上 下
109 / 418
第8章 何処へ行っても目立つ様だよ⁈

105話 シルバーレイス

しおりを挟む

 アラヤ達が、馬車の前に散らばる瓦礫等を退かしていると、体が動かせるまでに回復した守衛が壁に寄り掛かりながらやってきた。

「ちょっと君達!今から出るつもりか⁈今から夜になると、奴等が活発になるぞ⁉︎」

「いえ、流石に出発はしませんよ。ここで野営をする為の準備をしているんです」

「そこは雪も積もるし、外から丸見えだ。中に避難するべきだよ」

 狭い守衛室で一晩過ごすよりも、関所の通り口である通路の方が、広くていざという場合には戦い易い。

「大丈夫です。カオリさん、昨日と同じく屋根と壁を作ろう。ただ、出入り口だけは今回は鉱石化無しでね?」

「分かったわ」

 アラヤ達がアースクラウドで土壁を操作し始めると、守衛は驚いて尻餅をついた。

「あ、守衛さんも、中へ入ってください。離れると守り難いので。アヤコさん、クララと一緒にもう1人の守衛さんを連れて来てくれる?」

「「分かりました」」

 少年がそう言うと、シルバーファングと変わった衣装の女性が、仲間が居る守衛室へと走って行った。

「君達は、一体何者なんだ…⁈」

「ああ、ただの商人とその家族ですよ」

 少年はそう言いながら、土壁を硬い鉱石に変えて、通路に大きな部屋を作ってしまった。
 部屋の四隅付近には、火とは違う灯りのランタンを設置して部屋全体を明るくし、中央には焚火を起こして料理を作る段取りまで始めている。

「俺は夢でも見て…いや、既に死んでしまったのか?」

「ちゃんと生きてますよ。そんな所に居ないで、焚火で温まってください」

 先程の女性とシルバーファングが、背に仲間を乗せて後ろから来ていた。

「ただの商人とその家族が、こんな事できる訳無いだろー⁈」

 突然出来た頑丈な部屋に、箱型シャワー、馬車には綺麗なトイレまである。調理を始めた女性も、見た事の無い火の出る道具(魔鉱石コンロ)を使い、たまに魔法を使用している。
 護衛はツッコミを入れずにはいられなかったのだ。

「ご馳走様でした。美味しかった…」

 最初はアラヤ達を疑っていたのに、食事を終えると、2人の守衛は涙を浮かべて感動していた。うん、サナエの料理は最高だもんね。

「まさか、家族全員が魔法を使えるとは、魔術士の家系か何かか?」

「まぁ、そんなところです」

「何よりも驚きなのは、少年がの夫という事だな。見た目は村の子供と変わらないぞ」

『クララ、大人しくね』

 自分も嫁だと、変身をしようとしたクララの背中を撫でて落ち着かせる。今変身したら、裸の姿だという事を忘れているようだね。

「守衛さん、我々の事より、今は気にする事があるでしょう?」

「あ、ああ、そうだな。先ずは、倒れた仲間の埋葬をしてくれてありがとう。助けてくれた事も含め感謝する。…道先に居るシルバーレイスをどうにかしないと、これより先には進めないのだが、君達は何処を目指しているのかな?」

「ポッカ村を経由して、オモカツタの街に向かう予定です」

「そうか。なら、香辛料を求めての行商といったところだな。しかし、レイスはポッカ村の方角からやって来た。ひょっとしたら、村で何かあったかもしれないな」

「レイスって、どんな特徴なんですか?」

「レイスというのは、元が魔術士でアンデッド化した魔物の1つだよ。肉体があればリッチという死霊系だが、レイスは肉体の無い生霊系だ。どちらも生前の記憶があり、魔法が使えるから厄介だ。肉体があれば、ゾンビやスケルトンみたいに物理攻撃が有効なんだが、レイスには物理攻撃は一切効かない。魔法による攻撃しか効かないんだ。我々の魔法が使えた仲間は、一番に狙われてやられてしまった」

「朝になれば消えるのでは?」

「どうかな。昨日から雪雲に日が遮られて、直射日光は出ていない。何より、生前の記憶があると言っただろう?日光が出そうであれば、奴は闇に潜んでいるに違いない」

 となると魔法攻撃による撃退か。アラヤ達皆んなは、全員魔法を使えるし、いざとなったら魔鉱石もある。

「それなら、ここにいる間はライトで明るいので安全ですね?」

「いや、安全とは言い切れない。ライトは奴等には効果が弱いし、何しろ元は魔術士の成れの果てだ。魔法によるこ…」

ドォゥン‼︎

 何者かが、鉱石化した壁に攻撃を仕掛けている。魔導感知には複数の反応があるが、熱感知には反応が無い。つまり、全員がアンデッド系である。

「カオリさんとサナエさんは、俺と一緒に外に出ようか。アヤコさんとクララは彼等の護衛を頼むね?」

「「分かりました」」

 アラヤは、出入り口の土壁を開けて外へと出た。既に外は真っ暗な夜である。アラヤと今のカオリは暗視眼があるので問題無い。サナエは、ライトの魔鉱石をチャクラムに入れて身の周りを照らし出す。スケルトンが数体、武器を引きずりながら歩いているのが見えた。

