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第3章 スキルが美味しいって知らなかったよ⁈

041話 3日ぶりのヤブネカ村

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   3日ぶりに帰ってきたヤブネカ村。雑貨屋の手前で荷馬車を止めると、さっそく帰って来たのに気付いた村人達がやって来る。

「お帰り、モドコさん。あの子達は無事に帰り着いたんだね」

「もちろんだよ」

「店長、早く店を開けておくれよ。昨日からランプ用油と広葉樹の葉が切れそうなんだ」

「あ、私にも頼む」

「ああ、今出すとも」

   バタバタと、店長は忙しく店の準備を始める。3日居ないだけで、いろいろと仕事が溜まっているようだ。アラヤとザックスもそのまま手伝いに入る事にした。

「そういえば店長、あの卵はどうするんですか?」

   全ての人達に品を渡し終え、陳列棚に品を補充しながら尋ねる。

「あの卵はね、中身は私が瓶詰めにしてガルム氏が来るまで保管する。殻の方は、メリダ村長に渡す手筈になってるよ」

「ガルムさんが来るのって、確か来月の黄竜月ですよね?」

「それはガルム氏の息子の成人式の件だろう?取り引きに来るのは再来月の紫竜月だよ」

   そうだった。自分達がレニナオ鉱山の街に招待されてたんだったな。

「ガルム氏の息子って言ったら、王都にも出店してるバルグ商会の時期社長だろ?やっぱり、バリバリの商人気質なのかね?」

「ん~、私は何度かレニナオに赴いた時に拝見したが、まだ二、三歳だったからね。まぁ、あの木箱の積み木を見た時は、立派なドワーフになるだろうと思ったけどね」

  思い出して微笑む店長。ああ、想像できますよ、店長。ドワーフの事だから木箱の積み木って、普通の小さな空箱じゃなくて、荷物の入った大きい木箱だったんですね?

