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第6章 勇者候補の修行
虚の森
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「バンカーさん、説明していただけますか?」
少し威圧的な口調で、エルボルンがバンカーに詰め寄る。
「おう、エルボルンも来たのか。ちょっとばかし遅かったな。たった今片付いたところだ」
バンカーは彼の態度も気にせずに、村の内部へと歩き出した。それに対してエルボルンは弓を構えた。
「此処に居た住民はどうしたんですか?」
「エルボルン、待って!村内に生体反応はまだ在る!」
タケルの索敵には、微弱ではあるが住宅内に幾つもの反応があったのだ。
「タケルはヒール系を修得しているのか?」
「はい。でも、この反応数を一人一人回復させる様な魔力量はありません。範囲魔法の方が多く効率的に回復できると思います。ですので、住人を一箇所に集めましょう」
「ああ、そうだな。エルボルン、説明は後だ。手伝え、先ずは住人を集めるぞ」
タケルとリンダが反応がある室内に入ると、そこには足を負傷したエルフの親子が居た。足を負傷しているのは母親の様で、子供はその傷口に布地を押し当てて止血をしていた。
「エルフ達の村だったのか!」
「⁉︎…よ、寄るな‼︎」
二人に気付いた子供のエルフが、近くにあった小さなナイフを構えた。その手が震えているのが分かる。
「安心して。俺達は敵じゃない。怪我を治療したいだけだ」
「に、人間なんて信じられるか!」
「…分かった。じゃあ、コレで君が助けてあげな」
タケルはバックパックから中級ポーションを取り出して床に置いた。傷の具合から見てこれで大丈夫だろう。
「リンダさん、他の方の家に行きましょう」
タケルはそのまま、親子を置いて出て行く。後を付いてくるリンダが何か言いたげな表情をしているが気にしない。
バンカーとエルボルンは、歩ける者には歩かせて動けない者は担ぎ、村の中央へと集めている。
タケル達も気を失っている住人を見付けて運び出していると、先程の子供が歩み寄って来た。
「……僕も手伝うよ」
タケルは笑顔で頷いた。この子には嫌がるエルフ達の説得役をお願いして、無事に43名のエルフ達を村の中央に集める事が出来た。
「これで全員みたいですね」
索敵に残りが居ないかをチェックするが、どうやら大丈夫そうだ。
「あの、魔力に反応する魔物が居るらしいですけど、魔法を使用しても大丈夫でしょうか?」
「ああ、大丈夫だ。俺達で対処する」
バンカーの許可が下りたので、タケルは遠慮なく発動する為に魔力を練りだす。この人数を範囲回復するにはそれなりの魔力量が必要だ。
すると、静かだった森がざわつき始めた。タケルの脳内マップにも点々と魔物の反応が現れ始める。
「バンカーさん、この村を襲撃したのは?」
「もちろん俺じゃねーぞ?大体、ここら辺の魔物にゃ、エルフ達がやられる筈なんて無いだろ?あの洞穴から奴等が来てたんだよ。異変に気付いて俺が来た時には、若者達が応戦していてな。勝つには勝ったんだが、逃がした奴がいてそれを始末していたところにお前達が来たという事だ」
「そうでしたか…なら、早急に対応する必要がありますね」
とりあえずバンカーの疑いが晴れた時、タケルの術式が完成した。
「いくぞ!ヒーリングフォール‼︎」
すると、エルフ達の頭上に水色のサークルが現れて、そこから勢いのある水が滝の様に彼等を直撃した。
「「な、何だそりゃーーーっ‼︎⁉︎」」
見ていたバンカー達が揃って驚きの声を上げた。エルフ達は突然の滝でびしょ濡れになり地面に突っ伏している。
「ち、ちょっと‼︎回復させなきゃいけない相手に、何で攻撃してんのよ⁉︎」
タケルはリンダに胸元を掴まれて、ブンブンと揺さぶられる。
「いや、一応回復魔法だよ?」
「は?」
良く見ると、倒れていたエルフ達は徐々に怪我や体力が戻り始めている。どうやらあの水自体は魔力で作られたポーションの様な回復液だったようだ。バンカー達も安堵の表情になる。
