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第6章 味方は選べと言われたよ⁈
076話 死の呪い
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雨に濡れた石畳に、そのまま倒れ込む女性。その拍子に、掛けていた眼鏡にヒビが入るが、彼女がそれを気に留める事はない。
「死んだか…」
寛容の勇者ユートプスは、彼女の頚動脈に触れていた手を離し、詰まらなそうに溜め息をついた。
「攻撃魔法で抗う事すら無く、自身の犯してきた罪だけで死んだみたいだなぁ。全く罪の無い人間なら、俺の受罪寛容は無意味なんだけどね。魔王とはやはり悪の者達からなる者なのかね?」
「モア様、早く遺体を回収しましょう」
片腕の切り傷を抑えながら、彼の配下である『足』と呼ばれる男が近付いてきた。近くにある胸に穴が開けられた遺体を担ぐ準備を始める為だ。
「おい、『目』は居るか?」
「はっ!」
ユートプスの呼びかけに、他の配下が直ぐに姿を現わす。近くに待機していたようだ。
「彼女は間違いなく魔王だったんだよな?」
「はい、ジャミングで偽のステータスが貼られていますが、情報通り元は鑑定に反応が無い者でした」
「ん、そうか。あまりにも弱かったのでな。一般市民だったなんてオチじゃないかと不安になった」
「寛容勇者様に比べれば、魔王達などその辺のゴブリンと同じでしょう。その御姿と技能であれば、魔法が効かない上にそのダメージを倍にして返すわけですから。正に無敵の勇者でございます」
「しかし、多少の熱が出たな。魔法ダメージ軽減量をまだ増やすように、教会に頼んどいてくれ」
「はっ!」
「よし、じゃあ、撤収しよ…」
「貴方達‼︎そこで何をしているのです⁉︎」
どうするの?と冷たい目でユートプスに見られ、『足』は震え上がる。傷の痛みで、侵入防止の妨害魔法が解けて、人々がこの場に入って来てしまったのだ。
「ゆ、ユートプス様!ミネルバ第3王女です!」
護衛を連れた少女が駆け寄ってくる。少女の視線の先には、倒れている女性の遺体がある。
「この、この方は、私の友人です。彼女をこんな目に合わせたのは、貴方達ですの?」
ミネルバ王女は、冷たくなったカオリの肌に触れながら尋ねる。その声のトーンは低いが力が籠っている。
「いえいえ、違いますよ。彼女を襲ったのはコイツらです。私どもは偶然、彼女が襲われている現場を見かけまして、撃退したのですが彼女は既に亡くなってしまったのですよ」
近くには、焼き焦げた土と、胸に穴の空いた男性の遺体。それらを一瞥した後、ミネルバ王女は立ち上がってユートプスと目を合わせる。
「彼女の遺体は、私が引き取らせて頂いても宜しくて?」
「ええ、構いませんよ」
「それでは。エドガー、彼女を馬車にお乗せして」
「はっ!」
王女達が馬車で立ち去った後、『足』が恐る恐るユートプスに尋ねる。
「遺体を渡しても、よろしかったので?」
「フン、死んでいた事には変わりはないだろ。教会側も文句は言わないさ」
ユートプスも帰ろうと立ち上がる。そこで軽い目眩が起こった。
「大丈夫ですか⁈」
「問題無い。さぁ、その遺体を回収しろ。さっさと帰るぞ」
きっとまたいつもの、寛容な態度でない時にやって来る、神による呪い(不安・苛立ち・頭痛)に違いない。ユートプスはそう考えて気に留める事無くその場を後にした。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「み、ミネルバ様‼︎」
王宮に着いた途端、エドガーが慌てた表情で駆けてきた。少し血の気が引いているように見える。
「どうしたの?」
「直ぐにいらして下さい!彼女が大変な事に⁉︎」
急かすエドガーに溜め息をつきつつも、王女は兵士用霊廟へと足を運んだ。
「これはどういう事⁈まさか生き返ったの?」
そこには、遺体として寝かされていた筈のカオリが、仲間の凄惨な最後を思い出し咽び泣いていた。
