【完結】スキルが美味しいって知らなかったよ⁈

テルボン

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第2章 魅惑の生活が怖いって思わなかったよ⁈

017話 ガルム=バルグ

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「こ、こんばんわ。ガルムさん」

   アラヤは、平静を装い体面の椅子に座る。その掌は汗でびっしょりになっている。鑑定LV3なら、アラヤのステータスも見られているかもしれない。しかも、目の前のガルムのステータスは、自分よりもかなり高かったのだ。

ガルム=バルク

種族   ドワーフ   男   age  41

体力   621/621
戦闘力   316/316
耐久力   302/302
精神力   89/89
魔力   115/115
俊敏   248/248
魅力   44/100
運   53

状態   正常

職種   商人LV3

技能スキル   鑑定LV 3   威圧LV 2   水平思考LV 1   


「そう緊張しなくて良いよ。お茶で良かったかい?」

   ガチガチなアラヤを見て、村長がお茶を注いで出してくれた。

「ありがとうございます」

「アラヤ君、君は歳は幾つかね?」

「よく子供に見られるのですが、17歳です」

  あれ?ステータス見れるなら歳も分かる筈だけど…

「じゃあ、お酒の方が良いかもな」

「え?あ、自分は飲めません」

「ん?人間の成人は15だったから、飲めるのではないのかね?」

「い、いえ、私がお酒に弱いだけです」

  あ、危なかった!こっちの世界では15歳からお酒飲んで良いのか。だから、村長は以前飲ませようとしたのだな。

「ふむ。それならば仕方ない。では、君から引き取った将棋という玩具を楽しみながら、世間話でもしようか」

   ガルムはそう言うと、将棋盤を机の上に置いた。ああ、遊び方を試したいんだね。それくらいなら、緊張もしなくて済みそうだ。
   駒を並べて、一通りの動きを説明する。

「なるほど、倒した駒は利用出来るのか…捕虜にして戦わせる。ホホッ、実際の戦術としても使えそうで面白い。では、一局頼む」

「よろしくお願いします」

  パチッ、パチッと心地良い音が鳴る。良いよね、この音。俺はそこまで強くはないけれど、相手の二手、三手先を考えるこの間と音は大好きなんだ。

「ふむ。駒のこの字は…アラヤ君は最近、字や言葉を覚えたのかな?」

パチッ。

「はい。字を書くのはまだまだ下手でして」

パチッ。

「しかし、私の品から本を選ぶくらいだ。勤勉ではあるようだね」

パチッ。

「あれは、私に字を教えてくれた方へのプレゼントとして選んだんです」

パチッ。

「なるほど、心遣いもあるのだね」

パチッ。

「いえいえ、助けられてばかりなので、当然の事です」

パチッ。

「ふむ。どうやらその方は異性の方のようだね。その方と、君は結婚はしているのかね?」

パチッ。

「い、いえ。お互い独身です」

…パチッ。

「そうか。結婚しているのなら一緒にと思ったのだが…」

パチッ。あ、飛車が取られた…。

「い、一緒とは?」

…パチッ。

「ふむ。レニナオ鉱山の私の店で働かないかと思ってね」

パチッ。仕事の勧誘か。村以外の地に行ってみたい気はあるけど…

「すみません。二人を置いて行けませんので」

パチッ。

「おや、意中の人は二人も居たのかね?」

パチッ。

「い、いえ、そこは忘れて下さい」

……パチッ。

「ふむ。ならば方法を変えよう。アラヤ君、私と契約をしないかね?」

パチッ!うっ、桂馬の金銀取りだと…。

「契約…ですか?」

パチッ。

「そうだ。君の作ったこれらの商品を、私の店で製造・販売させてほしい」

パチッ!

「それは構いませんけど、契約内容は何ですか?」

パチッ。

「材料・製造・販売は我々が負担する。売り上げの2割を特許使用料として君に渡そう。その売り上げ金は、村に訪れる際に渡すという形で」

パチッ。

「私は、商売の事は詳しくありません。ですが、プロであるガルムさんの御提案ですので、是非その内容でお願いします。あと、お金の使用がこの村ではありませんので、ガルムさんに預ける形でお願いします。必要になる場合は受け取りに伺いますので」

パチッ。

「ホホッ、信用されたと受け取りましょう」

パチッ。なっ⁈角は捨て駒だっただと⁈

「あの、私からも質問して良いですか?」

パチッ。

「ええ、どうぞ」

パチッ。

「私のこの程度の知識よりも、より富をもたらす考えの持ち主が他にも居ると思うのですが。例えば…カオリ=イッシキさんとか?」

パチッ!

