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第14章 面会は穏便にお願いしますよ⁉︎

207話 ズルくない?

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 初日の決闘が終わり、生き残った闘士はアラヤとクララを含めた25名。その中にはブルドックの犬人ホンデライタ、ヘラジカの鹿人ヒルシュ、小柄な蝙蝠人バットマンの3人も居る。

「はい、皆様お疲れ様でしたー!」

 観客が全て帰った後、進行役をしていた人蝙蝠ヒューバトのベッキーがやって来た。

「皆様は、今晩、外出は認められてません。なので、闘技場壁に設置されてあります横穴にて休んで頂きます。尚、戦闘も禁じられています。医療具や食事等は横穴の奥に有りますのでご自由にどうぞ」

 一通りの説明を終えると、彼女は飛び去っていった。残された闘士達は、近場の横穴に入って行く。アラヤもとりあえず中を見て見る事にした。用意してあった食事というのは、パンが2個とミルクが1瓶だけ。毎日入れ替わる訳だし、費用的にこれでもマシだと思う。まぁ、トイレと寝床が用意されているだけでも十分かな。

「アラヤ様」

 クララが、辺りの目を盗んでアラヤの横穴にやって来た。

「キララ、俺はニイヤだよ?」

「そうでした。すみません。あの、食事が足りないと思い…」

 アラヤは直ぐに入り口を土壁で隠しジャミングを掛けた。
 クララは、亜空間収納から低い机を取り出して置くと、更に料理を取り出して並べる。こうなる事を予想して、どうやら前もって準備していた様だ。

「正直、俺達だけこんなに食べれて良いのかね?」

「大丈夫だと思います。調理等で包丁とかを出したら駄目でしょうが、調理済みの料理ですし、亜空間収納も技能ですから」

 怪我も無く食事も満足に取れて、他者から見たらズルイと野次されるだろうな。

「ア…ニイヤ様、今日はその…戦闘で体が昂り火照っていません…か?」

 そう言って、恥ずかしそうにスルリと胸当てを外すクララ。そう言えば、彼女の発情期はまだ終わって無かった。
 雰囲気に流されて、2人で一緒にそのまま朝を迎える。

「お、おい、今一緒の穴から出てこなかったか⁉︎」

 翌朝、2人が同じ横穴から出て来た事がバレ、闘士はおろか、場所取りに来ていた観客席からも野次が飛ぶ事となった。
 急遽、ベッキーが2人に話を聞きに来た。

「えっ⁉︎ふ、2人、夫婦なんですかぁ⁉︎」

 驚いた彼女の声がコロシアム内に響き渡る。流石、マイク無しで実況できるだけあるね。

「な、なんと素晴らしい!…じゃなかった!駄目ですよ、いくら夫婦とはいえ、闘技場内で同じ横穴に入られては!」

「す、すみません、次は気をつけます」

 コロシアム的には、今回はルールに記載されて無い事もあり、大目に見てくれるそうだ。そもそも、恋人や夫婦で参加する事は想定していなかったみたいだし。
 ペナルティーは無かったものの、クララに好意的だった闘士達からの殺気が、開始前からヒシヒシと伝わってくる様になった。

「ーー間も無く開始です‼︎」

 ベッキーの毎日恒例の紹介演説も終わって、いよいよ2日目の決闘が始まる。ただ、今回アラヤとクララの2人の技能スキルの1部が公開されて、初参加者は20人と極端に減り、観客席は立ち見席ができる程に極端に増えた。

「あの竜人ドラッヘン狼人ライカンスロープ、2日目で技能が10個も出たらしいぜ?」

「しかも夫婦なんだろ?いろいろとズルくねぇ?というか、ズルくねぇ⁉︎」

 興味と妬みの野次が飛ぶ観客席。闘士達からも殺気が凄い。だが、公開された技能の数の影響か、やはり様だ。

「全属性魔法?…並行思考に毒耐性…竜人特有の技能か?」

 ビラを見ている観客達は、初めて見る技能の名前や数の全てが、竜人特有の技能だと思っているらしい。クララも出ている筈だけど?とにかく、開始前から見世物状態となってしまった。

『アラヤ君、私達も出た方が良かったのでは…?』

 少し機嫌が悪そうな女性陣からの念話に、アラヤとクララは冷や汗を流す。そんな中、とうとう開始のドラが鳴らされた。

 開始と同時にアラヤとクララに襲い掛かる者はおらず、最終日の闘士達が狙われている。大半が、2人と相手するのは避けるつもりなのかも。

「お、俺は目標達成だし、降参するぞ!」

「おおっと!3日目組の蝙蝠人バズー、集中攻撃に耐えられずここでリタイアだぁー!先日のシューバッツ闘士の二の舞いになる事を恐れたかぁ⁉︎」

 有翼である彼が狙われるのは仕方ないだろう。就職する為に元々3日目までと言っていたからね。

「いい加減、何もしないわけにもいかないよね?」

 誰も攻めて来ないなら、こちらから動くしかない。そこでふと、ブルドックの犬人である彼と目が合った。
 ニヤリと受けて立つ意思を見せてくれたので、アラヤも思わず嬉しくなった。

