【完結】スキルが美味しいって知らなかったよ⁈

テルボン

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第2章 魅惑の生活が怖いって思わなかったよ⁈

026話 双子神

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   昼食の鶏肉野菜炒めとパンをバケットに入れて、今日もサナエは自宅に戻って来た。
   扉を軽くノックして、ゆっくりと開ける。そこにはベッドで寝ている少年が居た。正確には青年なのだが、それは今気にすることじゃない。

「アラヤ、ご飯だよ?」

   ゆっくりと肩を揺すり、優しく呼びかける。彼はうっすらと目を開けるが、体を起こそうとはしない。あの表情を浮かべ、横になったままだ。ゆっくりと口元に食べ物を運ぶと、その体勢のままでモグモグと食べる。
   その後は、悦に浸った表情を浮かべるか、寝てしまうかだ。
   あの日から、もう3日が過ぎた。その間に、彼の髪の前髪の一部だけが白髪になってきた。
   私には分からない。あの日、あの時のアラヤはおかしかった。
    ゴブリンキングと分からない言葉で会話をしていた事でも、その後に噛まれた傷が直ぐに治った事でもない。あの時見せた光悦の表情は、自分が知る彼とは全くの別人に見えた。
   ただ、アヤは何かを隠している。アラヤの元に駆け付ける前から、洞窟から出て来たアヤは、彼等の会話をずっと聞いていた。

「あの時、何を知ったの?」

   アヤコとは、あれ以来あまり話していない。彼女が私を避けている事もあるが、私がアラヤにつきっきりな事が原因だろう。
    このままではいけない。ちゃんと話しを聞こう。サナエは立ち上がり、彼女の元へと向かった。

「先生!今日も二つの月の神話をやるの~?」

「そうね。続きをしましょうか」

「やった~」

    子供達は、あの拐取事件の事は何もなかったかのように接してくれている。
   あの事件での被害は、ヤブネカ村は子供達に怪我も無く、守衛や大人達も軽傷で済んだ。あの日私が飛び出した後、サナエちゃんの狼煙や、それに気付いたアラヤ君達の帰還も、遅れていたらこの程度では済まなかっただろう。村長も、守衛さんや大人達を荷車(グラビティで軽量化)で運ぶ(村長にはアラヤがムーブヘイスト)等、頑張っていたらしい。(帰りはアヤコが魔法を掛けている)
   おかげで、実は村長は力持ちだったと村では噂になっている。
    あの教室で、実は他の村の子達も見つかった。16の遺体と、2人の生存者だ。今はこの村で療養中で、子達の精神が落ち着いたら、村に送り届けるらしい。

   アヤコは、気持ちを切り替えないとと本を広げて子供達と向き合った。

「えっと、二つの月に住む双子神、蒼月神と紅月神が仲が良かった話しまではしたわよね?その続きからね」


【ーーある日、蒼い月の神フレイと、紅い月の神フレイアは、些細な話しで討論を始めました。

蒼月神「創造神様が知恵の実を与えた事で、こうも種族が増えるとは思わなかった。しかし、目下の大地の生命が特に繁栄したのは、我が加護(技能スキル)の恩恵のおかげだろう」

