上 下
81 / 418
第6章 味方は選べと言われたよ⁈

077話 王城脱出計画?

しおりを挟む
「エドガーさん、カオリさんが城内から出る場合に、障害になるものは何ですか?」

    アラヤの問いに対し、エドガーはあまり答えたく無い表情だったが、ミネルバ王女が頷いたので渋々答える。

「城門や城壁には、気配感知ができる兵士が交代制で勤務していて、侵入や外出は直ぐに感知される。ネズミ一匹でも見逃さないだろう。もちろん、強行突破は可能だが、罪人として追われる事になるな。日中開かれている城門には、鑑定士も待機している。物に潜んでも見破られるぞ」

「気配感知と鑑定の目から逃げなきゃいけないのか…」

    しばらく考えたアラヤは、そこで一つの案を思いついた。

「とりあえず、カオリさんは仮死状態になる必要があるね」

「えっ?どういう事?」

「気配感知を切り抜ける為には、隠密の上級熟練者か、生体反応が無いかだからね。仮死状態になったカオリさんなら、気配感知を擦り抜けられるって事だよ」

    この場合、彼女の仮死状態は本当に死んでいる状態なんだけどね。

「でも、どうやって移動するの?」

「もちろん、俺達が運び出すよ。方法も大丈夫だよ。問題は、カオリさんが次の仮死状態になる時間だよ」

    移動方法は、亜空間収納に入れるんだよとは流石に言えない。亜空間収納内には、生体反応がある物は収納できない。だが、仮死状態ならば大丈夫なのだ。(以前アヤコさん提案で、アイスで凍らせたホーンラビットを使って実験済み)

「今日は起きてから今で二時間くらいね。だとしたら、後、一、二時間は起きていると思うわよ」

「二時間…流石にそこまで長居はできない。ヘイストで時間は縮まる?」

    カオリは首を横に振る。試した事はあるようだ。しかし、そうなると待つしかなくなる。

「とりあえず、一度身を隠してその時が来るまで待っててもらうしか無いね」

「自分が死ぬのを待つなんて最悪だわ。でも分かったわ。その時まで霊廟に隠れてる。時間が来たら、必ず迎えに来てよ?」

    カオリは、アラヤを指差して念を押してからバルコニーからさっと姿を消した。
    
「ミネルバ様、王妃様の反応が近付いて来ております」

    マーレットも気配感知持ちらしく、逸早くミネルバに報告する。

「ジャミングを解きますね」

    アラヤは扉に掛けていたジャミングを解除した。途端に扉をノックする音が聞こえる。

「ミネルバ王女様、ジョアンヌ王妃様がお越しになられました」

「お通しして」

    アラヤ達も席を立ち、壁側へと身を下げてから頭を下げ、王妃が入室するのを待った。

「ミネルバ、御客人を呼ぶ事は構いませんが、素性がしっかりとした者達なのでしょうね?妙な噂の立つ様な者を招き入れてはなりませんよ?」

   金髪で長い縦巻きロールの王妃が、ゆっくりとした歩調で入って来た。本当にこんな髪型をする人居るんだね。初めて見たよ。

「はい、お母様。この方達の素性は事前に調べた上で、問題無いと宰相から許可を頂いております」

「そうですか。ならばこれ以上は問いません。しかし、あまり長居をさせてはいけませんよ?」

「はい」

    悲しそうに俯いてしまう王女。王妃は小さくため息をつくと、頭を下げているアラヤ達を一瞥する。

「少し、話を聞いてみましょうか。貴女が、彼等にどの様な興味を持ったのか、知りたくなりました」

「お母様?」

「後で中庭に御招待なさい」

    そう言うと、王妃は部屋から出て行った。緊張から解放されたアラヤ達が、ミネルバ王女を見ると、王女も同じように緊張していた様だと分かった。

「とにかく、後で中庭に向かわなければなりません。それまでは少し休みましょう」

    土産として持参していた高級葡萄水を取り出して、皆で緊張で渇いた喉を潤した。王妃に呼ばれた事により、もうしばらくは城内に待機できる。なるべく時間を稼ぎ、カオリが仮死状態になるのを待たなければ。

