【完結】スキルが美味しいって知らなかったよ⁈

テルボン

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第8章 何処へ行っても目立つ様だよ⁈

108話 魔物達の目的

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「も、もう1人、出てきたわよ⁈」

 夕食を頂いて食べている時に、馬車から見知らぬ眼鏡を掛けた女性が突如として現れた。今まで馬車で寝ていたのだろうか。

「あの人もあの白髪坊主の嫁だって言うのか⁈」

 少し失礼な物言いで、ヤンは空になった皿をリズに押し付けた。

「食べたなら、自分で持って行きなさいよ。て言うか、洗ってからお礼も言いなさいよ?」

「知らないよ、彼奴らが勝手に出してきた料理だ。後始末も彼奴らがやるだろうさ」

 少し元気になったかと思ったら、なんなのコイツ!やっぱり、私は嫌いだ。何故かあの男の人(アラヤの事)に張り合うのも、私から見たら何もできないあなたが何言ってるの⁈って感じだし、何よりお礼すら言う気が無いらしいことに腹が立っている。

「あら、その食器はあの子のでしょ?貴女が洗うの?」

 食器洗い用の水桶に、リズが食器を運んでいると、アヤコさんと呼ばれていた女性も食器を持って来た。

「すみません、なんか気分悪いみたいで」

 何で私があんな奴をフォローしなきゃならないの?と思いつつも、彼女達に失礼だと考えて食器を洗いだす。

「そう?あの子からは、少し嫉妬に似た感情を感じるんだけどね。まぁ、家族を失った悲しみを忘れられるなら、アラヤ君に対する多少の不敬の念も、少しは目をつぶれるわ」

 その言葉にリズはドキリとする。彼女達には全て見透かされているのだ。ここは話を変えようと、リズは思い付きで質問した。

「…その、アラヤさんとは揉めたりはしないんですか?」

「揉める?何を?」

「その、…嫁さんが多いぞって」

「それは無いかな。彼は奥手でね、結婚も私ともう1人が無理に迫ってしてもらったの。他の2人と結婚する前には、私達とも何度も話をしてから決めてくれたし、今の人数に対しての不満や揉め事はあまり無いかな」

 今、計4人って言ってる気がするんですけど⁈後1人何処かに居るの?
 リズには、銀狼になっているクララが、その1人だとは当然だが分からなかった。

「明日にはオモカツタに着く予定ですので、早めに寝てくださいね」

 今日は他人が居るので、日課の訓練とシャワーは無しにした。なので、早めに寝て朝早くに出発する事にしよう。
 アラヤが、リズ達にブルパカの毛布を手渡して回ると、ヤンだけが何故か受け取ろうとしない。困ったアラヤは、クララを呼んだ。

「クララ、今日はこの子に添い寝してあげて?」

「ご主人様⁈」

「け、獣と寝ろって言うのかよ⁈」

 2人共、お互いを拒絶する。愚かだな、少年。クララのモフモフを知らないからそんな事を言えるのだ。

「クララのモフモフは、この高級毛布よりも保温力と触り心地が最高なんだけどなぁ?」

「や、ヤンが断るなら、私がお願いしたいんですけど!」

 リズがハイッと手を上げて意見する。その表情は好奇心で鼻息が荒くなっている。

「ば、バカ言うな!俺に持ち掛けた話なんだから、お前と替わるわけないだろ⁈」

 リズの態度で急に惜しくなった様で、ヤンはクララにしがみ付いた。瞬間、そのモフモフで顔が緩む。ほら、体験したら虜だろ?

「ヤン君、今回は特別だからね?もしも、クララを獣呼ばわりしたら、次は許さないからね?」

 最後に語尾を強めて忠告すると、ヤンは素直に頷いた。一方で悲しそうな表情でクララはアラヤを見ている。

「ごめん、今度埋め合わせするからさ?」

 アラヤは、クララの頭を優しく撫でながら機嫌をとる。すると、アヤコが自分の毛布を持ってやって来た。

「アラヤ君、大丈夫ですよ。今日は私も後ろで寝ますから」

「そう?じゃあ、よろしくね?」

 アヤコは、クララと一緒に後ろの馬車に乗り込んだ。アラヤ達の馬車と違い、8人で寝るには少々手狭である。
 クララが寝転んだ横に、ヤンが包まる様にして横になる。その体に、クララは優しく尻尾を乗せた。アラヤに頼まれたから、これは仕方なくである。
 その後ろで、リズとアントンが足をちょこんとクララに触れている。
 アヤコはそんなリズの横に座ると、話を切り出した。

