上 下
179 / 418
第12章 御教示願うは筋違いらしいですよ⁈

175話 風中位精霊モース

しおりを挟む

 魔物狩りは至って順調に終わった。遭遇した新しい魔物の種類は5種類。
 トレンタール(大木の人形魔物。獲得技能【光合成】)、クロウビー(黒の巨大蜂の魔物。獲得技能【空間把握】・【警報フェロモン】)、袋魔鼠(ムササビ似の魔物。獲得技能【滑空技】)、ハウリングアフェ(吠猿の魔物。獲得技能【ボイスボム】)、モノキュラーオウル(単眼のフクロウの魔物。獲得技能【催眠眼】)
 それ以外にも、デビルマンバやボールパイソンも居たね。野生の鹿も見つけたから肉として確保した。偶には魔物肉以外の肉も食べなきゃね。
 因みに、アフティはモノキュラーオウルを従魔として確保した。ただ、乗るとしたら1人が限度(グラビティ使用)だし、夜行性で朝の時間帯と明るい場所は好まない。

「いやぁ、大収穫だったね」

 アラヤ達がシェルターに帰って来ると、オードリーがもう帰って来ていた。知り合いと会っても覚えていなかった上、教団内の情報も話す訳にもいかないので、話が続く事無く気まずくなり、早々に帰って来たらしい。

「せっかく頂いた時間でしたのに、すみません」

「謝る必要は無いよ。まぁ、長く離れてたんだから仕方ないさ」

「アラヤ、技能もだけど、ついでに変わった食材も取れた?」

 エプロン姿のサナエが、包丁片手にやって来た。丁度、昼食の準備を始めたところの様だ。少しばかり落ち込みから回復しているみたいなので安心した。

「いろいろあるけど、野生のシカ肉が手に入ったよ。あと、蜂蜜も」

「鹿肉は久しぶりね!鹿肉のトマト煮込みとローストにするね」

「やったね!」

 アラヤは上機嫌で亜空間から食材を取り出してサナエとコルプスに渡す。

「あれ?イシルウェは?」

「居ますよ、飛竜達の中に紛れています」

 確かによく見ると、飛竜達の姿で自分が分からない様にしている。

「アスピダが言うには、イシルウェ知り合いの精霊に会って酷く狼狽していたらしいです。里には悪魔が居るとか…」

「ええっ、悪魔⁉︎」

「多分、比喩的な意味でしょうけど。おそらくは里を出た理由もそこにあると思います。どうしましょうか?」

 こんなに嫌がっているなら、流石に彼に悪過ぎる。今回は諦めるべきかなとアラヤが考えていると、飛竜がまだ怖い筈のチャコが、勇気を出して言語理解と念話で『通らせてください』と、頭を下げながら彼に近付いて行く。

「パパ、そんなにお家が怖いの?」

「ち、チャコ…。怖いのは里や家では無いんだ…」

「そっかー。じゃあ、チャコやっぱり行かない。パパが怖い思いするの、チャコも嫌だから」

「チャコ…」

 ん~、この流れならやっぱり中止かな。それか、イシルウェと数人残して俺達だけで向かうかだね。
 とりあえずは、夕食後に皆と話すとしよう。

 料理が出来上がり、美味しそうな香りがシェルター内に充満している。

「さて、それじゃあ食べようか。いただき…」

『ちょっと失礼するよ』

 手を合わせて、いただきますをしようとしたら突然、シェルター内に風精霊が入って来た。出入り口は塞いでいたので、換気口から入ったのだろう。

『驚いたね…』

 風精霊はシェルター内を見渡して感心している。それにしても、ちょっと大きい精霊だな。火精霊サラマンドラ達も変わってるなと不思議そうに見ている。

『外からは魔法にも衝撃にも強い壁で覆われて出入り口すら無い。まるで結界みたいな家だねぇ~。しかも、その子以外は皆んな私の姿が見えているみたいだし…イシルウェ、この者達が、今の貴方の仲間かい?』

『モース、頼むから帰ってくれ。君が居ると奴が来てしまう』

『全く…そこまで嫌うかね?まぁ、今回は貴方じゃなくて、このチームのリーダーに話があって来たんだ。リーダーは誰だい?』

 皆の視線がアラヤに集まり、モースはニヤッと笑うと彼の前の机上に降りる。

『すまないが、帰ってもらえないかな?俺達は今から食事なんだよね。せっかくの料理が冷めちゃうからさ』

 お預けを喰らっているアラヤは、少し不機嫌な態度を見せて箸を持った。

『私はモース。中位風精霊よ。それだけ精霊を引き連れてるなら、流石に精霊言語も持っている様ね。来て早々に帰れなんて、そんなつれないこと言わないでさ、食べながらで良いから聞いてくれない?』

「『それじゃ、悪いけど食べるよ』皆んな、気にせずに食べよう。いただきます!んっ、美味っ!」

 解放された様にバクバクと食べるアラヤに、モースも少々たじろいでいる。とても、穏やかな食事とは言い難い。
 精霊達の前には、其々にポポンと一口サイズの魔力玉が幾つも置かれた。

