209 / 418
第14章 面会は穏便にお願いしますよ⁉︎
205話 観戦
しおりを挟むコロシアム自体は、街の中心にシンボルの様にある。建物の高さは5階建くらいで、地上部分は全て観客席みたいだ。受付に来たアラヤ達は、挑戦者専用入り口と書かれた門から地下へと階段で降りて行く。
既にロビーは人集りで、受付窓口にも行列が出来ていた。
「ああ、あそこにルールが書いてあるね」
窓口の上に、パガヤ字で大きく記してある。その大半はカオリが話した通りで、日が経つに連れて技能が開示されるというもの。但し、持ち込める武器は1種類としている。魔法は原則として技能持ちのみ使用許可。魔剣・魔石・魔道具による魔法は認めない。
それとは別に、勝利条件と敗者条件が記されている。
勝利条件、制限時間まで生きている事。
敗者条件、死亡。又は舞台からの逃走。尚、敗北宣言による途中棄権した場合は、次回以降の参加は認められない。
「死亡確率が高いのに、何故これだけの参加者が多いのだろうか?」
「何だ坊主、参加する理由?そんなもの、雄に産まれたからには、頂上を目指すのは当たり前だろうが」
前の列に並んでいたブルドックの犬人が、鼻息荒くして腕の力こぶを見せる。
「肉食系の考える事は単純だよなぁ。土の大精霊ゲーブの加護が手に入る意味を全く理解していない」
今度は隣の列に並んでいたヘラジカの鹿人が話に加わってきた。装備は片手斧みたいだけど、自分の抜けたヘラを加工した物じゃないかな。
「どっちでも良いよ、そんなの。出場して3日まで生き残れば、衛兵に就職できるんだ。名誉や加護より、俺は安定した仕事が欲しいね」
今度は天井から声が聞こえた。見上げると、小柄な蝙蝠人が見下ろしていた。
3人は、睨み合っている。もう既に戦いは始まっているのだろうね。
「理由は人それぞれです。貴方は貴方の理由で参加するのでしょう?ただ、見たところ貴方はまだ来たばかりよね?昨日の決闘をご覧になりまして?」
係員らしき人兎の女性が、3人を再び列に戻る様に指示しながら、アラヤに羊皮紙のビラを渡した。
そこには、現在の生き残り者の登録名と開示された技能が書かれていた。
「参加するのであれば、前日に相手の戦い方を見るべきですよ?」
彼女はそう告げた後、他の参列者にもビラ配りに去って行った。その先に、壁に大きく貼り出されたビラと同じ羊皮紙があった。毎日、こうやって開示されているのか。ただ、開示された技能が分かっても、登録名では顔も種族も分からない。まぁ、アラヤの場合はその点は鑑定を使用すれば良い話だけど。
「確かに下見は必要だね。参加は明日にして、今日の試合を観に行ってみようか」
アラヤ達は引き返して、今度は観客席入り口に向かった。観覧費用に1人300ガムを支払い、観客席へと階段を上る。
観客席は5階あり、最上段まで既に半分以上の座席が埋まっている。もうすぐ参加登録締め切りだったから、決闘が始まるまでは後2時間はある。
最上段には、明日参加するつもりの亜人達が多い様だ。間近で鑑定したいアラヤ達は2階の観客席に場所を確保した。
「あれ?既に前日の参加者達が居ませんか?」
クララが指差した先には横穴があり、そこに片腕の無いサイ人が休んでいた。他にも傷だらけの亜人達が穴の中で休んでいる。あそこが与えられた休憩室らしい。闘技場から外部に出る事はできないみたいだ。逃走と判断されるのかも。
「あのシロサイ…鑑定では名前はポポス。ビラで見ると…ああ、3日目の闘士みたいだ。技能も3つ開示されてる。身体強化・一点突貫・槍技って、元々彼が持ってる技能がそれで全部だから、かなりヤバイ状況だな」
他の生き残り闘士を鑑定していると、先程の係員がアラヤの下にやって来た。
「注意勧告でございます。闘技場での鑑定技能の使用は罰則がございます。場内の至る場所に貼られている鑑定除けの護符により、使用者は即座に特定され出禁、及び100万ガムの罰金が課せられます。今回は、初回なので免除されますが、鑑定技能の使用はお控えください」
「は、はい。分かりました。教えて頂きありがとうございます」
罰金高っ!…というか、真っ直ぐ俺に言いに来たあたり、鑑定使用者の特定の話は本当みたいだな。
「あの、それでしたら、どうやって登録名の人物を見分けるんです?」
「…。もしかして、お客様は観覧は初めてでございますか?」
「は、はい」
「そうですか。やはり山から降りて来たばかりなのですね。安心してください。決闘中は、神の御力で闘士の頭上には名が表示されます。それに、解説者が居て実況も行いますので、注意すべき人物等は分かると思いますよ」
この係員、アラヤが滅多に下山しないという竜人だと思って親切に対応してくれていた様だ。
「そうなんですか。親切にありがとうございます」
「いえ、お仕事ですから。明日、登録をお待ちしていますね?」
彼女は笑顔で手を振り去って行った。
「ひょっとして、俺に気があるって思ってる?」
サナエがからかう様にアラヤを覗き込む。人狐姿の彼女の悪戯顔は、普段と違う魅力があるな。
「違う事くらい、分かってるよ」
あの営業笑顔、親切心というよりも、コロシアム運営側としての対応だろう。珍しい竜人の参加は目玉だろうし、簡単に負けてもらっても困るというわけか。
「あ、準備を始めたわ」
やがて観覧席も満席になり、開始30分前にもなると、生き残り闘士達はゾロゾロと横穴から出て来て、体を解したり装備の確認を始めた。
それから程なくして、闘技場の四方にある鉄扉が開かれた。本日の初参加闘士の入場だ。受け付け並んでいた先程の3人も居る。
入場者は、それぞれが開始前の場所取りに急ぎ、辺りを警戒している。無論、生き残り闘士の周りには我先にと集まっていた。
「開始と同時に討つつもりでしょうか?」
「だろうね。だけど、そんな事は生き残った彼等も想定済だろうよ」
張り詰めた殺気と緊張が闘技場に充満し、ざわついていた観客達も静かになる。そこに、人蝙蝠のウグイス嬢らしき係員が現れた。
「さぁ、本日も始まります命を賭けた魂のぶつかり合い!進行アンド解説はお馴染み、私ベッキーがお送りします!さて、本日が最終日となる闘士は1名!連日見せた彼の突進には、誰もが魅了され心躍らせた!果たして、今日も彼を止める者は現れないのか⁉︎熱き猛牛の闘士、ルトーザ‼︎」
紹介された牛人の闘士は、軽く手を挙げて観客達に手を振る。その表情は、溜まった疲労とダメージを見せまいとしている。
「そして3日目の闘士は8名!どれも強者揃いだが、注目すべきはやはりこの雄!大鷲とガゼルの混血変異種、シューバッツ‼︎」