「リズちゃん、ちょっと聞きたいんだけど、魔物達が来る前の数日で、ポッカ村で何かなかったかしら?」

「う~ん、どうだったかな…」

「お姉ちゃん。ほら、雪が降る前の日にさ、村の中央に慌ただしく馬車が来たことがあったよ?」

「ああ、あったわね。大人達が血相変えて薬草だの何だのと叫んでたわ」

「怪我人かしら?」

「分かりません。私達は近寄れなかったので」

「ああ、それは確かに怪我人だったの。かなりの大怪我でのぅ、有りったけの薬草で応急処置をして、オモカツタへと急がせたんじゃ」

「そうなんですか。助かってると良いですね」

 老人の1人が見ていたらしく詳細を教えてくれた。少し考えた後、アヤコはアラヤに念話を送る。
『…その怪我人はオモカツタに向かったらしいのですが、魔物達がポッカ村や関所を狙った理由は、ひょっとしたらその誰かを追っていた可能性があります』

『その怪我人にトドメ、または復讐か…。確かにその可能性が高いかもね。後は直接街で確かめるしかないかも』

『そうですね。ではまた明日調べましょう。おやすみなさい』

『うん、ありがとう。おやすみ』

 アラヤは、いつも先に情報を集めてくれるアヤコに感謝して、ゆっくりと眠りについた。


       ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇


 屋根から突き出た煙突から、白い煙があちこちで立ち昇っている。その上空を、闇に紛れて滑空している影があった。
 その影は、薄っすらと結界が張られた建物の手前で止まると、煙突の後ろに身を隠す。

「見つけたわ。私の方が早かった様ね」

 雲の切れ間からの月明かりが、途切れ途切れに街を照らす。その1つがその影も照らし出した。
 薄紫の肌に、赤い瞳孔の瞳。肩から露出した背中には、黒い蝙蝠に似た羽がある。
 胸や腰元には薄い布を巻いただけの衣装で、女性の曲線を強調している。
 ただ、彼女の片脚にはぐるりと巻き付くマダラ模様の蛇がいて、紫の舌をチョロチョロと出しながら辺りを警戒している。
 彼女は小さな水晶玉を取り出すと、片手で撫でる様にして魔力を注ぎ込む。

「エルンスト、どうしたの?返事を返しなさい」

 交信用の魔道具である水晶玉には、相手から全く反応が返ってこない。

「せっかく、奴を見つけたというのに、奴の血の香りが向こう側の方が強かったのかしら?」

 それから幾度か試してみるも、やはり反応は返ってこない。これは距離が離れ過ぎたか、水晶玉が壊れたかだろう。

「エルンストの事だ、香りを辿り過ぎてデピッケルまで向かったのかもしれないわね」

 彼女は水晶玉を片付けると、再び対象のいる建物を監視する。

「奴はまだ深傷を負っているままの筈。狙うなら今だというのに。こうなれば、私が代わりに首を取るしかないね」

 彼女の足元の影から、モコモコとスケルトンやゴースト、羅刹鳥達が這い出てくる。
 そう、彼女はサキュパス程度の低級な魔物ではなかった。
 一般的に知られているのは、眷族召喚ができるのは、上級死霊の可能性が高いという事である。
 眷族達を、真っ先に対象がいる建物にはやらず、周りにある住宅地を襲うように指示する。対象を守る戦力を、周りに分散させる為だ。
 アンデッドに襲われた住民達の悲鳴が上がり、案の定、建物内から対象を守護していた者達が外へと走り出して行く。

「さぁ、出てこい、ウィリアム=ジャッジ!我等が王の恨みを、今この地で味合わせてやろう!」

 彼女は建物の簡易結界を破壊して、復讐の始まりの合図だと言わんばかりに、雷を街のあちこちにと落とすのだった。
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