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第6章 味方は選べと言われたよ⁈
086話 奪われたスキル
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「技能が全て消えたですって⁈」
件の後、宿に戻ったアラヤ達は、カオリから意見を聞こうと事のあらましを説明していた。
彼女が思わず大きな声で叫んでしまったが、部屋にはあらかじめジャミングで防音対策をしてあるので大丈夫だ。
「一つも残ってないの?」
「ああ、全て消えてるんだ。鑑定すると、職種はそのままに技能だけが何も無い。状態も正常(今は落胆と表示)で、技能禁止みたいな呪いでもないみたい。どう考えても郷田の仕業だと思うんだけど、その手口が全く分からない。カオリさんが知っている郷田の情報を教えてくれないかな?」
「私が知ってる情報って事は、教団に匿われていた時の情報ね。…郷田は強欲の魔王に選ばれてから、初めはグルケニア帝国に居た筈だけど、着いて早々に忠義と寛容の勇者二人に襲撃されて、ラエテマ王国に逃げて来たって聞いてたけど。残念だけど技能については聞いてないわ」
「でも、勇者二人から狙われて、普通逃げきれるものなのかな?だって勇者は、アラヤみたいな人間辞めたような奴なんでしょう?」
何気に酷いこと言うねサナエさん。まだ人間を辞めた覚えは無いんだけど。
でも確かに、一か月も前に召喚された勇者達なら、来たばかりの魔王1人など簡単に捕縛できそうなものだ。
「確かにおかしいね。ひょっとしたら郷田が流した嘘の情報だったのかもしれないな。後は商会内での郷田の情報だけど、今ソーリンとクララにヴェストリ商会の従業員と接触してもらっているところだよ。そろそろ帰ってくる頃だと思うけど」
「彼に魔王の事話して大丈夫なの?」
「大丈夫、ソーリンとクララにも、俺が魔王だということを打ち明けてから、協力してもらったから」
「打ち明けたの?クララは大丈夫だと思ってたけど、ガルムさんの息子さんも信用できる子なのね。驚いてたんじゃない?」
「いや~そうでもなかったんだよね」
アラヤは二人に説明した時のことを思い出した。
「あ~、そういうことですか。納得です」
「ご主人様、らしい」
「えっ?それだけ?」
二人の反応は至って冷静で、怖がられると考えていたアラヤの方が戸惑ってしまった。
「規格外なアラヤさんなら、そうだと言われても違和感無いです。だから納得なんです」
「ご主人様、今更ですよ」
「…まぁ、いいけど。それなら、ヴェストリ商会のゴウダという人間が魔王という点で、従業員から奴の情報を探って欲しいんだ」
「分かりました。共通の卸先から探りを入れて調べてきます。アヤコさんの為に私達も何かしてあげたいですから…」
ベッドで泣き疲れて寝てしまったアヤコさんを見て、ソーリンとクララは強く頷き宿を出て行った。
それからカオリを亜空間から出して、彼女が起きる時間に2時間かかって今に至る。
思った通り、魔導感知に反応が現れ、二人が帰って来たのが分かる。
「ただいま戻りました!」
「うん、お帰り。とりあえず座ろうか」
急いで帰って来たらしく、ソーリンは肩で息をしている。早く知らせたいという気持ちが彼を急がせたのだろう。
「ヨウジ=ゴウダの情報を集めて来ました。情報の出所は、幹部や社長の部下だった者達です。そこで分かったのは、今のヴェストリ商会のトップはヨウジ=ゴウダであり、社長のヴェストリは表だけの顔という事です。ヨウジ=ゴウダは、二カ月前に大罪教団経由でヴェストリ商会に入社しています。それからは瞬く間に幹部へと上り詰め、社長ですらも逆らえない存在になっています。ゴウダに逆らえなくなった者達に理由を尋ねると、強さが化け物みたいだという点以外に、逆らうと技能を奪われると答えました」
「やはり奪うタイプの特殊技能か…」
「やはりって、アラヤ、貴方まさか…」
彼女には、もはや隠していてもしょうがない。彼女もちゃんと味方でいてくれると信じて話そう。
「…そうだよ、俺の特殊技能も対象の技能を奪う事ができる。君の特殊技能は対象の全ての技能を借りるタイプだよね。多分、他の魔王にも似たような特殊技能があると思う。ただ、いろいろと条件があるよね?」
