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第12章 御教示願うは筋違いらしいですよ⁈
175話 風中位精霊モース
しおりを挟む魔物狩りは至って順調に終わった。遭遇した新しい魔物の種類は5種類。
トレンタール(大木の人形魔物。獲得技能【光合成】)、クロウビー(黒の巨大蜂の魔物。獲得技能【空間把握】・【警報フェロモン】)、袋魔鼠(ムササビ似の魔物。獲得技能【滑空技】)、ハウリングアフェ(吠猿の魔物。獲得技能【ボイスボム】)、モノキュラーオウル(単眼のフクロウの魔物。獲得技能【催眠眼】)
それ以外にも、デビルマンバやボールパイソンも居たね。野生の鹿も見つけたから肉として確保した。偶には魔物肉以外の肉も食べなきゃね。
因みに、アフティはモノキュラーオウルを従魔として確保した。ただ、乗るとしたら1人が限度(グラビティ使用)だし、夜行性で朝の時間帯と明るい場所は好まない。
「いやぁ、大収穫だったね」
アラヤ達がシェルターに帰って来ると、オードリーがもう帰って来ていた。知り合いと会っても覚えていなかった上、教団内の情報も話す訳にもいかないので、話が続く事無く気まずくなり、早々に帰って来たらしい。
「せっかく頂いた時間でしたのに、すみません」
「謝る必要は無いよ。まぁ、長く離れてたんだから仕方ないさ」
「アラヤ、技能もだけど、ついでに変わった食材も取れた?」
エプロン姿のサナエが、包丁片手にやって来た。丁度、昼食の準備を始めたところの様だ。少しばかり落ち込みから回復しているみたいなので安心した。
「いろいろあるけど、野生のシカ肉が手に入ったよ。あと、蜂蜜も」
「鹿肉は久しぶりね!鹿肉のトマト煮込みとローストにするね」
「やったね!」
アラヤは上機嫌で亜空間から食材を取り出してサナエとコルプスに渡す。
「あれ?イシルウェは?」
「居ますよ、飛竜達の中に紛れています」
確かによく見ると、飛竜達の姿で自分が分からない様にしている。
「アスピダが言うには、イシルウェ知り合いの精霊に会って酷く狼狽していたらしいです。里には悪魔が居るとか…」
「ええっ、悪魔⁉︎」
「多分、比喩的な意味でしょうけど。おそらくは里を出た理由もそこにあると思います。どうしましょうか?」
こんなに嫌がっているなら、流石に彼に悪過ぎる。今回は諦めるべきかなとアラヤが考えていると、飛竜がまだ怖い筈のチャコが、勇気を出して言語理解と念話で『通らせてください』と、頭を下げながら彼に近付いて行く。
「パパ、そんなにお家が怖いの?」
「ち、チャコ…。怖いのは里や家では無いんだ…」
「そっかー。じゃあ、チャコやっぱり行かない。パパが怖い思いするの、チャコも嫌だから」
「チャコ…」
ん~、この流れならやっぱり中止かな。それか、イシルウェと数人残して俺達だけで向かうかだね。
とりあえずは、夕食後に皆と話すとしよう。
料理が出来上がり、美味しそうな香りがシェルター内に充満している。
「さて、それじゃあ食べようか。いただき…」
『ちょっと失礼するよ』
手を合わせて、いただきますをしようとしたら突然、シェルター内に風精霊が入って来た。出入り口は塞いでいたので、換気口から入ったのだろう。
『驚いたね…』
風精霊はシェルター内を見渡して感心している。それにしても、ちょっと大きい精霊だな。火精霊達も変わってるなと不思議そうに見ている。
『外からは魔法にも衝撃にも強い壁で覆われて出入り口すら無い。まるで結界みたいな家だねぇ~。しかも、その子以外は皆んな私の姿が見えているみたいだし…イシルウェ、この者達が、今の貴方の仲間かい?』
『モース、頼むから帰ってくれ。君が居ると奴が来てしまう』
『全く…そこまで嫌うかね?まぁ、今回は貴方じゃなくて、このチームのリーダーに話があって来たんだ。リーダーは誰だい?』
皆の視線がアラヤに集まり、モースはニヤッと笑うと彼の前の机上に降りる。
『すまないが、帰ってもらえないかな?俺達は今から食事なんだよね。せっかくの料理が冷めちゃうからさ』
お預けを喰らっているアラヤは、少し不機嫌な態度を見せて箸を持った。
『私はモース。中位風精霊よ。それだけ精霊を引き連れてるなら、流石に精霊言語も持っている様ね。来て早々に帰れなんて、そんなつれないこと言わないでさ、食べながらで良いから聞いてくれない?』
「『それじゃ、悪いけど食べるよ』皆んな、気にせずに食べよう。いただきます!んっ、美味っ!」
解放された様にバクバクと食べるアラヤに、モースも少々たじろいでいる。とても、穏やかな食事とは言い難い。
精霊達の前には、其々にポポンと一口サイズの魔力玉が幾つも置かれた。
『何それ、めちゃくちゃ美味しそうな魔力じゃない!』
魔力玉を恍惚とした表情で美味しそうに食べる火精霊達に、思わずモースは近付いて行く。
『あげないわよ』
風精霊は、魔力玉の乗った木皿をモースから離す。ぐっと下唇を噛むモースは、アラヤを見上げる。
『き、客人にも…』
『そもそも呼んでないから客人じゃないでしょ?それで、話って何さ?』
食べる速度を落とさず念話で話すアラヤに、モースは頬を膨らます。
『この近くに、私達の住む場所、エルフの村落があるんだけど、村長が貴方達に会いたいって言ってるのよ』
『何で?俺達は招待される様な覚えは無いけど?』
『さぁ、私も詳しくは知らないけど、村の周りに住み着いていた危険な魔物を狩り尽くしたって聞いたけど?』
そりゃあ、確かに魔物狩りはしたけれど、村が近くにあったとは知らなかったし、大して脅威となる魔物でも無かったと思うのだが。
「それは建前ですね。おそらくはイシルウェさんが目当てかと」
アヤコがそう言うとモースもウンウンと肯く。簡単に認めちゃうのかよ?