「そろそろ参りましょうか」

   王宮から中庭へと移動すると、中庭にあるテラスには既に王妃が座っており、その後ろには宰相と護衛の兵達が立っている。

「どうぞ、こちらに」

   執事に案内されて、用意されていた椅子に座る。王女達女性陣は王妃側に座り、アラヤとガルムは離された。

「今から女子だけで会話をする故、アラヤという其方は、盗賊を退治したという実力を、私の護衛兵達に教えてやってくれまいか?」

    うん。来てる護衛兵、皆んな目がギラギラしてたから、嫌な予感はしてたんだよね。

「…承知致しました」

   どうせ断れないのだから、素直に受けるしかない。せっかくだから、なるべく時間をかけて相手をしよう。

「ま…参りました!」

     8人目の護衛兵の腕を決めて、挑んできた全ての護衛を倒した事になる。時間も大分稼げた。そろそろ迎えに行っても良いだろう。

「驚いたわ。私達の護衛が全く敵わないなんてね。ミネルバと年の差が無いような見た目ですのに、その実は歴戦の猛者の様でしたよ」

    そう評価してくれるのも、バルガスさんに剣の指導を受けたおかげかもしれないな。しっかりと心の余裕もあったし、相手の動きも読みやすかった。

「勿体ないお言葉、ありがとうございます」

「ミネルバが止めなければ、是非とも王宮に仕えて欲しかったわ。でも仕方ないですわね。楽しませて頂いた御礼に、何か差し上げましょう。何か望む物がありますか?」

「誠に僭越ながら、許可して頂きたき事が。それは、ミネルバ王女との文通の許可を得とうございます」

「文通?これは何とも可愛らしい願いですわね。良いでしょう、貴方からのミネルバへの便箋には、審査を受けずとも通す様に許可しましょう。ミネルバの良き友となって下さいね」

「はっ、有難き幸せでございます」

    アラヤは、王女にカオリの様子を伝える連絡手段として必要だと考えたのだ。

「それでは、ミネルバ様。そろそろ、お暇させて頂きますね?」

    ミネルバ王女に、それとなく時間が経った事を伝える。王女も、マーレットにアイコンタクトを送ると、彼女は辺りに見つからないようにその場から離れた。

「お母様、皆様を見送りして参ります」

    ミネルバ王女も立ち、アラヤ達と共に席を離れる。護衛兵のリッセンはしっかりと付いて来ている。どうにかして、この場から霊廟に向かいたい。
    すると、先回りしていたマーレットが、通路の隅で待機していた。表情からして、彼女は無事仮死状態だったと見える。無事という表現はおかしいかもしれないが。
    彼女のすぐ横には木箱が三つ並べてあり、おそらく中にカオリが仮死状態で入っているに違いない。

「ガルム様、こちらは王家の廃棄する予定の衣類等でございます。ミネルバ様が不要なので、もし宜しければ差し上げますとの事です」

「なっ⁈まさかミネルバ王女のっ⁈」

    リッセンが異様な反応をして、箱を触ろうとする。その手をマーレットが素早く叩いた。まぁ、当然の反応だよね。

「リッセン、其方は何を考えているの?私からの贈答品に手を触れようなどとするとは…」

「あ、いえ、決して取ろうなどと考え…」

   リッセンが王女に言い訳している隙に、アラヤは木箱に近付き、中身だけを亜空間収納へと飛ばす。亜空間収納リストに、女性の遺体が明記された。直ぐに代わりの衣類を木箱に入れた。

「有難く頂きます」

「私は彼等を城外まで送ります」

    案の定、リッセンは付いてくるようだ。ガルムとアラヤは、木箱を担いで馬車へと乗せる。
   そして城門入り口に向かうと、予想通り鑑定士の姿に気付いた。荷物の蓋を開けて、一つ一つ鑑定していく。いわゆる荷物検査みたいなものだ。鑑定士の後ろでリッセンが鼻息荒く木箱を確認している。
    蓋が開けられ、中身が王女の服じゃないと知ると、どうやら安心したようだ。
    彼は満足した様子でアラヤ達の出発を許可した。

「上手くいったな!」

    城門を無事通過して、アラヤ達は王都の宿舎へと辿り着いた。
    そこで亜空間収納から彼女を取り出す。   
    予定通り、彼女は死んでいるわけだが、再び生き返るまでは全く安心できない。亜空間内では時間が経過していないので、今から5時間は目を覚まさないのだ。

「本当に目覚めるんですよね?」

    皆の不安は当然だった。ただ待つだけの時間が続き、5時間が経過した。

「う、うーん…」

    段々と肌の血色が戻り、彼女はただ眠りから覚めたように生き返った。

「良かった!本当に起きるのか凄い不安になったよ」

「フフフ、王女やマーレットも毎回、そんな顔をしていたわ」

    アラヤ達は、長い不安が終わりやっと本当に安心できたのだった。
しおりを挟む
感想 166

あなたにおすすめの小説

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

おじさんが異世界転移してしまった。

月見ひろっさん
ファンタジー
ひょんな事からゲーム異世界に転移してしまったおじさん、はたして、無事に帰還できるのだろうか? モンスターが蔓延る異世界で、様々な出会いと別れを経験し、おじさんはまた一つ、歳を重ねる。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!

町島航太
ファンタジー
 ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。  ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

処理中です...