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第8章 何処へ行っても目立つ様だよ⁈

117話 討伐数

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 オモカツタの街の内部に居たアンデッド達が、全て駆逐された事がグスタフ兵長から発表されると、早速街の復興作業が開始される。
 1番の被害が出た美徳教団のあった区域は、陥没した状態のままで地下街として生まれ変わる計画が出された。
 ベヒモスが埋められた一帯は、完全に一般市民は立入禁止区域となったのだが、何故か両教団の管轄下に決まったたらしい。

「あの、魔物一体に金貨5枚ってあんまりじゃないでしょうか?ほとんどがアンデッドで、ゴーストなんか倒したら消えてしまうのに。実体があったのは羅刹鳥くらいしかいなかったんですよ?」

 討伐隊に参加していた冒険者達が、ギルドマスターであるカザックに抗議している。

「ううむ、そうは言ってもな。あのクズタフの野郎の依頼は、その実体が分かる魔物にしか報酬が支払われないと明記されとるんじゃ。それに、今は街の復興に金が掛かる。抗議に行っても、同じ働きをした衛兵達には報酬は無いと言われて終いだろうな」

「ぐっ、それを言われると言い返せない」

 討伐隊のほとんどの部隊が、羅刹鳥の頭部が7~10個という数で、金貨35~50枚くらいの報酬みたいだ。それを7、8人で分けると1人が金貨5枚からという事になる。Aランク冒険者が一晩中戦って、この報酬は割りに合わない。

「あの、すみません。通して下さい」

 8組の討伐隊で、最後に現れたアラヤは、クララと2人でカザックの前にやって来た。

「うむ、アラヤ殿。急な討伐隊参加を引き受けていただき、誠に助かったぞ。本来なら商業ギルドに先に話を通す必要もあったのだが、今回は緊急事態故に個人的な依頼という形で、商業ギルドには通してある。だから報酬も、冒険者と同等に魔物一体に金貨5枚を支払おう」

「分かりました。じゃあ、確認をお願いします」

 アラヤは、クララの背に乗せていた2つの布袋を、彼の前に置いて中身を見せた。

「うぉっ⁈」

 カザックは中身を覗いて、驚きのあまり椅子から転げてしまった。辺りの冒険者達も何事かと注目しだす。

「1つの袋に20個の羅刹鳥の頭部が入っています」

 もう片方の袋も開き、中が確認できるようにする。カザックは恐る恐る中を確認すると、紛れもなく20個の頭部を確認できた。2袋で40個の頭部、つまりは金貨200枚の報酬だ。

「す、少し待っていてくれ。用意してくる」

 カザックはそう言って奥の部屋に入って行った。しばらくして、少し重たそうな布袋を持ったカザックが戻ってくる。
 まさか、全部金貨で支払うつもりなのだろうか?

「だ、大金貨や白金貨でも構いませんよ?」

「ん?あ、いや、これは別件の奴でな。最初に渡す予定だった関所とポッカ村の討伐報酬と、魔鉱石代の分じゃよ。ゴタゴタで後回しになってしまったが、全部で白金貨1枚、大金貨45枚、金貨86枚になる。それと、今回の討伐報酬白金貨2枚だ。確認してくれ」

 カザックは、袋を開けてテーブルの前に広げて見せる。

「うぉっ⁉︎スゲェ大金だぞ⁉︎」

 そりゃあ、人前で見せたらダメな金額でしょ。案の定、2人の周りには沢山の冒険者か集まりだす。

「この狼、俺達の獲物を横取りした奴だぞ」 

「ああ、間違いない!俺達の区域にも来たぞ!」

 カオリが救援に向かった討伐隊達だろう。調子に乗って、幾つもの部隊の羅刹鳥を討伐したらしいな。クララが歯を剥き出しにして威嚇をしようとするが、アラヤは問題にはしたくないと止めた。

「なら、俺達にも少しぐらいの取り分があるんじゃないか?」

「おお、そうだな。少しはある筈だな」

 冒険者達は、目の前にある金に欲が出たと見える。賛同者は次々と増えていった。

「お前達、何馬鹿な事を言ってるんだ⁉︎これは正当なアラヤ殿の取り分だ。大体、羅刹鳥の擬態の見破り方を発見したのも彼だぞ?ピンチを救ってもらったのに、恥ずかしいとは思わんのか?」