「先に壁の強度を上げとくか」

 アラヤは、素早く魔力粘糸を壁全体に飛ばして魔法対策を済ませる。

「サナエさん、鎮魂の舞の出番だよ?周りにライトを飛ばすから、好きに踊っちゃって」

「うん、やってみるわ」

 彼女はスケルトン達の群れに飛び込んで、光るチャクラムを構えた。

「不浄なる天へと還れ、鎮魂の舞!」

 ゆっくりと、かつ滑らかな弧を描く様に腕を振るい、その光る軌道は流れる様にスケルトン達の間を擦り抜けていく。チャクラムがスケルトンに触れてはいないのに、スケルトン達はカタカタと骨を震わせ、粉状に崩れ始めた。

「てっきり、骨ごと成仏して消えるかと思ってたよ」

「まぁ、実際はそんなもんでしょ。それで、私達はどうするの?」

「スケルトンはサナエさんに任せて、俺達はレイスを退治しようかな。カオリさん、仮死状態デスタイムは大丈夫?」

「うん、もう少しなら持ちそうね」

「なら、急ぐとしよう。どうせ食べれない相手だからね」

 2人は魔導感知の反応が強い場所に向かう。そこには、魔術士のローブを着た下半身が無い男が居た。確かに足さえあれば、見た目は普通の魔術士だな。

「なんだ貴様等は!我の邪魔をすると…」

「はい、消えてね~。フレイムフォール!」

 カオリは話を聞かないで、そのまま焼却にかかる。

「ぬぉっ⁉︎何をする⁉︎我の話を…ぶへっ⁈」

 アラヤがバブルショットをレイスの顔面に当てた。肉体は無くとも、やはり魔法ならば当たるようだ。

「あ、その泡には誘爆性付与してあるから」

「この馬鹿者共がぁぁっ‼︎」

 シルバーレイスは上空へと浮かび上がり、謎の球体で自分を囲った。試しにエアカッターで攻撃してみると、球体に弾かれてしまう。

「無駄だ。これは強力な魔法障壁。中級如きの魔法では打ち砕く事は叶わん!」

「なるほど。じゃあ、これで」

 アラヤは魔力粘糸の網を飛ばして、球体ごと包み込む。すると、魔力粘糸にゆっくりと球体は吸収されていく。

「な、何だと⁉︎」

 アラヤはそのまま、レイスを網で拘束して引きずり下ろした。そこへカオリさんが待ってましたと魔法を唱える。

「溶けて成仏しちゃいなさい、アッシドミスト!」

「ぐぎゃぁぁぁぁっ‼︎わ、我を…!おの…れ、彼奴めを…!」

 アッシドミストは、魔力粘糸ごとシルバーレイスを溶かしていった。
 レイスには悪いが、何か言いたいことがあった様だけど、わざわざ親切に聞いてあげる程2人は優しくはなかったのだ。

「こっちも終わったよ~」

 サナエさんも完勝したらしく、初アンデッド戦は圧勝で幕を閉じた。その事を守衛さん達に話したら、驚いて気を失ってしまった。
 彼等は、そのままそこで布団を掛けて寝てもらったよ。それにしても、人を化け物を見る様にして気絶しなくてもいいよね?ちょっと失礼だと思うよ?
しおりを挟む
感想 166

あなたにおすすめの小説

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

元英雄 これからは命大事にでいきます

銀塊 メウ
ファンタジー
異世界グリーンプラネットでの 魔王との激しい死闘を 終え元の世界に帰還した英雄 八雲  多くの死闘で疲弊したことで、 これからは『命大事に』を心に決め、 落ち着いた生活をしようと思う。  こちらの世界にも妖魔と言う 化物が現れなんだかんだで 戦う羽目に………寿命を削り闘う八雲、 とうとう寿命が一桁にどうするのよ〜  八雲は寿命を伸ばすために再び 異世界へ戻る。そして、そこでは 新たな闘いが始まっていた。 八雲は運命の時の流れに翻弄され 苦悩しながらも魔王を超えた 存在と対峙する。 この話は心優しき青年が、神からのギフト 『ライフ』を使ってお助けする話です。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

処理中です...