【完結】スキルが美味しいって知らなかったよ⁈

テルボン

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第8章 何処へ行っても目立つ様だよ⁈

109話 グスタフ兵長

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「これはどういう事だ?」

 朝早く出発したおかげで、昼前にオモカツタの街に辿り着いたのだが、街の入り口から既に様子がおかしい。
 門の守衛達が騒がしく、右往左往している。クララが一声吠えると、アラヤ達の馬車にようやく気付いた。

「お前達、何処から来た?」

「デピッケルから、ポッカ村を経由して来ました。それで…」

「ああ、街は今大変な状況だ。できるなら他の街へ向かった方が良いぞ?」

 差し出した商会会員証も、一瞥しただけで渡し返される。しかも他の街に向かえとは、ますます状況が気になる。

「そういう訳にはいかないんですよ。関所の守衛さんから、衛兵駐屯地に手紙を渡すように頼まれていまして。それにポッカ村の避難民の方々も連れて来ていますし」

「避難民?どういう事だ?」

「ポッカ村は魔物達の群れに襲われまして、お連れした方々以外の方達は亡くなりました」

 後部馬車に居たリズ達を、確認した守衛は頭を抱えこむ。

「くそっ、他の場所にも現れてたのか!ううむ、仕方ない!とりあえず衛兵駐屯地に向かう事を許可する。くれぐれも気をつけて進め。衛兵が巡廻はしているが、今、この街には魔物が出没するからな」

 なるほど、ポッカ村に居なかった女性の魔物は、オモカツタの街に来ていたようだ。
 アラヤ達は、住民は建物内に避難していて、衛兵以外は誰も歩いていない街中を進み、衛兵駐屯地へと到着した。

「あの~、すみません」

 兵舎の扉を開けると、中に居た全ての兵がアラヤ達に注目する。あまり寝ていないのか、その目は多少殺気立っている。

「何だね君は?」

 1人の兵がアラヤの腕を掴もうとしたが、後ろから来たクララに気付くと、いきなり抜刀した。

「ま、魔物か!」

「ちょ、ちょっと、落ち着いて下さい!クララは私の従獣です」

 クララの首元にある従獣の証を見て、ようやく兵士達は落ち着きを取り戻す。全く、ピリピリし過ぎだよ。

「関所の守衛さんから、手紙を預かって来ました。それとポッカ村で起きた件の報告と、避難民の保護をお願いしたいのですが…」

「待て待て!手紙と報告は我々ではなく、兵長に行え!今、取り繋ぐから」 

 その兵長が来るまでの間に、リズ達には馬車を降りてもらい、室内に入ってもらった。

「おい、マジで他の村にも被害が出てたのかよ…」

 兵士達の困惑した声が聞こえてくる。屈強な兵士達がここまで疲弊しているとは、この街で一体何があったんだ?
 しばらくして、青髭顔の、胸当てが無ければ上半身がほぼ裸の兵士が現れた。

「待たせたわね、私がこの駐屯地を預かるグスタフよ。こちらの部屋で詳しい話を聞きましょうか」

 何だろう、凄く体が拒絶するんだけど。この人、少し動きがくねくねしてるし。あまり近付かないでほしい。

「では、仲間も一緒に」

「あら、寂しがり屋ね?」

 奥にある部屋へと案内されたアラヤ達は、手紙を渡して事の経緯を話した。
 グスタフはふんふんと頷きながら、手紙を確認し終えると、机の上にあった呼び鈴を鳴らす。すると、1人の兵士がやって来た。

「お呼びでしょうか?」

「彼等が連れて来たポッカ村の住民を、営内舎に案内して。事が落ち着くまで保護するわ。後、カザックも呼んでくれる?」

「はっ、了解しました」

 兵士が出て行くと、グスタフは椅子に深く座り足を組む。その動作一つ一つに何故か鳥肌が立ちそうだよ。

「貴方達が、関所を助けてくれた事には感謝するわ。だけど、しばらくの間は関所に新たな人員の補充はできないわね」

「それは、今の街の現状と関係してるんですか?」

「そうよ。昨晩、街中に大量の魔物が出現したのよ。冒険者ギルドや我々の対応がまだ早かったから、被害は少なくて済んだけれども、主犯と魔物達はまだ街中に潜んでいるわ。おかげで皆んな寝不足なのよ。肌に悪いわ~」