「ヒールレインよりも回復量と範囲を広げた上級魔法をイメージして作ったんだけど、ちょっと雑だったみたいだね」
「ま、魔法を作ったの⁈」
更に驚くリンダに、タケルはふらふらになりながら掴まる。
「…そんな事より、村の各方位から魔物が接近してる。俺はちょっと…マインドダウン…しそうだ…後を、頼む…」
そのままずり落ちる様にして、タケルは地面に倒れた。
「ああ、ゆっくり休んでなさい!」
珍しく笑顔を返したリンダの表情を、意識が消える前に見た気がした。
「…タケル?起きた?」
気を失ってからどれくらいの時間が経ったのか、穴が空いた天井から見える空は夕焼け空になっていた。目を覚ましたタケルの隣に、リンダが座っていた。どうやら住居内に移動させられたみたいだ。
「皆んなはどうなりました?」
体を起こしてリンダに訊ねると、そこに先程のエルフの子供がやって来た。
「目が覚めたんだね!良かったよ~!」
「おお?目が覚めたか!」
「そう大声を出すと、まだ頭に響く…」
次々とバンカーやエルボルンがやってきて、タケルを見るなりニヤッと笑う。初のマインドダウンで気を失って、正直恥ずかしい。
「タケルのお陰で怪我人は一人も居ないぜ?重傷者も治すとは、かなり上級な魔法だったんだな。最初に見た時は、驚いて思わず叫んじまったよ。その魔力に惹きつけられた魔物達も、ちゃんと殲滅したからな。安心していいぞ」
「それって、どんな魔物ですか?」
タケルは頭もスッキリし始めたので、その魔物を見に行く事にした。
「コイツらだ」
バンカーに案内されたのは村の中央で、既に事切れた魔物達が山の様に積んであった。
「これは…!イービルスパイダー⁉︎」
イービルスパイダーは、腹部に紫色の髑髏の様な模様がある、全長2メートルほどの巨大蜘蛛である。この魔物の厄介なのは、子が多く繁殖率が高いだけでなく、魔力を練り込んだ糸で円網を広げて捕獲をするだけでなく、獲物の魔力を奪ったり、魔法を吸着させる事が出来る点だ。
「あれ、でもイービルスパイダーって、大陸の南西部に生息してて、このセンダール王国には居なかったんじゃ?」
「まぁ、世間的にはそうだな。だが、この森には生息している。その理由は、この虚の森には隣国と繋がる洞穴があるからだ」
「隣国と繋がっている?それってかなりマズイのでは?」
ユーガラス大陸の右半分以上を統治するセンダール王国に隣接する国は、北西部を統治するアグニス公国、西部にはオランタリア共和国、南西部には小国が連なるコンバートン連邦国がある。
「ああ。だから俺はこの森に滞在して、他国からの監視任務を続けている。もちろん、俺一人ではなく地元のエルフ達の協力を得てな」
「その隣国は特定できているんですか?まさか、イービルスパイダーが生息しているコンバートン連邦国ですか?」
「いいや、洞穴が繋がっているのはオランタリアの方だ。イービルスパイダーは彼の国にも生息している。奴等は魔物を調教して洞穴に送り込んでいるんだ」
しかし、オランタリア共和国とは不可侵条約を結んでいるはず。ちゃんとした証拠が無い事には、表だった行動が取れない。
「オランタリアだと思う何か証拠があるんですか?」
「その話をするなら先程の部屋に場所を移そう」
二人が部屋に戻ると、リンダとエルボルンは武器の手入れをしていた。二人に気付いて出て行こうとするが、バンカーは居てくれと手で合図する。
「では、オランタリア共和国が絡んでる証拠についてだが、結果から言うとあったが無くなったというのが現状だ。洞穴内に潜んでいた密偵の者を捕えて村に監禁していたんだが、村が襲撃された際に殺されている。捕えた時に白状させていたんだが、奴はオランタリアの軍人だった。そして今回、別同隊が新たな魔物を調教して、捕虜の口封じも兼ねて攻めて来たとい事だ。敵の調教師に逃げられた上に、まんまと捕虜も殺されてしまったが、幸いタケルのお陰でエルフ達に死人は出なかった」