「我が名はポトフ!坊主を無視して頂上など有りえん‼︎俺は逃げも隠れもしないぞ!いざ尋常に勝負だ!」

 その気迫に、彼の周りに居た闘士は後退る。

「俺の名はニイヤ!貴方に敬意を評し、全力で相手します!」

 アラヤは全身をバルクアップさせ、ポトフに向かって走り出した。その膨張した体型に皆がドラゴンの姿を連想させた。

 アラヤは竜爪剣は帯剣したまま、ポトフに殴り掛かるも、ギリギリ躱されて素手で地面を割った。飛び散る破片と土煙が上がると、それに乗じてポトフが長剣で斬りかかる。卓越した剣技はLV3といったところか、アラヤもすかさず剣でそれを受け流す。

「どうした⁉︎それが坊主の全力では無いだろう⁉︎」

 確かに、全力で相手をすると言った手前、手を抜くのは失礼だ。アラヤは受け流しは止めて、一瞬の隙を突きポトフの剣を弾き飛ばした。だが彼も、そこで動きを止めようとはせずに、格闘技に切り替えて攻撃を仕掛ける。しかし、勝敗は一瞬でついた。
 腹部にアラヤの突きを受けたポトフは、軌道上に居た闘士達を巻き込んで倒れた。死んではいないけれど、内臓破裂した様だ。

「ガハッ!くっ、降参だ…俺じゃまだ、頂上は…無理だな…」

 アラヤは直ぐに駆け寄り、腹部にヒールを当てる。こんな事で死なれるのは後味が悪い。本人はそのまま気を失って、やがて地面に沈んで消えた。

「むぅっ!肉食系カーネヴォーばかりが勇猛果敢だと思われるのは、草食系ハービヴォーにとって癪というもの!」

 そこに現れたのは、ヘラジカの鹿人だった。彼の両手には片手斧が握られており、クロスした構えでアラヤと対峙する。

「竜人ニイヤ、我が覚悟を受けて見よ!」

 抜け落ちたヘラ角を用いた片手斧で、アラヤに休む間を与えない様に斬撃ラッシュを掛ける。

「手を出さない新参者に代わり、ここに来て生き残り闘士達が、次々とニイヤ闘士に襲い掛かる!ヘラジカの戦士ベニスの猛攻が止まらないっ‼︎」

 手数の多さに、受け流しが間に合わなくなってきたアラヤは、少しずつだが竜鱗が削られてきた。

「やりますね!」

 アラヤも楽しくなり、足りない手数を増やす為に他の闘士が落とした三日月刀シミターを拾い取り、斬撃を巻き返していく。
 ヘラ角の片手斧は武器を絡め取る事にも向いている様で、何度も剣先を絡めてくる。ならばと、ワザとシミターを奪われてやる。

「良し‼︎」

 剣を奪った事による気の緩みをアラヤは逃さなかった。奪われた直後の素手で、そのままベニスの顎を打ち抜いたのだ。

「ガハッ⁉︎」

 ベニスは、脳震盪により崩れる様にして倒れた。

「良し、次!」

 それからも、己が実力を挑戦する様に次々と挑まれた。それが制限時間まで続き、どれも返り討ちにしたが流石に疲れた。

「えー、ゴホン!本日はこれで終了なんですが…コロシアム史上、3例目の異常事態となりました。最終日及び3日目の生き残り者がゼロとなり、初日・2日目の闘士が18名のみとなりました。よって、明日の参加者制限を50名から80名まで引き上げます!」

 ベッキーの発表に、楽できると思っていた闘士達からの不満が飛ぶ。それでも、新たな参加者が増えるかは分からない。明日になれば、アラヤとクララの技能は半分が公開される。その数を見て、戦いたいと考える者が現れるとは思えないからだ。

『全く、戦士達を怯えさせおって。エアリエルの眷族は手心を知らんのか』

 アラヤとクララの背後に、ターバン姿の竜人が立っていた。声を聞く直前まで、気配を全く感じなかった。

『もしかして、ゲーブ様…?』

『いかにも』

 土の大精霊ゲーブは、姿が竜人の男性だった。アラヤと違って尾があるけれど、それ以外は特徴は同じに見える。

『今回は特例だ。面会してやるから、エアリエルを連れて山に来い』

 そう言うと、ゲーブは地面へと沈んで消えた。どうやら、アラヤとクララの闘技内容に納得はしていないが、今後のコロシアムに影響がありそうだから止めに来たのかもしれない。

「あ、ベッキー?」

「どうされました?ニイヤ闘士」

「俺とキララは、明日の決闘を棄権します」

「「「は?はぁ~~っ‼︎⁉︎⁇」」」

 その場に居た闘士達全員が、2人の突然の棄権発表に、驚きの声をコロシアム中に響かせるのだった。
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