彼女が泣き止むまでしばらく待った後に、彼女がこの場に居る状況を説明する。
「つまり、私は確かに死んでいたのね?」
「ええ、私も確認したから間違いないわ」
カオリは少し考えると、納得したように頷いた。
「あの勇者にしてやったりね!」
「勇者?あの全身鎧の男が?」
「ええ、そうよ。寛容の勇者と名乗ってたわ。何が勇者よ、ただの人殺しじゃない!」
「待て!それでは、貴女はまさか⁈」
「ええ、魔王よ」
ミネルバ王女はやっぱりかと溜め息をつき、エドガーは頭を抱えて狼狽える。
「まぁこの際、王国は知らずに関わった事にしてしまいましょう」
2つの教団による、魔王と勇者の争い事には各国共に不干渉である事が決まっている。しかしそれは形だけで、二百年毎に繰り返す中で、彼等の強過ぎる力や知恵を利用しようとする者がほとんどであった。
しかし、ラエテマ王国では不干渉で行くべきだという考えを取っていたのだ。
「ところで、話を戻しますけど、先程貴女が言っていたしてやったりとは、どういう事ですの?」
「ああ、あの勇者はね、全ての魔法やダメージを受け入れて、追加でダメージを足して返せる特殊技能を持ってたのよ。そのくせに自分だけは鎧で魔法ダメージはほぼ無いの!チートな勇者だったわけよ」
「ちいと?」
「まぁ、狡い強さって事。私も殺されるってなった時に、どうせなら使っちゃえって考えたわけ」
「一体何を?」
「闇属性中級魔法の、呪殺魔法【デス】よ」
「呪殺魔法⁈そんな魔法は聞いた事がありません!」
「私もアームズから教わっただけだから、フレイア教内にだけ伝わる魔法かも。この魔法、即死魔法なんだけど、触れる程に近付く必要があるし、成功率は15%と低いの。だけど、寛容である勇者様は、全てを必ず一度受け止めてくれた。つまり、100%一度受けた筈なのよ」
「しかし、魔法効果を激減させる鎧で効かなかったのでは?現に平気そうでしたし」
「そう。だけどこの魔法はダメージではなく即死なの。全てを返されたのなら、私は生き返る事は無い筈。考えられるのは、勇者が兜を外していた事。10で完成する即死効果を、勇者にも2ほど分け与えてるかもしれないわ。流石、寛容の勇者の特殊技能よね?」
「だとしても、安心できないですわ。カオリ様、しばらくは私の元で療養してください。いろいろと聞きたい事もありますので」
こうして、カオリはミネルバ王女の庇護下に置かれたのだった。
その後に起こった仮死状態に対する解呪騒動や、再び始めた執筆活動により教団の上層部に生存がバレた事もあり、カオリは王都からの転居を考え出したのだ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「つまり、そういう理由で、クラスメイトが生きているのなら、私を匿って欲しいと暗号を書いたわけよ」
長々とこれまでの出来事を話したカオリに、アラヤは欠伸を見せてしてしまった。
「ちょっと!その態度はおかしくないかしら」
「ああ、ごめん。でも、言わせてもらっていいかな?その呪いは結局自分で掛けたものだし、完成していないから解呪しようが無いよね?」
「あ…」
解呪できないという事は、これから先も仮死状態になる日々が続くという事だ。
「やはり、今まで通り王宮で匿ってもらうしかありませんね」
「お待ちください、アラヤ殿!今の王宮、いえ、王都は大変危険なのです!何故なら今の王都には3人の勇者が集結しているのですから」
「さ、3人も⁉︎」
「アラヤ殿にも他人事では無いのですよ。ここは1つ、私に貸しを作るおつもりで、聞いていただけないでしょうか?」
確かに3人も勇者が居るなら、自分も逸早く王都から離れるべきだろう。しかし、彼女を連れて行くとなると、危険度が高くなる気がしてならない。
「ジャミングを使用している時点で、この王宮内にも危険な人物が居るのですか?」
「…はい。王宮内にはもちろん、フレイ美徳教の信者も居ますので。最近では、私の庇護下にある事が巷でも噂になっています。隠し場所を転々と移動しておりますが、限界に近い状態ですわ」