「新たな魔物⁉︎」
「ああ、村を襲撃したのはその魔物は、名をデスマンティス。簡単に言えば巨大カマキリだ。だが、ただのカマキリと思うな。動きは俊敏なうえに索敵にも映らない。エルフ達にも索敵持ちは居たのに、全く気付け無かったらしい。今回は10匹という少数だったが、対応が遅れただけで村は壊滅寸前まで追い込まれた。村に来たデスマンティスは殲滅したが、敵は一体どれほどの数を連れて来ているのか…」
エルボルンが、窓から森を睨んで舌打ちをする。魔法封じのイービルスパイダーは、既に森で繁殖している。そこに隠密奇襲のデスマンティスまで繁殖してしまったら、侵略はかなりやり易くなるだろう。
「いっそのこと、洞穴を塞ぐ訳にはいかないんですか?」
リンダがその方が手っ取り早い方法と提案するも、バンカーは首を振る。
「いいや、それは出来ない。破壊や埋めるにしても洞穴の規模が大きい上に、逆に我々にも利用価値があるからだ」
現在、隣国に入国するには審査はもちろんのこと、国家認定の書類が必要である。相手がそれを無視して潜入するというなら、こちらも同様のことをすればいいという事か…。
「でも、利用するにも先ずは向こうからの潜入を塞ぐ必要があります。それだけじゃなく、こち側に来た魔物と敵の捕獲もしなければなりません。明日、その洞穴に案内してもらえませんか?」
「ああ、もちろんだ。元々、お前の修行は俺の手伝い兼、この地でのサバイバル術の強化が目的だからな。大いに期待しているぞ、勇者候補君!」
バンカーはタケルの胸を軽く叩き、ニヤッと笑う。リンダはどこかつまらなそうな顔をして、エルボルンはそうなのか?と少し驚いている。
「今はとにかく、明日に備えて英気を養えるんだ。何たって、エルフが作る酒が美味いんだぜ?」
その晩は、回復したエルフ達と広い屋敷で食事を共にした。あまり感情を出さないエルフ達の中で、酔って大笑いするバンカーの豪快な態度は浮いていると思うのだが、エルフ達は馴染んでいますよと笑顔で返した。
こうして、少し緊張感の無い雰囲気のまま、虚の森での最新の晩が過ぎていった。
少し威圧的な口調で、エルボルンがバンカーに詰め寄る。
「おう、エルボルンも来たのか。ちょっとばかし遅かったな。たった今片付いたところだ」
バンカーは彼の態度も気にせずに、村の内部へと歩き出した。それに対してエルボルンは弓を構えた。
「此処に居た住民はどうしたんですか?」
「エルボルン、待って!村内に生体反応はまだ在る!」
タケルの索敵には、微弱ではあるが住宅内に幾つもの反応があったのだ。
「タケルはヒール系を修得しているのか?」
「はい。でも、この反応数を一人一人回復させる様な魔力量はありません。範囲魔法の方が多く効率的に回復できると思います。ですので、住人を一箇所に集めましょう」
「ああ、そうだな。エルボルン、説明は後だ。手伝え、先ずは住人を集めるぞ」
タケルとリンダが反応がある室内に入ると、そこには足を負傷したエルフの親子が居た。足を負傷しているのは母親の様で、子供はその傷口に布地を押し当てて止血をしていた。
「エルフ達の村だったのか!」
「⁉︎…よ、寄るな‼︎」
二人に気付いた子供のエルフが、近くにあった小さなナイフを構えた。その手が震えているのが分かる。
「安心して。俺達は敵じゃない。怪我を治療したいだけだ」
「に、人間なんて信じられるか!」
「…分かった。じゃあ、コレで君が助けてあげな」
タケルはバックパックから中級ポーションを取り出して床に置いた。傷の具合から見てこれで大丈夫だろう。
「リンダさん、他の方の家に行きましょう」
タケルはそのまま、親子を置いて出て行く。後を付いてくるリンダが何か言いたげな表情をしているが気にしない。
バンカーとエルボルンは、歩ける者には歩かせて動けない者は担ぎ、村の中央へと集めている。
タケル達も気を失っている住人を見付けて運び出していると、先程の子供が歩み寄って来た。
「……僕も手伝うよ」
