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第4章 魔王と呼ばれてるなんて知らなかったよ⁈

045話 バルグ商会

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「お風呂?あるにはあるよ。公衆浴場が少し行った先にね。だけど、確か混浴だったと思うよ?」

   三人はがっくりと項垂れた。汗をかいていたので、寝る前にサッパリとしたかったのだけれど。

「仕方ない。野営時と同様で、湯浴みで我慢しようか」

「おっ、私もお願いしようかな」

   三つの大きな木のタライを亜空間から取り出して、先ずはそこにウォータで水を溜める。その後に火属性魔法のヒートアップでお湯へと変えていく。これで半身浴が可能な携帯お風呂の出来上がりだ。

「それじゃ、ぬるくなったら呼んで下さいね」

   三人を部屋に残して、アラヤは隣の部屋に移動する。タライをもう一つ取り出して、自分も同様にお湯を沸かした。服を脱ぎ、体を布で洗った後、ゆっくりと湯に浸かる。全身浸かりたいけど、半身浴でも体はだいぶ温まるんだよね。
   ゆっくりとしていると、隣の話し声が聞こえてくる。この壁、遮音性が低くないか?

「メリダさん、着痩せしてるんですね」

「うう、私が一番小さいのか…」

「仕事中は邪魔になるからね。サラシで締めているのさ。気にしなくても、二人共まだまだ大きくなるでしょ」

「本当ですか?私、中学から成長してないんだけど…」

「ちうがく?まぁ、動く人間には邪魔になるから、サナエには必要無くない?」

「それとこれは別ですよ。やっぱり魅力として適度に欲しいです」

「それならマッサージしてあげるわよ。揉めば少しは大きくなるらしいわよ?」

「きゃっ、ちょっと⁈」

   ダメだ。聞いてる内容に耳を塞いでしまう。興奮する前にさっさと上がるとしよう。壁にジャミングを掛けて遮音にしてみた。話し声は聞こえなくなり静かになった。うん、これは使えるね。三人が扉をノックするまで、全然気付かなかったよ。

「それじゃ、今日はもう寝ましょうか」

   ジト目で見る二人と別れて、アラヤはメリダさんと部屋に戻る。心配しなくても何も無いから。
   誤解の無いように、ベッドは反対側まで離して置く。

「アラヤも大変だね」

「ハハハ…。まぁ、まだ心配されるだけマシなんですかね」

「私には分からないね。それじゃ、おやすみ~」

   先に横になるメリダさん。この人も、俺を信用し過ぎじゃないか?まぁ、夜這いを掛けるような度胸は有りませんけどね。
   自分もベッドに横になり目を閉じる。気配感知で二人が壁に張り付いているのが分かる。ジャミングの効果がまだ残っているので、何も聞こえないだろう。だから、焦ったアヤコさんが感覚共有で探りを入れてるのも分かる。もっとメリダさんを信用してあげて欲しいね。

『それじゃあ二人共、おやすみ』

『!お、おやすみなさい、アラヤ君…』

   念話でおやすみを言って、さっさと寝ることにした。

   翌朝、寝不足な二人におはようと挨拶をして、洗顔用の水桶を渡す。

「おはようございます…」

「全く、もっとシャキッとしなよ?今日は四人で出かけるからね」

「メリダさん、何処に出かけるんですか?」

「バルグ商会にいるガルム氏に挨拶に行くんだよ」

    式の前に挨拶に行くとしたら、何か他の要件があるのだろう。

「分かりました。じゃあ準備しないとですね」

   外出用の普段着でも、割と体裁の良い服を選んで着替える。彼女達も頭をスッキリさせて、今は身嗜みに集中している。
   それにしても、バルグ商会とはどれくらいの規模の商会なのだろうか。ガルムさんは商工会では副会長の立場だったよね。という事は、まだその上の商会もあるのだろうけど。

「さぁ、行くわよ」

   メリダさんに連れられて、バルグ商会の本部へと向かう。
   繁華街より先に進んで行くと、物流倉庫らしき大きな建物が並んでいて、それぞれに商会名が書いてある。
   荷馬車の出入りも頻繁に行われていて、その数で商会の大きさが伺える。

