【完結】スキルが美味しいって知らなかったよ⁈

テルボン

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第11章 故郷は設定なので新天地ですよ⁉︎

162話 国渡

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 道先を変えて2日、アラヤ達は最後の分岐点に辿り着いていた。しかし、一行は進路を決めずに馬車を止めて話し合いをしていた。

「ここを左折すれば山間の出口に出る様ですね。コルトバンはおそらく直進みたいですが、あの様子は…」

「うん、明らかにおかしいよね。あれだけ警戒しているなんて」

 望遠眼に見えたのは、遥か先の道先にある街の入り口なのだが、侵入を防ぐ杭のバリケードと、兵士らしきドワーフ達が見張りをしているのだ。

「あれではまるで要塞ですね。しかも、道は街中への一本道しかない。つまりこの道はコルトバンの街で行き止まりという事ですね?」

「う~ん、だけど精霊達の話じゃ、街の先にはまだ淀んだ風の通り道があるって言うんだよね」

『そうなの~。ヌメヌメした風で~、あんまり好きじゃないかな~。あ、水精霊や闇精霊は多いみたいだよ~?』

 風精霊達がそう言って、水精霊と闇精霊を指差すと、彼等も仲間達の反応を感じると頷く。あの酒場の店主が、偽情報を与えてまで遠ざけようとした何かが其処にあるかもしれない。だが今は、道先の謎解きも、厄介事に関わる事も避けるべきだろう。

「でもまぁ、その先に用があるわけじゃないからね。ただ、連邦国に飛ぶ前に、街で最後の食糧・資材補充をやっときたかった。向こうへ行ったらしばらくは帰ってこれないだろうから」

 まぁ、この領内で欲しい食材は大して無いのだけど、鉱石だけは種類が豊富でまだまだ補充したかったんだよね。

「では、コルトバンをテレポートの座標にはしないのですね?」

「うん。そもそも座標を無理に街にしなくてもいいかな。少し人目から離れた場所の方が都合良いと思うし」

 ただ、想像しやすい場所でないと、上手くテレポートできない。例えば、サトカランの街の場合だと、宿屋に比べて駐車場の方が良くも悪くも印象が強いのでイメージしやすくテレポートしやすい。

「では左折して外へと向かうんですね?」

「ああ、久しぶりに地上へと出よう」

 進路をカルバノ山出口へと決めて、アラヤ達は馬車を出発させた。道はだんだんと勾配が出てきて、出口は山の上部へと向かっているのだと分かる。
 登り坂がしばらく続くなか、酸素の薄さや気温で、トンネル内と空気が変わってきているのを何となく感じる。

『ハウン、そちらは君以外は体温調節を持っていない。イシルウェ、チャコの2人も含めて、防寒準備をしてあげて』

『了解しました』

 トンネル内に入ってくる風に乗って、雪が少しずつ舞い始める。どうやら出口は近い様だ。

「アラヤ君、あれ!」

 とうとう出口が視界に入り、その近辺が雪に埋れているのが分かった。
 出口に到着すると、アラヤは馬車を止めて車輪からソリへと交換作業に移る。積雪の厚みがあり過ぎて車輪だと雪に嵌ってしまう。
 馬達にも、馬用に改良したかんじき蹄鉄を取り付けていく。

「うわ、吹雪いてるね!」

 外は視界がかなり悪く、ホワイトアウト状態に近い。このまま出るのはかなり危険だ。

「私が何とかしよう」

 イシルウェが1人進み出ると、両手に魔力を集中させて風精霊達を集め出した。

【敬愛なる風の大精霊エアリエルの眷族よ。荒れ狂う強靭の風を落ち着かせたまへ。願わくば、穏やかな軟風をもって我々の行く先を護りたまへ】

 魔力を先払いしたイシルウェは、気圧感知の強弱の波を見分けて、好き放題に走り回っていた風精霊達を扇動する。
 直ぐに変化が現れ、先程の吹雪が嘘みたいに晴れていく。前回見た時とは違い、精霊達を見る事ができる今、彼の職業の凄さが更に分かる。彼のソレは精霊への要請では無い。紡がれた精霊言語は魔法の詠唱の如く、精霊達の精神を支配し操っているに等しかった。
 故に、アラヤ達が精霊に魔力をあげてお願いしたところで、彼の様な芸当は絶対にできないと理解したのだった。