「ふむ。アラヤ君、力になってあげれないかね?私からもお願いするよ」
ガルムさんが頭を下げると、エドガーやマーレットも頭を深々と下げる。アラヤは、アヤコさんとサナエさんを見た。二人は仕方ないねと頷いた。
「分かりました。彼女は俺達が預かりましょう」
「にいや⁈」
カオリは、驚きと嬉しそうな表情でアラヤを見ている。先ずはその呼び方も変えて欲しいものだね。
「しかし、先ずはこの王宮からどうやって彼女を出すかを考えなければなりませんね」
帰る際に1人増えていたら、リッセンが怪しむに決まっている。何か手を考えなければ。
「死んだか…」
寛容の勇者ユートプスは、彼女の頚動脈に触れていた手を離し、詰まらなそうに溜め息をついた。
「攻撃魔法で抗う事すら無く、自身の犯してきた罪だけで死んだみたいだなぁ。全く罪の無い人間なら、俺の受罪寛容は無意味なんだけどね。魔王とはやはり悪の者達からなる者なのかね?」
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「彼女は間違いなく魔王だったんだよな?」
「はい、ジャミングで偽のステータスが貼られていますが、情報通り元は鑑定に反応が無い者でした」
「ん、そうか。あまりにも弱かったのでな。一般市民だったなんてオチじゃないかと不安になった」
「寛容勇者様に比べれば、魔王達などその辺のゴブリンと同じでしょう。その御姿と技能であれば、魔法が効かない上にそのダメージを倍にして返すわけですから。正に無敵の勇者でございます」
「しかし、多少の熱が出たな。魔法ダメージ軽減量をまだ増やすように、教会に頼んどいてくれ」
「はっ!」
「よし、じゃあ、撤収しよ…」
「貴方達‼︎そこで何をしているのです⁉︎」
どうするの?と冷たい目でユートプスに見られ、『足』は震え上がる。傷の痛みで、侵入防止の妨害魔法が解けて、人々がこの場に入って来てしまったのだ。
「ゆ、ユートプス様!ミネルバ第3王女です!」
護衛を連れた少女が駆け寄ってくる。少女の視線の先には、倒れている女性の遺体がある。
「この、この方は、私の友人です。彼女をこんな目に合わせたのは、貴方達ですの?」
ミネルバ王女は、冷たくなったカオリの肌に触れながら尋ねる。その声のトーンは低いが力が籠っている。
「いえいえ、違いますよ。彼女を襲ったのはコイツらです。私どもは偶然、彼女が襲われている現場を見かけまして、撃退したのですが彼女は既に亡くなってしまったのですよ」
近くには、焼き焦げた土と、胸に穴の空いた男性の遺体。それらを一瞥した後、ミネルバ王女は立ち上がってユートプスと目を合わせる。
「彼女の遺体は、私が引き取らせて頂いても宜しくて?」
「ええ、構いませんよ」
「それでは。エドガー、彼女を馬車にお乗せして」
「はっ!」
王女達が馬車で立ち去った後、『足』が恐る恐るユートプスに尋ねる。
「遺体を渡しても、よろしかったので?」
「フン、死んでいた事には変わりはないだろ。教会側も文句は言わないさ」
ユートプスも帰ろうと立ち上がる。そこで軽い目眩が起こった。
「大丈夫ですか⁈」
「問題無い。さぁ、その遺体を回収しろ。さっさと帰るぞ」
きっとまたいつもの、寛容な態度でない時にやって来る、神による呪い(不安・苛立ち・頭痛)に違いない。ユートプスはそう考えて気に留める事無くその場を後にした。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「み、ミネルバ様‼︎」
王宮に着いた途端、エドガーが慌てた表情で駆けてきた。少し血の気が引いているように見える。
「どうしたの?」
「直ぐにいらして下さい!彼女が大変な事に⁉︎」
急かすエドガーに溜め息をつきつつも、王女は兵士用霊廟へと足を運んだ。
「これはどういう事⁈まさか生き返ったの?」
そこには、遺体として寝かされていた筈のカオリが、仲間の凄惨な最後を思い出し咽び泣いていた。
