【完結】スキルが美味しいって知らなかったよ⁈

テルボン

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第9章 止めろと言うのは振りらしいですよ⁈

125話 白の脅威

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 ガーンブル村を出たアラヤ達は、魔物が住み着いたという森へと向かっていた。
 犬ソリで約1日の距離らしいのだが、アラヤ達の馬車なら半日くらいで着くと予想して、早めに昼食を取る事にした。
 準備を終えて昼食が始まると、アラヤは今日の朝の事が気になっていたと皆んなに話す。
 出発する前、村人達がコソコソと話しをしていたのが超聴覚によって聞こえたのだが、どれもアラヤ達を止めるべきだという内容だったのだ。

「あれって、どういう意味だったのかな?」

「大半が、犬死にするだけだから食糧を奪うべきだという野蛮な内容でしたけど、御老人が言っていた「アレに危害を与えてはならない」という言葉の意味が分からないですね」

「村長は、今年の初め頃に住み着いたって言ってたよね?村人達は早くから気付いてたのに、何故今まで放置してたんだろう?」

「報酬が割に合わないとかで、ギルドには断られたって言ってたよね?アヤは簡単に受けたけど、私には嫌な予感しかしないんだよね」

「私は、考えても、分かりません。戦うのみです」

「「「う~ん…」」」

 大体、魔物の情報が無さすぎる。村長も村人も、野生動物を食べる魔物としか言わなかった。知っていて隠している気がするんだよね。本当に討伐して欲しいのだろうか?

「止めろって言ってたし、いっそのこと無理でしたって帰ろうか?」

「アラヤ君…」

「ごめん、冗談だよ。でもさ、おかしいと思わない?野盗や狩猟集団が怖くてオモカツタには向かえないのに、道中に件の魔物がいるプイジャールには、ギルドに依頼しに行ってるんでしょ?…考えられるのは、ギルドに依頼したというのが嘘か、魔物に狙われない術を知っているとかかな。どちらにせよ、俺達を利用しているのは間違いないと思うんだよね」

「そうですね。ただ、自分達が飢えてまで村を捨てずに耐えている理由があると思うんです」

 討伐して欲しいが、情報を教えたくない理由?ちょっと見当もつかないな。

「とにかく、何の情報も無いから、その魔物を発見したら遠くから分析するしかないね」

 後片付けをしながら、再び出発する準備をしていると、超聴覚に遠くで何かが破裂する音が聞こえてきた。
 アラヤは近くの木に飛び乗り、頂上からその音が聞こえた方角を望遠眼の技能スキルで見る。
 かなり先で雪煙が立ち昇っているのが見える。近くの木々が次々と倒れていく。

『アヤコさん、羅刹鳥を1匹鳥籠から出して』

『もう近くに来ていたのですね!分かりました』

 アラヤは、調教テイムした羅刹鳥を2匹だけ、ギルドに登録従魔にするつもりで残していて、今はインコの姿に擬態させて鳥籠に入れていたのだ。
 アヤコが鳥籠の出入り口を開けると、羅刹鳥はアラヤの元に飛び立った。
 羅刹鳥は、アラヤがスッと伸ばした腕の上に停まると、擬態した姿を鷹へと変える。

「上空からあの場所を偵察してくれ」

『分かりました!』

 腕から飛び立った羅刹鳥の目に、アラヤは感覚共有を掛ける。感覚共有がLV3に上がった事で、一定箇所に掛けた場合には感覚だけでなく、体験できるようになった。
 感覚共有は、LV1で対象との感情系の感覚を共有(喜・怒・哀・楽・悦・怨)、LV2で味覚・痛覚・触覚を触受体感共有、LV3で視覚・聴覚・嗅覚を受空間共有できる。つまり、感覚共有を掛けた場所が目ならば、見ている景色をも共有できるようになったのだ。但し、体全体と共有すると、対象が致命傷を受けた場合、自己も危険になるので一定箇所にする必要がある。

 共有した視界は良好で、まるでパノラマの上空カメラの様に目的地へと進んで行く。
 雪煙の中で、僅かに動く影が見えた。

『回り込んで、もう少し近付けないか?』

『やってみます』

 徐々に高度を下げて、影の背後に周り込む。すると、その影が上に伸びた瞬間、雪煙から何かが飛び上がった。

『‼︎⁉︎』

 それはスノードッグの千切れた胴体だった。直後に、それを追う様にして現れたコブラの様な蛇の白頭が、肉塊を一口で丸呑みした。

『緊急離脱だ‼︎』

『分かり…』

 羅刹鳥とのコールの通信が突然途絶える。直前で見えた映像は、肉塊を丸呑みした蛇頭とは違う、右から現れた別の蛇頭の口だった。

「…すまない」

 犠牲になった羅刹鳥に謝罪する。だが、その犠牲のおかげで分かった事もある。
 アラヤは下に降りると、皆んなに見えた情報を教える。

「目標の魔物は白変種の蛇系で複数いる。大きさは頭だけで軽自動車くらい。全長は予想もつかないね。鑑定しなければ分からないけど、動きの速さからして並の魔物じゃないみたいだ。それと、リードの着いた犬らしき肉塊を丸呑みしていた」

