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第12章 御教示願うは筋違いらしいですよ⁈
169話 厄災の悪魔①
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『あれぇ~?おっかしいなぁ~』
フワフワと浮遊する風精霊が、何度も姿くらましと姿現しを繰り返している。
『何してんだよ、早くアラヤにドアを開けてもらえよなー』
『うるさいわね~、呼びに行きたいのに何故か行けないんだっての~』
イライラと下から野次を飛ばす火精霊に、シルフィはアカンベーを返す。
『なら、私、やってみるね』
水精霊が液体化し、扉の下の隙間から室内に入ろうとする。
『ん、通れない?壁あるよ?』
隙間は充分に通れる幅なのに、見えない壁の様なものに押し返されるのだ。
「お前達、何をしているのだ?」
『『『あ、デレルウェ』』』
「…一体、誰だそれは?」
扉の前に集まる精霊達は、チャコをトイレへと連れて来たイシルウェと遭遇した。
『丁度良いわ、この扉開けてくれない?力自慢の土精霊でも開けれなかったのよ~』
『ぐぬぬ…。今日はたまたま調子が悪いだけじゃー。ノブも大きくて回しづらいからの』
扉のノブにはめり込んだ跡が見える。これはノブ自体が壊れる程のかなりの力を加えたと思うんだが、凹みが出来た以外は微動だにしていない様だ。
「此処はアラヤ殿が借りた部屋だな」
イシルウェは軽くノックしてみるが返事は無い。耳の良い彼なら熟睡していても、ノックの音で目が覚めると思うのだが。
ガチャガチャとノブを回そうとするも、やはり動かない。
『精霊なら、次元越しに彼の下に現れるんじゃないのか?』
『そんなの、とっくに試したよ~』
『やっぱ、燃やしちゃおうぜ?』
「それはダメに決まってるだろ。ちょっと待て。アラヤ殿以外の奥方はどうした?」
『向こうの部屋に居るよ~』
イシルウェが精霊達について行くと、扉の鍵は開いていて、ベッドで横になっている銀狼のクララが居た。少し苦しそうな表情を見せている。
「少しうなされているな。回復できないか?」
『…アブゥ…』
光精霊が、クララに光を当てる。すると、黒いモヤらしきものが彼女の体から吹き出して消えた。
「うぅ…」
「クララ殿、大丈夫か?」
「…イシルウェさん?何故、私とカオリ様の部屋に?あれ?カオリ様が居ない?」
クララは辺りを見渡すが、一緒に入室した筈のカオリの姿はどこにも見当たらない。
「一体、何が、あったのでしょうか?」
「それが…」
イシルウェと精霊達は、クララに扉の事と彼女に付いていた黒いモヤの話をする事にした。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
アラヤは、サナエの側に付きっきりになって看病をしていた。こうする事で、アヤコに不審な行動をさせないようにしているのだ。
魔導感知に慌てて走って来るオードリーの反応が見えて、アラヤ達の部屋を勢いよく開けて入って来た。
「アラヤ様!教団からの新情報で、グルケニア帝国がラエテマ王国へ侵攻を開始したとの事です!」
「ええっ⁈戦争が始まったの?そもそも争いは、グルケニア帝国とムシハ連邦国で起きてたんじゃないの?」
「それは軽いイザコザがあった程度で、未だ不可侵条約は守られているとか。むしろ、帝国の狙いは初めからラエテマ王国の方であった様です」
「アラヤ、カオリさん大丈夫かな…?」
サナエが心配そうにアラヤの手を握るが、アラヤは今この場所を離れるわけにもいかない。助けに向かう事はできないのだ。
「カオリさん達なら大丈夫だよ。旅立ってから2日経つから、前線から離れた王都まで移動しているだろうし、ハウン達も居るからね」
アラヤは彼女の手を握り返して落ち着かせる。彼女には、余計な不安は感じずに今は安静にしてもらうしかない。
すると、魔導感知の端にアヤコの反応が現れた。どうやら街から帰って来た様だ。その反応は敵意に満ちた赤に染まっている。
「ごめん、ちょっとだけ離れるね」
アラヤはそっと彼女の手を離すと、オードリーには部屋に残ってもらい、単身アヤコの下に向かう。
「あら、アラヤ君。出迎えに来てくれたんですか?」
屋敷入り口で待つアラヤを見つけて、アヤコは嬉しそうにしている。その姿、振る舞いは紛れもなくアヤコ本人なのだが、彼女の手にこびり付いた血のりが、彼女では無いと訴えている様に見える。
「お前は一体、何者なんだ⁉︎」
「えぇ⁉︎突然、どうしたんですか、アラヤ君。そんな怖い顔をして…」
「猿芝居はやめてくれ!本物のアヤコさんをどうしたんだ⁉︎」
「酷いわ…。愛する妻の事を忘れるなんて…」
泣き真似を始めたアヤコに対して、アラヤは竜爪剣を構えた。すると、アヤコはピタリと泣き真似を止めて、大きく溜め息をついた。
「…全く、さっきの盾男もだけど、私を信用していないのよね。おかげで技能与奪が1つしか奪えなかった。まぁ、技能は有り余る程手に入れたからもう良いけどね?」
「…アスピダ?」
魔導感知には、屋敷にも敷地内にも彼の反応が見当たらない。まさか…?
