【完結】スキルが美味しいって知らなかったよ⁈

テルボン

文字の大きさ
上 下
80 / 418
第6章 味方は選べと言われたよ⁈

076話 死の呪い

しおりを挟む
    雨に濡れた石畳に、そのまま倒れ込む女性。その拍子に、掛けていた眼鏡にヒビが入るが、彼女がそれを気に留める事はない。

「死んだか…」

    寛容の勇者ユートプスは、彼女の頚動脈に触れていた手を離し、詰まらなそうに溜め息をついた。

「攻撃魔法で抗う事すら無く、自身の犯してきた罪だけで死んだみたいだなぁ。全く罪の無い人間なら、俺の受罪寛容は無意味なんだけどね。魔王とはやはり悪の者達からなる者なのかね?」

「モア様、早く遺体を回収しましょう」

    片腕の切り傷を抑えながら、彼の配下である『足』と呼ばれる男が近付いてきた。近くにある胸に穴が開けられた遺体を担ぐ準備を始める為だ。

「おい、『目』は居るか?」

「はっ!」

   ユートプスの呼びかけに、他の配下が直ぐに姿を現わす。近くに待機していたようだ。

「彼女は間違いなく魔王だったんだよな?」

「はい、ジャミングで偽のステータスが貼られていますが、情報通り元は鑑定に反応が無い者でした」

「ん、そうか。あまりにも弱かったのでな。一般市民だったなんてオチじゃないかと不安になった」

「寛容勇者様に比べれば、魔王達などその辺のゴブリンと同じでしょう。その御姿と技能であれば、魔法が効かない上にそのダメージを倍にして返すわけですから。正に無敵の勇者でございます」

「しかし、多少の熱が出たな。魔法ダメージ軽減量をまだ増やすように、教会に頼んどいてくれ」

「はっ!」

「よし、じゃあ、撤収しよ…」

「貴方達‼︎そこで何をしているのです⁉︎」

   どうするの?と冷たい目でユートプスに見られ、『足』は震え上がる。傷の痛みで、侵入防止の妨害魔法が解けて、人々がこの場に入って来てしまったのだ。

「ゆ、ユートプス様!ミネルバ第3王女です!」

    護衛を連れた少女が駆け寄ってくる。少女の視線の先には、倒れている女性の遺体がある。

「この、この方は、私の友人です。彼女をこんな目に合わせたのは、貴方達ですの?」

    ミネルバ王女は、冷たくなったカオリの肌に触れながら尋ねる。その声のトーンは低いが力が籠っている。

「いえいえ、違いますよ。彼女を襲ったのはコイツらです。私どもは偶然、彼女が襲われている現場を見かけまして、撃退したのですが彼女は既に亡くなってしまったのですよ」

    近くには、焼き焦げた土と、胸に穴の空いた男性の遺体。それらを一瞥した後、ミネルバ王女は立ち上がってユートプスと目を合わせる。

「彼女の遺体は、私が引き取らせて頂いても宜しくて?」

「ええ、構いませんよ」

「それでは。エドガー、彼女を馬車にお乗せして」

「はっ!」

    王女達が馬車で立ち去った後、『足』が恐る恐るユートプスに尋ねる。

「遺体を渡しても、よろしかったので?」

「フン、死んでいた事には変わりはないだろ。教会側も文句は言わないさ」

   ユートプスも帰ろうと立ち上がる。そこで軽い目眩が起こった。

「大丈夫ですか⁈」

「問題無い。さぁ、その遺体を回収しろ。さっさと帰るぞ」

   きっとまたいつもの、寛容な態度でない時にやって来る、神による呪い(不安・苛立ち・頭痛)に違いない。ユートプスはそう考えて気に留める事無くその場を後にした。


       ◇   ◆   ◇  ◆  ◇  ◆  ◇

「み、ミネルバ様‼︎」

    王宮に着いた途端、エドガーが慌てた表情で駆けてきた。少し血の気が引いているように見える。

「どうしたの?」

「直ぐにいらして下さい!彼女が大変な事に⁉︎」

    急かすエドガーに溜め息をつきつつも、王女は兵士用霊廟へと足を運んだ。

「これはどういう事⁈まさか生き返ったの?」

    そこには、遺体として寝かされていた筈のカオリが、仲間の凄惨な最後を思い出し咽び泣いていた。

   彼女が泣き止むまでしばらく待った後に、彼女がこの場に居る状況を説明する。

「つまり、私は確かに死んでいたのね?」

「ええ、私も確認したから間違いないわ」

    カオリは少し考えると、納得したように頷いた。

「あの勇者にしてやったりね!」

「勇者?あの全身鎧フルプレートアーマーの男が?」

「ええ、そうよ。寛容の勇者と名乗ってたわ。何が勇者よ、ただの人殺しじゃない!」

「待て!それでは、貴女はまさか⁈」

「ええ、魔王よ」

    ミネルバ王女はやっぱりかと溜め息をつき、エドガーは頭を抱えて狼狽える。

「まぁこの際、王国は知らずに関わった事にしてしまいましょう」

    2つの教団による、魔王と勇者の争い事には各国共に不干渉である事が決まっている。しかしそれは形だけで、二百年毎に繰り返す中で、彼等の強過ぎる力や知恵を利用しようとする者がほとんどであった。
    しかし、ラエテマ王国では不干渉で行くべきだという考えを取っていたのだ。