「とりあえず、準備できそうな広い場所を探そう」

 アラヤ達は、トンネルから出て広い場所を求めて更に上へと登る。何故登るのかといえば、下り道は崩れていて、上り道の一本道しか無かっただけだ。
 吹雪は止んだものの、体温調節の技能を持たない皆んなが、寒さに辛そうにしている。

「せっかくだ、座標場所は野営地にしよう」

 アラヤは直ぐ様アースクラウドで崖を削り、通常の丸型野営地シェルターではなく、四角形の野営地シェルターを作り上げた。形も違えばイメージしやすくなるからだ。

「さぁ、皆んな入って暖を取ろう」

 ついでに早めの昼食も食べる。その際にテレポートで飛ぶ順番を決めた。
 先ずは、カオリ・ハウン・イシルウェの3人で飛び、到着場所と魔力消費量を確かめる。その後、ハウンとイシルウェを残して、カオリがアラヤとアヤコを迎えに戻る。後はテレポートを繰り返して、全員を向こうへと渡すのだ。

「バエマシの街ってどんな所?」

 アラヤは、テレポート先であるムシハ連邦国の街を確認する為に尋ねる。

「バエマシは山の麓にある街で、近辺は森に囲まれている。こちらの国と違い、木々の成長はかなり早く、若木ですらその身長は優に10mを超す。更に辺りには沼地が多く存在する。つまり、馬車移動が困難な地域だ」

「なるほど。だから飛竜が必要なんですね。カヌーの需要もありそうだ。それで、バエマシ近くでイメージできる場所はどんな場所なのかな?」

「街中なら仕事斡旋所、つまり冒険者ギルドみたいな場所だが、街の外なら沼地の中にあった廃屋だな。飛竜を一度休ませた場所なんだ」

「うん、座標はそこが良いかもね」

 昼食も片付け、ハウンが馬車を亜空間に収納し終える(今回はスライムは取り出している)と、先発隊のカオリ達はテレポートを使用して目前から光に包まれて消えた。

『アラヤ様、無事、到着致しました。カオリ様の魔力消費量は、1人当たり90の消費らしいです。つまり3人だと、一回270の魔力を消費します。3人で飛べるのはアラヤ様とカオリ様だけで、アヤコ様とクララ様は2人で飛ばなければならない様です』

 ハウンからの報告を聞いている間に、カオリが戻って来た。着いて早々に魔力電池で消費魔力の回復を計る。一気に運べないと分かった以上、魔力回復をこまめにするしか無いな。

「よし、行こうか」

 それからアラヤ達は頻繁に両国をテレポートで行き来した。
 無事に、ムシハ連邦国へと移動が終わったアラヤ達は廃屋から外に出てみる。

「うわぁ、確かに木々が大きいや」

 全ての木々が大きくて太く、それはまるで、自分達が小さくなって、茂みから木を見上げる様な感覚だ。

「ああ、本当に帰って来れた!アラヤ殿、誠に心から感謝する」

「別に気にしなくていいよ。俺達には俺達の用事が有り、来たかったのだから」

「以前言っていた最終目的地とかいうやつだね?それは何処なんだい?私が知る場所ならば、また飛べるだろうから、教えてくれないか?」

 今なら少し踏み込んだ質問をしても良いかもと、イシルウェはアラヤに思い切って尋ねた。アラヤは少し迷った表情を見せたが、ゆっくりと答えた。

「…俺達が目指している場所は、元ナーサキ王国があった土地だよ」

「ナーサキ王国だって⁉︎あそこは帝国に攻められて滅亡した国じゃないか。今は帝国領地だぞ?何故、その場所を目指すんだい?」

「それは…ナーサキ王国が、俺達の産まれた土地、故郷だからだよ(設定だけど)」

 彼に本当の事を話すには、まだ躊躇してしまう。下手に巻き込んで、彼等を不幸にはしたくないもんね。

「そうだったのか。すまない、私はかの地には行った事が無い。貴方達自身の記憶で飛ぶ事はできないのか?」

「それが、幼少時代に亡命をしたので全く覚えていないんだ。だから、俺達には新天地と言っても過言では無い」

 都合の良い嘘を重ねて、彼にはこの設定で通す事を選んだ。
 では何故目指すのか、それは、資料の情報だけで故郷だと言い張るよりも、嘘とはいえ、現にその場所を体感して胸を張って俺達の故郷だと、言い張る場所がアラヤ達には欲しかったのだ。
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