「条件…⁉︎」
カオリは聞かされた自身の発動条件を思い出し、顔を赤らめる。
「俺の場合は、対象の体の一部を食べる事で技能を奪える。相手の職種レベルが俺より上か同じならランダムで一つ。下なら、全ての技能を奪える」
「体を食べるの⁉︎」
「うん、生きたままね。魔物相手には既にやってきたよ」
カオリは口を押さえて身震いする。自分にはとても無理だ。絶対に食べるなんてできやしない。自身の特殊技能が、奪う程強力な技能でない理由が分かった気がした。
「だから、問題はゴウダの特殊技能の発動条件を知らないといけない」
「サナエさん、確か、直接には何もされて無いんだよね?」
「うん。ただ、アラヤにしたような勧誘の話をしただけ。そういえば、断る代わりにみたいな理由で、手帳を買わされてたわ」
「手帳?」
「これがその手帳です」
スッと横から手帳が差し出される。見上げると、まだ暗い表情のアヤコさんが立っていた。彼女は途中から既に起きていたようだ。
「鑑定で見ても、何の仕掛けもない高級な黒革の手帳だね」
「この手帳はゴウダが手掛けた商品と言ってました。しかし、この手帳が原因とは思えません。ヴェストリ商会の従業員達は、手帳を買わずにいれば、技能を奪われる事を怯えずに済むわけですから」
「確かにそうだわ。これは手帳という物ではなく、買わせた行為自体が関係してる気がするわね」
「あ、あと、ゴウダが所持している技能についても少し分かりました。言語理解や鑑定以外に、調教も持っているらしく、社長宅にデビルマンバという蛇の魔物を従魔として飼っているらしいです」
「そういえば、ゴウダが来る前にド派手な格好のドワーフがクララを見に来たわね。主人はアヤかと聞いてきたわ」
「ド派手なドワーフって、ひょっとしたらヴェストリ本人じゃないですか?」
「だとしたら、そこも含めて考えるべきね…」
皆んなは無言になって考える。アラヤには正直どういう条件か、皆目見当がつかない。クララの事は、ただ単に従獣として欲しかったのだろうけど、アヤコが主人でないと分かると引き上げている。
「これは一つの仮説なんだけど…」
カオリさんが、静まりかえった緊張を破ってゆっくりと話す。
「もし、調教はゴウダが初めから所持していた技能だとしたら、強欲王の職種には必要な技能の可能性があるわ。だとした場合、調教で起こり得る変化と言えば主従関係よね?」
「確かにその通りですね」
「そこで出てくるのが、俺の部下にならないか?という言葉よ。ゴウダが、アヤコさんやにいやを勧誘した事にも意味があるとしたら、それは主従関係に持ち込みたかった可能性が高い」
「それじゃあ、もしかして⁉︎」
アヤコさんは何か分かったっぽいけど、アラヤを含む残りの4人はまだ分からない。
「相手の技能を奪える条件は、対象と主従関係にある事なのかもしれない。自分が、主か従かの縛りが無いとしたらかなり厄介だわ」
「確かにそれなら、商会内の従業員は全て支配下ですね。でも、アヤコさんは部下にはなってませんよ?」
「そこでゴウダが取った行動が、手帳を売るという行為よ」
カオリさんは、謎は全て解けたと言わんばかりに、眼鏡をクイッと上げてキメ顔を見せる。
「アヤコさんが、手帳を買った事により、店員と客という一時的な主従関係が出来上がってしまったのよ。因みに、店員と客が対等ではなく、主従関係があると思っている日本人は多いのよ。ゴウダもアヤコさんも日本人。潜在的な意識内で、その関係が確立された可能性があるわ」
「確かに、仮説ではあるけれど、それなら辻褄が合うね!しかし、そうなると、対策はどうすれば良いの?」
「主従関係を作らない為には、一切、話に応じない事ね」
「問答、無用、叩く?」
「皆んな、ちょっと待って!皆んなが無理に戦う必要は無いと思うの。関わったら、皆んなまで技能を奪われる可能性があるんだもの!」
アヤコさんは、そうなってほしくないと叫ぶ。自分一人が、技能を何も持たないだけで済む話だと思っているようだ。
「俺は、やられっぱなしで納得できないよ?」
「アラヤ君…」
「例え、アイツが沢山の技能を持っていたとしても、ステータスが上だったとしても、俺はアイツを許さない!」
アラヤのその時の表情に、周りの全員が少なからずの恐怖を感じた。しかし、それ以上に、自分達も同じ気持ちであれと奮い立つ。