「ところで、話を戻しますけど、先程貴女が言っていたしてやったりとは、どういう事ですの?」

「ああ、あの勇者はね、全ての魔法やダメージを受け入れて、追加でダメージを足して返せる特殊技能ユニークスキルを持ってたのよ。そのくせに自分だけは鎧で魔法ダメージはほぼ無いの!チートな勇者だったわけよ」

「ちいと?」

「まぁ、狡い強さって事。私も殺されるってなった時に、どうせなら使っちゃえって考えたわけ」

「一体何を?」

「闇属性中級魔法の、呪殺魔法【デス】よ」

「呪殺魔法⁈そんな魔法は聞いた事がありません!」

「私もアームズから教わっただけだから、フレイア教内にだけ伝わる魔法かも。この魔法、即死魔法なんだけど、触れる程に近付く必要があるし、成功率は15%と低いの。だけど、寛容である勇者様は、全てを必ず一度受け止めてくれた。つまり、100%一度受けた筈なのよ」

「しかし、魔法効果を激減させる鎧で効かなかったのでは?現に平気そうでしたし」

「そう。だけどこの魔法はダメージではなく即死なの。全てを返されたのなら、私は生き返る事は無い筈。考えられるのは、勇者が兜を外していた事。10で完成する即死効果を、勇者にも2ほど分け与えてるかもしれないわ。流石、寛容の勇者の特殊技能ユニークスキルよね?」

「だとしても、安心できないですわ。カオリ様、しばらくは私の元で療養してください。いろいろと聞きたい事もありますので」

    こうして、カオリはミネルバ王女の庇護下に置かれたのだった。
    その後に起こった仮死状態に対する解呪騒動や、再び始めた執筆活動により教団の上層部に生存がバレた事もあり、カオリは王都からの転居を考え出したのだ。



       ◇  ◆  ◇  ◆   ◇  ◆  ◇


「つまり、そういう理由で、クラスメイトが生きているのなら、私を匿って欲しいと暗号を書いたわけよ」

    長々とこれまでの出来事を話したカオリに、アラヤは欠伸を見せてしてしまった。

「ちょっと!その態度はおかしくないかしら」

「ああ、ごめん。でも、言わせてもらっていいかな?その呪いは結局自分で掛けたものだし、完成していないから解呪しようが無いよね?」

「あ…」

     解呪できないという事は、これから先も仮死状態になる日々が続くという事だ。

「やはり、今まで通り王宮で匿ってもらうしかありませんね」

「お待ちください、アラヤ殿!今の王宮、いえ、王都は大変危険なのです!何故なら今の王都には3人の勇者が集結しているのですから」

「さ、3人も⁉︎」

「アラヤ殿にも他人事では無いのですよ。ここは1つ、私に貸しを作るおつもりで、聞いていただけないでしょうか?」

    確かに3人も勇者が居るなら、自分も逸早く王都から離れるべきだろう。しかし、彼女を連れて行くとなると、危険度が高くなる気がしてならない。

「ジャミングを使用している時点で、この王宮内にも危険な人物が居るのですか?」

「…はい。王宮内にはもちろん、フレイ美徳教の信者も居ますので。最近では、私の庇護下にある事が巷でも噂になっています。隠し場所を転々と移動しておりますが、限界に近い状態ですわ」

「ふむ。アラヤ君、力になってあげれないかね?私からもお願いするよ」

    ガルムさんが頭を下げると、エドガーやマーレットも頭を深々と下げる。アラヤは、アヤコさんとサナエさんを見た。二人は仕方ないねと頷いた。

「分かりました。彼女は俺達が預かりましょう」

「にいや⁈」

    カオリは、驚きと嬉しそうな表情でアラヤを見ている。先ずはその呼び方も変えて欲しいものだね。

「しかし、先ずはこの王宮からどうやって彼女を出すかを考えなければなりませんね」

    帰る際に1人増えていたら、リッセンが怪しむに決まっている。何か手を考えなければ。
しおりを挟む
感想 166

あなたにおすすめの小説

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

処理中です...