『ああ、分かった。だけど、村にイシルウェは連れて行かないよ?彼はここで待っていてもらう。それでも構わないよね?』
『ん~、分かったわ。そう伝える』
モースはそうなると分かっていたかの様で、すんなりと受け入れた。それよりも、精霊達が食べている魔力玉が気になっている様だ。
『と、とにかく、明日迎えに来るからね。その時は、私にも一個くらい頂戴よねっ?』
モースは風の姿になってシェルター内を軽く一周した後、換気口から出て行った。すると、シルフィーと土精霊が直ぐに、その換気口を鉱石綱で塞いでいた。
「行くんですか?」
「うん、一応呼ばれたからね。それと、留守番は彼だけじゃなくてハウン達にも残ってもらおうかな」
「はい、分かりました」
「チャコはどうする?行きたいかい?」
「なっ、アラヤ殿⁈」
別にチャコが行きたいと言うなら、アラヤ達が連れて行ってあげるという話だが、イシルウェが泣きそうになっている。
「チャコは、パパとお留守番するー」
彼女のその一言で、イシルウェは目頭を抑えて背中を見せる。
「まぁ、村の風景は、観てきた後で念写して見せれば良いね」
それなら別に、イシルウェとチャコだけが留守番で良いかもだけど、モースの様な中位精霊が他にも居る可能性があるなら、用心するに越した事はない。
「それにしても、中位精霊って何?」
「中位とは、成長段階を指している。先ず、精霊体を持たない微精霊から、パートナーを持った精霊体。つまりはこの子達だね。それから更に成長すると、モースの様な中位精霊となり、その後に上位精霊、最終的には大精霊となるんだ。まぁ、成長方法は謎だから、上位精霊など見かけた事も無いし、大精霊の誕生は伝説でしか聞いた事ないがね」
『何だ?俺様達の成長が見たいのか?』
サラマンドラが、アラヤの持つスプーンに飛び乗って柄を軽く焦がした。他の精霊達もアラヤを見上げる。
『方法を知ってるの?』
『まぁ、同属精霊から聞いた事はある。見た事は無いけどな!』
『あんな大っきさに成るのは、ちょっとね~』
『うむ。しかし、アラヤなら平気じゃろう?』
『ただ、恥ずかしい、…かも』
『負担、増える…』
現時点で、パートナーである精霊達には、常時微量の魔力が送られている。それ以外に、おやつや食事として魔力玉を上げているのだ。おそらくは、その量が増えるのだろう。
『負担が増えるのは別に構わないよ。それで?どうすれば成長するの?』
『それはね~、私達の体液をアラヤが取り込むの~』
『た、体液⁈』
精霊には、そもそも排泄器官や生殖器官が無い筈だ。体液と聞いて、正直変な想像しか出てこない。
『正確には、溶け込んだ体の一部、です…よ?』
シレネッタが自身を液体化し、手を伸ばして見せる。つまりは、この状態の一部をアラヤに食べてもらうという事らしい。文字通りに、体内に取り込む訳だ。
全ての精霊の性別が中性な筈だが、見た目が可愛いシルフィ・シレネッタ・キュアリー・エキドナはまだしも、わんぱく小僧的なサラマンドラや、ノームとかもうオッサンにしか見えないし、髭生えてるし。正直、その体の一部を取り込むとか抵抗あるよね。
そうは言いつつも、ホレホレと差し出される体の一部を、アラヤは観念して咥えたのだった。
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