「ふむ。カオリ氏ですか…確かに、彼女は類稀なる知識の持ち主だ。だが、王女の御友人である彼女に、私のような一介の商人がそうそう会えるような事はありませんからな」

パチッ!…彼女は、王族の庇護下に居るのか。俺達も簡単には会えないな。

「そうですか。頂いた本に彼女の名があり、ガルムさんなら会えるかと期待したのですが、王女様の御友人だったとは知りませんでした。失礼な物言いをしてすみません」

パチッ。

「ホホッ、もしや同郷の方であられたかな?」

パチッ!う、そこははぐらかすか…。

「いえ、本を読んだ事で彼女の本の愛読者になった次第でして」

パチッ。

「おや、あの衆道本の愛読者ですか…なるほど、そちらの興味がおありですか」

…パチッ。しゅ、衆道⁈またもBL本かよ⁈ガルムさんが、何か困った目をしてらっしゃるよ⁈

「いえいえ、そちらの興味はありませんので!お気遣いは結構です!」

パチッ!

「ふむ。どうやら18手先で詰みのようですな」

パチン!じゅ、18手って…俺には読めないよ⁉︎初めての将棋でここまで強いなんて。

「と、投了します」

「ホホッ、実に面白い玩具ですな。負けず嫌いなドワーフ達にも、きっと流行る事でしょう」

   ガルムさんはとても満足したご様子だ。うん、それは良かった。

「続きましては、力比べといきましょうか」

「へ?」

「アラヤ君は、大変力持ちと伺いました。ドワーフの親交を深めるやり方では、腕相撲が基本でしてな。やはり、これをせずには相手を測れないのですよ」

  机の上をいそいそと片付けるメリダ村長。視線を逸らしているところを見ると、村長も以前味わったの?

「安心して下さい。ドワーフの中では、私は弱い方だ」

  ドンと片肘を机に置くガルムさん。ステータスを知っているだけに、その笑顔が恐怖でしかないよ!

「よ、よろしくお願いします」


   …はい。全力でも負けましたよ。勝てるわけないでしょう⁈机が壊れる程にボロボロになりました。
   壊れた拳と肘を摩りながら、アラヤはおやすみの挨拶をして自宅へと帰って行った。

「彼は合格ですか?」

   アラヤに手を振るメリダが、満足気に笑うガルムに尋ねる。

「ええ、もちろん。人の身でドワーフである私と、あそこまで力比べできる者はそういませんからね。私が死んだ後、店の跡を継ぐ息子を支える良きパートナー候補となるでしょう」

「息子さんの成人式はいつですか?」

「2カ月後の黄竜月です。その際には、貴女と彼を呼ぶとしましょう。彼の想い人達も一緒にね」

   次の朝、行商人のガルムさん達はレニナオ鉱山へと帰って言った。

「ええっ⁈ドワーフは10歳が成人なの?」

   アラヤは、ガルムの息子の成人式に呼ばれた事を、昼食時に村長に聞かされた。その時に、ドワーフの寿命の事実を知ったのだ。

   ドワーフは、進化なる実の加護で強靭な身体能力を得た種族だ。しかしそれは、他ならぬ生命(寿命)を犠牲にして成り立っていたのだ。
   ドワーフの寿命は、平均で50歳くらいらしい。最年長記録でも、58歳だそうだ。俺の知識のドワーフは、エルフに続く長寿のイメージだったんだけどな。
   ドワーフは、産まれた時には既に成長加速が始まっており、5歳程で人間の大人と同様のステータスを得る。そして、10歳で成人したと見なされる。これは男女共に同じで、女性も10歳から出産できるらしい。
   成長加速の異常さから、身長は直ぐに伸びなくなり、代わりに髪や髭が伸びるらしい。10歳頃から髭が伸び出す事から、成人の基準が決まったという説があるとか…。

「その際には、恋人も同伴しなさいってさ」

「「「こ、恋人⁈」」」

   二人に席を挟まれていたアラヤは、空気が張り詰める音を、人生で初めて聞いた気がした。
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