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第15章 その力は偉大らしいですよ⁉︎

216話 スフィリの抵抗

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 暗闇が続く中、カツンカツンと階段を降りる音が響いている。
 壁があるのは右側だけで、左側は奈落の底になっている。
 先頭を進むスフィリ司教は、入り口に居る筈の配下達に念話を何度も試みていた。

(やはり繋がらない。既に連絡に動いているなら良し。…しかしおそらくは、口封じされているだろう)

 スフィリの直ぐ後ろをついて来ているのは得体の知れない魔物か精霊。彼がおかしな真似をしない様に見張っている。
 
「トランスポート司教、貴方は帝国に何故肩入れしているのですか?我々大罪教は中立でなければならない筈だ」

「帝国に?フフフ、それはとんだ勘違いだよスフィリ司教。私はいたって中立だよ?」

 顔を確認はできないが、彼が笑っている事は分かる。

「今頃、帝国も慌てふためいてる事だろうな。ラエテマ王国を攻めている筈が、背後から火が上がるのだからね」

「それはどういう意味だ?」

『ススメ。マダサキダ』

 止まろうとすると、触れるでも無い見えない力で背中を押される。やはり、魔物ではなく精霊なのかもしれない。

「まぁ、目的地はまだ遠いようだから、行きがてら話しても良いだろう。う~ん、どこから話すかな?」

 どこか楽しんでいる口ぶりのトランスポート。

「およそ30年前、私はナーサキ王国のフレイア巡礼地に居た。老朽化した建物の床石から、地下通路が発見されたという報せを聞いて、いてもたってもいられなくてね。御勤めなど放置して飛んで行ったよ。いやぁ~、あの出会いは衝撃だったね?調査に赴いた団員が、私以外は全て殺されてしまったからね」

『ナガキネムリヲサマタゲタ、オマエガワルイ』

 どうやら、この気味の悪い精霊とはそこで出会ったらしいな。しかし、ナーサキでその様な調査や事故があったという記録は見た事は無いな。トランスポートが揉み消したか。

「そこの地下は、此処よりは小規模でね。割と早くに祭壇と宝物庫に着いた。まぁ、途中迷路みたくなっていたが、ケイオスの案内があったからね。私は早速、魔導書を読み耽ったよ」

「祭壇?魔導書?まさか、此処と同じ古代遺跡だったと⁉︎」

「正解。教団内でも、この様な遺跡の存在を知る者は数少ない。ましてや正確な場所など、教皇しか知らないだろう。無論、私が聞いたところで答えてはくれないだろうがね」

 事実、スフィリもこのラエテマ王国の地下墳墓の存在を、怠惰魔王の協力で知り得たぐらいで、魔王厄災の資料や記録を見たところでは辿り着けなかった。

「そもそも遺跡は7箇所存在する事も、それぞれが魔王の祭壇とも知らなかったろう?」

「な…⁉︎ま、まさか…厄災は⁉︎」

『…ツイタナ。ホウモツコダ』

 グンと背中に力が加わり、スフィリは階段から突き出された。松明と共に転がり、広くなった床に倒れる。

「くっ…。はっ⁉︎ここが宝物庫か⁉︎」

 辺りを松明で照らすと、滅多に市場に出回らない高等魔道具や、宝石類が散らばっている。

「ケイオス、それらしい反応はあるかね?」

 精霊は、ギョロギョロと複数の目を動かしながら部屋の隅にある机に向かった。

『ミツケタ』

 卓上にあった物を除け落とし、一冊の魔導書を浮かばせる。

「ほう、紫の魔導書…色欲は闇属性か」

 属性⁉︎魔王に固有の属性があるのか⁈
魔導書はふわりふわりと浮きながらトランスポートの手に収まった。

「良し。では次だ。祭壇に降りるとしよう」

「ぬ?読まないのか?」

 てっきり読み耽ると思っていたスフィリは、思わず口に出してしまった。時間が稼げると考えていただけに、迂闊過ぎる失敗だ。

「ハハハ、中に記載されている内容は、大半は一緒だからね。今、急ぎ見る必要は無いのだよ」

 そう言って、自身の亜空間収納に近くの宝石類事収納した。
(つまりトランスポート司教は、ナーサキの魔導書以外に最低でもあと一冊は持っているという事か)

「…その魔導書には、何が載っているんだ?」 

「…禁呪だよ。ナーサキで使ってみたのだがね?あれは無属性の禁呪【始まりの虚無】だよ」

「な…⁉︎」

 禁呪とは何だ⁉︎あのナーサキを滅亡させた巨大な爆破みたいなものが、魔法の一つだと言うのか⁈

「さぁ、無駄話はそろそろ辞めにしよう。先に進みたまへ」

 彼の言葉に反応したかの様に、ギィッと扉が開く音がした。見るからに怪しい扉が片方だけ開いている。
 スフィリは落ちていた松明を拾うと、祭壇へと続く扉を開いた。
 祭壇は、少し階段を降りた先にあった。
 中央に置かれた祭壇以外には、壁端に石柱があるぐらいで、何も無い部屋だ。