後は、どうやってゴウダに仕掛けるかだ。屋敷に忍び込んだり、街中で襲ってはただの犯罪者となってしまう。
アラヤ達は作戦を立てようと話し合いを始めた。
件の後、宿に戻ったアラヤ達は、カオリから意見を聞こうと事のあらましを説明していた。
彼女が思わず大きな声で叫んでしまったが、部屋にはあらかじめジャミングで防音対策をしてあるので大丈夫だ。
「一つも残ってないの?」
「ああ、全て消えてるんだ。鑑定すると、職種はそのままに技能だけが何も無い。状態も正常(今は落胆と表示)で、技能禁止みたいな呪いでもないみたい。どう考えても郷田の仕業だと思うんだけど、その手口が全く分からない。カオリさんが知っている郷田の情報を教えてくれないかな?」
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「でも、勇者二人から狙われて、普通逃げきれるものなのかな?だって勇者は、アラヤみたいな人間辞めたような奴なんでしょう?」
何気に酷いこと言うねサナエさん。まだ人間を辞めた覚えは無いんだけど。
でも確かに、一か月も前に召喚された勇者達なら、来たばかりの魔王1人など簡単に捕縛できそうなものだ。
「確かにおかしいね。ひょっとしたら郷田が流した嘘の情報だったのかもしれないな。後は商会内での郷田の情報だけど、今ソーリンとクララにヴェストリ商会の従業員と接触してもらっているところだよ。そろそろ帰ってくる頃だと思うけど」
「彼に魔王の事話して大丈夫なの?」
「大丈夫、ソーリンとクララにも、俺が魔王だということを打ち明けてから、協力してもらったから」
「打ち明けたの?クララは大丈夫だと思ってたけど、ガルムさんの息子さんも信用できる子なのね。驚いてたんじゃない?」
「いや~そうでもなかったんだよね」
アラヤは二人に説明した時のことを思い出した。
「あ~、そういうことですか。納得です」
「ご主人様、らしい」
「えっ?それだけ?」
二人の反応は至って冷静で、怖がられると考えていたアラヤの方が戸惑ってしまった。
「規格外なアラヤさんなら、そうだと言われても違和感無いです。だから納得なんです」
「ご主人様、今更ですよ」
「…まぁ、いいけど。それなら、ヴェストリ商会のゴウダという人間が魔王という点で、従業員から奴の情報を探って欲しいんだ」
「分かりました。共通の卸先から探りを入れて調べてきます。アヤコさんの為に私達も何かしてあげたいですから…」
ベッドで泣き疲れて寝てしまったアヤコさんを見て、ソーリンとクララは強く頷き宿を出て行った。
それからカオリを亜空間から出して、彼女が起きる時間に2時間かかって今に至る。
思った通り、魔導感知に反応が現れ、二人が帰って来たのが分かる。
「ただいま戻りました!」
「うん、お帰り。とりあえず座ろうか」
急いで帰って来たらしく、ソーリンは肩で息をしている。早く知らせたいという気持ちが彼を急がせたのだろう。
「ヨウジ=ゴウダの情報を集めて来ました。情報の出所は、幹部や社長の部下だった者達です。そこで分かったのは、今のヴェストリ商会のトップはヨウジ=ゴウダであり、社長のヴェストリは表だけの顔という事です。ヨウジ=ゴウダは、二カ月前に大罪教団経由でヴェストリ商会に入社しています。それからは瞬く間に幹部へと上り詰め、社長ですらも逆らえない存在になっています。ゴウダに逆らえなくなった者達に理由を尋ねると、強さが化け物みたいだという点以外に、逆らうと技能を奪われると答えました」
「やはり奪うタイプの特殊技能か…」
「やはりって、アラヤ、貴方まさか…」
彼女には、もはや隠していてもしょうがない。彼女もちゃんと味方でいてくれると信じて話そう。
「…そうだよ、俺の特殊技能も対象の技能を奪う事ができる。君の特殊技能は対象の全ての技能を借りるタイプだよね。多分、他の魔王にも似たような特殊技能があると思う。ただ、いろいろと条件があるよね?」
「条件…⁉︎」
カオリは聞かされた自身の発動条件を思い出し、顔を赤らめる。
「俺の場合は、対象の体の一部を食べる事で技能を奪える。相手の職種レベルが俺より上か同じならランダムで一つ。下なら、全ての技能を奪える」
「体を食べるの⁉︎」
「うん、生きたままね。魔物相手には既にやってきたよ」