ガチャ‼︎

   荒々しく入り口の扉が開かれ、一人の女性が駆け込んで来た。

「アラヤが帰って来たって⁈」

「サナエさん、ただいま」

「ああ…おかえり。って、帰ったんなら、直ぐに逢いに来てくれても良いじゃないか。こっちは心配してたんだぞ?」

「うん、そうだね。心配してくれてありがとう。俺は見ての通り大丈夫だよ。二人の方は変わりない?」

「ああ。アヤと二人だと、やっぱり寂しく感じたよ。あと、火起こしで風呂を沸かすのが少し上手くなった。今日は私が沸かしてあげようか?」

   ああ、魔法で今まで火起こししてたからね。水や明かりでさえも、俺の魔法で賄っていたからなぁ。ちょっと不便だったかもね。

「良いなぁ、新婚さんは楽しそうで」

   ザックスさんが、受付棚に頬杖をつきながらぼやく。

「店長とザックスさんも、お帰りなさい」

「俺と店長はついでだろうけど、おかえりって言われるのは嬉しいな。ありがとうよ」

「ハルちゃんね、ザックスさんの姪っ子だったんだよ」

「えっ、そうなの?」

「ああ、向こうで知ったんだけど、妹の娘だった。妹に似て可愛くなるだろうよ」

「ザックスさんにも、良い人が早く見つかれば良いのに…ベスさんに誰か紹介…」

「ごめん、それはほっといてくれ」

   そこからは、サナエさんも何も言えなくなる。ここに居ても居心地が悪いので、アラヤはサナエを連れ出した。

「アヤコさんにも、ただいまを言わないとね」

「そうだね。今は午後の勉強会をしてる筈だよ」

   二人して村長宅に訪れると、室内から元気な子供達の声が聞こえる。邪魔しちゃ悪い気がするな。

「授業中だし、先に村長に挨拶するか」

   裏手に回り、工房へと顔を出してみる。村長は、ろくろを使っての作業中だった。

「おや?帰って来たんだね、おかえり」

「はい、ただいま帰りました」

「フユラ村はどうだった?この村とはだいぶ違うだろう?」

「そうですね。全てに協力的なこの村とは、村人達の意識が違いましたね。俺はこの村の方が好きですよ」

「ハハッ、そう言われると、村長冥利につきるね」

   村長は、素直に照れた表情を見せる。そして何かを思い出しのか、ろくろを止めて手を洗い出した。

「ちょっとこれを、見てもらおうと思ってたんだ」

   これと言った物には布が被せてあって、その布をゆっくりと退かしていく。

「あ、陶磁器の便器じゃない!」

   頼んでいた陶磁器の便器が完成したらしい。貯水タンクも要望通りである。

「完成したんですね、ありがとうございます」

「便座部分は木製で、着色した後に釉薬仕上げしてあるよ。せきや排水路に苦労したよ」

「すみません。せきで水たまりを作らないと、匂いが逆流するので仕方ないんです」

「これを作るのは、素材調整・整形・焼成の全てが熟練した職人じゃなきゃ、とてもできないよ?」

「ええ、流石はメリダ村長です。陶芸家の腕は王国一ですね!」

「いやいや、褒め過ぎだって!」

   とても上機嫌で、まんざらでもないようだ。村長って、褒め言葉に弱いかもしれない。

「アラヤ、でも下水道はどうするの?」

「今は、配管を作る技術が無いからね。とりあえずは、スライム浄化槽で水に変えて、汲み取る形だね」

「下水道ね。王都や大きな街に行けば、水路は整備されてるから、そういう場ならこの便器の需要も伸びるかもね」

   まぁ、試験的なものだから、製造販売はまだ先だね。とりあえず、便器を亜空間収納へと納めておく。

「ちょっ、アラヤ⁈何、今の黒い渦は⁈」

   二人して驚いている。あれ?そういえば見せた事無かったっけ?

「そんな希少技能レアスキル、いつから持ってたのよ?それがあれば発掘の際には荷車さえ要らないじゃないの」

   これは、知られたらマズい種の技能だったな。今から先、村長の荷物持ちになりそうな予感がする。

「人前では使わないようにします」

「まぁ、その方が良いわね。どの国内でも超が付くほどの重要技能だからね」

「うわ…マジですか」

「考えてもみてごらん?まぁ、レベルによって量は違うだろうけど、武器や食糧の移動が人一人で済むのよ?軍事利用はもちろんのこと、物資運搬も簡単に済むわ。それにアラヤの場合、鑑定も持っているから引っ張りだこになるでしょうね」

    流石に、国に利用されるのは勘弁したいな。便利過ぎる技能は、人前では極力控えよう。

「あ、話は変わるんですけど、ガルムさんの息子さんの成人式には、村長も同席するんですよね?必要な物ってありますか?ご祝儀はお金が無いので…」

「そうだね、祝儀は私の方で準備するから、心配いらないよ。後は礼服と、外出用の普段着が必要だね。貴方達はしばらく滞在するかもしれないからね」

「礼服と普段着ですか、織物屋にまた依頼しないとですね」

   二人は村長にお礼を言って、教室へと向かった。もうそろそろ終わる時間だろうから、声をかけても大丈夫だろうと思う。

   扉を開けて中を覗くと、丁度教材を片付けているところだった。

「あ!アラヤだー!」

「あ、ホントだー!」

   子供達に先に気付かれて、周りを囲まれてしまう。

「お土産はー?」

   ああ、そういうのを何一つ用意してなかった!コボルトの耳とか?ロック鳥の羽根とかを回収しとけば良かったな。

「ご、ごめんな。今回は用意できなかったんだ」

「えーっ!」

   ブーイングの嵐である。3日しか離れてないし、そんな状況じゃなかったからね。

「ちょっと皆んな、アラヤ君を困らせないの!早く、お片づけを終わらせましょう」

「「「はーい」」」

   アヤコさんの一声で、子供達は再び片付けに向かった。先生には従う良い子供達になったね。

「アラヤ君…おかえりなさい」

「うん、ただいまアヤコさん」

   しかし、見つめ合う時間は短く終わる。子供達とサナエさんの視線があるからね。すると、ダンがやってきてアラヤにしがみつく。

「ん?どうした、ダン?」

「タオとハル、二人は元気になった?」

「ああ、元気になったよ。村でも両親と会えたからな。もう大丈夫さ」

「そっか、良かった!」

    嬉しそうに他の友達に教えに戻る。子供達も、二人の事を心配してたんだな。

「じゃあ、そろそろ行くねって、どうしたのアヤコさん⁈」

   アヤコさんは、「眼福…」と何故か口を抑えてハァハァと高揚している。うん、ほっといた方が良さそうだな。

「サナエさん、行こうか」

「う、うん…」

   彼女をそのまま置いて、礼服の依頼をする為に二人は織物屋へと向かったのだった。
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