「貴様は誰だ⁉︎アスピダに何をした!」
「ああ、もう良いかしらね。ここまで敵対視されたら、夫婦と言えど与奪数は期待できないし、この体の無駄な抵抗も面倒だからね。良いわ、見せてあげる」
メキメキと骨格が鳴り響き、彼女の体がやや肥大すると、背中から黒い翼が生えてきた。それに伴って彼女の風貌はみるみる変貌していく。
【我が名はマンモン。強欲を司る大罪の権化。我が望む物は全て我が手中に納めねばならぬ】
「ああっ…⁉︎アヤコさん!」
最早愛する妻の姿はそこに無く、血の涙を流して高らかに笑う悪魔の形相が有った。
彼女の体を媒介にした悪魔は、翼を広げて舞い上がる。
【其方の独占を願うこの器の身体には酷な事だが、五体満足である必要は無いか】
マンモンは両手を突き出し、アラヤに照準を向けると小さな魔法陣を展開させた。
【器の熟練度が足りないが、数で凌駕すれば済む話だ】
怒涛の全属性魔法連撃がアラヤを襲い、辺りは土埃が舞い上がる。視界が晴れてくると、横たわる少年の姿が見えてきた。
【魔導感知に反応無し。やり過ぎて殺してしまったか?】
「ごめんよ」
背後から声が聞こえ、下にあるのが脱皮した偽物だと気付いたが、マンモンはその一瞬の反応が遅れた事により、アラヤに翼を喰いちぎられてしまった。
【魔導感知に反応しないだと⁉︎しかも、噛み傷から痺れが…おのれ、技能か!しかし技能ならば我の方が数は上よ!】
飛び続ける事が困難になったマンモンは、アラヤを振り払いゆっくりと地上に降りる。
(…。思わず首を避けてしまった。でも…まだ可能性があるのなら…!)
彼女の体をなるべく傷付けない様にと、不可能に近い考えで、アラヤはマンモンとの戦いを開始するのだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「アロマ様、やはり行かれるのですか?」
ラエテマ王国王都の端にある宿屋の一室で、ハウンとカオリは魔力電池を大量に用意していた。
「仮死状態も丁度終わったし、行くなら今しか無いわ」
「しかし、戦争開始により王都内も緊張状態です。王城もかなりの厳戒態勢ですよ?」
「その点は大丈夫。王城の地下墳墓には行った事あるから、テレポートで行けるのよ。だからハウンは、アフティが食材を調達して来るまで此処で待機しててね。私が突入して1日帰って来ない場合には、一度にいやの元に帰り事情を話しなさい。今回の事は私の我儘、独断で行った事だから、貴女達が責任を感じたり気に病む必要は一切無いからね?」
ついて行くと言っても、テレポートで同伴してくれなければ意味がない。ハウンは渋々、用意した魔鉱石と魔力電池を渡した。
「必ず帰って来てくださいね。待っていますから」
「当然、そのつもりよ。更なる成長を遂げて、大威張りで帰って来るわ」
カオリは自信に溢れた笑顔を見せて、王城の地下墳墓へとテレポートした。
「懐かしいわね…」
辿り着いた地下墳墓に灯りは無く、闇と静寂に包まれている。暗視眼があるので、無意味に明かりを灯して居場所を晒す事はしない。
(棺に奇妙なシジルがあると言ってたわね。この辺りは私が仮死状態で隠れていた場所だけど、中身の無い棺は一つ二つしか無かった筈…)
石棺を隈なく調べながら進んで行くと、それらしき棺をようやく見つけた。王族の子供用の石棺で、蓋を開けると中に地下階段を発見した。
(フフフ、色欲魔王の深淵を覗いてやろうじゃない!)