「そうだったんですか。どうやら大変な時に来てしまったようですね。我々は食材や調味料を手に入れたら、早速街を離れるとしましょう」

 面倒ごとになりそうなので、早々に退室しようとすると、一瞬で間を詰められて引き止められる。

「ちょっと待ちなさいな。まだ話は終わって無いわよ?」

 この男に鑑定使いたくなかったから分からなかったけど、兵長なんだし結構強いんじゃなかろうか。
 アラヤは、肩に置かれた手をやんわりと離して、笑顔で聞き直す。

「まだ何かありましたか?」

「そう構えなくてもいいでしょう?貴方達に、魔鉱石代と報酬を払わないといけないのよ。それとも、無料奉仕で要らなかったかしら?」

 そうだった。おそらく手紙にもその事が書いてあったのだろう。早く離れたいが為に忘れていたよ。

「そうでしたね。危なく忘れるところでした」

 そこで扉がノックされ、さっきの兵士が現れた。

「カザック様をお連れしました」

「おう、。この忙しい時に何の用だ?」

 兵士の後ろから現れたのは、見覚えのあるドワーフの男だった。確かソーリンの成人式の時に居た、支部冒険者ギルドのギルドマスターだ。向こうもアラヤに気付いたらしく、パッと明るい笑顔になり握手を交わす。

「おお!これは久しいな、グラコ殿!息災でおりましたかな?」

「ええ、カザック殿も元気そうで何よりです。ソーリン君が結婚した際に、お越し頂けるかと思っていましたが、やはりギルドは忙しいようですね?」

「まぁな。うちの冒険者ギルドは、討伐依頼よりも手間作業の依頼が多くてな。人手が足りんで、ワシも出ている。トーマスのようにサボれる環境じゃないのだよ」

「まさか2人が知り合いとはね~。じゃあ、話が早く済みそうで助かるんだけど、カザック、彼も討伐隊に入れてもらえるかしら?」

「おお、アラヤ殿が加わるなら大助かりだな!」

「はい?グスタフさん、いきなり何を言い出すんですか⁉︎」

「いや~ね、今のこの街の状況だと、店は何処も空いてないし、何より貴重な戦力を見逃す訳ないでしょう?是非とも、街を助けて更なる報酬を手に入れて欲し~いのよ」

 再びくねくねと近付いて来たので、アラヤはその分の距離を取る。

「うむ、どうかワシからも頼む。ギルドの連中だけじゃ、街中はカバーできないんじゃ」

 グスタフはともかく、カザックの頼みには応えたい気持ちはある。何より、店が開いてないという点では、目当ての調味料が手に入らないからダメである。

「カザック殿が言うならら分かりました。ただし、私達家族は一緒に行動しますけど、それで構いませんか?」

「おお、構いませんとも。奥方達もお強いのは、お持ちの武器を見ただけで分かりますからな」

 カザックは大丈夫と親指を立てる。鑑定持ちで無くとも、分かる人には分かるんだな。

「被害が一番大きかったのは、フレイ美徳教団の教会付近での、主犯らしき魔物もそこに現れたらしいのじゃ。なんでも、教会内に負傷した勇者が居たらしく、それを狙ったんじゃないかと噂されとる。まぁ、奴等の攻撃は空振りに終わったんじゃがな?」

 魔物が勇者狙いで襲撃?こんな街中まで追って来ている時点で、かなりの恨みや執念を感じる。

「まぁ、現場を見た方が早いじゃろ」

 カザックに連れられて、近寄りたくはなかったが、アラヤ達はフレイ美徳教団の手前までやって来た。
 確かに、辺りの建物は崩れ落ち、戦闘があった形跡が見られる。

「奴等はターゲットが居ないと分かると、街中に姿を晦ました。アンデット類は朝日が出たんで消滅したが、鳥の魔物も姿を消している。おかげで、我々は寝るに寝れない状態で朝を迎えた訳じゃ」

 それはキツいな。再び襲ってくるとしたら夜だろうけど、羅刹鳥はアンデットではなく普通の魔物だ。だから日中も油断できないのだ。
 アラヤ達が、付近を見ていると、1人の教団信者がカザックの元に駆け寄った。

「カザック様、材料の依頼は出して頂けたでしょうか?」

「ああ、一応はギルドに貼り出したが、あんな素材は今の時期には手に入らないぞ?」

「しかし、今は一刻の猶予も無いのです。早く神々の霊薬ソーマを調合せねば!後一つの素材で調合できるというのに…。このままでは、ジャッジ様のお命が…」

「む?そう言えばアラヤ殿はバルグ商会の人間。もしや持ち合わせてはおるまいか?」

 突然、話を振られたアラヤは、関わりたく無いけれど、無視するわけにもいかないので一応聞いてみた。

「それは一体、何という素材なんですか?」

「ロック鳥の卵です」

「え…?」

 アラヤは思わず顎が外れそうになる。それもそのはず、アラヤの亜空間収納には、数ヶ月前に収納したロック鳥の卵が一つ、未だに入っていたからだ。
 どうしよう?渡したら勇者が助かるわけだし、見捨てれば…。アラヤは今、弱い自分自身の心に選択を迫られていた。
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