「トランスポート司教、貴方の目的はなんだ?」

 スフィリは身を返して、松明をトランスポートに向けて翳した。

「ここまできて、まだ分からないつもりかね?この遺跡に来た理由は既に分かっているだろう?」

「それは…分かっているが、何故、この様な…恐ろしい真似ができるのだ⁉︎」

「何故?さあ…な。自分でも分からんよ。色欲と分別の血筋だから…という事でも無い。精霊の加護を得た私は、もはや並の人間では無いからな。ただ平等に、魔王や勇者に対して擁護するでも無く、帝国や王国に肩入れもせずに中立である。それは即ち、対等であるべきだと私は考える。では対等とは何か…?…うん、それは弊害となる存在である…という事かな?」

 自身の行動の意味を理解していないだけじゃなく、恨みを買う事すらも気にならない。中立や対等が弊害だって?上から目線で自身を神の立場で見ているつもりか?

「異端者め‼︎」

 スフィリの怒りを、一瞬にして剣士が押さえつける。
 石床に顔を押し当てられたスフィリは、今の今まで視界にすら映っていなかったこの剣士の存在を忘れていた。並外れた力に、スフィリの頬骨にヒビが入る。

「止めろ、サイル。スフィリ司教には、全てを見届けてもらう。最後に彼の率直な感想を聞きたいからな」

 解放されたスフィリは、蹲りながら祭壇を見上げる。
 トランスポートが、祭壇に見た事の無い魔法陣を描き始めると、サイルが生首を取り出して祭壇に乗せた。
 よくよく見れば、その生首は変わり果てているが、前強欲魔王のヨウジ=ゴウダである事に気付いた。

「悪魔に捧げる供物は、魔王の一部でなければ成らぬ。ゴウダは魔王の座を奪われたが、その血は生きている。ちゃんと有効の筈だ」

 まだ若かったその元魔王の生首の目線が、恨めしそうにスフィリを見ている。

「我が名はダクネラ=トランスポート。魔王の血を受け継ぐ者。我が呼び掛けに応じ姿を現せ、色欲の悪魔アスモデウス!」

 トランスポートがそう呼び掛けると、描かれた魔法陣が光り出す。その光は紫で、彼が闇属性だと言った意味が分かった。

【我が名はアスモデウス。強欲の魔王を討ち取りし叡智者よ。我を呼び出したのは、如何なる理由か?】

 アスモデウス、その姿は牛・人・羊の頭を持ち、下半身は鳥脚で尾は蛇と、キメラを想像する様なまさしく悪魔の姿である。

「理由は簡単だ。この世を満喫してくれれば良い」

 世界の叡智と知識を持つアスモデウスは、その突拍子な答えに思わず笑い出した。

【クハハハッ!面白い!我が知る智の深淵を望まず、我のを知りたいのだな?】

「ああ、前に比べて世界も見た目は変わっている。知識を更新するべきだ」

【ああ、そうしよう】

 ニヤリと3つの頭が笑い、一瞬で紫の煙になると、そのまま姿を消した。
 悪魔を見送ったトランスポートは、蹲るスフィリの前に屈むと興味津々な表情で質問する。

「それで?どうだったかな?これから起こる惨状はまだ始まりに過ぎないのだが、その始まりに立ち会えた感想は?」

「必ず、必ずや、貴様は身を滅ぼす!魔王や勇者も馬鹿ではない!」

「うむ、そうだな。しかし、彼等が皆協力的とは限らない?例えば、分別の勇者や傲慢魔王は私の協力者なのだが?いやぁ、対等なのだからそれくらいは当然ではあるな?」

 睨むスフィリの頭を、トランスポートは哀れむ様に撫でると立ち上がり背を向ける。

「サイル、もう楽にしてやれ」

 剣士が抜剣してスフィリの頸を掴み持ち上げる。すると、スフィリは懐から小さな水晶を取り出して叫んだ。

「後はお願いします、教皇様!」

「しまった!記録結晶メモリスフィアの魔道具か‼︎」

 彼もろとも剣を突き刺し結晶を破壊するが、トランスポートは無駄だと頭を横に振った。これは先程の宝物庫にあったのだろう。
 この記録結晶は、使用者の生涯の記録を残す特殊な魔道具。使用者が発動する。つまり、記録は指定した送り先に飛んでしまったのだ。

「してやられたか。まぁ良い、いずれは知れる事よ」

 トランスポートは、サイルとケイオスを寄らせると、ゲートを唱え悪魔の後を追った。
 床に落ちた残された松明だけが、生者が居なくなった祭壇でパチパチと音を響かせていた。





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