上半身が鷲で下半身がガゼルの脚となった姿で、上半身には鷲の大きな翼があるだけでなく、人間の腕も別にある。つまりは腕が4本有るという訳だ。やはり魔物と勘違いしそうになるな。
「現状で有翼種は彼1人!今日こそは、彼に地を踏ませる新たな参加者が現れるのか⁉︎他にもまだまだ油断ならない挑戦者はいるぞー!総生き残り闘士数32名!初参加闘士50名!計82名による大決戦!間も無く開始です‼︎」
全ての観客が固唾を飲んで見守る中、戦闘開始のドラが激しくコロシアムに鳴り響いた。
それと同時に一斉に始まる大乱闘。初めに犠牲になるのは、場に飲まれた臆病者が数名。そして、始まる前から満身創痍の生き残り闘士達。
「おおっと!やはりいつも通りの展開かぁー⁉︎脅威となる猛者を、始めのうちに襲い掛かるぅ!」
張り裂けんばかりの声で実況するベッキー。会場も熱気も釣られたように一気に高まる。早速、ポポスは標的にされて、抵抗叶わず地面に突っ伏した。無論、最終日であるルトーザも的である。結託したかの様に、同時に数名が襲い掛かる。
だがそれも、ルトーザには予測していた事態で、攻撃に合わせてバックスステップしていた。
しかもその体勢は、突進の構えの前段階。一瞬にしてその場にいた数名を返り討ちに弾き飛ばした。その威力に、近くにいた闘士は動きを止めた。
しかし、それを予測していたシューバッツが、上空からルトーザの脚を弓矢で射抜いた。
休む間も無く襲い掛かる360度からの攻撃に、7、8人は返り討ちにするも、ルトーザは倒れ力尽きた。
それからも、次々と生き残り闘士の脱落者は増え、3時間という長過ぎる制限時間は、迂闊に攻めようとはせずに、後半からは翌日の為の余力を残す駆け引き戦となった。
膠着状態となったまま、制限時間のドラが再び鳴らされる。
やはり30名程しか残っていない。あの3名も、何とか残れたみたいだが、その表情には疲労感と少しの後悔が見える。
気になったのは、いつのまにか倒れた者達の姿が消えていた事だ。誰が退かしたのだろう?
「ひょっとしたら、味方で組んで戦えば早く済むと思っていたけど、やっぱり、参加は俺とクララだけの方が良いかもね」
コロシアムからの帰り、アラヤは2人の参加中止を決めた。
「そんな!アラヤ様と共闘できる良い機会でしたのに!」
「うん、そうだけど。それは、ああいう場じゃないんだよね」
ガッカリするオードリーとアスピダ。だけど、先程の戦い方を見ると、2人は確実にアラヤとクララの盾にならんと先走る筈。しかし、目下で戦う闘士の大半の速度に、今の彼等では対応できないと分かった。それなら、巻き添えを食わせる味方が居ない方が、思いっきり暴れられるというものだよね。
0
お気に入りに追加
2,699
あなたにおすすめの小説
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
生活魔法は万能です
浜柔
ファンタジー
生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。
それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。
――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
テンプレを無視する異世界生活
ss
ファンタジー
主人公の如月 翔(きさらぎ しょう)は1度見聞きしたものを完璧に覚えるIQ200を超える大天才。
そんな彼が勇者召喚により異世界へ。
だが、翔には何のスキルもなかった。
翔は異世界で過ごしていくうちに異世界の真実を解き明かしていく。
これは、そんなスキルなしの大天才が行く異世界生活である..........
hotランキング2位にランクイン
人気ランキング3位にランクイン
ファンタジーで2位にランクイン
※しばらくは0時、6時、12時、6時の4本投稿にしようと思います。
※コメントが多すぎて処理しきれなくなった時は一時的に閉鎖する場合があります。
小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします
藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です
2024年6月中旬に第一巻が発売されます
2024年6月16日出荷、19日販売となります
発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」
中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。
数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。
また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています
この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています
戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています
そんな世界の田舎で、男の子は産まれました
男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました
男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます
そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります
絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて……
この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです
各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます
そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます
カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる
名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる