【完結】スキルが美味しいって知らなかったよ⁈

テルボン

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第15章 その力は偉大らしいですよ⁉︎

220話 間に合った物資

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 王都の繁華街に入り口には、急遽作られたバリケードが置かれている。その後ろに待機している冒険者達は、いずれも毒耐性持ちの者達ばかりだ。
 しかし、そんな彼等は疲労が溜まっていた。少ない耐性持ちだけで押し寄せる魔物を相手をするのは限界がある。

「お、おい!もの凄い勢いで馬車が来るぞ⁉︎」

「な⁈こんな霧の中をか⁉︎」

 その馬車は、4頭の馬が牽引する大型の馬車で、霧を吹き飛ばしながら真っ直ぐにこちらに向かって来る。それも、音に気付き近付くゴブリン達を、御者の女性が蹴散らしながらである。

「い、急ぎバリケードを退かせ!馬車を入れるぞ!」

 彼等がバリケードを急ぎ退かすと、馬車はそのまま繁華街へと入り止まった。
 御者の1人が降りて来ると、冒険者達に頭を下げる。

「デピッケルの商業ギルドから物資を運んで来ました!避難所はどちらでしょう?」

「おお、それはありがたい!避難所は、商業ギルドの裏倉庫だ。ギルドに責任者が居る。置き場は彼に聞いてくれ!」

 冒険者達に手を振り、馬車は商業ギルドを目指す。

「ふぅ、やはりこちらから入る方が無難でしたね」

「そう?テレポートなら一瞬だけど」

 手綱を引くサナエは、納得していない様だ。彼女は、わざわざ馬車を用意して向かう意味を理解していなかった。
 テレポートはそもそも美徳教団が持つ魔法で、一般で使用はおろか見る事すら稀だろう。しかもサナエの考えだと、着いて早々に亜空間収納から物資を出しかねない。
 そんな真似をしたら大騒ぎになるだろう。せめて、見た目だけでも偽装するべきというアヤコの判断だ。

「止まれ、止まれ!」

 商業ギルドの前に来ると、複数人の男達が馬車を止めに入った。

「君達は……確か、あのアラヤ殿の夫人?バルグ商会の披露会以来ですね?」

「これは、トーマス様。やはり、冒険者ギルドのマスターである貴方様が、この場の責任者でしたか」

 アヤコとサナエに軽く握手をすると、彼はアラヤの姿が無い事を不審に思う。

「その…彼は居ないのかな?」

 アラヤの実力を知る彼からすれば、正に良い援軍だと思ったのだろう。

「その話は後にしましょう。今は物資を早く降ろしたいのですが、使える倉庫はありますか?」

「ああ、その筋から入った2番倉庫に好きに置いてくれ。この数日で既に中はガラガラだからな」

 アヤコ達は馬車を倉庫につけると、大きな扉を開ける。彼が言った通り、確かに倉庫内には空の木箱ばかりで、使える物はほとんど無かった。
 アヤコ達は馬車を倉庫内に入れると、荷降ろしを見られない様に扉を閉めた。

「夫人方、手伝いますよ」

 トーマスが少しして現れた時には、最後の木箱を荷台から降ろしている所だった。

「…この量を、この短期間で⁈」

 ガラガラだった倉庫の半分以上を、新たな木箱が占領している。これは、明らかに不自然である。

「ギルドマスター、これは私の技能。くれぐれも内密に頼みます」

 ハウンが、そう言って大罪教の団員証をトーマスに見せる。

「教団の人間か…。まぁ、彼女達に協力する理由は分からないが、正直今は助かるから言わねぇよ」

 ハウンの機転のおかげで、アヤコ達は疑われずに済んだ。幾ら亜空間収納持ちの人間でも、教団員なら彼も無理な勧誘はしないだろう。

「トーマス様、この辺りだけ霧が少ないのはどうしてでしょうか?」

 街全体を覆う霧が、繁華街の一帯だけは割と薄く感じられる。

「ああ、風属性魔法が使える魔術士に霧を飛散させているからな」

「なるほど。しかし、それでは霧は消えませんし、人手が足りませんね。どうぞ、こちらをお使い下さい」

 アヤコとサナエは、魔鉱石の入った木箱をトーマスに見せる。

「…これは?」

「風属性魔法サクションの魔鉱石です。少量の魔力を注入するだけで、毒の霧を吸引除去できます。1個の魔鉱石で、およそこの倉庫2棟分はあります」

「それがこの量か…。ありがたいが、これだけ魔鉱石代を払う余裕は無いぞ?」

「無論、今すぐに支払い頂く必要は有りませんよ。状況が状況ですからね。これは先行投資の様なものです。そして、この毒を防ぐマスクも10万個は用意しました。魔鉱石と一緒に、冒険者の方々に配る様に手配をお願いします」