「それは、犬以外にも追われていた者が、今居るという事ですね?」

「いや、というべきだろうね。魔法を使用する音ももう聞こえないし、今から向かっても間に合わない。それに、羅刹鳥を失ってしまった」

 元は敵だった魔物だけど、慣れればペットの様で少し気に入っていた。こんな事態になった際にショックを受けるからという理由で、まだ名を付けていなかったのだが、結局はショックを受けていた。

「もう少し調べなきゃだけど、残りの羅刹鳥は使いたく無い。でも、回避能力が低い馬車で近付くのはマズイと思う。だから、偵察はクララと俺の2人だけで行く」

「ご主人様、了解です」

「もう少し近付くのも駄目ですか?」

 心配になったアヤコが、緊急時にサポートしたいという考えで提案する。しかしアラヤは頭を横に振る。

「今は駄目だね。どちらかに何かあった場合に、逃げに集中できない。先ずは、鑑定できる場所まで2人だけで近付き、見たら即座に離れる予定だから」

「分かりました」

 アラヤはクララの背に乗ると、隠密と擬態を発動させる。姿はクララ(シルバーファング)にしがみつく野生子猿である。

「「「か、可愛い~」」」

 何故に?リアルな猿顔は可愛いとはならないと思ったのだけど…。どうやら、しがみつく仕草が可愛いらしい。…今度、擬態プレイに興じるのもアリかな?

「皆んなも、念のために擬態と隠密を発動しててね。…遊び抜きで」

 緊張感を持たせる様に、語尾を強めて言う。今はふざけている場合じゃないからね。

「クララ、行ってくれ」

「ハイッ‼︎」

 その場から駆け出したアラヤ達は、今は雪煙が立ち昇っていないが、とりあえず先程の地点へと向かう。
 先ずは魔導感知がギリギリ届く位置まで近付ければ良い。

「居た!魔導感知、反応有り」

「ああ。しかし、積雪で白い身体は見えない上に、反応は1つしかない。まさか、散り散りになったか?」

 望遠眼で見ながら、熱感知も発動させる。やはり、反応は1つしかない。
 魔導感知が示す場所には、不自然な積雪の盛り上がりがある。周りに他の反応は無い。
 鑑定をするには、まだ近付かなけばならない。
 ゆっくり慎重に距離を縮めていく。反応の魔力量が大きい事は、表示される反応のマーカーの大きさで分かる。
 そして熱感知により、魔物の姿がハッキリと分かった。白蛇が複数いるのではない。本体は1つで、首が7つあるのだ。

『八岐大蛇の白変種か?』

 ギリギリ鑑定が届く位置まで来て、アラヤは早速鑑定をする。
 すると、名はクタクシャカヌ。種族はナーガラージャ(ナーガロード)で無性別らしい。

『ロード級‼︎ヤバイね、耐性も火属性・毒・麻痺・即死とデバフ防御は万全じゃないか』

 そろそろ離れようとした時、上空を鳥が横切った。

「シャッ‼︎(餌‼︎)」

 積雪が持ち上がり、頭の1つが飛んでいる鳥を追いかける。釣られて他の頭も起き上がり、他に餌は無いかと辺りを見回した。

『マズイ、非常~にマズイ!』

 アラヤは1つの頭と目が合ってしまった。この蛇は熱感知の技能を持っていた。相手の熱感知の範囲外までギリギリ離れているとはいえ、直視されれば意味がない。ゆっくりと後退りしながら、体の向きを変える。

「キシャ~ッ‼︎(新たな餌、発見‼︎)」

 初めからトップスピードで疾走するクララの背で、アラヤは亜空間から焚き火用の薪木を取り出し、全てに誘爆性付与を掛ける。
 巨体であるにも関わらず、雪面を滑る様に走るナーガラージャは、瞬く間にアラヤ達に近付く。
 アラヤはライトを2つ作り出し、最大出力の光を放つ。その光で、一瞬視力を失った頭達は当然、熱感知による反応に頼った。
 ところが、アラヤは先程の薪木をばら撒いて全てを爆発させた。
 全ての頭が散らばった薪木に騙されて、アラヤ達は無事に逃げ延びる事が出来たのだった。
    

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