【完結】スキルが美味しいって知らなかったよ⁈

テルボン

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第6章 味方は選べと言われたよ⁈

074話 色欲魔王カオリ ②

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  どうしたのだろう。何かが足りない気がする。この3日、あらゆる分野の本を読んでみた。
    見た事の無い植物や動物の図鑑や、怪談話や英雄譚等、実は前世界と内容は違えど大して差が無い。むしろ、ジャンルは少ない気がする。魔法が普及しているからか、物理や科学は小学生程度の本しかない。逆に、魔法に関するメカニズムに対しては、あらゆる魔術師が本を出しているようだ。
    今も《増え続ける亜人族の新種》という本を読み終え、積み重なる本の最上段に乗せる。

「あまり楽しくなさそうですわね?」

   直ぐ横の本の山から声が聞こえたので、カオリは上から覗き込んだ。

「ごきげんよう、本の虫さん」

   そこには、金髪の可愛らしい女の子がいた。お人形さんみたいだなぁって思う程に、着ている服装もお嬢様のそれだ。

「これだけの本を読んでらっしゃるのに、貴女は少しも満足なさらないようですわね?」

「満足?」

    少女に言われ、カオリは一瞬思考が止まる。
満足?私にとっての満足って何?知らない事を知る楽しさは今も感じている。しかし、それで満足するとは言えない。
     カオリは、生まれながらに一度見た物は記憶するというカメラアイの持ち主で、幼い頃、本の読破数を増やす為に読む速さばかりを気にして、内容を楽しむ事を忘れた時期がある。しかし、彼女のデータ許容量は、一万冊の本を読破した今でも余裕があり、幼い頃に読んだ本を再び読む事は容易だった。
    故に、とりあえず読んでおく。側から見れば、それは流れ作業のようでつまらなそうに見えたかもしれない。

「み、ミネルバ王女様!すみません、今直ぐ片付けますので、どうかこの方には御容赦を!」

    フットが駆けて来るなり、いきなり少女に土下座をする。え?この子、王女なの?確かに少女とは思えない所作と語りだけど。

「別に良いのよ、注意しに来たわけじゃありませんもの。最近、噂になっている本の虫さんを拝見しに来ただけですわ」

「本の虫ですか…」

「悪い意味ではありませんの。お気を悪くなさらないでね?私も読書は好いていますので、その読む速さと記憶力を羨ましく思っただけですの。貴女のそれは技能スキルなのかしら?」

技能スキル?すみません、生まれつきなものです」

「生まれつき?鑑定で、御自身のステータスをご覧になられた事はありませんの?」

「あ、確か私の鑑定はできないって…」

「王女様!この方は司祭様の…」

    会話に突然、マウスイヤーが割って入ってきた。アイズやクーパーも、私を見て首を振っている。
    私、何かマズイ事言ったっぽい?

「まぁ、そうでしたの?それは知らないのも無理はありませんわね」

    王女の方はマウスイヤーの説明で納得した様子だ。一体、どんな説明をしたのだろう。王女は哀れむ目で私を見ている。

「何かお困りの際には、是非ご相談下さいね?」

    王女は軽く挨拶をして帰って行った。直後に途端に集まる配下達。
    ちょっとだけ、怒ってるみたいだね。今日は早めに片付けて、教会の宿舎へと帰る事にした。

「鑑定ができない人間って、魔王か勇者しか居ないんですよ⁈もう少し言葉を選んでください」

    5人に囲まれて、絶賛説教中であります。

「で、でもさ、私や他の同級生を魔王だと見分けたあの人は、鑑定できてたんでしょ?」

    クラスに居た6人を魔王と見た人物は、紛れもなくカオリを鑑定できていたはずである。

「彼の方は大司祭で、鑑定の熟練度がLV5に到達している方です。彼の方にしか職種を見る事は出来ないでしょう。LV5は並大抵の人には到達できません。世界広しと言えども、5人程しか居ないでしょう。一般の鑑定士はもちろんのこと、修行に修行を重ねてきた私でもLV3ですが、貴女を鑑定する事はできません。ですので、鑑定は出来ると勘違いさせる為に、貴女には偽のステータスをジャミングで貼り付けているのです。お分かり頂けましたか?」

