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第14章 面会は穏便にお願いしますよ⁉︎

199話 クララVSバスティアノ

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「メイドに属する者ならば、どれだけ仕事を熟せるか、管理する立場である私が見極めてあげましょう」

 バスティアノは、短い棒状の筒を取り出して振った。すると長さが20センチ程伸びた。前世界の伸縮する警棒に似ているな。
 対するクララは、ゴードンに作ってもらった物を改良したアラヤ特製のミスリル製ナイフを構える。グリップの2つに増えた魔鉱石スロットには、現在サンダーランスとエアカッターの魔鉱石玉が組み込まれている。対人用に合わせたスタンガン式ナイフ仕様だ。

『アラヤ様、どうしますか?』

 クララも、デピッケルでバスティアノと面識はあるだけに戦い辛い。ましてや、自分達は賊として見られているだろうから、相手は容赦なく来るだろう。

『手加減は無理だと思うから全力で行くべきだよ』

『その様ですね』

 クララは彼をアラヤ達から引き離す様に仕掛ける。ナイフにサンダーランスを纏わせ振ると、斬撃の軌道と同じ形状に電撃が飛ぶ。
 バスティアノはそれを警棒で。すると電撃は霧散して消えた。

「このブラックジャック(警棒)はアダマンタイト製でしてね。耐魔法として使えるだけでなく硬度も重量もあり、武器破壊も得意としてるんですよ」

 警棒による無駄の無い刺突や振り下ろしで、クララを攻め返す彼には余裕が見える。まだ小手調べといったところなのだろう。
 対するクララは武器破壊を嫌ってか、早々とミスリルナイフを収納してフィンガーナックルに切り替えた。こちらも品種改良してあり、魔力粘糸の編み方と量を変えた事で、以前と違い竜鱗は硬いだけで無く柔軟性を持っている。

「ふむ。立ち居振る舞いはやや荒いですが、正確な攻撃と連携ですね。その機敏な動作は評価に値する」

「それはどうもありがとうございます」

 2人共に激しい打ち合いを繰り広げるが、ややクララが押され気味の様だ。でも技能スキルや補助魔法を使用していないところを見ると、彼女自身も小手調べといったところか。

 バスティアノはクララに任せて、アラヤはハーシェルと向き合う。彼は恐怖に顔を痙攣らせながらも、思わぬ援軍にやや緊張が解れた様だ。

「ぐふふ、良いぞ!こんな賊は片付けてしまえ!」

 調子に乗られるのもシャクなので、コラープス(虚脱)を掛けて黙らせる。

「あ、頭下げないでください!」

「…悪いけど、急いでくれるかな?」

 結局、タオの描き終わりを待つ事にしたが、問題はどうやってタオを傷付けずにハーシェルを凝らしめるかだ。
 宿屋の外でも戦闘が始まったらしく、慌てる冒険者達の声が聞こえてくる。あちらは問題無い様だね。

「メイドたる者、主人を待たせてはいけませんよ?そろそろ本気で来て頂かないと、そこの主人を先に相手する事になりますが、宜しいのですかな?」

 明らかに楽しんでいるバスティアノと、思う様に戦えないクララは苛立ち始めている。
 室内は激しい戦闘が行われたにも関わらず、破壊されたのは僅かな家具で、全てクララによるものだ。

「ええ、そうですね。これ以上、ご主人様を待たせる訳にはいきません。少し…ばか…りー」

 クララはその身を狼人ライカンスロープへと姿を変えていく。

「無作法にはなりますが、大目に見てもらいましょうか」

「シルバーファングの狼人⁉︎」

 流石のバスティアノも、驚きの表情を見せて身構える。無理もない、彼はクララが人間だと思っていたのだから。
 対するのが亜人なら、その考えは改なければならない。その身体能力は人間よりも遥かに高い。ドワーフとも似ているが、注意するべきはドワーフの腕力や頑丈差とは違い、俊敏差が桁違いな事だ。

「推して参ります!」

 形勢逆転して攻めに転じたクララは、壁や家具を破壊しながらバスティアノを追い詰める。

「最早、メイドとは呼べませんね!」

 それでも尚対応できている彼は、流石と言うべきだろう。しかしそれもクララが技能を使わなければの話である。
 ヘイストで更なる加速したクララは、厄介だった警棒を絡め取り奪うと亜空間に直ぐに収納する。

