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第11章 故郷は設定なので新天地ですよ⁉︎

148話 捜索

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 暗闇の中で見上げる神殿は、神秘的というより不気味という言葉がしっくりくる。
 要所要所に柱松が見えるが、長年使われた形跡は無い。

「ハウン、此処には駐在している教団員は居ないの?」

「此処は世界各地にあるフレイア巡礼地の1つでして、積雪期の今は巡礼者も来ない為に常駐はしていません」

 念の為に魔導感知と熱感知で周囲を回るも反応は無い。神殿内にライトを飛ばして見るも、女神像が1人寂しく照らされただけだった。イシルウェが此処に避難していたら、即座に解決だったのだけどね。

「この時間じゃ流石に村には入れないだろうけど、どうにか話を聞きたいなぁ」

 神殿からメドウ村の近くまで来たものの、当然入り口は閉ざされていて、正面からの出入りは無理だ。

「どの様な話を聞くのですか?」

「最近、馬子の娘が拐われたらしいんだ。その娘が居た馬房が分かれば、サマンサがやった様に痕跡視認で行方が分かるかもしれない。どのみち、侵入はしなきゃ始まらないね」

 アラヤ達は杭塀の下まで行くと、足元の土をアースクラウドで隆起させて飛び越える。
 アラヤは魔力制御と隠密で完全に気配を消して、村人の確認と会話を盗み聞きしながら進む。
 ハウンは、アラヤとは逆回りに調べて進む。彼女が見つからない様に、村人の位置情報はアラヤが逐一念話で伝えている。

『アラヤ様、馬房を見つけました。例の馬子が居た馬房かを調べます』

『待って。君が調べると痕跡が変わる可能性がある。場所は認識したから、直ぐに向かうよ。ハウンは他にも馬房が無いか調べて?』

『分かりました』

 報告されたその馬房には、馬子はおろか馬一頭すら居ない。早速、痕跡視認と鑑定を使用してみる。
 すると、村人らしき男性と女性が騒いでいる姿が見える。その場には馬が2頭残っており、彼等はその馬達を連れて馬房を出て行った。その後は誰も来ない。
 これだけの情報じゃ、何の手掛かりにもならない。次の馬房を探そうと出ようとしたら、1匹の老ネコが歩いて来た。

『ねぇ、そこのネコさん、此処に馬が一頭も居ない理由を知らないかい?』

『んニャ?吾輩の言葉が分かる人間かニャ?ここは吾輩の寝ぐらニャ。馬達が何処に行こうと、吾輩には関係無いニャ』

『なんだ、知らないのか』

 そのままツンとした態度で通り過ぎるネコに、アラヤは亜空間収納から小魚を取り出してチラつかせる。

『行き先は知らニャいが、2頭は世話役の娘のチャコが連れて行ったニャ。見た事の無い綺麗な男と一緒だったニャ』

 魚を見た瞬間、目の色を変えて喋り出した。小魚を地面に置くなり素早く咥えると、麻袋の寝床に飛び移り夢中で食べ出している。

『ハウン、馬房は此処で間違いなかったよ。行き先は不明だけど、馬子の娘と一緒に出たらしい』

『アラヤ様、こちらは村長の会話を運良く聴けました。その娘は孤児で、食事を与える代わりに村の全ての馬房を世話させられていた様です。深夜の内に村から出た様で、村人達も近辺を捜索している様ですね』

『それじゃ、村人達も予測はついてないんだね』

 村の情報はここまでかと、アラヤが馬房を出ようとすると、先程のネコがアラヤの足元に擦り寄って来た。

『チャコが連れて行った馬の匂いを、吾輩は知っているニャ~』

『教えてくれるのかい?』

『お腹空いたニャ~?』

 どうやら、追加の魚を催促している様だ。まぁ、亜空間収納の中ならいつまでも新鮮だから、よほど美味しかったんだね。

『分かった。じゃあ手伝ってくれたら、2匹あげよう』

『決まりニャ!』

 ニャアと鳴いて、アラヤの肩にピョンと飛び乗る。歩きで先導する気はないらしい。

『直進ニャ!』

 アラヤはハウンと合流して、警備の薄い入り口から外へと出た。門番も1人しかおらず、見張りもせずに寝ている始末。馬子のチャコとイシルウェが馬を連れて出た時も、今みたいに寝ていたのだろう。ある意味で平和な村だったのかな。

「なるほど、獣達から情報を得るなんて盲点でした。流石アラヤ様です」

「でも、移動が走りだとキツイかな?」

「馬が居なかったので仕方ないですよ」

「ニャアアァァァァァァ‼︎⁉︎」

 ムーブヘイストで疾走する2人に、老ネコは振り落とされ無い様に必死にしがみつく。
 この時には、アラヤにも超嗅覚でネコが追っていた馬の匂いも分かっていた。
 やや風で流されているが、匂いは真っ直ぐに北東へと続いている。
 老ネコが耐えきれないので、たまに休憩を挟む事にした。

「アラヤ様、そのエルフとは面識があるのですよね?それなら、念話かコールが届く距離なら話しかけてみませんか?私と感覚共有していただけたら、かなりの距離でも可能だと思うのです」