タケルは笑顔で頷いた。この子には嫌がるエルフ達の説得役をお願いして、無事に43名のエルフ達を村の中央に集める事が出来た。
「これで全員みたいですね」
索敵に残りが居ないかをチェックするが、どうやら大丈夫そうだ。
「あの、魔力に反応する魔物が居るらしいですけど、魔法を使用しても大丈夫でしょうか?」
「ああ、大丈夫だ。俺達で対処する」
バンカーの許可が下りたので、タケルは遠慮なく発動する為に魔力を練りだす。この人数を範囲回復するにはそれなりの魔力量が必要だ。
すると、静かだった森がざわつき始めた。タケルの脳内マップにも点々と魔物の反応が現れ始める。
「バンカーさん、この村を襲撃したのは?」
「もちろん俺じゃねーぞ?大体、ここら辺の魔物にゃ、エルフ達がやられる筈なんて無いだろ?あの洞穴から奴等が来てたんだよ。異変に気付いて俺が来た時には、若者達が応戦していてな。勝つには勝ったんだが、逃がした奴がいてそれを始末していたところにお前達が来たという事だ」
「そうでしたか…なら、早急に対応する必要がありますね」
とりあえずバンカーの疑いが晴れた時、タケルの術式が完成した。
「いくぞ!ヒーリングフォール‼︎」
すると、エルフ達の頭上に水色のサークルが現れて、そこから勢いのある水が滝の様に彼等を直撃した。
「「な、何だそりゃーーーっ‼︎⁉︎」」
見ていたバンカー達が揃って驚きの声を上げた。エルフ達は突然の滝でびしょ濡れになり地面に突っ伏している。
「ち、ちょっと‼︎回復させなきゃいけない相手に、何で攻撃してんのよ⁉︎」
タケルはリンダに胸元を掴まれて、ブンブンと揺さぶられる。
「いや、一応回復魔法だよ?」
「は?」
良く見ると、倒れていたエルフ達は徐々に怪我や体力が戻り始めている。どうやらあの水自体は魔力で作られたポーションの様な回復液だったようだ。バンカー達も安堵の表情になる。
「ヒールレインよりも回復量と範囲を広げた上級魔法をイメージして作ったんだけど、ちょっと雑だったみたいだね」
「ま、魔法を作ったの⁈」
更に驚くリンダに、タケルはふらふらになりながら掴まる。
「…そんな事より、村の各方位から魔物が接近してる。俺はちょっと…マインドダウン…しそうだ…後を、頼む…」
そのままずり落ちる様にして、タケルは地面に倒れた。
「ああ、ゆっくり休んでなさい!」
珍しく笑顔を返したリンダの表情を、意識が消える前に見た気がした。
「…タケル?起きた?」
気を失ってからどれくらいの時間が経ったのか、穴が空いた天井から見える空は夕焼け空になっていた。目を覚ましたタケルの隣に、リンダが座っていた。どうやら住居内に移動させられたみたいだ。
「皆んなはどうなりました?」
体を起こしてリンダに訊ねると、そこに先程のエルフの子供がやって来た。
「目が覚めたんだね!良かったよ~!」
「おお?目が覚めたか!」
「そう大声を出すと、まだ頭に響く…」
次々とバンカーやエルボルンがやってきて、タケルを見るなりニヤッと笑う。初のマインドダウンで気を失って、正直恥ずかしい。
「タケルのお陰で怪我人は一人も居ないぜ?重傷者も治すとは、かなり上級な魔法だったんだな。最初に見た時は、驚いて思わず叫んじまったよ。その魔力に惹きつけられた魔物達も、ちゃんと殲滅したからな。安心していいぞ」
「それって、どんな魔物ですか?」
タケルは頭もスッキリし始めたので、その魔物を見に行く事にした。
「コイツらだ」
バンカーに案内されたのは村の中央で、既に事切れた魔物達が山の様に積んであった。
「これは…!イービルスパイダー⁉︎」
イービルスパイダーは、腹部に紫色の髑髏の様な模様がある、全長2メートルほどの巨大蜘蛛である。この魔物の厄介なのは、子が多く繁殖率が高いだけでなく、魔力を練り込んだ糸で円網を広げて捕獲をするだけでなく、獲物の魔力を奪ったり、魔法を吸着させる事が出来る点だ。
「あれ、でもイービルスパイダーって、大陸の南西部に生息してて、このセンダール王国には居なかったんじゃ?」
