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第9章 止めろと言うのは振りらしいですよ⁈

123話 ガーンブル村との交渉

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 次の日の朝、アラヤ達はガーンブル村の入り口に到着した。
 村は、丸太を杭状に削った防護柵に囲まれていて、あちこちに見張りの守衛も見える。

「ちょっとした厳戒態勢だね」

 入り口の門の前まで来ると、門の上から2人の守衛が弓を構える。

「そこで止まれ!」

 アラヤはギルド証明が見える様に持ち、手を上げた。

「私達はバルグ商会の者達です」

「行商人か!待っていろ、村長に連絡してくる」

 守衛の1人が、アラヤ達が商人だと分かると、一目散に走り去って行った。明らかに警戒ではなく歓迎されている気がする。

「待たせた。許可が出たので、どうぞ中へ」

 門が開けられ、アラヤ達が中に入ると、村人達が家から出て来て自分達に手を振っている。完全な歓迎ムードだ。アラヤからすれば、これは嫌な予感しかしない。とりあえず、村の中央道で馬車を止めて、アラヤ達は馬車を降りる。

「これはこれは、良くおいで下さった。バルグ商会の方が以前来られたのは、もう数年も前の事。これと言った特産物が無いと、もう見切りをつけられたかと思っていました」

 村長らしき60歳過ぎの男性が、満面の笑みを浮かべながらアラヤ達の前に出てきて、握手を求めてきた。

「自分はまだ任されて間も無いので、各地の村を訪ねて周っているのです。新たな特産物があるのなら、新社長が取引契約をお願いするかもしれませんね」

 握手に応えて、それとなく、商会の一員らしい言葉で返す。そしてアヤコを前に出し、彼女にも握手をさせた。

「取引関連のお話は私が伺います。因みに、この村の特産物は何ですか?」

「この村の特産物は、主にキノコ類と香木です」

 キノコや香木なら、意外と需要あると思うんだけどな。ガルムさんが取引していないとなれば、他の取引先で手に入るか、質が悪かったかかな?

「見せていただけますか?」

「…す、すみません。今季は収穫が上手くできていなくて…少しだけしか有りません」

「構いません、参考にするだけですので」

「…ではこちらへ」

 アラヤは、クララと共に馬車へと残った。未だに村人達が離れなかったからだ。誰も居なくなれば、荒らされる可能性もありそうだと感じた。

「確かに前世の白檀ビャクダンと同等種のようね。でも、最高品種の伽羅キャラは流石に無い様だわね。白檀みたいな熱帯性常緑樹かあるって事は、夏季はもの凄く暑い地域なのかしら?」

 カオリが、鑑定と知識で品定めを続ける中、アヤコとサナエは村長に別室に招かれた。明らかに不審だが、念話でお互いに繋いでいるのでいつでも駆け寄れる。

「実は、折行ったご相談がありまして…」

「…伺いましょう」

『アヤコさん⁈』

『アラヤ君、ここは聞くべきだと思います』

『…分かった』

 取引が決まってもいないのに、相談を持ち掛けるのも受けるのも違うと思うんだけど…。

「実は、今年の初め頃から香木が取れる地域に魔物が住み着きまして、その辺りに生息していた野生動物等も被害に遭い、この付近には生息しなくなってしまいました。それからというもの、魔物を恐れて街からの来訪者も無く、我々は貯蔵していた食糧で生活しています」

「魔物を討伐するように冒険者ギルドに依頼すれば良いのでは?」

「それが、報酬か見合わないと突っぱねられまして…」

「あのカザックさんが断ったんですか?」

「あ、いえ、オモカツタの街には行ってません。近いプイジャールの街のギルドのみです。オモカツタの街は、その…が居られて苦手なもので…」

『…グスタフ、嫌われてるな…』

「それで、ご相談とは?」

「…オモカツタの冒険者ギルドへの依頼を代わりにお願いしたいのと、食糧を売っていただきたいのです」

「そういう事ですか…。残念ながら、我々はオモカツタから出て来たばかりでして、再び向かう気はございません。それに今のオモカツタでは、大型魔物による多大な被害があり、復興で人手不足です。依頼しても後回しになるでしょう。それでもと考えでしたら、誰か向かわせたらどうでしょうか?」