紅月神「いやいや、目下の大地の生命が繁栄したのは、我が役割(職業)の恩恵のおかげでしょう」

   二柱の神はお互い譲りませんでした。その時、蒼月神がある提案をしました。

蒼月神「ならば趣向を変えて競おうではないか」

紅月神「それは如何なる内容か?」

蒼月神「他から新たな命を呼び出して、どちらがより良き輝ける者を創れるかを競うのだ」

紅月神「面白い。ならば異なる選考基準を決めようか」

蒼月神「ふむ。我は正覚たる美徳の魂の者を呼ぶとしよう」

紅月神「ならば、我は煩悩たる大罪の魂の者を呼ぶとしよう」

   二柱は、お互いの優劣を決める為に始めた遊戯を、決着がつかないまま今もなお続けていると言われています。

後の、蒼月神フレイを崇めるフレイ美徳教と、紅月神フレイアを崇めるフレイア大罪教が生まれた発端とされているそうですーー】

「先生、しょうがくやぼんのうって何ですか~?」

「ん~、説明難しいね。こんな感じの事だよ」

   こういう時は、感覚共有をフル活用である。無理にはぐらかすよりも、何となく理解できる方がいい。

「分かったような、分からないような…」

「今はまだ分からなくても大丈夫だよ。それじゃあ、続きを…」

   扉にノックの音が聞こえ、サナエが顔を出す。室内を見回し、アヤコを見つけると手招きをする。

「アヤ、ちょっといい?」

    子供達には黙読をやらせて、アヤコはサナエと村長宅から外に出た。

「何?サナエちゃん、どうしたの?」

「…あの日のアラヤの事だよ。アヤ、私に何か隠してるだろ?」

「……」

   アヤコは、視線を逸らして黙っている。やはり何かを知って隠しているという事だ。

「教えてくれよ。アラヤがああなった原因と関係あるのか?」

「…関係あるから分からない。だけど、もしも、私の考えた通りだとしたら、私達………捨てられちゃうよ」

「ど、どういう事さ⁈全く分からないんだけど!」

「アラヤ君、私と同じ技能スキルを手に入れてたの」

「へ?えっと…たまたま同じ技能スキルを、偶然覚えたとかじゃないの?アラヤならありそうだし」

「ううん、偶然じゃないと思う。だって私のキスの後に覚えたみたいだったから」

「は、はぁ⁈き、キスって何さ⁉︎あんた達、人が戦ってた最中に何してるの⁈」

「まぁ、それは今は置いといて…」

「置いとくなよっ⁉︎」

「とにかく、キスしただけで私の言語理解を覚えちゃったんだよ?それだけじゃなくて、あの怪物も、肉を食べたらスキル奪えるみたいなことを言ってたの!」

「つまり、アラヤも怪物と一緒だって言うのか?」

「一緒とは違うと思う…けど、もしも、アラヤ君が私達の技能スキルを欲しいだけ手に入れたら、私達の価値は無くなってしまう!」

「いやいや、アラヤは見捨てないって言ってくれたから!大丈夫だって!」

「でも、私達にいろいろと隠してるよ」

「…‼︎」

「口約束だけじゃ、私達は終わりです」

「そんな事は無いと思うけど…」

「私に考えがあります。サナエちゃんも乗ってください」

    ボソボソと耳打ちをした後、ガッチリと両手を握る。

「やるしかありません!」

「う、うん…」

    大丈夫だと思いつつも、アヤコの押しに負けたサナエであった。



   真っ白な世界で一人、海に浮かぶように漂っている。
   俺は何をしているんだ?何をしていたんだ?分からない…。
   しばらく流れに身を任せて漂っている。すると、話し声が聞こえて来た。

「フフフ…兄さんの子供達も、随分と苦労しているようだね?」

「ハハハ…大した事ではない。お前の子達のやりたい放題に比べればな」

   声のする方を見ると、古代ギリシャの方々が着ていたような布地を巻き付けただけみたいな格好をした男女が、チェスみたいなボードゲームをしている。

「兄さんの子達は、何か切迫してるね?やる気を出させる餌は何?」

「何も?恩恵に従っていない時に不安を感じるようにしただけさ。おかげで、進んで望む働きをしてくれてるよ。お前の子達はどうなんだ?」

「ウフフ、あの子達にはね、本能に従えば至高の快楽を与えてあげてるわ。生きる、それには喜びが必要不可欠なものよ。ねぇ、あなたもそう思うでしょう?」

   その問いかけは、アラヤに向けられていた。完全に目が合っている事に気付いたアラヤは、バタバタと慌ててしまい…

「へ?」

   気が付くと、ベッドの上で手をバタつかせていた。ゆっくりと辺りを見回す。間違いない。自宅のアラヤの部屋だ。
   あれ?俺は何故寝てるんだっけ?記憶がボケてスッキリしない。
   とりあえず起きていようと、居間へと移動する。

ガチャ。

   居間の扉を開けると、二人が丁度帰宅した場面で、三人はお互いを止まって見てる。

「あれ?起きてる?」

「目が覚めたんだね⁈丁度良かった!」

「え?何の事?」

    二人はアラヤの元に駆け寄り抱きついて来た。

「え、ええ?二人共、どうしたのさ?」

    二人がアラヤから離れると、そこには椅子に縛られたアラヤの姿が残る。

「ちょ、ちょっと!何で縛られてるの?」

    急に冷たい表情を見せるアヤコさんが、コツコツとゆっくり近付いて来て目線を合わせる。

「今から、アラヤ君を尋問します!」

「ええっ⁈」

  サナエさんを見ても、スッと視線を逸らすだけで、答えてくれそうにない。
   ちょっと!どういう事か誰か説明して⁈ただでさえ寝起きで混乱してるのに、更に混乱する事態だよー。アヤコさんは冷たい表情のままだし。俺、何かやらかしましたかね?
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