「参りましたね。…いやはや、歳を取りたくはないものです。貴女のその容姿もさることながら、実力もかつての仲間を見ている様です。ここで諦めたら、彼女に嬉々として笑われるでしょうね。出来れば執事としての外見は保ちたかったのですが…」

 バスティアノは突如、筋肉を膨張肥大させてシャツのボタンが弾け飛んだ。どうやら全身にバルクアップを行った様だ。筋骨隆々のその姿は、とても70近い老体とは思えない。

「良し!完成したよ!」

 2人がいざ全力でやり合おうというタイミングで、タオがハーシェルの肖像画を描き終えた。

「…。どうやら依頼達成ですな。残念ですがここまでの様です」

「近いうちに、また続きはお願いします」

「それはどういう…?」

 再び人狼に戻ったクララは、変身を解いた状態だった。それを見たバスティアノは、クララと分かり状況を理解した。
 彼は身嗜みを整え直し、タオのその絵を回収すると、タオを抱き抱える。

「…では、私どもはタオ様を連れて避難すると致します。貴女様のご主人様にも宜しくお伝え下さい」

 アラヤ達に軽く頭を下げると、2人は破壊された壁から颯爽と消えて行った。

「ち、ちょっと待て⁉︎俺を助けろよぉぉぉっ⁉︎」

 タオ達の依頼者はおそらく子爵であり、肖像画を届けに行ったのだろう。彼の安否については、依頼外の事なので放置と判断したらしい。
 取り残されたハーシェルは、恐怖で漏らしてしまい床へとへたり込んだ。アラヤ達も殺す気まではないんだけどね。

「貴様のこれまでの悪事は、多くの者達を苦しめた。よって、貴様には誓いの呪文を施す。これは誓いを破った場合には死が訪れる呪文だが、悔い改めるならば少しばかり軽くしてやろう」

「は、はいいいっ!悔い改めますぅ‼︎ですからどうか…!」

 泣きながら命乞いをするハーシェル。
 今回の件、アラヤは殺すよりも改心させる事が最適解だと考えた。それならば誓いの呪文が1番良いやり方だろう。

「これから先、貴様は領内に住む全ての人々に、誠心誠意努力して助ける事を誓え。もし是と真逆の行いをすれば、その度に体の靭帯が切れ、修復不能となるだろう」

 初めは手足の靭帯から始まり、終いには声帯が切れてしまう。序盤から1人では生きていけなくなるのだが、無事に余生を過ごせるかは彼の頑張り次第という事だ。
 被害者からすれば生温いと思うかもしれないが、首を挿げ替えるのが一番とは限らないからね。

「じゃあ、これからの君の働きに期待するよ」

 ハーシェルに誓い呪文を刻むと、せめてもの情けにクリーンを掛けてあげて部屋を出た。
 宿屋の支配人が隠れながら怯えていたが、誰も死人は出してないからね。部屋は散々だけど、彼が善意で修復してくれるだろう。
 外では、アヤコ達の戦闘も終わっていた。
 Aランクの冒険者には苦戦したらしく、手加減出来ずに重傷者にしてしまい、サナエが現在治療をしていた。

「体の治療はできたけど…毛髪は戻らないみたい…ごめんなさい」

 アッシドミストにより全身火傷を負った2人の冒険者は、涙を流しながら治療を受けていた。それはか弱そうに見える女性達に負けた羞恥心か、それとも溶けた頭髪を想ってかは分からない。…ご愁傷様です。

「とりあえず帰るか」

 再び農園へと帰ったアラヤ達は、待っていたクレアに事の結果を話す。

「へぇ、誓いの呪文ねぇ。それであの馬鹿が改心してくれるなら、私に文句は無いよ。ただ、農園の被害は酷いもんだ。復旧には日にちや労力が掛かるが、泊まる家まで直さなきゃ寝れやしないよ」

「ご主人様、復旧が終わるまで、皆様を浮遊邸に宿泊させて頂けないでしょうか?」

 クララがアラヤに深々と頭を下げてお願いしてきた。農園の人数は21人、泊まれない事もない。ましてやクララの頼みだしね。

「ありがとうございます!」

 アラヤは彼女達を浮遊邸の来賓館に宿泊させ、住居棟や管制室への侵入は禁じる事にする。その他の詳細も極秘にする事を条件に、クレア達を浮遊邸へと招いた。
 秘密厳守と言っても、流石にクレア達には誓いの呪文はしてないけどね。復旧を手伝うついでに、葡萄畑も浮遊邸へと新たに取り入れる事にしたよ。
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