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第11章 故郷は設定なので新天地ですよ⁉︎

151話 スライム探し

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 アラヤ達の後続を走るハウン達の馬車内は、まるでお通夜の様に暗い雰囲気を漂わせている。
 垣間見たチャンスをモノにできなかった事と、原因は明白である。ただ、イシルウェとチャコには関係の無い話で、初めての馬車の旅に喜ぶチャコと、通常では有り得ない速度で走る馬車の速さにイシルウェは驚いていた。
 沢山荷物を積んだ筈なのに荷台には何も無く、プヨプヨとした座り心地の座布団にアスピダ達が座って座禅をしている。
 イシルウェ自身、世間をあまり知らない方だが、これらが普通で無い事は分かる。

「一つ聞いて良いかな?」

 イシルウェは、近くに居たアフティに話しかける。

「何ですか?」

「アラヤ殿とは一体、何者なのだ?」

 最も普通で無いと感じるのは彼の存在だ。どう考えても厄介者だと分かる自身を救っただけで無く、国渡りの助けまでしようと言うのだから。
 彼の伴侶達も異常だ。魔人族並の魔力量を持つ者、技能スキルの譲渡できる者、亜人でありながら獣に変身できる者、後1人も一見普通に見えるが、時折見える身のこなしは常人では無いと思える。

「貴方が深く知る必要はありませんよ?貴方はまだ、アラヤ様の客人扱いでしかありませんので。その枠から外れない事です」

 アフティは笑顔で答えるが、その笑みにはこれ以上の詮索はするなと言う圧が感じ取れる。1教団がここまで関わる人物であるアラヤの敵になど、誰も好き好んでなりたくは無い。イシルウェは頷き、この話題は振らないと決めた。

「ああ、今アラヤ様から念話があったわ」

 ハウンが急に立ち上がると、御者台にいるオードリーに馬車を停める準備をさせる。

「アラヤ様は何と?」

「この辺りでスライムを探して生け捕りにしたいらしいわ」

「スライムを?」

 馬車を降りると、アラヤ達も馬車から降りていた。何やら馬車の側部を調べている。

「ああ、オードリーも気配感知で探してくれる?」

「分かりました。種類とかの選別が必要ですか?」

「ああ、種類とかは分からないなぁ。どの種類でも構わないから、全部捕獲する意向でお願い」

「承知しました」

 オードリーは、アスピダとコルプスを連れて近隣の捜索に出た。サナエとクララも逆方向へとファブリカンテを連れて捜索に出る。

「何故に今スライムなのですか?」

「実は、馬車を亜空間に収納した際に、浄化槽内に居たスライムが死んじゃってさ。トイレの浄化できないんだよね。だから、汚物はそのまま廃棄する事になりそうって言ったら、女性陣が今直ぐ探そうと言い出してね」

「そもそも、アラヤ君がいけないんですよ?浄化槽にスライムを飼っている事を内緒にしていた上に忘れていたのですから」

「私的には、馬車にトイレがある事自体が驚きだが、汚物処理にスライムを使用しているとはな。それで捕獲か…」

 イシルウェは辺りを見渡す。モザンピア領に近付くにつれて、雪原地帯から山岳地帯へと変わりつつあった。

「確かに、山岳地帯で探すよりはこの辺りの方が生息していそうではあるな」

「それと、思っていたよりも道の積雪が少ないから、これから先は車輪に戻す必要があると思ったんだ。皆んなが捜索している間に、馬車のソリ板を車輪に変更しないとね。だから手伝ってくれる?」

「もちろんだとも」

 アースクラウドで車体を持ち上げて固定すると、ソリ板を外して車輪へと交換する。
 片輪だけで15キロ近い重さがある車輪が、渡されるとまるで重さを感じない。
 彼は全てにおいて、使える魔法の出し惜しみをしないらしい。それは、あの魔力を回復出来る魔道具を大量に持っているからかもしれないが。

「イシルウェ、聞きたいんだけどさ。確か飛竜に乗ってたって言ったよね?」

 二台目のソリ板を外していると、アラヤが隣に来て手伝いながら聞いてきた。どうやら飛竜に興味がある様だ。

「ああ。ムシハ連邦国の大部分は山岳地帯と森林地帯が多くてね。道が整備されている場所の方が少ないんだ。だから、運搬には古来から馬車よりも、飛竜を利用した運搬が一般的なのだ」