『何それ、めちゃくちゃ美味しそうな魔力じゃない!』

 魔力玉を恍惚とした表情で美味しそうに食べる火精霊サラマンドラ達に、思わずモースは近付いて行く。

『あげないわよ』

 風精霊シルフィーは、魔力玉の乗った木皿をモースから離す。ぐっと下唇を噛むモースは、アラヤを見上げる。

『き、客人にも…』

『そもそも呼んでないから客人じゃないでしょ?それで、話って何さ?』

 食べる速度を落とさず念話で話すアラヤに、モースは頬を膨らます。

『この近くに、私達の住む場所、エルフの村落があるんだけど、村長が貴方達に会いたいって言ってるのよ』

『何で?俺達は招待される様な覚えは無いけど?』

『さぁ、私も詳しくは知らないけど、村の周りに住み着いていた危険な魔物を狩り尽くしたって聞いたけど?』

 そりゃあ、確かに魔物狩りはしたけれど、村が近くにあったとは知らなかったし、大して脅威となる魔物でも無かったと思うのだが。

「それは建前ですね。おそらくはイシルウェさんが目当てかと」

 アヤコがそう言うとモースもウンウンと肯く。簡単に認めちゃうのかよ?

『ああ、分かった。だけど、村にイシルウェは連れて行かないよ?彼はここで待っていてもらう。それでも構わないよね?』

『ん~、分かったわ。そう伝える』

 モースはそうなると分かっていたかの様で、すんなりと受け入れた。それよりも、精霊達が食べている魔力玉が気になっている様だ。

『と、とにかく、明日迎えに来るからね。その時は、私にも一個くらい頂戴よねっ?』

 モースは風の姿になってシェルター内を軽く一周した後、換気口から出て行った。すると、シルフィーと土精霊ノームが直ぐに、その換気口を鉱石綱で塞いでいた。

「行くんですか?」

「うん、一応呼ばれたからね。それと、留守番は彼だけじゃなくてハウン達にも残ってもらおうかな」

「はい、分かりました」

「チャコはどうする?行きたいかい?」

「なっ、アラヤ殿⁈」

 別にチャコが行きたいと言うなら、アラヤ達が連れて行ってあげるという話だが、イシルウェが泣きそうになっている。

「チャコは、パパとお留守番するー」

 彼女のその一言で、イシルウェは目頭を抑えて背中を見せる。

「まぁ、村の風景は、観てきた後で念写して見せれば良いね」

 それなら別に、イシルウェとチャコだけが留守番で良いかもだけど、モースの様な中位精霊が他にも居る可能性があるなら、用心するに越した事はない。

「それにしても、中位精霊って何?」

「中位とは、成長段階を指している。先ず、精霊体を持たない微精霊から、パートナーを持った精霊体。つまりはこの子達だね。それから更に成長すると、モースの様な中位精霊となり、その後に上位精霊、最終的には大精霊となるんだ。まぁ、成長方法は謎だから、上位精霊など見かけた事も無いし、大精霊の誕生は伝説でしか聞いた事ないがね」

『何だ?俺様達の成長が見たいのか?』

 サラマンドラが、アラヤの持つスプーンに飛び乗って柄を軽く焦がした。他の精霊達もアラヤを見上げる。

『方法を知ってるの?』

『まぁ、同属精霊から聞いた事はある。見た事は無いけどな!』

『あんな大っきさに成るのは、ちょっとね~』

『うむ。しかし、アラヤこやつなら平気じゃろう?』

『ただ、恥ずかしい、…かも』

『負担、増える…』

 現時点で、パートナーである精霊達には、常時微量の魔力が送られている。それ以外に、おやつや食事として魔力玉を上げているのだ。おそらくは、その量が増えるのだろう。

『負担が増えるのは別に構わないよ。それで?どうすれば成長するの?』

『それはね~、私達の体液をアラヤが取り込むの~』

『た、体液⁈』

 精霊には、そもそも排泄器官や生殖器官が無い筈だ。体液と聞いて、正直変な想像しか出てこない。

『正確には、溶け込んだ体の一部、です…よ?』

 シレネッタが自身を液体化し、手を伸ばして見せる。つまりは、この状態の一部をアラヤに食べてもらうという事らしい。文字通りに、体内に取り込む訳だ。
 全ての精霊の性別が中性な筈だが、見た目が可愛いシルフィ・シレネッタ・キュアリー・エキドナはまだしも、わんぱく小僧的なサラマンドラや、ノームとかもうオッサンにしか見えないし、髭生えてるし。正直、その体の一部を取り込むとか抵抗あるよね。
 そうは言いつつも、ホレホレと差し出される体の一部を、アラヤは観念して咥えたのだった。
しおりを挟む
感想 166

あなたにおすすめの小説

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

おじさんが異世界転移してしまった。

月見ひろっさん
ファンタジー
ひょんな事からゲーム異世界に転移してしまったおじさん、はたして、無事に帰還できるのだろうか? モンスターが蔓延る異世界で、様々な出会いと別れを経験し、おじさんはまた一つ、歳を重ねる。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!

町島航太
ファンタジー
 ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。  ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

処理中です...