「まぁ、世間的にはそうだな。だが、この森には生息している。その理由は、この虚の森には隣国と繋がる洞穴があるからだ」
「隣国と繋がっている?それってかなりマズイのでは?」
ユーガラス大陸の右半分以上を統治するセンダール王国に隣接する国は、北西部を統治するアグニス公国、西部にはオランタリア共和国、南西部には小国が連なるコンバートン連邦国がある。
「ああ。だから俺はこの森に滞在して、他国からの監視任務を続けている。もちろん、俺一人ではなく地元のエルフ達の協力を得てな」
「その隣国は特定できているんですか?まさか、イービルスパイダーが生息しているコンバートン連邦国ですか?」
「いいや、洞穴が繋がっているのはオランタリアの方だ。イービルスパイダーは彼の国にも生息している。奴等は魔物を調教して洞穴に送り込んでいるんだ」
しかし、オランタリア共和国とは不可侵条約を結んでいるはず。ちゃんとした証拠が無い事には、表だった行動が取れない。
「オランタリアだと思う何か証拠があるんですか?」
「その話をするなら先程の部屋に場所を移そう」
二人が部屋に戻ると、リンダとエルボルンは武器の手入れをしていた。二人に気付いて出て行こうとするが、バンカーは居てくれと手で合図する。
「では、オランタリア共和国が絡んでる証拠についてだが、結果から言うとあったが無くなったというのが現状だ。洞穴内に潜んでいた密偵の者を捕えて村に監禁していたんだが、村が襲撃された際に殺されている。捕えた時に白状させていたんだが、奴はオランタリアの軍人だった。そして今回、別同隊が新たな魔物を調教して、捕虜の口封じも兼ねて攻めて来たとい事だ。敵の調教師に逃げられた上に、まんまと捕虜も殺されてしまったが、幸いタケルのお陰でエルフ達に死人は出なかった」
「新たな魔物⁉︎」
「ああ、村を襲撃したのはその魔物は、名をデスマンティス。簡単に言えば巨大カマキリだ。だが、ただのカマキリと思うな。動きは俊敏なうえに索敵にも映らない。エルフ達にも索敵持ちは居たのに、全く気付け無かったらしい。今回は10匹という少数だったが、対応が遅れただけで村は壊滅寸前まで追い込まれた。村に来たデスマンティスは殲滅したが、敵は一体どれほどの数を連れて来ているのか…」
エルボルンが、窓から森を睨んで舌打ちをする。魔法封じのイービルスパイダーは、既に森で繁殖している。そこに隠密奇襲のデスマンティスまで繁殖してしまったら、侵略はかなりやり易くなるだろう。
「いっそのこと、洞穴を塞ぐ訳にはいかないんですか?」
リンダがその方が手っ取り早い方法と提案するも、バンカーは首を振る。
「いいや、それは出来ない。破壊や埋めるにしても洞穴の規模が大きい上に、逆に我々にも利用価値があるからだ」
現在、隣国に入国するには審査はもちろんのこと、国家認定の書類が必要である。相手がそれを無視して潜入するというなら、こちらも同様のことをすればいいという事か…。
「でも、利用するにも先ずは向こうからの潜入を塞ぐ必要があります。それだけじゃなく、こち側に来た魔物と敵の捕獲もしなければなりません。明日、その洞穴に案内してもらえませんか?」
「ああ、もちろんだ。元々、お前の修行は俺の手伝い兼、この地でのサバイバル術の強化が目的だからな。大いに期待しているぞ、勇者候補君!」
バンカーはタケルの胸を軽く叩き、ニヤッと笑う。リンダはどこかつまらなそうな顔をして、エルボルンはそうなのか?と少し驚いている。
「今はとにかく、明日に備えて英気を養えるんだ。何たって、エルフが作る酒が美味いんだぜ?」
その晩は、回復したエルフ達と広い屋敷で食事を共にした。あまり感情を出さないエルフ達の中で、酔って大笑いするバンカーの豪快な態度は浮いていると思うのだが、エルフ達は馴染んでいますよと笑顔で返した。
こうして、少し緊張感の無い雰囲気のまま、虚の森での最新の晩が過ぎていった。
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