは何の事だ?」
クリスチャートは、3人の竜人との距離を保ちながらフローラの領域に入る。
「勇者が、俺の妻を拐ったのを見たという情報がある!貴様達は勇者だろう⁉︎」
「いかにも。確かに我々は勇者だが、人妻を拐う様な悪事に手を染めた事など無いぞ?」
「クリス、ひょっとしたら、彼女の事ではないでしょうか?」
「ん?ああ、我々を襲って来て(精神支配されて)、フローラの一撃(気絶目的)で返り討ちにされた彼女か。確かに担いでは来たな」
「ちょっと、言い方!」
説明の足りなさに、フローラが焦るも既に遅く、アラヤの怒りは更に高まっていた。
「やはり貴様らか…‼︎」
バルクアップで体を肥大化させるアラヤとゴーレム達に、クリスチャートはニヤッと笑みを浮かべる。
「クリス、やっぱりワザとね?」
「フフッ、せっかくの強者だろ?鍛錬に付き合ってもらおうじゃないか」
「鍛錬で済めば良いけれど、後で誤解も解けない状況になる事だけは勘弁してよね?」
この時、クリスチャートはまだ魔王と対峙した経験が無く、古竜よりも格下とのただの腕試し程度として考えていたのだった。
体のあらゆる箇所を噛みつかれたアスモデウスは、急に慌てて戦いを切り上げたアラヤに怒りで打ち震えた。
『もう良い、この街の生物は皆消してやろう』
アスモデウスは、自身のありったけの魔力を掻き集めると、3つの顔で自身が使える最大級魔法の詠唱を開始する。
あの魔導反転した竜人は居ない。邪魔する者はもう居ない筈。そう考えながらも、アスモデウスは不安が拭えない。
『人間の中に、この魔法を知る者は居ない筈。魔導反転できる者など…』
すると、山羊頭が失った右眼の視界領域から、ヒタヒタと歩くシルバーファングと、それに乗る人間の女が現れた。
『何だ貴様は…⁉︎』
「そうね、私にとっては二度目だけど、貴方は初対面なのよね。せっかくだから自己紹介しましょうか?」
その女が指を鳴らすと、再び先程の竜人が2人現れる。
『な⁉︎』
「ほら、詠唱は続けて?」
その挑発に、魔導反転はこの女が行っている事が分かった。アスモデウスは歯軋りをしてカオリに襲い掛かる。
しかしその猛攻も、アラヤゴーレムに塞がれてしまった上に、シルバーファングの素早さに距離を取られる。
『女、貴様の力は認めよう。名は何という?』
「色欲の悪魔アスモデウス、私の名はアロマ=グラコ。色欲の魔王よ」
悪魔に対して真名を語る気は無い。これは前世界の知識だが、この世界でも悪魔に対しては用心にするに越した事は無い。
『そうか、貴様が今期の真の王であったか。我は復活が早かったのだな』
残念そうな表情をしているが、山羊頭と牛頭は詠唱を先程から小声で進めている。
「ええ、残念よね。貴方には聞きたい事が沢山あったのだけれど」
術が完成に近付いているらしく、アスモデウスの周りに魔法陣が浮かび始める。
『この魔法を見た者は、既に現世では生きてはいまい。魔導反転は不可能だ。残念だが、今期の王アロマよ、諦めてくれ』
勝ち誇るアスモデウスは、アラヤゴーレムを振り払い宙に浮かぶ。
「そうね、確かに初めて見る術式だわ。出来れば魔法の名と効果の詳細を知りたかったわ」
『フフフ、良いだろう。我が叡智の1つとも呼べるこの魔法は、闇魔法では禁呪の次に偉大なる魔法。名を【這い出づる混沌】。死霊の国と現世を繋ぎ、生者の魂を引きずり込む魔法だ』
高らかに笑い声を上げて、アラヤゴーレムが届かない高さまで舞い上がるアスモデウス。その手を広げ、最後の魔法陣を描いていく。
『これでお別れだ、色欲魔王アロマ』
「ええ、そう願うわ。アスモデウス」
カオリも同じ様に手を広げると、同数の魔法陣が一気に完成する。
『なん…だと…⁈』
目を見開き驚愕するアスモデウス。それも無理も無い。先に見せて防がれた上級魔法ならば、現代でも上級魔術士で使える者は居るだろう。
だがしかし、【這い出づる混沌】は人間には知られていない魔法だ。
「貴方は相手が悪かったのよ。呼ばれた相手も、敵対した相手もね」
アスモデウスと仮想未来とはいえ対峙した経験があるカオリには、アスモデウスが使用した魔法は全て覚えている。
一度見た魔法を覚え、理解して使う事ができるカオリだからこその芸当だ。
ただ、今回の【這い出づる混沌】だけは、アスモデウスの詠唱と術式を一言一句聞き逃さないようにかなり注意したが。
「魔導反転!」
『見事也、色欲魔王』
展開していた全ての魔法陣が、アスモデウスの体内に逆流して暴れ出す。
その魔力は吸収できる魔素ではなく完成した魔法そのもの。
体内で爆発するように魔法が発動し、アスモデウスは風船の様に膨張した後、体の内側から死霊の国へと引き込まれていく。
『アロマ=グラコよ、我が知識、権能、肉体の全てを与える。新たな我が媒体となれ』