「そうですか、まさかオモカツタも魔物被害にあっているとは…。村からオモカツタへの道筋には、時折、野盗や狩猟集団が現れるので、村の若い衆が居ないと我々も危ないので、中々向かい辛いのです」

 それって、道中に会った狩人の事じゃないかな?達って言っていたから、狩猟集団なのかもしれない。

「それと食糧の件ですが、我々も自らの移動日数に掛かる分量しか用意していないので、お売りする程の余力はございません」

 アヤコのその言葉を聞いて、アラヤは軽くガッツポーズする。自分達の食糧に、商売用の物は持ち合わせて無いのだ。

「それは残念です…」

「ですが…」

 項垂れる村長に、アヤコは言葉を続けた。その事にアラヤがエッと驚き声を上げると、馬車を近くで見ていた村人達がビクッと驚いて離れた。

「その現れた魔物を何とかすれば良いのでしょう?そうすれば、プイジャールの街とも往来できる上に、食糧難も解決する」

「それはそうですが…」

「そこで、一つ取引しませんか?その魔物を我々が、討伐・撃退した暁には、報酬として彼女が選んだ品々をいただきたいのです」

 別室に居たカオリが、羊皮紙に品定めした品を書いて持って来た。その紙を村長は受け取り確認する。

「貴女方で、あの魔物を討伐できると言うのですか⁈貴女方は商人ではないのですか⁈」

「確かに商業ギルドに属していますが、うちの主人は、ギルドマスターや兵長から誘いを受ける程の実力を持っています。そこら辺の大金積んでも来ない冒険者より、遥かに強いですよ?」

「ううむ…。少し他の者達と話させて下さい」

 村長はそう言って、部屋から出て行った。奥の部屋で話し合っている声が僅かに聞こえる。大半が、あんな女子供には無理だという村人達の意見だ。

『アヤコさん、俺達が魔物と戦うメリットあるの?』

『カオリさんが選んだ品々は、品質の高い香木類とバニラに似た香料です。香木は私達が商会で売り出しているポプリと同様に、貴族達には需要があると思います。バニラの様な香料の方は食品全般で使えますからね。何より、バニラアイス食べたく無いですか?』

『うっ…食べたいね。冬でもアイスはいけるからね。分かった、とりあえずそれを報酬として手に入れた後に、次収穫分をバルグ商会として取引するんだね?』

『はい、そのつもりです』

 アヤコは、すっかりやる気になっている様だ。問題は、ギルドが断る様な魔物討伐が割りに合うかだけど…。

「あの、話し合ってみたのですが…」

 話し合いが決定したらしく、村長が再びアヤコ達の前にやって来た。後ろにはまだ若い村人が付いている。

「貴女方の実力を知る為に、鑑定をしてもよろしいでしょうか?この者が、鑑定の技能スキルを持っています故」

「ええ、構いませんよ。因みに、馬車で待つ主人は私達よりも強い魔法剣士です」

 その場にいる3人は、ジャミングで技能を大分減らして表示しているけれど、それでもかなりの強者だと分かる筈だ。

「ひぃっ⁉︎す、すみません!そ、そ、村長!是非とも彼女達に頼むべきです‼︎」

 案の定、鑑定した村人は逃げる様に村長にしがみ付いて訴えた。

『あ、まだちょっと技能が多過ぎたかしら?』

 怯える村人に、3人は後10個は表示を減らすと決めた。というか、一般的な冒険者で5個ぐらいの技能数が平均なのに、一体幾つ表示していたのだろうか…。

「そ、それでは、討伐をお願い致します」

「分かりました。では、この羊皮紙に血判をお願いします」

 先程の羊皮紙に、追加で依頼書文を書き足して討伐依頼書としたのだ。村長が血判を押し、契約成立した。
 魔物の詳細を聞き、アラヤ達は来たばかりのガーンブル村から、魔物が住み着いたという東の地帯へと出発したのだった。
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