「飛竜が一般的…」

「ああ。馬車に乗るのは、道が整備された街中で優雅に暮らす貴族達が主だな。そして、私が乗っていた飛竜は、バエマシの街を目指して飛んでいた」

「それは何かの仕事で?」

「ああ、君は鑑定持ちだから既に分かっているだろうな。私の職種は【天候操者ヴェターベディーネン】。つまり、天候を強制的に変えようとする仕事だ。主に雨乞いか日照りを頼まれる訳だが、その時はバエマシの街に続く豪雨を止ませる為に、複数の天候操者で集まる約束だったのだ。だが、向かう途中で突然の突風に煽られて、操縦士共々に飛竜から落下したんだ。私は運良く大河に落ちた様だが、操縦士は岩壁に打ち付けられたのを見た。仲間は彼を見て、私も死んだと判断しただろうな」

「そうだったのか。でも、バエマシに戻る事が出来たら、仲間達とまた会えるかもしれないね?」

「どうだろう?天候操者は忙しく、1年中悪天候の地に呼ばれ続けている。その中でも、私はエルフの気質からか、群れるのも多忙なのも嫌う性格でね。仲間からは少なからず疎まれていたと思う。きっと、荷物が減って良かったと、とっくに次の地へ向かっただろうさ」

 慣れているという表情で作業を続けるイシルウェに、アラヤはイジメを受けていた頃の自分が重なって見えた。

「天候を変えるには、やはり大人数が必要なの?」

「その範囲によるかな。1人が干渉できる範囲では、街の半分にも満たないよ。雨雲の範囲が領地全体ならば、街だけを晴らしても直ぐに天候は戻ってしまう。故にチームを組み、風上から変えていかねばならないのだ。1人でできる事など、村1つの天候を数時間変える程度だろう」

「充分凄い事だと思うよ?大気を操るなんて凄い魔力消費だろうから、イシルウェの魔力量が多い事も納得できるよ。ねぇ、チャコちゃんもそう思うでしょ?」

「うんっ!お天気変えちゃうなんて、パパ凄いね~っ!」

 振り向くと、チャコやハウン達が揃って2人の作業を見ていた。

「なっ⁉︎き、聞いていたのか?そ、そうか?パパは凄いか?」

「うんっ!」

「そ、そうか⁉︎良しっ、ならば今晩は辺り一面の雲を晴らし、満天の星を見せてやろう!」

「やったぁ!」

 喜ぶチャコのはしゃぎ様にイシルウェはデレデレになる。彼女の存在に、彼は救われているんだなと思う。

「おっ、帰って来たみたいだね」

 サナエ達とオードリー達が一緒になって帰って来た。だがどうやら、大猟に捕獲できた訳では無さそうだ。まぁ、トイレ用には一匹で良いのだけど。

「お待たせ、アラヤ。ごめん、生かして捕まえたのは6匹だけなんだ」

 サナエがテヘヘと謝り、アスピダを指差す。彼の大きな背に、魔力粘糸の網で捕われたスライムがウニョウニョと動きまわっていた。

「種類は3種類、ブルースライム(水色)が3匹、ロックスライム(茶色)が2匹、スノースライム(白色)が1匹です」

 網を地面に置くと、スライム達は網を突き破ろうと暴れだした。

「トイレに必要なのはブルースライムで大丈夫だよ。残りの2種はどんなスライムなのかな?」

 3種を鑑定で見ると、共通して捕食吸収の技能持ちだった。これは技能上げの食材ではないか!これから見かけたら捕まえねばならないね。
 捕食吸収以外にも分離・溶解の技能も共通して持ち、ブルースライムは浄化、ロックスライムは硬化、スノースライムは冷却の技能を持っていた。

「アラヤ君に残りは任せて、私達は昼食の準備に取り掛かりましょう」

 アヤコはアラヤが弱肉強食で食奪獲得イートハントする事ができる様に、気を利かせて皆をアラヤから遠ざける。

「ブルーはゼリー、スノーは大福、ロックはウン……いや、膨れ菓子だな。とにかく食べるとしよう」

 ブルースライムを1匹だけ残して、次々と囓っていく。口内に広がる柔らかい感触と焼ける様な痛みは、直ぐに旨味へと変換されていた為に、結果的には踊り食いとなった。
 感覚共有している嫁達にも旨味と快感が伝わり、弱肉強食が終了した事が伝わる。
 チャコだけが、昼食後にスライムを探していたが、他は逃がしたのよと嫁達が誤魔化していた。久しぶりの弱肉強食の快感に満足したらしく、嫁達も皆機嫌が良かった。

「さぁ、午後からはいよいよモザンピア領地内だ。目指すは領内最北の街コルトバンだ」

 お腹と鋭気を満たしたアラヤ達は、モザンピアの山岳地帯へと再び進み出すのだった。
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