彼女が泣き止むまでしばらく待った後に、彼女がこの場に居る状況を説明する。
「つまり、私は確かに死んでいたのね?」
「ええ、私も確認したから間違いないわ」
カオリは少し考えると、納得したように頷いた。
「あの勇者にしてやったりね!」
「勇者?あの全身鎧の男が?」
「ええ、そうよ。寛容の勇者と名乗ってたわ。何が勇者よ、ただの人殺しじゃない!」
「待て!それでは、貴女はまさか⁈」
「ええ、魔王よ」
ミネルバ王女はやっぱりかと溜め息をつき、エドガーは頭を抱えて狼狽える。
「まぁこの際、王国は知らずに関わった事にしてしまいましょう」
2つの教団による、魔王と勇者の争い事には各国共に不干渉である事が決まっている。しかしそれは形だけで、二百年毎に繰り返す中で、彼等の強過ぎる力や知恵を利用しようとする者がほとんどであった。
しかし、ラエテマ王国では不干渉で行くべきだという考えを取っていたのだ。
「ところで、話を戻しますけど、先程貴女が言っていたしてやったりとは、どういう事ですの?」
「ああ、あの勇者はね、全ての魔法やダメージを受け入れて、追加でダメージを足して返せる特殊技能を持ってたのよ。そのくせに自分だけは鎧で魔法ダメージはほぼ無いの!チートな勇者だったわけよ」
「ちいと?」
「まぁ、狡い強さって事。私も殺されるってなった時に、どうせなら使っちゃえって考えたわけ」
「一体何を?」
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「そう。だけどこの魔法はダメージではなく即死なの。全てを返されたのなら、私は生き返る事は無い筈。考えられるのは、勇者が兜を外していた事。10で完成する即死効果を、勇者にも2ほど分け与えてるかもしれないわ。流石、寛容の勇者の特殊技能よね?」
「だとしても、安心できないですわ。カオリ様、しばらくは私の元で療養してください。いろいろと聞きたい事もありますので」
こうして、カオリはミネルバ王女の庇護下に置かれたのだった。
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「ちょっと!その態度はおかしくないかしら」
「ああ、ごめん。でも、言わせてもらっていいかな?その呪いは結局自分で掛けたものだし、完成していないから解呪しようが無いよね?」
「あ…」
解呪できないという事は、これから先も仮死状態になる日々が続くという事だ。
「やはり、今まで通り王宮で匿ってもらうしかありませんね」
「お待ちください、アラヤ殿!今の王宮、いえ、王都は大変危険なのです!何故なら今の王都には3人の勇者が集結しているのですから」
「さ、3人も⁉︎」
「アラヤ殿にも他人事では無いのですよ。ここは1つ、私に貸しを作るおつもりで、聞いていただけないでしょうか?」
確かに3人も勇者が居るなら、自分も逸早く王都から離れるべきだろう。しかし、彼女を連れて行くとなると、危険度が高くなる気がしてならない。
「ジャミングを使用している時点で、この王宮内にも危険な人物が居るのですか?」
「…はい。王宮内にはもちろん、フレイ美徳教の信者も居ますので。最近では、私の庇護下にある事が巷でも噂になっています。隠し場所を転々と移動しておりますが、限界に近い状態ですわ」
「ふむ。アラヤ君、力になってあげれないかね?私からもお願いするよ」
ガルムさんが頭を下げると、エドガーやマーレットも頭を深々と下げる。アラヤは、アヤコさんとサナエさんを見た。二人は仕方ないねと頷いた。
「分かりました。彼女は俺達が預かりましょう」
「にいや⁈」
カオリは、驚きと嬉しそうな表情でアラヤを見ている。先ずはその呼び方も変えて欲しいものだね。
「しかし、先ずはこの王宮からどうやって彼女を出すかを考えなければなりませんね」
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