「なるほど、広告も兼ねている訳か」

 出されたマスクには、全ての外面に【デピッケル商業ギルド バルグ商会】と焼印がしてある。

「分かった。直ぐに取り掛かるとしよう」

 トーマスが、ギルド職員と冒険者を呼び段取りを始めた頃、サナエは街の状況を見ようと近くにあった時計台に登る。最上階にある展望台からは、霧に包まれた街の至る所で魔物との戦闘が起こっているのが魔導感知で分かった。
 トーマスの指図か、住宅街を重点的に魔物と駆除し、避難できていない人々を保護している様だ。しかし、間に合わない場所から聞こえる阿鼻叫喚に、サナエは悲惨な光景が目に浮かんだ。

「アヤコ、私達も魔物討伐に行こう?」

 急いで戻り外の現状を伝えるが、アヤコは首を横に振る。

「ダメです。どこに厄災の悪魔が潜んでいるか分かりませんし、アラヤ君がいつこちらに来るかも分からないので、私達は此処を守らなければなりません。それに、避難した住民の治療が間に合っていない様です。まだそちらに向かうべきです」

「…確かにそうね、分かったわ」

 少し歯痒さが残るが、兵士や冒険者達も頑張っている。治療できる手が足りないなら、戦闘は彼等に任せるべきなのは確かだ。

「⁉︎帰ってきました!」

 サナエが避難区域に向かおうとした矢先、テレポートの光がアヤコの前に収束しだした。

「カオリさん‼︎その方は、ミネルバ様⁈」

 彼女と現れたのは、ミネルバ王女と王家の侍女長であるマーレットだった。どうやら間に合ったらしい。

「カオリさん、アラヤ君は?」

「にいやはまだ、王妃様を探す為に残っているわ。でもきっと、にいやなら直ぐに見つけて此処に来る筈。王妃様を直ぐに手当てできる様にお願い。私はちょっと、仮死状態デスタイムに入りそうだから馬車で寝させてもらうわ」

「分かりました。今のうちに休んでいてください」

「…カオリはまだ、呪いは解けていないのだな…」

 サナエはベッドを亜空間から取り出して、ミネルバとマーレットを休ませる。回復が必要な外傷は無いけれど、極限状態により疲弊しているのは明らかだ。今は安静に寝てもらうしかない。

「アヤコ様、トーマス様をお連れしました」

 ハウンが、指揮が1段落して休もうとしていたトーマスを引っ張って来た。

「な⁉︎ミネルバ王女様⁉︎良くぞご無事で!」

 トーマスに王家の者が無事だと知らせる事で、兵士の士気や国民の不安を解消できるからだ。

「…私は大丈夫だ。母上もじきに仲間が連れて来よう。勇敢なお前達の働きに感謝する」

 弱々しい手で気丈に振る舞う王女に、トーマスは頭を下げて誓いを立てる。

「必ずや、この王都を悪魔共から奪還してみせます。安心してお休み下さい」

 トーマスは、マスクを装着する事により毒の霧に耐性を得た兵士や冒険者達を集めると、反撃の一手に出るべく部隊の再編成を始めた。もちろん、サクションの魔鉱石も街中で使用する手筈である。
 そんな折、二度目のテレポートでアラヤが王妃を連れて現れた。

「おおおおっ‼︎ジョアンヌ王妃様もご無事だぁぁっ‼︎」

 アラヤがテレポートで現れた事よりも、王妃が助かった事が大きく、兵士や冒険者達の士気は更に上がる。

「やるぞ野郎ども‼︎街を、王都を取り返すんだ‼︎」

「「「うおおぉぉぉぉっ‼︎」」」

 兵士達は隊列を組んで街道を行軍し、冒険者達は間道を警戒して行動を開始した。

「俺は、再び王城に残された兵士達の救助に向かうつもりだけど、こっちは任せて大丈夫?」

 どちらを優先するという基準は無いが、思った以上に場が昂っていて、アラヤは少し戸惑っていた。

「…はい。ですが、緊急時の対応役としてハウンをお連れ下さい」

 アヤコとサナエは王妃とリッセンを預かると、こっちは大丈夫と笑顔を見せる。

「じゃあ、行ってくる」

 アラヤは、ハウンを連れて再び王城にテレポートした。


 王都の北入り口付近。
 毒の霧に侵されて、痙攣して動けない人達が路上で倒れている。
 その中を、ヒタヒタと歩く影がある。

『そろそろ頃合いかな?』羊頭がそう尋ねると、『そう急ぐ事もあるまい』と牛頭が答える。合い中にある人の頭は、口角を吊り上げて笑うと、パチンと指を一回鳴らす。
 すると、中位悪魔のガトリルが複数体現れて、3つ頭の上位悪魔に対して平伏した。

『さて、近代の生と性の輝きを拝見しようではないか。是非とも、新しい輝きを見たいものだなぁ』

 いつの世も、命の危機に陥った者の輝きは素晴らしいものだった。その輝きを持った魂の美味さは、悪魔にとって至高の味なのだ。
 ガトリル達は、這い蹲る人間達に言語傀儡を掛けると、ゆっくりと繁華街へと向けて進行を開始させるのだった。
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