「あったわ。ここよ」

   そこには一際大きな建物があり、バルグ商会の社名がデカデカと出ている。普通ならその玄関の扉を開けるのにも躊躇いそうだけど、メリダさんは自分の家の扉を開けるかのように、扉を開けてスタスタと入って行く。

「ちょっと、メリダさん⁈」

   三人は慌てて後について行くと、受付らしき人間の女性がニッコリと笑顔でこちらを伺っている。
   メリダさんはその受付の前に行き、同じように笑顔で返す。

「こんにちは」

「これは、メリダ=ピロウズ様。本日はどういった御用件でしょうか?」

「ガルム社長は御出勤かしら?」

「社長は只今、御来客様と商談中でございます。お待ちになりますか?」

「ええ、待たせてもらうわ」

   そう言うと、勝手を知ってるのかスタスタと待合室へと移動する。

「メリダさん、ここには来た事あるんですか?」

「ええ、ヤブネカ村の村長になる前にね」

「村長になる前ですか?」

「そうよ。村長になる前、私はこのデピッケルを拠点として陶芸家の仕事をしていたからね。その頃から、この本社に出入りをしていたのよ」

   今更だけど、メリダさんの陶芸品って、かなりの高値で売れるらしい。鑑定してないけど、実は【業物】だったりするのかもしれないな。
   しばらくソファに腰掛けて待っていると、扉を軽くノックする音が聞こえ、受付の女性と共にガルムさんが現れた。

「やぁ、待たせたね。メリダ君にアラヤ君。髪を染めたのかね?それと…おや?アラヤ君の夫人様方かな?」

「はい。つい先日に結婚したばかりでして…」

「初めまして、サナエと申します」

「初めまして、アヤコと申します」

「そうですか、それは是非ともお祝いをしてあげたいですね。お二人共に、息子の成人式には参加して頂けるのでしょう?その際に何かご用意させてもらいましょう」

   鑑定で、苗字が同じクラトになっている事に気付いたのだろう。しかも、アラヤの偽のステータスについても、貴族だったのかねとも聞かない。ガルムさんは、俺達の事をどういう存在として見ているのだろう?

「お気遣いいただきありがとうございます」

「さて、メリダ君。本日は式前に何か御用があったのかな?」

「ええ、実はうちの領主様の件でして…」

「ああ、ポスカーナ領領主、マジドナ=イヤネン男爵ですか。今回の式にも参加頂ける筈ですが、どうかされましたか?」

   メリダはジッと受付の女性を見る。ガルムは頷き、彼女に退室するように合図した。彼女は深く礼をして待合室から出て行く。

「手間をかけてすまない」

「いや、いいんだ。それで?マジドナ氏がどうしたのかね?」

   彼女が退室すると、ガルムさんとメリダさんは砕けた口調になった。それだけ付き合いが長いのだろう。

「最近、ヤブネカ村とフユラ村で事件があったのは知ってる?」

「そういえば、王都から冒険者の方々が、フユラ村へと派遣されたという話は耳にしたよ。でも詳細は知らないんだ。何があったのかね?」

   メリダさんは、ゴブリンキングの事件をガルムさんに伝える。

「そんな事があったんですか…。その事をマジドナ氏は?」

「フユラ村の住人ですら、領主様の街にもあるギルド支部に行かず、王都まで走ったのだから。当人は知りもしないでしょうね」

   ヤブネカ村やフユラ村は、過去の凶作の際に見捨てるような対応をした領主を、全く信用していないのだ。

「その際に、彼がキング討伐を一人でしちゃてね…」

   えっ?何、そのやらかしました的な感じ。悪いことはしていないよ?

「何と⁉︎それは凄いな。だとしたら、ギルドにどういった結果報告が成されたか、確認せねばならないな。結果次第では、彼には身を隠してもらわねばならない」

「あ、あの、どういう事ですか?」

「領主様は件の事件には関心が無いだろうけど、彼の存在に気付いたら厄介な事になる。成人式の際には、ガルムさんの友人として扱ってもらえない?」

「ああ、もちろんだとも」

    アラヤを置いてけぼりの状態で話がどんどんと進んでいく。アヤコとサナエも、アラヤの対応を話し合う二人の会話を黙って聞いてる。二人共、理解しているのかな?
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