3つ頭がまだ残っている状態から、アスモデウスは独特な声色の言語で囁いてきた。
だが、その悪魔の囁きも効果が無いと直ぐに分かる。
『全て見通されていたか……クククク…』
低い笑い声を上げながら、アスモデウスは闇の小さな渦の中へと吸い込まれて消えた。
「あ~っ、怖かったぁぁっ‼︎」
いきなり大声を出したカオリにクララは驚く。そのままひしっとクララに抱きつくカオリは、少し震えていた。
「緊張と恐怖で死ぬかと思ったわ!クララが居てくれなかったら、私絶対に死んでたわよ」
「何も、していませんが、お役に、立てたのなら、良かったです」
本来なら、アスモデウスとは向かい合うのも耐えられないと思った。だが、にいややクララと感覚共有する事で、恐怖心は薄れて冷静でいられたのだ。
「正直、もうそろそろ仮死状態が来そうで危なかったわ」
「それで、あの悪魔は、死んだのですか?」
「いいえ。媒体を失って悪魔界に強制帰還しただけよ。自身の力では、この世界には来る事はできないわ」
「それは、一安心ですね?では、ご主人様、追います?」
「ううん、私は逝く前に浮遊邸に戻るわ。クララは向かって?」
「分かりました」
カオリが、1人先にテレポートで戻る。おそらく、トラウマから解放されて落ち着きたい事もあるのだろう。
彼女の帰りを見届けたクララは、全速力でアラヤの匂いを辿り走る。
道中には、殺されたままの魔物達が幾つもある。亜空間に収納する手間も惜しんで向かっているらしい。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「ちょっと待って、クリス」
北区に入った勇者一行は、突然、純潔の勇者の指示で大通りから逸れて住宅に入り身を隠す。
「どうしたんだ、フローラ?」
「先程まであった、大きな邪気が消えたわ。おそらく、騒ぎを起こした悪魔が討たれた様ね」
「ぬ?先を越されたか。だが、それなら何故姿を隠す必要があるのだ?」
「……」
フローラは、窓際に立ちこっそりと外を伺う。毒の霧は未だ立ち込めているので、視界が良い訳ではないが、別の何かを感じていたのだ。
「もの凄い勢いで、此方に向かって来る力があるわ」
「悪魔の類いか?」
「いいえ、違うわ。おそらくは人間よ。悪魔と戦っていた冒険者かも。…邪気は無いけれど…怒りらしきものを感じる」
「ふむ。ならば、こんな狭い場所に居るよりも、大通りで待つべきだろう。戦うか話すにしろ、此処では上手く動けん」
「ええ。だけど向かうなら、私とクリスの2人で向かうべきかも」
「…それほどか?」
決して、彼女は高い感知能力がある訳では無い。ただ、危機察知の勘だけは、今まで外れた事は無いのだ。
クリスチャートも、彼女が配下無しを要求する時は、余裕が無い時だと知っている。
集中してペアで戦う必要があると感じているのだ。
「分かった。ならば2人で行こう」
室内の毒の霧を排除し、配下の2人にアヤコを見ていてもらう。
勇者の2人が大通りに出ると、正面から土埃を上げて走って来る者達が見えた。
「蜥蜴人…?いや、竜人か!」
3人の小柄な竜人は、真っ直ぐに此方に向かって来る。その身は魔物達の血に汚れ、その顔は怒りに染まっている様だ。
「アヤコを拐ったのは貴様達かぁぁっ‼︎⁉︎」
「「⁈」」
開口一番は、あらぬ誘拐容疑からだった。
一瞬で肉薄した竜人に、クリスチャートは大剣で牽制して距離を取る。
タイミングが出遅れたフローラは、直ぐに錫杖を鳴らし、特殊技能の【不可侵領域】を張った。
「待て待て、話が見えないぞ?拐ったとは何の事だ?」
クリスチャートは、3人の竜人との距離を保ちながらフローラの領域に入る。
「勇者が、俺の妻を拐ったのを見たという情報がある!貴様達は勇者だろう⁉︎」
「いかにも。確かに我々は勇者だが、人妻を拐う様な悪事に手を染めた事など無いぞ?」
「クリス、ひょっとしたら、彼女の事ではないでしょうか?」
「ん?ああ、我々を襲って来て(精神支配されて)、フローラの一撃(気絶目的)で返り討ちにされた彼女か。確かに担いでは来たな」
「ちょっと、言い方!」
説明の足りなさに、フローラが焦るも既に遅く、アラヤの怒りは更に高まっていた。
「やはり貴様らか…‼︎」
バルクアップで体を肥大化させるアラヤとゴーレム達に、クリスチャートはニヤッと笑みを浮かべる。
「クリス、やっぱりワザとね?」
「フフッ、せっかくの強者だろ?鍛錬に付き合ってもらおうじゃないか」
「鍛錬で済めば良いけれど、後で誤解も解けない状況になる事だけは勘弁してよね?」
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