彼女は緊張と興奮で震える手を、反対の手で抑えて落ち着かせると、小さく深呼吸してから中へと入って行った。しばらくしてから棺の蓋が勝手に閉まった事に気付く事は無かった。
フワフワと浮遊する風精霊が、何度も姿くらましと姿現しを繰り返している。
『何してんだよ、早くアラヤにドアを開けてもらえよなー』
『うるさいわね~、呼びに行きたいのに何故か行けないんだっての~』
イライラと下から野次を飛ばす火精霊に、シルフィはアカンベーを返す。
『なら、私、やってみるね』
水精霊が液体化し、扉の下の隙間から室内に入ろうとする。
『ん、通れない?壁あるよ?』
隙間は充分に通れる幅なのに、見えない壁の様なものに押し返されるのだ。
「お前達、何をしているのだ?」
『『『あ、デレルウェ』』』
「…一体、誰だそれは?」
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『丁度良いわ、この扉開けてくれない?力自慢の土精霊でも開けれなかったのよ~』
『ぐぬぬ…。今日はたまたま調子が悪いだけじゃー。ノブも大きくて回しづらいからの』
扉のノブにはめり込んだ跡が見える。これはノブ自体が壊れる程のかなりの力を加えたと思うんだが、凹みが出来た以外は微動だにしていない様だ。
「此処はアラヤ殿が借りた部屋だな」
イシルウェは軽くノックしてみるが返事は無い。耳の良い彼なら熟睡していても、ノックの音で目が覚めると思うのだが。
ガチャガチャとノブを回そうとするも、やはり動かない。
『精霊なら、次元越しに彼の下に現れるんじゃないのか?』
『そんなの、とっくに試したよ~』
『やっぱ、燃やしちゃおうぜ?』
「それはダメに決まってるだろ。ちょっと待て。アラヤ殿以外の奥方はどうした?」
『向こうの部屋に居るよ~』
イシルウェが精霊達について行くと、扉の鍵は開いていて、ベッドで横になっている銀狼のクララが居た。少し苦しそうな表情を見せている。
「少しうなされているな。回復できないか?」
『…アブゥ…』
光精霊が、クララに光を当てる。すると、黒いモヤらしきものが彼女の体から吹き出して消えた。
「うぅ…」
「クララ殿、大丈夫か?」
「…イシルウェさん?何故、私とカオリ様の部屋に?あれ?カオリ様が居ない?」
クララは辺りを見渡すが、一緒に入室した筈のカオリの姿はどこにも見当たらない。
「一体、何が、あったのでしょうか?」
「それが…」
イシルウェと精霊達は、クララに扉の事と彼女に付いていた黒いモヤの話をする事にした。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
アラヤは、サナエの側に付きっきりになって看病をしていた。こうする事で、アヤコに不審な行動をさせないようにしているのだ。
魔導感知に慌てて走って来るオードリーの反応が見えて、アラヤ達の部屋を勢いよく開けて入って来た。
「アラヤ様!教団からの新情報で、グルケニア帝国がラエテマ王国へ侵攻を開始したとの事です!」
「ええっ⁈戦争が始まったの?そもそも争いは、グルケニア帝国とムシハ連邦国で起きてたんじゃないの?」
「それは軽いイザコザがあった程度で、未だ不可侵条約は守られているとか。むしろ、帝国の狙いは初めからラエテマ王国の方であった様です」
「アラヤ、カオリさん大丈夫かな…?」
サナエが心配そうにアラヤの手を握るが、アラヤは今この場所を離れるわけにもいかない。助けに向かう事はできないのだ。
「カオリさん達なら大丈夫だよ。旅立ってから2日経つから、前線から離れた王都まで移動しているだろうし、ハウン達も居るからね」
アラヤは彼女の手を握り返して落ち着かせる。彼女には、余計な不安は感じずに今は安静にしてもらうしかない。
すると、魔導感知の端にアヤコの反応が現れた。どうやら街から帰って来た様だ。その反応は敵意に満ちた赤に染まっている。
「ごめん、ちょっとだけ離れるね」
アラヤはそっと彼女の手を離すと、オードリーには部屋に残ってもらい、単身アヤコの下に向かう。
「あら、アラヤ君。出迎えに来てくれたんですか?」
屋敷入り口で待つアラヤを見つけて、アヤコは嬉しそうにしている。その姿、振る舞いは紛れもなくアヤコ本人なのだが、彼女の手にこびり付いた血のりが、彼女では無いと訴えている様に見える。
「お前は一体、何者なんだ⁉︎」
「えぇ⁉︎突然、どうしたんですか、アラヤ君。そんな怖い顔をして…」
「猿芝居はやめてくれ!本物のアヤコさんをどうしたんだ⁉︎」
「酷いわ…。愛する妻の事を忘れるなんて…」
泣き真似を始めたアヤコに対して、アラヤは竜爪剣を構えた。すると、アヤコはピタリと泣き真似を止めて、大きく溜め息をついた。
「…全く、さっきの盾男もだけど、私を信用していないのよね。おかげで技能与奪が1つしか奪えなかった。まぁ、技能は有り余る程手に入れたからもう良いけどね?」
「…アスピダ?」
魔導感知には、屋敷にも敷地内にも彼の反応が見当たらない。まさか…?
