【完結】スキルが美味しいって知らなかったよ⁈

テルボン

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第1章 異世界生活が苦しいって知らなかったよ⁈

011話 やっぱりお風呂

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   技能スキルの練習を始めてから一週間。二人共、技能スキルの使い方がスムーズになってきている。
   アヤコさんは、村長宅で子供達に文字を教えている時に、食堂で働くサナエさんにコールをしているようだ。

『何だか、アラヤ君に教えてるみたいで楽しいよ』

   サナエさんは、日中は仕事に専念していて、技能スキルの練習は自宅でのみに徹底している。
  それは、魅惑の艶舞の練習で起きたが原因だ。俺は精神耐性があるのにもかかわらず、彼女に魅了されてしまったのだ。
 その時の記憶は曖昧で、無理矢理に彼女に抱きついてしまったらしい。鼻息が荒く、目が血走っていたとの事。
 多分、事前に発動した、戦士達の鼓舞の効果時間中だったのが原因だと思う。
   頰の痛みで我に返った時は、彼女の服が半分脱がされていて、一瞬で血の気が引いた。
 俺死んだなと思ったのだが、彼女は技能スキルが凄い証拠だからと許してくれた。それからは、魅惑の艶舞だけは一人で練習するようになった。

「べ、別に怖いからじゃ無いからね⁉︎」

   当初のルール通り、舞は効果が強過ぎるから、練習は自宅でのみが絶対厳守に再決定したのだった。
   よって、彼女が日中の仕事の合間に行うのは、戦闘訓練のイメージトレーニングだ。アラヤが彼女に提案した戦闘スタイルは、チャクラムを用いた中近距離戦スタイルだ。
  チャクラムとは、取っ手の付いた直径20センチ程の輪状の刃で、掴んで斬るのは当然の事、ブーメランのように投げる事も可能なのだ。
   夜の戦闘訓練では外に出て、木製のチャクラムを使い、アラヤが木刀で相手をしている。彼女は体を動かすのが得意なだけあって、みるみる上手くなっている。
  そろそろ実戦に移る頃合いかな。

「汗、いっぱいかいちゃったな。アラヤ、お風呂のお湯お願いね?」

「う、うん、分かった」

   この一週間で、俺もいろいろと頑張ってるんだ。ベッドを完成させて、二人(女子)の部屋と俺の部屋に置いた。木製の手櫛や簡単な箪笥も作ったよ。製材所の棟梁、ゲーンさんにいろいろと教わって、手先も大分器用になってきたと自分でも思ってるし。
   そんな中、サナエさんが食堂から大鍋を貰って来てさ。お風呂作ってって頼まれたんだよ。それまでは金タライで湯浴みだったんだけど、やっぱり浸かりたいんだって。
  それで、屋外に浴室を作ったんだ。浴槽は大鍋で薪による沸かし風呂。いわゆる五右衛門風呂だね。ただ、落とし床を踏み外すと火傷するから気を付けないといけない。
   ただ、鍋の大きさ的に彼女達には半身浴になるようだけど、俺には肩まで浸かれて丁度良いと思う。

「準備できた?」

   着替えを片手に、サナエさんがやって来た。浴室の手前に、鍵付きの脱衣所も作ったよ。覗き予防に必要らしいよ?

「あ、うん。もう沸いてるよ」

  俺は、外で火力調整の役を任されている。つまり、俺の入浴は1番最後という事。お風呂掃除も、俺の魔法で直ぐだからね。決して、残り湯にあやかれるとか期待してないよ?温めのお湯が好きなだけだからね?