カオリは口を押さえて身震いする。自分にはとても無理だ。絶対に食べるなんてできやしない。自身の特殊技能が、奪う程強力な技能でない理由が分かった気がした。
「だから、問題はゴウダの特殊技能の発動条件を知らないといけない」
「サナエさん、確か、直接には何もされて無いんだよね?」
「うん。ただ、アラヤにしたような勧誘の話をしただけ。そういえば、断る代わりにみたいな理由で、手帳を買わされてたわ」
「手帳?」
「これがその手帳です」
スッと横から手帳が差し出される。見上げると、まだ暗い表情のアヤコさんが立っていた。彼女は途中から既に起きていたようだ。
「鑑定で見ても、何の仕掛けもない高級な黒革の手帳だね」
「この手帳はゴウダが手掛けた商品と言ってました。しかし、この手帳が原因とは思えません。ヴェストリ商会の従業員達は、手帳を買わずにいれば、技能を奪われる事を怯えずに済むわけですから」
「確かにそうだわ。これは手帳という物ではなく、買わせた行為自体が関係してる気がするわね」
「あ、あと、ゴウダが所持している技能についても少し分かりました。言語理解や鑑定以外に、調教も持っているらしく、社長宅にデビルマンバという蛇の魔物を従魔として飼っているらしいです」
「そういえば、ゴウダが来る前にド派手な格好のドワーフがクララを見に来たわね。主人はアヤかと聞いてきたわ」
「ド派手なドワーフって、ひょっとしたらヴェストリ本人じゃないですか?」
「だとしたら、そこも含めて考えるべきね…」
皆んなは無言になって考える。アラヤには正直どういう条件か、皆目見当がつかない。クララの事は、ただ単に従獣として欲しかったのだろうけど、アヤコが主人でないと分かると引き上げている。
「これは一つの仮説なんだけど…」
カオリさんが、静まりかえった緊張を破ってゆっくりと話す。
「もし、調教はゴウダが初めから所持していた技能だとしたら、強欲王の職種には必要な技能の可能性があるわ。だとした場合、調教で起こり得る変化と言えば主従関係よね?」
「確かにその通りですね」
「そこで出てくるのが、俺の部下にならないか?という言葉よ。ゴウダが、アヤコさんやにいやを勧誘した事にも意味があるとしたら、それは主従関係に持ち込みたかった可能性が高い」
「それじゃあ、もしかして⁉︎」
アヤコさんは何か分かったっぽいけど、アラヤを含む残りの4人はまだ分からない。
「相手の技能を奪える条件は、対象と主従関係にある事なのかもしれない。自分が、主か従かの縛りが無いとしたらかなり厄介だわ」
「確かにそれなら、商会内の従業員は全て支配下ですね。でも、アヤコさんは部下にはなってませんよ?」
「そこでゴウダが取った行動が、手帳を売るという行為よ」
カオリさんは、謎は全て解けたと言わんばかりに、眼鏡をクイッと上げてキメ顔を見せる。
「アヤコさんが、手帳を買った事により、店員と客という一時的な主従関係が出来上がってしまったのよ。因みに、店員と客が対等ではなく、主従関係があると思っている日本人は多いのよ。ゴウダもアヤコさんも日本人。潜在的な意識内で、その関係が確立された可能性があるわ」
「確かに、仮説ではあるけれど、それなら辻褄が合うね!しかし、そうなると、対策はどうすれば良いの?」
「主従関係を作らない為には、一切、話に応じない事ね」
「問答、無用、叩く?」
「皆んな、ちょっと待って!皆んなが無理に戦う必要は無いと思うの。関わったら、皆んなまで技能を奪われる可能性があるんだもの!」
アヤコさんは、そうなってほしくないと叫ぶ。自分一人が、技能を何も持たないだけで済む話だと思っているようだ。
「俺は、やられっぱなしで納得できないよ?」
「アラヤ君…」
「例え、アイツが沢山の技能を持っていたとしても、ステータスが上だったとしても、俺はアイツを許さない!」
アラヤのその時の表情に、周りの全員が少なからずの恐怖を感じた。しかし、それ以上に、自分達も同じ気持ちであれと奮い立つ。
後は、どうやってゴウダに仕掛けるかだ。屋敷に忍び込んだり、街中で襲ってはただの犯罪者となってしまう。
アラヤ達は作戦を立てようと話し合いを始めた。
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