 カザックがドスの効いた低い声で怒りをあらわにすると、冒険者達は狼狽えている。彼がそこまで怒るとは思っていなかった様だ。でも、原因作ったのは彼の軽率な行動だと思うけどね。

「まぁまぁ。勝手な親切心で、確かに迷惑をかけてしまったかもしれません。ですので、それなりの謝罪の意味を込めて、皆様にコレを差し上げましょう」

 アラヤが皆にそう言うと、入り口からアヤコとサナエが酒樽を持って現れた。

「グラーニュ産の高級葡萄酒です。皆さんで是非味わって下さい」

「マジか!やったぜ!」

「おお、高級酒じゃないか!ありがてぇ!」

 瞬く間に酒樽に群がる冒険者達。彼女達が配る葡萄酒の入った小ジョッキを受け取っては、さっきまでの不満は何だったのかと思うほどに喜んでいる。

「この商品のお求めは、バルグ商会へどうぞ。お待ちしております」

 宣伝も忘れずにしておく。自分達用の酒樽だったけど、彼等の不満もこれで丸く収まってくれた様だ。

「アラヤ殿、すまなかったな。ワシの不注意じゃった。ああ、言い忘れていたが、クズタフがこの後で来てくれと言っておったんじゃ」

「ええ…?お断りします」

「気持ちは分かるが、そう嫌わずに向かってくれ。場所は駐屯地の裏の屋敷だ」

 アラヤ達は、飲み会場と変わった冒険者ギルドを出て、指定場所へと向かった。
 衛兵駐屯地の裏には、確かに広々とした三階建ての屋敷があった。
 入り口には2人の衛兵が番をしている。衛兵達の施設か何かだろうか?

「すみません、グスタフ兵長に呼ばれて来たのですが」

 アラヤ達がそう言うと、どうぞこちらへと扉を開けてくれた。
 屋敷の中へ入ると、グスタフの自画像や彫刻といった悪趣味な装飾品の数々に、一瞬で胸焼けしそうになる。

「あら、ちゃんと来てくれたのね?こっちよ」

 帰ろうと身を翻した先に、満面の笑みのグスタフが居て、応接室へと案内された。
 室内には料理が並べられていて、そこにはカレーに似たあの料理も見えた。

「せっかくだから、食事をしながらお話しましょうか」

 男性のメイドらしき方々に席へと誘導され、アラヤ達は仕方無しに座った。

「どうぞ、好きに召し上がって?どれも、インガス領の名物料理よ。きっとお口に合うと思うわ」

 アラヤ達はせっかくなので、素直にいただく事にした。言うだけの事あって、どの料理も美味しいものだった。

「ここに来てもらったのは、単に貴方達の活躍の御礼を言いたかったのよ。オモカツタの街を救ってくれて、本当に感謝するわ。インガス領の領主アグロンスキー子爵に代わり、オモカツタの街長である私が、皆様に御礼申し上げますわ」

 グスタフ兵長は、オモカツタの街長だった。街長が兵長とは聞いた事も無い。しかも、鑑定で苗字を見るとアグロンスキーと表示されている。どうやら彼は領主の身内らしいな。どうりでカザックも、嫌っていても従うしか無いわけだ。

「分別の勇者ウィリアム=ジャッジ達も呼んだのだけれど、まだ体調が優れないらしいの。残念だけど、またの機会に彼等は呼ぶとするわ。ところで、坊や達はいつまで滞在する予定かしら?」

「えっと、目的の調味料を手に入れましたら、2、3日後には次の街に向かう予定です」

「あら、それは短いわね。貴方達には、この街の復興を一緒に手伝って欲しかったのだけれど。分別の勇者と同様に有名になれる存在なのに残念ね」

 それは全くもって遠慮したいことだ。出発は予定よりも早めようと、この時にアラヤ達は心にそう決めた。

「まぁ、貴方達は何処に居ても目立ちそうだから、有名になるのは簡単かもね?」

 グスタフのウインクに、アラヤ達は氷河期アイスエイジ並の氷結効果を味わうのだった。
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