「はい…」

    アイズは見た目より御立腹だったようだ。これからは気をつけよう。

「曇って少し暗くなってきましたね。明かりを点けましょうか、ライト」

    アームズが光属性魔法のライトを、壁掛け照明のように固定する。
    本当に、魔法って便利だよね~。

「ライトかぁ…」

    カオリの何気ない呟きに、小さな光が具現化した。

「おおっ⁉︎魔法が使えましたね!」

「えっ⁈えっ⁈呟いただけなんだけど⁉︎」

「これは、ひょっとして…」

    アームズはプルプルと震えながら、カオリの両肩を掴んだ。

「魔法を覚えましょう‼︎」

   興奮気味なアームズに根負けして、それから2日間は図書館には行かずに魔法の特訓を行った。

「たった2日で、我々の習得している魔法は全て覚えてしまいましたね」

「ま、まぁ、本の知識で飲み込みが早かったし、教え方が上手かったからね」

「しっかりと、詠唱で魔力を紡ぐ必要がある中級魔法も、カオリ様にかかれば初見なのに詠唱破棄でできてしまう…」

    やや、アームズが元気が無くなっている。マウスイヤーが、気持ちは分かるよと背中を軽く叩いていた。

「結果的に、全属性の中級魔法まで覚えちゃいましたね」

「う~ん。私としては、鑑定や調理といった技能スキルの方を覚えたいけど…」

「いやいや、全属性魔法は充分凄い事なんですよ?しかも、一度見ただけで覚えちゃうんですから。流石に、技能を見ただけで覚えるなんて事は出来ませんよ。第一、技能は職種に影響されてでしか発現しないのですから」

 「そっか、残念…」

    人と同じ技能を覚えれる技能があれば、楽しかっただろうと思うよね。

「ちょっとお手洗いに行ってくる」

    カオリは、宿舎の共同トイレへと向かう途中、小雨がパラつく中庭に人影を見た。マウスイヤーと、司祭らしき人物だ。何故か気になり、静かに背後へと回って話を聞いてみる。

「…どうして、ラエテマ王国に色欲魔王様が居るのか?本来なら、ズータニア大陸の魔人族の国に傲慢魔王と行く手筈だったろう?」

    えっ?本当は荒垣と行く予定だったの⁉︎絶対嫌なんだけど!

「嫉妬魔王が、傲慢魔王に同伴するとゴネまして、大司祭様が折れた形です」

「嫉妬魔王か…。同じ国に三人も魔王を置くわけにもいかんからな。大司祭様も止む無しか。ううむ…しかし困ったな。色欲魔王様が成長する為には、魔人種の淫魔族の地に居るのが最適だったのだが…」

     い、淫…?自分の顔がみるみる赤くなるのが分かる。最適ってどういう事よ⁈

「この地では、ろくに色欲としての経験は積みにくいだろう。なるべく早く彼の地への移動を促すのだ。最早ここも安全とは言えないからな」

「では、帝国で襲撃があったという噂は…⁉︎」

「ああ、本当だ。強欲魔王様の潜伏先に、忠義と寛容の勇者が現れたそうだ。辛くも強欲魔王様は逃げ果せたが、彼の地を離れる事になった。召喚日を一月も前に美徳教だけで独断でしたり、協定で安全地帯である教会に乗り込んで来たり、此度の美德教の奴等は手段を選ばないようだ」

「前回も召喚場所を奇襲してきたと伝えられてますよね?今回、その対策として、囮を魔物の巣窟に用意した結果はどうだったんですか?」

「成果は何も無い!奴等は囮に喰いつきもしなかった。潜伏場所がバレている件といい、どうやら内部に裏切り者がいるやもしれないな」

「そんな…」

「いいか、とにかく早いうちにこの地から離れるように進言するんだぞ?」

    カオリは、バレないようにその場から離れると、廊下でバッタリとフットと出会う。彼のその表情に、自分が見られていた事を悟る。

「私はまだ、この地から出る気は無いよ」

「はい。何を聞いたかは知りませんが、私達は貴女様に付いて行くだけです」

「そう…」

     カオリは部屋に戻ると、紙を取り出して机の上に置く。

(色欲とはつまり、性的な欲情。しかし、肉欲だけを言い表わすわけじゃない。性に対する感覚的な欲望も色欲と含まれる。ならば…!)

     通い続けた図書館にも無かったジャンルがある。それは、恋愛、官能、同性愛、つまりはだ。
    羽ペンにインクを付けて走らせる。

「んっ⁉︎」

    書き進める度に強くなる感覚がある。かつては本を読み終える度に感じていた悦よりも、更に上の快感となって体に伝わっていく。色欲に関わる事をすれば、快楽と共に成長するという事か…。

「この方法なら、私はこの地で成長できるわ!」

    こうして、出版すればラエテマ王国全土で読まれる事となる、有名作家のカオリ=イッシキが誕生したのだった。
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