「はぁぁぁっ、いい湯加減。アラヤが居てくれて、私達は幸せ者だね」

「そう?なら良かった」

  チャプチャプと聞こえるお湯の音が、夜の外ではやけに響いて聞こえる気がするんだよね。黙っていると、勝手に中の姿を想像してしまいそうで思わず話題を振る。

「サナエさんは、言葉は話せるようになってきた?」

「う~ん、ちょっとずつね。聞き取りがまだ難しいかな。アラヤはどうなの?」

「俺も聞き取りは難しいかなぁ。棟梁とか早口でさ、聞き返すと怒られるし。でも、全く分からない時の不安に比べたら、今は大分安心してると思うよ」

「アヤのおかげだね~」

「そうだね」

「……。アラヤはさ。アヤコの事、どう思ってるの?」

「ええっ⁈ど、ど、どうって⁈」

「アヤコが、あんたに気があるのは気付いてるんでしょ?」

「うーん、あれは気が有ると言うのかなぁ。どちらかと言えば、弟として見られてる気がするけどね」

  お姉さん扱いして欲しいように見えるし。調子に乗って勘違いしたら駄目だよね。

「ふぅん……」

「な、何?」

「別に、なんでもないよ。さてと、そろそろ上がろっかな」

   ジャバッと上がる音と後に、少しだけ鼻歌も聞こえた気がした。

「いい湯だったよ、ありがと。アヤコにも早く入れって呼んでくるね」

  湯上がりの高揚とした表情を見せるサナエさんに、思わずドキッとしてしまう。ブラも毎日はしていないみたいで、最近は目のやり場に困る事も多いんだよね。

「アラヤ君、今日も私が先に入っていいの?」

「もちろんだよ。僕は最後に掃除もするからね。気にしないで入っちゃって」

「うん、ありがとう」

   アヤコさんは、パタパタと脱衣所へと入って行く。彼女も今日は着けてないようだ。ナーシャさん程な双丘では無いけれど、あの揺れの破壊力はかなり高い。これは最早、健全な男子に対する暴力と言っても過言では無いだろう。

「アラヤ君、ちょっとだけ温度上げてくれる?」

「うん、分かった」

   焚き木に、竹筒で風を送って火力を上げる。火力調整だけは、原始的なやり方の方がまだ俺にはやりやすい。魔法の強弱がまだまだ練習不足なんだよね。

「アラヤ君…聞いても良い?」

「うん?どうしたの?」

「アラヤ君は、この村の事…好き?」

「うーん、好きだとは思う…多分。アヤコさんは違うの?」

「ううん、大好きだよ。元の世界と比べても、この村での生活も村の人達も大好き」

「そっか……じゃあ、元の世界あっちに帰る気はもう無いの?」

「……分からなくなっちゃった。…前の世界の生活は、あまり好きじゃ無かったな。逆に、私にはここの生活がとても充実してる…ここは、私を必要としてくれるから…コポコポ…」

   最後の方は声が小さくて聞き取れなかった。だけど、今が楽しいから帰りたく無いって事かな?

「アヤコさん、熱さは大丈夫?」

「………」

「アヤコさん?あれ?アヤコさん⁈」

  何度呼んでも返事が無い!これはひょっとして⁈
  浴室には窓も無く、換気口はあるが拳大と小さい。故に入り口は脱衣所のみだ。しかし、脱衣所には鍵がかかっている筈。壊すしかないか⁉︎
  ガチャリ。
  あれ?鍵はかかってない。それならと急いで入る。浴室は湯気で充満していて視界が悪い。これは換気を改善する必要があるな。そんな事よりもと、アヤコさんの姿を探す。
   五右衛門風呂の中で、のぼせているアヤコさんを見つけた。

「ごめん!」

  一応、先に謝ってから彼女を風呂から持ち出す。見ないで持ち上げるなんて無理だからね。これは不可抗力だと自分に言い聞かせる。

   肩と腕に、鉄部に触れていた部分の火傷が見える。直ぐにヒールを掛けて治したので、跡にはならないだろう。とりあえず、脱衣所にあったタオルを掛けてあげてから、そっと肩を揺らして呼びかける。

「アヤコさん、大丈夫ですか?」

「ん……アラヤ…君?私…」

「のぼせちゃったみたいですね」

「ご、ごめんなさい…その…見ました?」

  彼女は顔を真っ赤にして俯いている。アラヤは直視出来ないので、背中を向けて答えた。

「……はい」

「…忘れて下さい」

「…ど、努力します」

  何故か嘘をつけなかったよ。でも、不可抗力だからね。記憶を消せない場合も、それは仕方ないかもしれないね。

「あの…そろそろ出てくれません?」

「あ、はい!ごめんなさい!」

   直ぐに脱衣所から出て頭を冷やす。あ~眼福…って違うだろ⁈

「…アラヤさん」

「は、はひっ!」

   思わず目が胸になっちゃって、声がうわずってしまう。

「助けてくださり、ありがとうございます。私はもう寝ますね。おやすみなさい」

「うん。おやすみなさい」

   どうやら、そこまで気にしていないようだ。アラヤは、良かったと胸を撫で下ろす。こんな事でギクシャクはしたくないからね。

  アラヤは、最後に風呂に入り、湯に浸かりながら思いにふける。元の世界に帰る方法が、この世界のどこかにあるのだろうか…もし、方法が無いとしたら俺は……
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