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第5章 王都グラハバン
トロール討伐
しおりを挟むズシィィン‼︎
中太の木を、そのまま棍棒として振り回していたトロールの一体が、ウィルソンのボディブロウで膝をつく。低い姿勢になると、すかさず顎をヒザ蹴りで撃ち抜き気絶させた。
地に突っ伏したトロールを、ドワーフ二人がその後のとどめを刺す。
「どんどん行くぞ!」
「どうやら、あの三人は大丈夫そうだな」
現時点で連携を取れているウィルソン達は、数で囲まれる事が無いようにドワーフ二人が牽制して、ウィルソンが個を叩く戦法で問題無くトロールと戦えている。
「問題はこっちだ」
六人のドワーフが、好き勝手に相手を選びバラバラに戦っている。まるで競争するかの様に、早い者勝ちだと奮闘している。
元々、ドワーフは負けず嫌いで頑固な性格が多い。先程の戦いでは、トロールが三体だった為に共闘していたが、今は選り取り見取りなので、仲間よりもより大きいトロールを倒してやると息巻いているのだ。
「シャルル、助太刀は彼等が嫌がるだろうから、俺達は辺りのトロールの気を引き付けて、彼等が囲まれない様に誘導しよう」
タケルは次から次へと現れるトロールを、武器破壊・目潰し・呪いによる減速等で弱体化させていく。
シャルロットは、タケルから渡されたワイヤーを武器と認識して、目の前のトロールに突進する。急接近したシャルロットに驚くトロールは、力任せに棍棒を振り下ろした。
「ウガッ…?」
しかし、トロールは振り下ろした筈の自分の腕の感覚が無い事に戸惑い見る。すると、肘から先が無く、棍棒を掴んだまま地に落ちている事に気付いた。その直後には、目線が腕と同じ位置に落ちて意識が途切れる事になる。
「凄い斬れ味ね。布地を切る様にトロールの硬皮を寸断できるわ」
ワイヤーで巻き付けて引くだけという単純な攻撃だが、強靭なワイヤーとシャルロットの武器使いの能力で、その威力は凄いの一言に尽きる。彼女が使うワイヤーは、最早、糸状の剣である。
彼女は、次々とトロールの首や四肢を寸断して行く。血しぶきを上げるトロールの中を走り抜ける様は異様に映る。【鮮血の淑女】は健在である。
戦いは二時間余り続いた。
辺りには、四十体に及ぶトロールの無残な遺体が広がっている。
全員が腰を下ろして休憩を取る。今回は流石のウィルソンも息が荒くなっていた。
「ガハハ、御主らやるのぉ!」
「一体ずつ、チマチマ潰しておったから三日も掛かってしまったわぃ。やっと帰れるのぉ」
「タケル、辺りにもうトロールの反応は無いか?」
索敵を展開してみるが、トロールどころか魔物の反応は無い。
「大丈夫、居ないよ」
「そうか、良かったな。これだけの数になると、変異種のトロールキングが誕生しててもおかしくなかったからな。ギルドとしては、そうなる前に潰しておかにゃならんからな」
つまり、ギルド長としては、今回のトロールの殲滅は必須事項だったようだ。ギルドが危険視するキングの名を持つ魔物は、ギルド総出でチームを組んで戦わねばならない程の厄介な魔物らしい。
キングは、一種の魔物が大量に集まった際に稀に誕生するらしく、ギルドはそうならないように今まで監視し、対応してきたようだ。
「よし、ミネルバを呼ぶか」
タケルは、信号弾を馬車が向かった方角へ向けて打ち上げた。
「お、ようやく終わったようだね」
信号煙を確認したミネルバは、馬車の向きを来た道へと変える。二匹の従魔は、咥えていたボーンラビットを一気に飲み込んで、馬車の両横に並んだ。
「さぁ、帰るよ」
ミネルバは馬に鞭を入れ馬車を進ませる。車内では、ドワーフ達の治療を終えていたマリが、扉の小窓から従魔のクリスタルウルフを眺めていた。
「ん?」
一瞬、遠くの岩陰で紫色の何かが動いた気がする。遠ざかっていくその正体が、マリには小さな子供に見えた。
「まさか、こんな場所に子供は居ないよね?」
見間違いと考えて気にしない事にし、馬車はそのままタケル達の元へと向かっていた。
「ガハハ、世話になったのぉ、人間!トロルが山を荒らすんで、一族を代表して討伐に来たんじゃが、お陰で早く済んで儂らも助かったわぃ」
ウィルソンとガッチリと握手を交わすドワーフ達。この光景、何か前に見た気がするな。
「子供達が心配している。早く安心させてやれ」
姿が見えなくなるまで手を振って見送るドワーフ達と別れ、タケル達は再び王都に向かって馬車を進ませた。
「全く余計な手間だったよ。もう、到着までこんな手間は無いんだろうね?」
ミネルバはギルド長に語尾を強めて聞く。彼女の契約に今回の件は入っていなかったとみえる。
「大丈夫だ。後は何の手間も無い。ただ向かうのみだよ」
笑顔で返すウィルソンに、全員が信用していない表情を見せている。まぁ、無理もないけれど。
結果として、タケル達はその後無理なく順調に進み、予定通りの二日後には王都の前まで到着した。山岳地帯を抜けてからの平原地帯は、大した魔物も居なかった。ギルドや兵団の管理が行き届いてる証拠だろう。
「まぁ、いろいろあったが、良い経験値上げと暇つぶしになっただろ?とにかく、ようやく王都グラハバンに着くぞ」
ガハハと、ドワーフみたいに笑うウィルソンの言う通り、視界には巨大な防壁に囲まれた首都、王都グラハバンの全容が見えて来た。
「タケル、御主の本当の試練は今からだ。決して呑まれるなよ?」
ウィルソンに急に真顔で言われ、タケルは苦笑いする。せっかく初めての王都を楽しむ前に、王との謁見の緊張を今から思い出させないでくれよと思う。
「ギルド長が居るから大丈夫ですよ」
「残念だが、謁見後はワシはしばらく御主とは離れる事になるだろう」
「…謁見後?」
意味深な言葉を残したまま、ギルド長は馬車の扉を開けた。馬車が王都の門前に到着したのだ。
入場審査を終えて、大きな扉がゆっくりと開かれる。馬車が門をくぐると、守衛が笑顔だから歓迎の言葉を送る。
「ようこそ、王都グラハバンへ!」
トーキオを出発して5日。正規のルートでは無いが、タケル達は目的地王都グラハバンに予定通りに辿り着いたのだ。
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