「なるほど、良い考えだね!分かった、やってみよう!」

 ハウンと感覚を共有して、彼女を通してイシルウェにコールを試みる。

『イシルウェ、イシルウェ、聞こえるかい?』

『…誰だ⁉︎』

 コールが繋がった。それにより、彼の居場所が北東で間違いないと分かる。距離的にはあと30分程走れば着く距離だ。

『君を、マクレーンの街から逃がした者だよ。ヒールとダークブラインドの魔鉱石を渡した』

『…本当に本人か?俺にはこれ以上関わらないと言っていたが…』

『その点はすまない。俺達も君の国に行ってみたくなってね。案内を頼みたいんだ』

『案内?』

『とにかく、今はそこを動かないで。直ぐに駆け付けるから。馬子のチャコちゃんも居るよね?』

『…⁉︎この子はチャコという名のか』

 アラヤとハウンは、反応があった方向に向かい、ムーブヘイストで再び走り出した。
 しばらく走り続けていると、超聴覚に川のせせらぎが聞こえて来た。
 魔導感知で辺りを探していたら、イシルウェ達は、川辺にあった小さな横穴で野営を行なっていた。2頭の馬も、手綱を木に括り付けていた。

「まさか、本当に来るとはな…しかも走りとは驚きだ」

「まぁね。流石に疲れたよ」

 イシルウェの傍らには小さな女の子が寝ている。彼女がチャコで間違いないだろう。アラヤの視線に気付いたイシルウェが笑顔で頷くと、彼女の髪を優しく撫でる。

「この子に懐かれて、馬房に2日程隠れ住んでいたのだが、このままでは流石に迷惑が掛かると思い村を出ようとした。そうしたら、この子は馬を連れて追いかけて来たのだ。私には彼女の言葉が分からない。駄目だ帰れと言っても通じなくてな。結果、この場所までついて来た」

「彼女が居なくなって、村人達が探しています」

 少し遅れて来たハウンと老ネコは、肩で息をしている。ネコはしがみついてだだけなのにグッタリだ。きっと運動不足だな。

「うん、やはり彼女は村に帰すべきだな」

 少し寂し気な表情でチャコの頭を撫でるイシルウェは、それが最良だと頷く。

「それはどうでしょうか?彼女は孤児で、あの村に両親は居ませんよ?」

 焚き火の側に腰を下ろしたハウンが、イシルウェに村で聞いた話を彼に伝えた。

「確かに、彼女は馬房の寒い場所で寝ていた。とても優遇されているとは言えなかったな…」

「ニャニャニャニャア~(吾輩と一緒だったから寒くはなかった筈だ)」

 老ネコはイシルウェにドヤ顔で偉そうにしているが、彼には獣の言葉を知る術が無い。

「既に誘拐扱いなんだし、村人達が探しているのは彼女じゃなくて馬の方みたいなんだよね。辺境伯から軍用馬の補充の為に預かっている馬みたいだよ」

「この子より馬が大事か…。見下げた人間達だな。この子が不憫だ」

「そう思うなら、君が父親代わりになりなよ?」

「なっ⁉︎私は追われる身だぞ⁉︎そ、それに、言葉も通じないし、種族も違うから嫌われるかもしれない…」

 イシルウェは驚きと焦りの表情で目を泳がせる。それは決して嫌という訳では無い様に見える。

「君が言うできないという理由は、俺が消してあげるよ。だから、素直な気持ちだとどうなんだい?チャコを引き取る気はある?」

 イシルウェは、泳いでいた目を閉じてフゥ~と自分を落ち着つかせる。
 そして、気持ち良さそうに寝ているチャコの寝顔を見ると、優しい眼差しから一転して力強い眼差しに変わった。

「ああ、この子が拒まないのなら、私がこの子の父親となろう」

 実質、これは誘拐に変わりないのだが、目的は保護に近いものだとアラヤは考えている。

「だが、これからどうするのだ?」

「先ずは、引き返そうか」

「は?それはどういう事だ?」

 戸惑うイシルウェと寝ているチャコにアラヤは触れると、テレポートを唱えた。 

「こ、此処は⁉︎」

 イシルウェが見上げた前には、フレイア女神像がある。光に包まれたあの一瞬でフレイア神殿まで帰って来たのだ。

「これを後2回繰り返して、ハウンと馬達もこの神殿に連れて来る」

 魔力電池で魔力を回復して、アラヤはテレポートを繰り返した。時間にして僅か5分にも足らない。

「本当に君には驚かされてばかりだな」

「もうちょっと待っててね?」

 アラヤが馬を馬房へとテレポートさせてから戻ると、チャコが目を覚ましていた。
 チャコが丁度、ハウンから事情を説明されている最中で、イシルウェは怖くて見れないのか、チャコに背中を見せている。

「妖精さんがチャコのパパになるの?」

「親代わりって事だね。ただ、村には帰れないけど…」

「やったー!まだまだ一緒に居てくれるって事だよね?チャコ、妖精さんに、パパについて行くー!」

 はしっとイシルウェの背中にしがみつくチャコ。彼はプルプルと感動に震えている。アラヤとハウンもその光景に癒されていると、足元に老ネコが擦り寄る。

「ニャー、ニャニャア~?(ところで、吾輩へのご褒美は?)」

「あ、すっかり忘れてました」

「ニャアーー‼︎⁉︎」

 老ネコを馬房へと送り機嫌直しに小魚を5匹渡した後、アラヤ達は嫁達が待つエニシダの宿屋へと、再びテレポートを繰り返したのだった。
 外は地平線から陽の光が現れ始め、長い夜が明けようとしていた。
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