「貴様は誰だ⁉︎アスピダに何をした!」
「ああ、もう良いかしらね。ここまで敵対視されたら、夫婦と言えど与奪数は期待できないし、この体の無駄な抵抗も面倒だからね。良いわ、見せてあげる」
メキメキと骨格が鳴り響き、彼女の体がやや肥大すると、背中から黒い翼が生えてきた。それに伴って彼女の風貌はみるみる変貌していく。
【我が名はマンモン。強欲を司る大罪の権化。我が望む物は全て我が手中に納めねばならぬ】
「ああっ…⁉︎アヤコさん!」
最早愛する妻の姿はそこに無く、血の涙を流して高らかに笑う悪魔の形相が有った。
彼女の体を媒介にした悪魔は、翼を広げて舞い上がる。
【其方の独占を願うこの器の身体には酷な事だが、五体満足である必要は無いか】
マンモンは両手を突き出し、アラヤに照準を向けると小さな魔法陣を展開させた。
【器の熟練度が足りないが、数で凌駕すれば済む話だ】
怒涛の全属性魔法連撃がアラヤを襲い、辺りは土埃が舞い上がる。視界が晴れてくると、横たわる少年の姿が見えてきた。
【魔導感知に反応無し。やり過ぎて殺してしまったか?】
「ごめんよ」
背後から声が聞こえ、下にあるのが脱皮した偽物だと気付いたが、マンモンはその一瞬の反応が遅れた事により、アラヤに翼を喰いちぎられてしまった。
【魔導感知に反応しないだと⁉︎しかも、噛み傷から痺れが…おのれ、技能か!しかし技能ならば我の方が数は上よ!】
飛び続ける事が困難になったマンモンは、アラヤを振り払いゆっくりと地上に降りる。
(…。思わず首を避けてしまった。でも…まだ可能性があるのなら…!)
彼女の体をなるべく傷付けない様にと、不可能に近い考えで、アラヤはマンモンとの戦いを開始するのだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「アロマ様、やはり行かれるのですか?」
ラエテマ王国王都の端にある宿屋の一室で、ハウンとカオリは魔力電池を大量に用意していた。
「仮死状態も丁度終わったし、行くなら今しか無いわ」
「しかし、戦争開始により王都内も緊張状態です。王城もかなりの厳戒態勢ですよ?」
「その点は大丈夫。王城の地下墳墓には行った事あるから、テレポートで行けるのよ。だからハウンは、アフティが食材を調達して来るまで此処で待機しててね。私が突入して1日帰って来ない場合には、一度にいやの元に帰り事情を話しなさい。今回の事は私の我儘、独断で行った事だから、貴女達が責任を感じたり気に病む必要は一切無いからね?」
ついて行くと言っても、テレポートで同伴してくれなければ意味がない。ハウンは渋々、用意した魔鉱石と魔力電池を渡した。
「必ず帰って来てくださいね。待っていますから」
「当然、そのつもりよ。更なる成長を遂げて、大威張りで帰って来るわ」
カオリは自信に溢れた笑顔を見せて、王城の地下墳墓へとテレポートした。
「懐かしいわね…」
辿り着いた地下墳墓に灯りは無く、闇と静寂に包まれている。暗視眼があるので、無意味に明かりを灯して居場所を晒す事はしない。
(棺に奇妙なシジルがあると言ってたわね。この辺りは私が仮死状態で隠れていた場所だけど、中身の無い棺は一つ二つしか無かった筈…)
石棺を隈なく調べながら進んで行くと、それらしき棺をようやく見つけた。王族の子供用の石棺で、蓋を開けると中に地下階段を発見した。
(フフフ、色欲魔王の深淵を覗いてやろうじゃない!)
彼女は緊張と興奮で震える手を、反対の手で抑えて落ち着かせると、小さく深呼吸してから中へと入って行った。しばらくしてから棺の蓋が勝手に閉まった事に気付く事は無かった。
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